【要請レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 2016年4月に「障害者差別解消法」と「改正障害者雇用促進法」が施行され、自治体においては、合理的な配慮の提供が義務化されている。障労連で、住民に対するサービスの合理的配慮のみならず、職員に対する合理的配慮と一人の自立した人間として働くことができる環境の整備を求めて実施してきたバリアフリーチェックの報告。



障害労働者全国連絡会の考える
バリアフリーチェックについて
―― 障害当事者から見て ――

広島県本部/自治労広島県職員連合労働組合 藤吉  忍

1. 障労連とバリアフリーチェック

(1) 障労連とは
 障害労働者全国連絡会(通称障労連)とは1981年に発足した自治体を中心とした障害者雇用の促進を目的とした組織です。2018年10月現在、16県本部が障害労働者を組織化しています。2016年4月に行われた「障害者差別解消法」と「改正障害者雇用促進法」の施行に伴い、より実効性ある施策を求める取り組みを進めています。
 文末に総会の議案集から沿革と取り組み状況の抜粋を載せてありますので、ご一読ください。

(2) なぜ障労連が、バリアフリーチェックを行うのか
 それは、障労連が障害当事者による労働団体だからです。
 障害者は、自治体においてサービスを受ける側として考えられることがほとんどですが、障労連では、共に働く仲間として、障害の有無にかかわらず、その人の持つ能力を発揮し、定年まで働き続けられる職場環境の整備を求めているからです。一人の自立した人間として、働くことができる環境の整備には、障害を持ちながら働く障労連によるバリアフリーチェックは不可欠ではないでしょうか。
 障労連の行うバリアフリーチェックには、さまざまな種類の障害を持ったメンバーが参加します。また、障労連のメンバーだけでなく、その施設を管理する当局の担当者にも参加してもらっています。現在の公共施設でバリアフリーを無視した施設などありえません。すでに当局として考えられる配慮は行っているはずです。しかし、実際にチェックしてみると、あちこちに改善の必要のある点が見つかります。障害の種類によっても、必要な改善場所や内容が異なります。障害者を一括り考えてはいけないのです。一人一人の障害に合わせた改善が必要なのです。バリアフリーとは、観念的なものではなく、実体験として問題を共有することではないでしょうか。

(3) 合理的配慮の理解について
 障労連では「ともに生きる社会 ともに働く職場をめざして」というリーフレットを作成しています。その中でも「合理的配慮」に関する項目に多くのスペースを割きました。
 合理的な配慮の提供にあたっては「どのような障害を持つ人に対しても共通して」「本人の意思を十分に確認しながら、必要な配慮を行う」ことが重要だと考えています。
 2016年の障害者差別解消法の施行により、自治体では合理的配慮の提供が義務化されました。自治体では、合理的配慮の提供は義務とされているのです。しかしながら、実際のところはどうでしょう。
 住民の皆さんに対するサービスでは、合理的配慮を率先して行うように心がけられていることと思いますが、職員に対する配慮は置き去りにされているのではないでしょうか。

2. 私の実体験からみる合理的配慮

(1) 視覚障害の種類
 一括りに視覚障害といっても、全く見えない全盲から、いくらか見える弱視、視野が狭い視野狭窄、色の認識に障害がある色覚異常など、色々な種類があります。
 私は、網膜色素変性症(通称、色変)という先天性の病気のため、生まれつき弱視で、視野狭窄と色覚異常を持っています。基本的に色変は加齢により悪化していくので、十代二十代のころと比べると、かなり視力が落ちて0.02ぐらいの視力になりました。その他には、子どものころは認識できていた色の区別が全くつかなくなりました。視野の狭窄は、自覚しにくい症状なのですが、視野の丁度真ん中に見えない部分があるので、さすがに気づきます。また、明るいとまぶしいので、昼の屋外だとほとんど見ることができない昼盲という症状があります。そのような状態の私の職場での様子と日常生活について述べていきます。

