【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 受動喫煙防止政策は、市民の健康に関する意識の高まりと2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックへの対応の必要性を背景として、国および先進的な自治体によって進められている。本論考では、北海道内の地方自治体の動向の検討と、北海道地方自治研究所で行った3自治体での全職員アンケート調査を通じて、地方自治体が受動喫煙防止政策に対処する意義と課題を明らかにする。



自治体による受動喫煙防止政策の可能性と課題
―― 北海道の事例調査を通じて ――

北海道本部/公益社団法人北海道地方自治研究所・受動喫煙防止政策研究会
山崎 幹根(主査)・辻道 雅宜・髙野  譲

1. 地方自治体による受動喫煙防止政策の意義

(1) 全国の動向
 近年、受動喫煙防止政策に注目が集まっている。その背景として、受動喫煙の健康への悪影響と対応が遅れている現状に対して世の中の関心が高まったという要因がある。さらに、タバコ規制がグローバルなレベルで進めるべき国際政策という性格が強いことから、日本政府も「世界標準」に合わせた対応を行う必要性に迫られている。その端緒は、2004年に「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO Framework Convention on Tobacco Control:FCTC)」を締結したことにより、タバコ規制政策の実行が求められることにある。しかし、条約で締約国に遵守が求められている規制政策に関して、日本政府の達成度が極めて不十分な水準であることが内外から指摘されている。さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に際して、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は「たばこのないオリンピック」を推進しており、日本も受動喫煙防止の対応が求められている。
 こうした動向を背景に、国レベルでは厚生労働省が2016年、受動喫煙防止対策を強化する方針を打ち出し、健康増進法の改正に着手した。ところが、厚生労働省の方針に対して自民党が政策調査会の場で強く反対し、当時の塩崎恭久厚生労働大臣は、今国会に改正健康増進法を提出することを断念した(朝日新聞 2017.06.21)。厚生労働省は、再度、当初案よりも大幅に規制を緩和した改正案を国会に提出したが(7月18日付で可決・成立)、政策目的の効果を疑問視する野党から異論が出されている(朝日新聞 2018.06.09)。
 一方、受動喫煙防止政策に関しては、国よりも自治体によって先進的な政策が実行されている。神奈川県は最も早く2009年に受動喫煙防止条例を制定し、兵庫県も2012年にほぼ同様の条例を制定している。神奈川県条例によれば、学校や病院など第1種施設は禁煙とされ、飲食店やホテルなど第2種施設は禁煙か分煙が義務付けられている。ただし、一定規模以下の施設や風営法対象施設などは努力義務とする例外規定が設けられている。条例の実効性を確保する手段として、違反者に対して罰則として過料が課せられる(松沢成文2009)。また、こうした動向とは別の文脈で、2002年に東京都千代田区は路上喫煙禁止条例を制定、路上禁煙地区を設定し、違反者に対して過料を課す罰則を設定した。その後、路上喫煙防止条例は急速に全国の各都市に広まった。

(2) 北海道の現状
 2016年段階での日本の喫煙率は19.8%(男性31.1%、女性9.5%)であるが、北海道は24.7%(男性34.6%、女性16.1%)と、男性・女性とも全国平均を上回っている(国立がん研究センター)。北海道の喫煙率の高さは、がんの罹患率が全国平均よりも高い大きな要因であることが指摘されており、こうした観点から、がん患者らの団体や医師会などは、地方自治体が積極的に受動喫煙防止政策に取り組むよう、要請し続けてきた経緯がある(北海道新聞)。このように、北海道には受動喫煙防止政策に積極的に対応すべき地域に由来する政策課題が存在する。こうした事情を背景に、北海道議会は議員提案条例として受動喫煙防止条例の制定化に向けた検討を行ってきたが、会派間の合意を形成することができず、条例化は見送られた(北海道新聞 2018.02.24)。

