【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 公共図書館で働く視覚障害者には、さまざまな課題があります。京都府立図書館に、視覚障害者として勤務する仁科は、視覚障害者が図書館を利用しやすいサービスの充実を図るとともに、図書館で働く視覚障害者を支援する活動に取り組んでいます。しかし、地方財政の悪化や、指定管理者制度の導入によって、定年退職者の補充がされない図書館もあり、視覚障害者も「共に暮らせる社会」へ課題の整理と提言をしています。



公共図書館で働く視覚障害職員の現状と課題
 

京都府本部/自治労京都府関係職員労働組合 仁科 豪士

1. 全国の公共図書館で働いている視覚障害職員数

【2017年11月、公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)調べ】(※1
 ○雇用総数 27人
 ○内訳

 県立・市区立の別 都府県立 11人 市 区 立 16人  
 全盲・弱視の別 全  盲 19人 弱   視 8人  
 雇用形態別 正 職 員 23人 再任用職員 2人 嘱託職員 2人

・全盲の視覚障害者が7割を占めており、また、弱視者の中にも点字と墨字を併用している人がいるなど、図書館が重度の視覚障害者に適した職場であることを示している。


2. 公共図書館での視覚障害職員の担当業務の例※1

・障害者サービス用資料の制作に係るコーディネート
・障害者サービス用資料の所蔵調査・貸出
・対面朗読サービスの調整
・音訳者等の養成・研修、講師業務
・障害者サービス・事業の企画立案
・障害者用読書器やIT機器の操作の指導


3. 視覚障害者が公共図書館で働く意義

 公共図書館の障害者サービスは、点字・録音図書の貸出、対面朗読など視覚障害者向けのサービスを基礎として発展してきた。
 さらに近年は、障害者権利条約(※2)とマラケシュ条約(※3)の批准に伴う著作権法(※4)の改正などの影響もあって、視覚以外の障害により印刷物を読むことが困難な人へのサービスへと拡大しつつある。
 視覚障害者は、自らの経験などを生かすことで、見えない・見えにくい人のニーズや読書の方法などを理解しやすい立場にあり、こうしたスキルに基づき開発された技術やノウハウの中には、その他の読みに障害のある人へのサービスにも応用できるものが少なくない。図書館の障害者サービスの向上には、今後も視覚障害者へのサービスのノウハウが重要であり、利用者としての視点を併せ持つ視覚障害職員の存在にも大きな意義があると言うことができる。


4. 公共図書館での視覚障害者雇用の歴史

 これまで、40年以上にわたり、30人を超える視覚障害者が、各地の公共図書館で働き、障害者サービスの分野で大きな役割を果たしてきた。

・1974年、東京都が、全国で初の点字による職員採用試験を実施。合格者を都立中央図書館に配属(※5)。
・以後1989年までに、埼玉県、四街道市(千葉県)、町田市(東京都)、横浜市、名古屋市、四日市市(三重県)、豊中市(大阪府)、枚方市(大阪府)などで、視覚障害者が図書館職員として採用される(採用時期は順不動)。
 国・地方自治体に対する視覚障害者の雇用運動の活発化と、「完全参加と平等」をスローガンとした国際障碍者年(81年)と、それに続く国連障害者の10年(83年~92年)に伴う国の長期行動計画が大きく影響(※5)。
・1989年9月、全国の公共図書館で働く視覚障害職員が10人に達したことをきっかけに、「公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)」結成。
 現在、点字図書館の職員や音訳ボランティアなどを含む約50人の会員で、相互の親睦と情報交換、専門家集団としての出版物の刊行、多くの視覚障害者が図書館で働く機会を得られるよう活動を実施。(※1※5※6)。
・1990年、京都府が身体障害者を対象とした職員採用選考試験で点字試験を実施。
・1991年4月、全盲の視覚障害者を行政職採用。知事公室総務調整課、中小企業総合センター(現中小企業技術センター)を経て、2002年6月に京都府立図書館に配属。
・1991年 国家公務員試験Ⅰ種及びⅡ種(行政職のみ)で点字試験実施。
・1992年、横浜市が身体障害者を対象とした職員採用選考で視覚障害者の司書を募集(※5)。93年4月、横浜市中央図書館に配属。
・1993年、大阪市が身体障害者を対象とした職員採用選考で視覚障害者の司書を募集(※5)。96年開館の大阪市立中央図書館に配属。
・2000年、大阪府が図書館司書採用試験(一般選考)で点字試験を実施し、大阪府立中央図書館に配属(※5)。
・このほか、日野市(東京都)、千葉県、千葉市などでも行政職採用の視覚障害者を図書館に配属。また、いわき市(福島県)で中途視覚障害者の職員を図書館に配属。
・2013年、滋賀県が身体障害者を対象とした滋賀県公立図書館職員(司書)採用選考で点字とパソコンによる試験実施し、2014年4月に県立図書館に配属。