(2) 職場で配慮してもらっていること
 私は、広島県西部県税事務所法人課税課で、主に法人台帳の整理をしています。簡単に言えば、法人から提出された届出書を見て、パソコンに入力してゆく作業です。
 上述の通り、私は弱いながらも視力がありますので、紙面に極限まで近づいたり、ルーペを使う等したりすれば、紙の資料を読むことができるのですが、薄い色で書かれたものや小さい文字は読むことができません。そういう時は、近くの席の同僚に聞きます。
 パソコンへの入力作業をどうやるかといえば、パソコンにスクリーンリーダーと呼ばれる視覚障害者用のソフトを入れて行っています。このソフトは、画面に表示されている文字を読み上げたり、キーボードで入力した文字を読んだりしてくれるものです。このソフトのおかげで、文書の入力作業を自力で行うことができるようになりました。ただし、そのスクリーンリーダーも万能ではありません、文字を読み上げるソフトなので、画像は読んでくれません。画像を読まないとなぜ困るのかといえば、PDF化された文章は画像だということです。ホームページやメールの添付文書に、編集除けのためにPDF化された文書がたくさんありますが、これ等は、PDFそのままの状態では読み上げることができないのです。また、マウスの操作は、視覚障害者にとって困難なものです。
 どの自治体でもそうだと思いますが、広島県では職場のパソコンへのソフトのインストールについてはセキュリティー確保の問題から情報システムの統括部署に協議しなくてはなりません。スクリーンリーダーソフトについては、必要性が理解されているようで、すぐに承認され、ソフトの購入も公費で行ってくれました。しかし、PDFを読み上げられるようにするためのOCRソフトについては、予算の兼ね合いで購入してもらうことができませんでした。そんなわけで、メールに添付されているPDF文書で必須と思われるものについては、同僚に内容確認を行います。
 昨今、庶務や服務関連の様々な届け出は、職員一人一人が各人パソコンで入力・提出するようになりました。それらの中には、マウスを使わないと操作できない仕様のものが散見されます。これも、同僚にマウスを動かしてクリックしてもらっています。個人情報確保のために個人が入力するようにしているものもあるのですが、やむをえません。
 このように言うと、同僚に非常に頼っているように感じられますが、「自分でできることとできないこと、そして、手助けがあればできること」をしっかり確認して、自分でできることは積極的にやっていこうと思っています。
 例えば、職員が持ち回りで行う仕事で、免除してもらっているものと輪番に入れてもっているものを説明します。鍵当番は免除してもらっていますが、お茶当番はやっています。鍵当番は、退庁時に施錠を行い、お茶当番は、給湯室の元栓などの管理をするものです。なぜ、鍵当番はできないのにお茶当番はできるのでしょう。答えは、空間の広さです。いつも同じ場所にあるガスコンロの元栓の管理や、手で持って行うポットへのお湯入れは一人でできるのですが、離れたところにあるシャッターの開閉を目視でボタン操作することとか、ランプの色で見分ける自動ドアの電源のオンオフの確認はできないのです。周りの人にも、なぜできないのかということを理解してもらうようにしています。そうしないと、特別扱いされていてずるいと思われてしまうかもしれないからです。合理的な配慮は、特別扱いではなく、その配慮を受ければ、健常者と同じ尺度で評価を行っても不利益を被らないようにすることなのです。

(3) 日常生活について
 視覚障害者の日常生活についても「自分でできることとできないこと、そして、手助けがあればできること」があります。これらは障害の度合いと、いつから障害があるかによってずいぶんと変わってきます。
 上述の通り、私は先天性の障害のため、基本的な生活動作は一人で行うことができます。しかしそれには、「自宅で」とか「いつもの」という但し書きがつきます。自宅でなら、一人でトイレに行き、入浴し、炊事洗濯、掃除もこなしますが、外出先、特に初めて行くところでは、一人でできないことがたくさんあります。
 外出先で最も困るのはトイレでしょうか。なぜなら、何処にあるかわからないから。人に聞けばいいではないかと思われるかもしれませんが、聞くべき人がどこにいるのかも視覚障害者は見つけることができないのです。だから、声をかけてもらえるととても助かります。困っていないときは、「大丈夫です。ありがとう。」とお礼をします。
 一人で歩いている視覚障害者は、大抵、自力で目的地に行くことができる人です。ただし、いつもは問題なく歩けている場所でも、いつもより人が沢山いたり、悪天候になったりすると、行くべき方向が分からなくなってしまうことがあります。だから、天気の悪い日や事故などがあって交通ダイヤが乱れているときは、積極的に声をかけてください。声かけした人が自分で目的地まで連れていく必要はないのです。駅員さんのいるところに案内してくれるだけで十分なのです。利き手には白杖を持っていますので、反対側の手であなたの腕や肩を持たせてください。

