【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 福岡県内で、アスベストによる健康被害者の裁判傍聴や「患者と家族の会」の支援をきっかけに、アスベスト被害の実態に学ぶと共に、自治体病院の診断・治療の体制や、地域建築物の安全行政等、自治体の役割について考察したことを述べる。



アスベスト被害と自治体の役割
―― 患者と家族の会支援を通じて見えてきたこと ――

福岡県本部/北九州市職員労働組合連合会・病院協議会・八幡病院分会 松本 誠也
共同執筆者:市立八幡病院 久野 淳二・高森 泰行・入江 佳世
市立医療センター 村田美由紀
福岡市職員労働組合・港湾支部 坂井 智明

はじめに(患者会支援をきっかけに)

 私たちはこれまで医療現場において、アスベスト疾患の患者に接する機会は多くなく、そのため認識も不十分なものでした。2017年、福岡県内でアスベスト被害者の裁判傍聴をきっかけに、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会(福岡支部)を支援することとなり、アスベスト被害の実態に触れると共に、自治体病院における診断・治療の体制や、地域の建築物の建材アスベストの問題などについて、考えさせられました。そこで、アスベスト被害と自治体の役割について、現時点までに学んだことを述べたいと思います。

1. 「患者と家族の会」支援等を通じて

(1) アスベスト裁判の傍聴
 2017年5月福岡地裁小倉支部で、作業中のアスベスト曝露が原因で、肺がん等が発症したとして、患者・家族が提訴した裁判を傍聴したのがきっかけで、「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」のお手伝いをするようになりました。

(2) 「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の支援
 6月には「患者と家族の会」福岡支部結成の集まりと「相談会」に参加し、それ以降、同月東京で行われた「石綿対策全国連絡会議」主催の海外のアスベスト被害者団体が集まった集会への参加、2017年11月と2018年3月・7月の福岡支部「相談会」及び「交流会」への参加を重ねてきました。

(3) 「中皮腫キャラバン隊」との出会い
 2017年11月、療養中の中皮腫患者を中心に組織された「中皮腫キャラバン隊」を福岡に招いて講演会が行われ、大阪の右田孝雄さん、千葉の栗田英司さん、札幌の田中奏実さんのお話を聞き、交流を深めました。また2018年6月の対省庁交渉に向け、患者自身が多数集結する積極的な取り組みを、応援することになりました。

(4) 「クボタショックから13年尼崎集会」への参加
 2018年6月に尼崎市で開かれた「クボタショックから13年・尼崎集会」に参加し、2005年それまで尼崎市のアスベスト工場の周辺に住んでいた住民がアスベスト曝露が原因で、中皮腫などアスベスト疾患を発症したことが明らかになり、大きな社会問題となった「クボタショック」のたたかいの歴史と、現在の課題について学びました。

(5) 「ニッポン国VS泉南石綿村」上映会
 大阪の泉南地域を中心にアスベスト工場が集中し、多くの労働者・家族・近隣住民がアスベストに曝露し被害者となり、国を相手に国家賠償請求の裁判に立ち上がりました。そのドキュメント映画が2018年6月、福岡市のKBCシネマで上映されたのを鑑賞し、最高裁で勝訴するまでの長く苦しいたたかいを学びました。

(6) 職場での学習会
 これらの取り組みを踏まえて、市立病院の職場でも、アスベスト問題について認識を深める方向で、学習会の取り組みを進めています。

2. アスベスト被害の経過

(1) 断熱材・建材等として広く使用
 アスベスト(石綿)は、蛇紋石や角閃石等から繊維状の鉱物を取り出し、断熱性、耐久性などの性質を用いて、工場や船舶のボイラー用断熱材等として明治時代から利用が始まり、戦後は主に建築物の建材や自動車のブレーキの摩擦材等をはじめ広範な用途に利用されました。

(2) 中皮腫・肺がん等の原因
 しかしアスベストは、その製造工程で粉塵として肺に吸入されると、微細な粒子が肺の各部位の細胞を侵し、「中皮腫」、「肺がん」、「アスベスト肺」、「びまん性胸膜肥厚」などの疾患を引き起こし、予後も悪く患者の苦痛は甚大で、有効な治療法も十分に確立していないのが現状です。

(3) 規制の遅れで被害拡大
 アスベストの有害性は、すでに1930年国際珪肺会議で指摘され、イギリス等では早くから規制されていました。国内では1960年じん肺法施行で規制対象とされたものの、石綿の使用禁止は遅れ、1995年青石綿・茶石綿の使用禁止を経て、ようやく2004年に白石綿を含む使用が原則禁止されました。国の規制の遅れが、アスベスト被害を拡大させたと言えます。

