【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 臼杵市では、市民の誰もが住み慣れた地域で、安心して暮らしていけるまちづくりとして、地域福祉の推進に取り組んでいます。今回はその取り組みの中から、市民後見人を活かした地域での見守りを行っている『権利擁護』に関する取り組みと、平常時と災害時における活用を主としている『避難行動要支援者名簿と個別計画』の2つの事業の取り組みについて、これまでの経過を紹介します。



臼杵市における権利擁護と要支援者支援の取り組み
―― 誰もが安心して暮らせるまちづくりのために ――

大分県本部/臼杵市職員労働組合 大戸 敏雄

1. 権利擁護に関する取り組み

(1) 成年後見制度の概要
① 成年後見制度とは
 認知症、知的障がい、精神障がいなどの理由で判断能力の不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護サービスや施設入所に関する契約を結んだりする必要があっても、自分ではこれらのことをすることが難しい場合があります。また、判断ができずに悪徳商法などにより不利益な契約を結んでしまい、被害に遭う恐れも高いといえます。このような判断能力の不十分な方々を保護し、支援するのが成年後見制度です。
② 成年後見制度の種類
 成年後見制度は大きく分けると『法定後見制度』と『任意後見制度』の2つがあります。『法定後見制度』は、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、本人の判断能力の程度により制度を利用できます。
 「後見」は本人の判断能力がほとんどない場合、「保佐」は本人の判断能力が著しく不十分な場合、「補助」は本人の判断能力が不十分な場合にそれぞれ家庭裁判所が「後見人」、「保佐人」、「補助人」を選びます。
 『任意後見制度』は、本人が判断能力のあるうちに、公正証書を作成して任意後見契約を結び、判断能力が低下したときの事務(財産管理や療養看護に関する事務)の内容と、後見人になる人を定めておく制度です。
③ 後見人等の役割
 成年後見人等の主な任務は、「身上監護」と「財産管理」です。「身上監護」とは被後見人等の生活や、健康、療養などのお世話をすることですが、あくまで後見人の職務は、身上監護に関する「法律行為」を行うことです。これには介護労働等の事実行為(例:食事を与える、入浴の介助など)は含まれません。身上監護の主な内容としては、
・医療に関する事項(診療契約、入院契約、医療費の支払いなど)
・住居に関する事項(賃貸借契約など)
・施設の入退所等に関する事項(施設契約、施設費支払いなど)
 一方、「財産管理」については、被後見人の財産の適切な管理であり、主な内容は次のとおりです。
・通帳や印鑑の保管・管理
・不動産の維持や管理
・保険金や年金の受領 など
 被後見人等は、判断能力が十分ではないために、本人に不利益な法律行為(売買契約など)を行う可能性も考えられます。そのような場合には、被後見人の財産等を守るためにその法律行為について後見人は取り消しを行うことが出来ます。