3. 地域社会で生活するために

 私が一番必要だと思うのは、公共交通機関の確保と、その公共交通のバリアフリーです。
 現在私は、広島市安佐南区の自宅から中区にある県庁まで、アストラムラインで通勤しています。これは、電車のような乗り物ですが、駅にホームドアがあり線路に転落する危険がないので安心して使っています。また、ドアの前に立っていれば必ず乗れるので、非常に助かっています。この乗り物で通勤できるので、今の家を買ったといっても過言ではありません。
 以前はバス通勤でしたが、バスは、バス停の点字ブロックの前に乗り口が来るように止まるとは限らないので、一人で乗車することが非常にむずかしいのです。広島は複雑なバス路線の街なので、行き先の確認もむずかしいです。それでも県庁所在地なので、本数も多いので何とかなるのですが、バリアフリーチェックなどで県内の他の市町に伺うと、バスの本数が非常に少なく、バス停も点字ブロックが無かったり、待っているスペースが非常に狭かったりと一人で利用するのがむずかしそうなバス停や、無人駅に出会います。昨今、経営合理化のため、駅を無人化したり、バス路線を廃止したりするニュースをよく聞きますが、これでは障害者の自立への妨げになってしまいます。
 また、施設内はバリアフリーなつくりになっていて、職員の窓口での対応も文句ないのですが、バス停や駅からの点字ブロックが無いとか、そもそも徒歩圏内にバス停や列車の駅がないという公共施設もあります。自立した社会生活を送ろうとすれば、自力で公共施設に出向きたいものですが、これでは視覚障害者は辿り着くことはできません。官民の協力で、公共交通機関の確保と、そのバリアフリー化の促進が進むことが、地域で自立した生活を続けられる基本だと思います。


【総会の議案集から抜粋】
障労連とは

1 沿革
 自治労にとって、「障害者」の位置づけは、当初「住民の健康と福祉をまもるたたかい」の中で、政策あるいは制度要求における対象者としてきました。
 しかし、「国際障害者年(1981年)」に提起された障害者の「完全参加と平等」の理念を受け、障害者の労働権獲得に重点をおき、「自治体を中心とした障害者雇用の促進」を運動方針に掲げ、今日まで取り組みを進めています。
 そして、1981年11月8日には「自治労障害労働者全国連絡会(全国障労連)」を結成し、この組織を軸として、障害者問題に関心をもつ人々と様々な共同連帯の輪を広げ運動を展開してきました。
 現在、北海道、秋田県、福島県、東京都、千葉県、神奈川県、静岡県、長野県、大阪府、兵庫県、奈良県、広島県、福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県の16県本部が障害労働者を組織化(2018年10月1日現在)しています。

2 障労連の取り組み
 2016年4月に「障害者差別解消法」「改正障害者雇用促進法」が施行されました。自治労社会福祉評議会では、改正障害者雇用促進法に基づき策定された差別禁止指針と合理的配慮指針および「合理的配慮指針事例集」を活用し、各法律の実効性を高める取り組みを行ってきました。
 今後も各職場における実効性ある施策を求める取り組みを本部・都道府県本部・単組で行っていく必要があります。
 2018年5月14日には、障労連四役が中心となり、対政府要請行動を行い、厚生労働省、総務省に申し入れを行いました。近年の対政府交渉の成果として、この交渉の要求の中から、公務部門に特化した合理的配慮事例集を厚労省が作成した事が挙げられます。