2. 条例制定の動向―美唄市の事例

 体系的な受動喫煙防止条例は、2009年の神奈川県、その後の兵庫県が制定しているが、一部の市町村でも独自の条例化を図っている。北海道では、美唄市が2015年に市町村では全国で初めて受動喫煙防止条例を制定、2016年に施行した(注―公共施設を対象とした条例は栃木県芳賀町が2011年に制定)。
 美唄市条例は、第1条で、市民がたばこの煙に対する認識を共有し、関心と理解を高めることと、受動喫煙を回避し市民の健康で快適な生活の維持を図ることを目的としている。第8条で、第1種施設(幼稚園、学校、病院、駅、公共交通機関、福祉施設、公共施設)を敷地内または施設内禁煙とし、第2種施設(店舗、金融機関、郵便事業、熱供給事業所)を施設内または分煙としている(例外規定あり)。また、第9条で、未成年者への配慮を定め、未成年者が喫煙可能区域に立ち入らないように規定するとともに、児童生徒の登下校時の路上や子どもが遊ぶ公園等について受動喫煙防止に配慮する規定を設けている。
 条例制定に至る経緯を振り返れば、2009年に、美唄市医師会より受動喫煙防止に関する要望が出され、2010年には、市議会から、教育施設と子どもの利用する公共施設の敷地内禁煙を求める意見書が提出された。その後、2013年に市が策定した「びばいヘルシーライフ21第2期」の中で、通学路の受動喫煙防止条例が記載されるなど、市の取り組みとして受動喫煙防止政策を行う流れが次第に固まってきた。その後、市は、条例化に向けた作業を本格化させ、2015年2月に条例素案を策定、7月には市民検討委員会を設置し、政策内容に関しての議論を深めていった。その後、条例案は2015年12月に可決、2016年7月に施行されるに至った。
 美唄市による受動喫煙防止政策への取り組みの姿勢からは、以下の点を特徴として挙げることができる。第一に、美唄市条例は神奈川県、兵庫県の条例と異なり、罰則を設けず、また、民間施設に受動喫煙防止対策を義務付けていない。第10条で、喫煙禁止区域における喫煙者に喫煙中止を求める規定があるが、市、市民、保護者、事業者、施設管理者の自発的な理解と連携、協働によって受動喫煙防止の達成をめざしている。具体的な行動として、市は、環境整備(ポスターや看板掲示、広報誌への掲載、対象施設訪問などを通じた周知活動)、啓発活動(美唄医師会との共催による講演会、保健推進員による町内会回覧、健康教育、イベントでの肺年齢チェックなど)、未成年者への防煙教育、禁煙支援、市民・事業所に対する意識調査などを行っている。
 第二に、条例では、第9条で未成年者への配慮を、「施設管理者及び保護者は、未成年者が喫煙可能区域及び喫煙所に立ち入らないよう努めなければならない」、第2項で「喫煙者は、児童生徒が登下校時に往来する校門を中心とする100メートル以内の路上又は公園において受動喫煙防止に努めなければならない」と、具体的な規定を置いている点に特徴がある。これには、美唄市の受動喫煙防止の取り組みが、子どもや妊婦を受動喫煙から守ろうという考えから始まったという背景がある。それゆえ、当初は「通学路路上喫煙防止条例」としてのアイデアが検討されたという。このように、美唄市条例は、美唄市で取り上げられた独自の政策課題に対応するために、政策目標を具体的かつ限定的に設定した上での政策対応であり、先行条例を模倣したものではない。
 第三に、以上の点とも関連するが、関係者の長年による努力が、条例制定を可能にした。特に、美唄市医師会の会長である井門明氏の熱意と、条例実現に向けて関係者間の合意形成を図る市の積極姿勢、市議会の理解が条例制定を可能にした。