(4) 尼崎クボタショックと泉南石綿訴訟
 2005年尼崎市のクボタ工場跡地周辺の住民に中皮腫・アスベスト疾患が多発していることが発覚し(クボタショック)企業に謝罪と補償を求めるたたかいが起きました。また戦前からアスベスト関連工場が集中していた大阪府泉南地域で、2006年元労働者や家族・住民が国家賠償訴訟に立ち上がりました。

3. 医療体制の課題

(1) アスベスト疾患の長い潜伏期間
 アスベスト疾患とりわけ「中皮腫」は、20年、40年以上という長い潜伏期間を経て発症するため、息切れや胸の痛みなどの症状が出て医療機関にかかった時には、患者も診療側も、原因がアスベストであることになかなか思い至らず、正しい診断が遅れる場合が多いことが問題となります。

(2) 急がれる診断・治療の体制充実
 「中皮腫」の診断は、患者の生活歴・職歴を把握し、画像診断の精確な実施、病理組織診断の実施、他の疾患との鑑別などが求められます。また中皮腫の治療は、胸部の特殊な外科手術(胸膜剥離術)や薬物治療(シスプラチン等)、放射線療法を含む集学的治療など、高度で専門的な治療が求められます。

(3) 専門医療機関との連携の必要
 このため地域医療に携わる自治体病院だけで、これらの診断・治療をすべてカバーすることは困難で、アスベスト疾患の診断・治療体制を備えた労災病院、大学病院、専門の県立病院に紹介するなど、専門医療機関との密接な連携が求められます。自治体病院の呼吸器内科・呼吸器外科など担当診療科の医師・看護師や医療連携室スタッフの役割は重要です。

(4) 治療費・生活補償への相談体制
 またアスベスト疾患にかかる治療費や生活の補償については、労災保険による各種補償、石綿救済法による補償などが整備されていますが、これらの手続きは煩雑で、患者自身で全てを行うことは困難です。労基署等の関係機関につなぎ、必要なら患者家族会を紹介するなど十分なサポートをするため、メディカルソーシャルワーカーの役割も重要です。

4. 地域建築物の安全行政の課題

 アスベストは戦後、建材(断熱材等)として広範に使用されてきました。1970年代から1980年代にかけて、その使用量はピークに達しました。現在それらの建築物の多くが老朽化し、解体時期にかかっており、解体工事に伴うアスベストの飛散による、現場で作業する労働者や周辺住民へのアスベスト暴露の危険性が高まっています。
 アスベスト建材を含む建築物の解体工事に伴う危険性を事前に把握し、適切な工事の実施が行われるよう、各自治体の建築局の指導体制が求められます。市役所・学校・保育所など公的施設の点検も自治体の責任です。また解体工事の近隣住民の不安に充分こたえる体制も求められています。

おわりに(自治体職員の課題とは)

 自治体職員にもアスベスト公務災害は発生しています。阪神大震災のガレキ処理に当った現業職員にアスベスト疾患が発症したことが明らかになり、現在裁判がたたかわれています(明石市など)。学校現場でも、体育館の天井や壁面へのアスベスト吹き付けが原因で、教師のアスベスト疾患が発症しました。医療現場では過去、手術中に使用されたゴム手袋を使いまわしする際に使用したタルク粉末により、アスベスト疾患が発症された例が報告されています。
 自治体職員は、様々な現場でアスベスト禍の被害者に成りうる立場にあると同時に、地域の建築物に含まれるアスベスト建材にかかわる住民の安全を守る責務があり、またアスベスト疾患の患者・家族に適切な診断と治療と生活補償が行われるようサポート体制を構築することが重要です。
 このようにアスベスト被害の問題に関して、自治体職員のかかわりは多岐にわたっており、職員自身の安全、市民の安全を守るため、組合が率先して職場で研修会を開き、患者家族会の声に耳を傾けるなど、認識を深めることが求められていると考えられます。




参考文献
『アスベスト―広がる被害』大島秀利著・岩波新書2011年第1刷
『改訂版・アスベスト関連疾患早期発見・診断の手引き』岡山労災病院副院長・岸本卓巳編・一般社団法人日本労務研究会・2013年12月初版
『もはやこれまで』栗田英司著・星湖社2018年6月刊
『改訂新版・石の綿・終わらないアスベスト禍』松田毅・竹宮惠子監修・神戸大学出版会2018年7月発行
『北海道でがんとともに生きる』大島寿美子・寿郎社2017年5月(所収「18歳の体験を糧に……田中奏実……悪性胸膜中皮腫【札幌】」)