【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

性暴力被害者支援センター「さひめ」の発足から
現在の活動まで

島根県本部/組織内県議会議員 白石 恵子

1. 発足の経緯

 性暴力被害者支援センター「さひめ」は2018年で発足4年目を迎える。2013年1月、島大健康管理センターに勤務されている河野美江氏(産婦人科医師)から、「実は性暴力被害者支援を始めたいのだが、県の支援はもらえないだろうか」という相談があった。河野医師は勤務医時代、数少ない女性産婦人科医師として、性暴力の被害者や児童への性虐待のケースを経験されたことから、性暴力被害者支援の必要性を強く感じておられた。
 すでに大体の構想は出来ていて、心ある産婦人科医師、女性弁護士、心理士などで構成される「女性と子ども支援のための専門家連携の会」の皆さんが全面的に協力し、電話相談を受けて、必要に応じメンバーの産婦人科医師の診察や弁護士による支援及び心理士の心のケアに繋ぎ、被害者の希望があれば警察にも繋ぐということだった。

2. 国、他県の動き

 国の動きとしては2011年3月に策定された第二次犯罪被害者等基本計画で性犯罪被害者ワンストップセンターを各県1カ所は解説するよう求め、手引きも作成していた。他県では大阪府松原市の阪南中央病院の加藤医師が立ち上げた「SACHICO」が、当時は国や自治体から何の支援も受けず運営されていた。また警察主導の「ハートフルステーション・あいち」や行政主導の「佐賀県性暴力救援センター」があった。

3. 議会質問で取り上げる

 私はお話を聞いて、ぜひ島根県でも立ち上げるべきだし、熱意をもってやりたい方がいるなら県から運営資金の支援を得たいと思い、2013年2月議会の質問で取り上げてみた。しかし県女性相談センターとの役割分担も含め検討すると答弁はあったものの、結果として県からは何の支援も引き出すことはできなかった。

4. 「さひめ」発足

 その後、支援センター立ち上げに向けて女性弁護士や心理士の方々の視察に私も参加させてもらい、大阪SACHICO、佐賀県の性暴力救援センターを訪れ、具体的な支援について勉強をさせていただいた。また「専門家連携の会」が立ち上げ準備のため講師としてSACHICOのメンバーをお招きするなど、数回の研修会を開催して知識と理解を広め、「国際ソロプチミスト松江」の皆さんも協力いただき30人の支援員を確保することができた。そして1年後の2014年1月11日に民間の力だけで「性暴力被害者支援センターさひめ」が発足した。資金は公益信託女性ファンドやソロプチミストの助成金で準備を進め、場所はメンバーの好意でプレハブを提供してもらって発足に至ったのである。

5. 公的支援を求めて

 もちろん公的支援を受けることが安定した息の長い運営になることは明らかなことなので「さひめ」は何とか県の支援を受けようと一般社団法人化をしたり、「さひめ」主催の研修会に県職員にも参加してもらう等努力を重ねてきたが、残念ながら県は民間の支援をする方向でなく県直営で性暴力被害者支援センターを立ち上げる方向に向かう、という動きとなった。

6. 県の動き

 2014年2月にも再度支援を求める質問をしたが、答弁で国のモデル事業を活用して県が女性相談センターに併設して独自に支援センターを立ち上げる考えであることが分かり、せめて連絡体制をとるように求めたのだが、連携をするという答弁はあっても具体的な内容は見えないままであった。
 2015年2月には県独自のセンターがどうなっているのか、民間「さひめ」との協働の道はないのかを探るため三度目の質問をした。県は女性相談センターに専用電話を設置して相談を受けるが、平日昼間だけと分かり、夜間だけの「さひめ」との連携を訴えた。しかし連携については、研修や広報を一緒にすることしか考えていないことが分かり、残念な思いがした。
 考えようによっては純粋に民間のほうが自由な活動ができるというメリットはあるが、資金が尽きた場合は活動が続けられないという危険が伴う。せめて夜間の相談受付を「さひめ」に委託をしてほしかったと思うし、こういう仕事は民間団体がやるほうが柔軟性もあり、ベターではないかと思うのだが、行政は「官民協働」と言って久しいにもかかわらず、まだ民間の活動への理解や信頼がないのだな、と悲しく思った。
 国の補助金制度が出来た2017年度には民間にも資金がいただけるかと期待したが、県経由であり、県がまず資金支援をしないともらえないと分かり、これにも落胆したところである。

7. 発足後の「さひめ」の活動と実績

 発足後の「さひめ」は、趣旨に賛同する民間企業の寄付や引き続いてのソロプチミストの資金援助、キリン福祉財団や日本財団の助成を受け、また会員の会費やクラウドファウンディング「gooddo」の支援や「さひめ」グッズ販売、イオンの黄色いレシートキャンペーンに参加するなどの会員の努力によって資金確保に努め、週3日18時から22時までの電話相談を実施している。
 また年数回の研修会も開催し、「さひめ」支援員だけでなく、県の相談員や各関係機関の方にも受講してもらっている。また、公開講座として県外から「難民高校生」の著者「仁藤夢乃」氏や山口大学大学院医学系研究科法医学分野准教授「高瀬泉」氏、弁護士「角田由紀子」氏、武蔵野大学教授「小西聖子」氏などの専門的な講師を招いてより深い学びの場を提供し続けている。
 相談件数も認知度とともに、電話相談2014年23件・2015年23件、メール相談2014年10件・2015年17件、カウンセリング2014年22件・2015年29件、弁護士相談2014年1件・2015年12件と順調に増加し、2017年3月末延べ件数は電話92件、メール281件、紹介による相談23件、カウンセリング98件、産婦人科医療20件、法律相談27件となっている。

8. 現在の課題

 今「さひめ」の課題として、活動拠点の問題がある。先に述べたように発足から4年間、とりあえず、ということで会員の所有するプレハブを借りて活動してきたがかなり老朽化が進み、床が傷んできている。今後も長く活動をしていくためには、しっかりした活動拠点を早急に用意しなければならない。1年以上、会員も努力して探してきたが資金の少ない「さひめ」にとって家賃の負担は重く、「せめて活動拠点ぐらいは提供してもらえないか」と県や市に働きかけているのだが色よい返事はないままである。先例として「島根いのちの電話」はいきいきプラザで活動しているし、先ごろ視察に行った高知では民間の子ども図書館が県の施設を無償提供されていた。不可能ではないと思うので、今後も可能性を探っていきたい。
 もう一点は前述したように、県の性暴力支援センター「たんぽぽ」とどう連携していくのか、という課題である。お互いの良いところを生かし、協働して性暴力被害者の支援活動ができることは被害者にとっても支援する側にとっても望ましいことと思うのだが、今のところ行政の高い壁を乗り越えられずにいる。
 この2つの課題は「さひめ」の力だけでは如何ともしがたく、行政の理解と協力が必要である。より良い被害者支援のために働きかけを続けていきたい。