5. 今後の課題

・1980年代中頃までに採用された視覚障害職員が定年退職を迎え、後任の視覚障害者が補充されていない図書館が見られる。また、現在、障害者サービスの分野で中心的な役割を担っている視覚障害職員の中には、今後10年余りで定年を迎える人が少なくない。一方で、地方財政の悪化による図書館への指定管理者の導入などの影響もあり、90年代後半以降、司書採用される視覚障害者数は減少している。これまで積み重ねられてきた実績を引き続き発展させていくためには、図書館への就職を希望する視覚障害者の掘り起こしと雇用に繋げるための取り組みが、喫緊の課題になっている。
・大学や視覚特別支援学校、職業訓練機関などの関係者に対しても、公共図書館が視覚障害者に適した職場であることを周知する取り組みが必要である。
・広く行われている公務員採用試験では、時間延長や点字拡大文字・パソコンによる試験の実施などの合理的配慮の提供だけでは、重度の視覚障害者のハンディを補えない面がある。採用試験における機会の平等を求めるものとは別の取り組みの検討も必要になりつつある。




【参考資料】
※1 「公共図書館は視覚障害者が活躍できる職場です なごや会は図書館への就職を応援します」公共図書館働く視覚障害職員の会(なごや会)、2018.1。
    https://www.nagoyakai.com/pamphlet/index.html

※2 障害を理由としたあらゆる差別(合理的配慮の否定を含む)の禁止などを内容とした条例。2006年12月の国連総会で採択。日本は2014年1月に批准。
   「障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)」外務省。
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html#section2
※3 視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者(識字障害者、書物を持つことが難しい肢体障害者など)が著作物を利用できるよう、著作権の利用制限規定を設け、これに基づく複製物の輸出入が円滑に行われるよう制度を整備することを定めた条約。
    2013年6月採択。日本では、2018年4月25日の参議院本会議において同条約の締結を承認。
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page25_001279.html
※4 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
 (視覚障害者等のための複製等)
 第三十七条
 3 視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者(以下この項及び第百二条第四項において「視覚障害者等」という。)の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものは、公表された著作物であつて、視覚によりその表現が認識される方式(視覚及び他の知覚により認識される方式を含む。)により公衆に提供され、又は提示されているもの(当該著作物以外の著作物で、当該著作物において複製されているものその他当該著作物と一体として公衆に提供され、又は提示されているものを含む。以下この項及び同条第四項において「視覚著作物」という。)について、専ら視覚障害者等で当該方式によつては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するために必要と認められる限度において、当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該視覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者により、当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りでない。
※5 『視覚障害公務員調査Ⅱ―35人の事例集』視覚障害者支援総合センター/編著、視覚障害者支援総合センター、2013.12。
※6 『見えない・見えにくい人も「読める」図書館』公共図書館で働く視覚障害職員の会/編著、読書工房、2009.11。