3. 自治体全職員を対象としたアンケート調査結果の概要

 北海道地方自治研究所受動喫煙防止政策研究会は、自治体が受動喫煙防止政策を推進する可能性と課題を明らかにするために、2018年1月、3つの自治体の単組または安全衛生委員会を通じて、全職員を対象としたアンケートを実施した。協力を得た自治体は、A市(人口17万人)、B市(人口2万人)、C町(人口5千人)である。回答総数1,485、回答率はそれぞれ、58%、85%、81%と、比較的高い回答を得ることができたことと、自由筆記欄に予想以上に多くの意見が寄せられた点が注目される。また、本稿執筆時点で、アンケート結果をより深く分析するために、A市及びC町に対してヒアリング調査を行った。
 アンケート調査結果の概要は以下のように示すことができる。
 先ず、「問3 あなたは、現在、習慣的にたばこを吸っていますか」との問いに対して、「吸っている」が27.3%、「吸っていない」が72.7%と、全国平均、全道平均よりも高い数値となった。これは、喫煙率が高い男性の回答比率が68.7%と高いことが要因であると考えられる(男性の喫煙率は35.1%、女性の喫煙率は10.3%)。
 「問5 あなたは、受動喫煙にあったことはありますか」との問いに対して、96.0%が「ある」と回答、受動喫煙にあった場所については(複数選択)、「飲食店」が最も多く86.5%、続いて「自宅や他人の家」54.4%、「路上」41.8%、「パチンコ店・マージャン店」29.7%、「宿泊施設」26.7%と続き、「職場」は23.1%であった。
 「問7 あなたは、受動喫煙にあったとき、不快に感じましたか」については、「不快に感じた」が67.9%、「不快に感じなかった」が30.0%との結果となった。「問8 あなたは、受動喫煙の健康への影響についてどのように思いますか」との問いに対しては、「影響があると思う」が95.2%、「影響がないと思う」が4.6%との回答を得た。
 「問9 あなたの職場の受動喫煙防止の対策をどう思いますか」については、「十分である」が81.5%、「不十分である」が18.1%と、「不十分である」が、予想よりも多くの割合となった点が注目される。
 「問10 あなたの職場の受動喫煙防止対策を進めるためには何が必要であると思いますか」に対しては、「現状のままでよい」が36.5%、「施設内の完全禁煙」が31.2%、「施設内の分煙」が26.9%となった。
 続いて、本研究の主題である自治体による受動喫煙防止政策の取り組みに対する問いとして「問11 あなたの住んでいる自治体が受動喫煙防止政策を進めることについて、どのように思いますか」に対して、「賛成」が73.3%、「反対」が25.3%、「問12 受動喫煙を防止する方策として、あなたの住んでいる自治体が条例を制定することについてどのように思いますか」に対しても、「賛成」が81.5%、「反対」が17.4%と、大多数の回答者が、条例制定を含めた自治体による政策対応に積極的であることが明らかになった。
 さらに、前問で防止政策の推進に賛成した人に対する「問13 受動喫煙防止の対策を進めるために自治体が行うべき対策」に関する問い(複数選択可)に対しては「啓発活動」が最も多く57.1%、「喫煙者や事業者による自主的な規制の奨励」が63.0%、「未成年者への教育活動」が47.8%、「条例など法令による規制」が51.8%と続いている。
 一方、「問14 自治体が受動喫煙防止政策を行うべきではないと思われる理由」についての問い(複数選択可)に対しては、「すでに分煙のルールは社会的に定着している」が69.6%、「喫煙はマナーの問題であり行うべきではない」が52.9%、「私人や民間事業者に対して自治体が規制すべきでない」が34.4%と続いている。
 最後に、「問15 飲食店やホテル等を規制の対象とすることについて」の問いに対して、「賛成」が75.4%、「反対」が23.5%と、大多数の回答者が前向きの理解を示している。問15賛成者の「問16 必要な対策」については、「施設内の分煙」が59.0%、「施設内の完全禁煙」が59.0%との回答を得た。これに対して、「問17 規制に反対」する理由については、「すでに分煙のルールは社会的に定着している」が33.2%、「民間事業者の経営に影響するから」が26.6%、「喫煙はマナーの問題であり行うべきではない」が21.4%、「私人や民間事業者に対して自治体が規制すべきでない」が21.4%と続いている。
 以上のようにまとめられた自治体職員アンケート調査結果は、以下の点を特徴として指摘できる。第一に、自治体が受動喫煙防止政策に取り組むことに対して、大多数の回答者が、積極的な評価をしていることが確認された。アンケートの対象とした3自治体はいずれも受動喫煙防止条例を検討していないが、条例化についても賛成が多数であった。第二に、政策目的を実行するための対策に関する問いからは、啓発活動や喫煙者・事業者らの自主規制の奨励など、「ソフト」な政策志向手段が選好される傾向にあることが明らかになった。第三に、職場の受動喫煙防止対策に関して、2割弱の回答者が「不十分である」としており、予想よりも高い比率の回答となった。自由回答欄の意見を参考にすれば、敷地内や公用車内の完全禁煙を求める声が目立つとともに、勤務時間中に喫煙者が喫煙のために中座することに対する批判が目立ったことから、これらの要因が背景にあるものと考えられる。

