【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 新冠町には町立の青少年宿泊研修施設「日高判官館青年の家」があります。今回はこの施設の設立経緯及び施設を活用した事業についてレポートしました。



新冠町立「日高判官館青年の家」の概要
―― 新冠町特有の社会教育施設の設立経過と事業展開 ――

北海道本部/自治労新冠町役場職員組合

1. はじめに

 どの自治体も数々の社会教育施設を有しておりますが、新冠町には他の自治体ではあまり見ることがない、町立の青少年宿泊研修施設「日高判官館青年の家」があります。
 この「日高判官館青年の家」はどのような経緯で設立されたのか、また、どのような事業が展開されているかを調べました。


2. 「日高判官館青年の家」の概要

(1) 青年の家設置の趣旨
 青年の家は、青少年が共同生活を通じて規律、協同、奉仕、友愛の精神を養いつつ、自らの視野を広げ、豊かな感情を育て、心身ともに健全で生涯にわたり学習する意欲と関心を培うことを目的に設置しております。

(2) 設立の経緯
 1949年6月に施行された「社会教育法」は、教育基本法の精神に則り、社会教育に関する国、地方公共団体の任務を明らかにすることを目的としておりました。その社会教育法第5条には市町村教育委員会の社会教育に関する事務を規定し、更にその3項では公民館、図書館、博物館、青年の家などの設置、管理があげられております。また、国は戦後の荒廃した社会からの脱却をめざし、青少年が健全な環境のもとで、集団生活を通じ社会生活に必要な規律を体得することを期待しておりました。
 このような背景から、1959年には、青少年に団体生活による共同宿泊訓練施設の機会を与え、各種の研修野外活動を通じて、規律、共同、奉仕等、心身ともに健全な青少年の育成を図ることを目的に本州に国立中央青年の家が設立しました。道内につきましても同年の7月に深川市に道立青年の家が設立し、その後、京極町、稚内市、紋別市、江差町に組合立・市立の青年の家が次々と誕生しました。
「日高判官館青年の家」落成式の様子
 その頃、日高管内は、青年会・4Hクラブをはじめ、青少年団体の活動が活発に行われていた時期で、自分たちが気軽に利用できる研修施設が欲しいとの要望が自然的にわき、日高管内青年団体協議会を中心にして管内の各町長宛に青年の家設立にむけた陳情がなされていました。
 このような要望は新冠町の青年団体等からもあり、青少年の健全育成に情熱を傾注していた有田新冠町長は地元に設立すべく道・関係機関に働きかけ、日高管内町村会の同意も得て日高管内各町の組合立で青年の家の設置を試みたと言われています。
 また、青年の家設立にあたっては、新冠町の名誉町民となった浅川義一氏の存在が大きかったとも言われております。浅川氏は、若き日より青少年問題に情熱を傾け、教育的環境、青少年教育運動に着眼していましたので、青年の家の設立にむけて多額の寄付を申し出たこともあり、1966年に組合立「日高判官館青年の家」が誕生する要因になったと言われています。

(3) 組合立の解消
 組合立「日高判官館青年の家」が設立された以降も、国立大雪青年の家が誕生するなど、道内でも各支庁に1つの青年の家が建設・運営されましたが、時代の流れとともに青少年のニーズの変化、青少年活動の弱体化、施設の老朽化等さまざまな理由にともない廃止された施設も多くでてきました。当青年の家も財政的な面などから1998年度をもって組合立を解消し、1999年4月1日より新冠町立「日高判官館青年の家」として再スタートし、今日に至っているところであります。


3. 「日高判官館青年の家」の主催事業の経過

(1) 組合立時代
 組合立「日高判官館青年の家」が設立された頃は先に述べた経緯のとおり、青少年団体の活動が活発に行われていた頃であり、青少年団体の自主的な活動による施設利用の他にも、心身ともに健全な青少年の育成をめざし「郷土をつくる若者の集い」「明日をつくる20歳の集い」「文化活動リーダー研修」などといった数多くの青年の家主催事業を開催し、地域の発展に貢献をしておりました。
 しかしながら、新冠町立「日高判官館青年の家」となってからは主催事業の開催も次第に減り、最終的には施設の貸館のみの運営となっていた時期が続いておりました。そのような現況を打破しようと2005年に「学び・遊ぶ・つうがく合宿」事業が始まりました。

 

(2) 「学び・遊ぶ・つうがく合宿」事業の誕生
 この事業は、子ども達の問題行動の要因のひとつに生活習慣の乱れがあることに着目し、青年の家本来の機能である、共同生活を通じて規律ある生活指導業務によって生活習慣の乱れを改善し、青少年の健全な育成を図ることを目的に3泊4日の日程で新冠小学校3・4年生の児童を対象に実施しました。
 事業開催中は日高判官館青年の家に宿泊しながら学校へ通学し、下校後はテレビ・ゲームを禁止とした環境の中で各種プログラムが展開され、学習時間、自分の部屋の整理整頓、風呂・トイレ・玄関の清掃を行い、鮭をさばいて石狩鍋をつくるなど体験事業も行いました。
 また、この事業は子ども達と関わりがある小学校・PTA・子ども会などに協力をもらい、実行委員会形式で開催しました。実行委員会で意見・立案を頂きながら事業を実施することで、どのようにして子ども達の健全な育成を図っていくか、地域を巻き込んで考え・議論したことも特徴的なことでした。

 

 

4. まとめ

 「学び・遊ぶ・つうがく合宿」事業は2005年度の1回限りの開催と考えていましたが、好評であったことから継続事業となり、新型インフルエンザが大流行した2009年を除き毎年開催しております。また、実行委員会に入っている関係団体も年々増えており、実行委員の活発な意見により現在では4泊5日の日程で町内2小学校を対象に範囲を広げて開催しております。
 「日高判官館青年の家」という施設の機能を活用して子どもたちには規律ある生活体験を提供し、地域の大人には子ども達の健全育成を図るために何をすべきか議論してもらう機会を提供しております。公共施設は財政的な側面・老朽化だけで判断せず、施設を活かした事業展開と地域に与えている影響も考慮して判断する必要があると感じました。