4. まとめ

 以上、現時点で北海道地方自治研究所受動喫煙防止政策研究会が行った調査結果から、自治体が受動喫煙防止政策に取り組む意義を導くことができる。同時に、アンケート調査からは、啓発活動や喫煙者・事業者らの自主規制の奨励など、比較的「ソフト」な政策志向手段が選好されていることが明らかになった。この点に関し、自由回答欄の意見、そしてヒアリング調査結果を加えて考察すれば、タバコ問題が多くの人々にとって、マナーの問題として認識される傾向が強く、非喫煙者が喫煙者を直接批判し、対立する構図を回避しようとする傾向が付随していることが背景にあるものと考えられる。それゆえ、潜在的な不満が、予想を超えた自由意見欄の記載の多さとして表れたものと思われる。
 今後、自治体が実効性のある受動喫煙防止政策を具体化するに際して、以下の諸点が課題になる。第一に、喫煙者・非喫煙者にかかわらず、受動喫煙をマナーの問題ではなく、住民そして自治体職員の健康問題として位置付ける必要がある。自治体現場に関しては、雇用者が被用者である職員の健康面での安全を確保する義務を履行する観点と、公衆衛生の観点からの政策として対応されなければならない。第二に、個々の自治体に由来する政策課題を明らかにするとともに、これを解決するための合理的な手段を、客観的な政策情報に基づいて具体化する必要がある。罰則規定のない理念型の受動喫煙防止条例(政策)は今後、多くの自治体に波及することが予想される。しかしながら、それぞれの自治体が抱える固有の政策課題を明らかにし、これに対処する姿勢を欠き、他自治体の模倣に止まるならば、自治体として受動喫煙防止政策に取り組む意義は低下するであろう。第三に、罰則等、法的に担保する手法によらない形で政策を執行する際に実効性を確保するためには、政策形成段階での関係者間の合意形成、そして、自発性を促すための奨励や誘導など、具体的な計画を策定・実行する必要がある。

備考
 本研究を行うに際して、2017年7月、美唄市の関係者にヒアリングを行うとともに、受動喫煙防止条例の制定過程に関する資料を提供いただいた。また、A市、B市、C町には、全職員アンケートの実施に協力をいただいた。さらに2018年4月と6月には、A市及びC町おいて調査結果に基づいたヒアリングを行った。ここにお世話になった関係者に対し、記して厚くお礼申し上げる次第である。なお、本稿の記述内容に関する責任はすべて著者にある。

資料1
受動喫煙に関する調査 基本集計 3市町合算

資料2
問2:あなたの性別についてお伺いします × 問3:あなたは、現在、習慣的にたばこを吸っていますか(この半年間)

資料3
問3:あなたは、現在、習慣的にたばこを吸っていますか × 問5「受動喫煙」とは、室内などで、自分の意志とは関係なく、他人のたばこの煙を吸わされることを言います。あなたは、受動喫煙にあったことがありますか

資料4
問3:あなたは、現在、習慣的にたばこを吸っていますか × 問7:あなたは、受動喫煙にあったとき、不快に感じましたか

資料5
問3:あなたは、現在、習慣的にたばこを吸っていますか × 問9:あなたの職場の受動喫煙防止の対策をどう思いますか

資料6
問3:あなたは、現在、習慣的にたばこを吸っていますか × 問10:あなたの職場の受動喫煙防止対策を進めるためには何が必要であると思いますか

資料7
問3:あなたは、現在、習慣的にたばこを吸っていますか × 問11:受動喫煙を防止する方策として、あなたが住んでいる自治体が条例を制定することについてどう思いますか

資料8
問3:あなたは、現在、習慣的にたばこを吸っていますか × 問12:あなたの住んでいる自治体が受動喫煙防止政策を進めることについて、どのように思いますか

資料9
問3:あなたは、現在、習慣的にたばこを吸っていますか × 問15:あなたは受動喫煙を防止するために、飲食店やホテル等を規制の対象とすることについて、どのように思いますか

資料10
問9:あなたの職場の受動喫煙防止の対策をどう思いますか × 問10:あなたの職場の受動喫煙防止対策を進めるためには何が必要であると思いますか




参考文献
喫煙の健康影響に関する検討会編『喫煙の健康影響に関する検討会報告書(案)』(「タバコ白書」)厚生労働省、2016年
松沢成文『受動喫煙防止条例』東信堂、2009年
畠山武道「北海道喫煙被害防止条例の制定に向けて 法的論点の整理と制度設計の課題」『北海道自治研究』第591号、2018年
山崎幹根「受動喫煙防止政策の現状と課題」『北海道自治研究』第583号、2017年