(2) 臼杵市の状況
① 臼杵市の高齢化について
 臼杵市の高齢化率は、2015年は36.3%でありましたが、現在は37%を超えており、このまま上昇し続け、約10年後の2025年には40%を超え41.8%になるのではないかと予想されています。全国の高齢化率が2050年から2060年ぐらいにこのような状況になることを考えると、本市は全国の10年先の状態といえ、「高齢化の先進地」のような状態であるといえます。
 また、各行政区ごとに見て、どの辺の高齢化が進んでいるのかという見方をしていくと、市の中心部は2015年時点で高齢化率が約20%台になっていますが、周辺部、特に中山間地は50%を超えている所もあります。
 このような現状ですが、10年後は高齢化率が20%の地域が30%に、30%の地域が40%に変わっていくと予想されており、いずれの地域においても高齢化が進んでいる状況です。そういったなかで、どんな取り組みが必要となっているかを考えて行くことが重要となってきています。
② 今後を見据えた政策の実施へ
 以上のように高齢化が進む状況のなかで、認知症により判断能力の低下が見られる方も多くなってきています。社会福祉協議会の相談件数のうち、一般相談や生活困窮については、社会福祉協議会と市役所、地域包括支援センター等と連携・協力して解決方法を見出せていましたが、権利擁護の相談については、専門家の方々に協力をしてもらいつつ、臼杵のような地域では、専門家だけでは対応が十分にできない可能性があるため、市民同士がお互いに支え合う仕組みを作るべきだと考え、新たに成年後見制度の活用という枠立てを設けることにしました。
 また、大分県社会福祉協議会から委託されて、2009年度より日常生活自立支援事業(いわゆる安心サポート事業)を実施し、判断能力に不安のある方の通帳管理を行っていましたが、サポートを受ける件数が大幅に増加してきていました。この事業は、契約時にある程度判断能力がある方が対象ですが、契約の意思確認時には判断ができた方が、数年を経たのちには認知症状が進み、成年後見制度の活用が相当である方も増えているのが現状でした。こうした方をできるだけ速やかに後見制度につなげていくべきという機運は高まっていました。
 臼杵市は弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職の人数は十分とはいえない現状があります。そして、前述した状況を考えると成年後見制度を検討すべき人々は増加しているなかで、もはや親族後見人と専門職後見人だけで、これらの人々を支援していくことは、本市では難しい状況となっていました。
 一方、横浜市や東京都品川区等の各社会福祉協議会等では、成年後見制度について研修等で一定の知識を得た「市民後見人」を養成・活用し、法人後見実施団体として活動する新しい先駆的な取り組みにより、「市民後見人」は社会的にも評価され始めていました。特に、市民後見人は、専門職後見人の補充ではなく、身上監護面における、きめ細かい見守りなどの強みがあり、事案によっては、市民後見人のほうが適任という場合もあると言われていました。
 その流れを、大きく決定づけたのが、2012年4月1日に施行された改正老人福祉法です。同法32条2において、市町村における市民後見人育成および活用が努力義務とされました。さらに、2013年4月1日に施行された障害者総合支援法では、同法77条において、市町村が実施すべき地域生活支援事業のなかに、市民後見人育成および活用が必須事業として位置づけられました。

(3) 臼杵市における取り組み
① 市民後見人養成講座の開講
 このような機運の高まりと「市民後見人」の必要性を受け、2013年度に市民後見人として活動する際に必要となる専門的な知識が得られるように、市民後見人養成講座(応用編)を7日間42時間で開催しました。初年度は受講生18人のうち14人が修了しました。その後、2017年度末までで72人の市民後見人を養成しています。
② 市民後見センターの設立
 認知症高齢者や知的・精神障害者など判断能力が低下しても、地域で安心して暮らしていけるよう、そして成年後見制度の利用促進のために、臼杵市社会福祉協議会に「臼杵市市民後見センター」を2014年4月から設立しました。これは臼杵市が臼杵市社会福祉協議会へ委託するという形で実施しています。
 社会福祉協議会へ法人後見を委託する意義については以下のような点が挙げられます。
・社会福祉法109条に規定する地域福祉を推進することを目的とする団体であり公共的、中立性の高い組織で信頼できること
・福祉的ニーズを持つ利用者に対してまず率先して対応するという先行補完性が発揮できる
・地域で総合相談を行い、ニーズ発見機能を持っている
・行政や多様な相談機関、専門家とネットワークができている
・法人で後見を行うことで、制度への信頼性と安心感が高められる
 また、後見センターの業務内容については以下のようにまとめられます。
 (ア)成年後見人等の受任(補助・保佐・後見類型)、(イ)臼杵市市民後見人養成講座の開催、(ウ)支援員(市民後見人)のバックアップ・指導(フォローアップ研修・事例検討会)、(エ)権利擁護支援フォーラム・研修会の開催(一般市民・専門職向け)、(オ)成年後見制度の利用に関する相談及び手続支援、(カ)日常生活自立支援事業(あんしんサポート)
③ 成年後見ニーズ調査の実施
 本調査は、臼杵市に成年後見制度を必要としている方や制度の相談・活用状況について調査し、今後の成年後見活動の充実を図ることを目的に本年2月から3月にかけて実施しました。
 調査対象は、臼杵市内の「病院」、「居宅介護事業所」、「障がい者関係施設」、「高齢者関係施設」計48ヶ所の事業所・団体と、全115人の「民生・児童委員」を対象としました。
 調査内容については、「成年後見制度自体や業務内容の認知度」や「相談対応の状況」そして「ニーズの実態」といった項目について実施し、回答率については92%となりました。調査の結果は、「成年後見制度自体や業務内容の認知度」については事業所や団体についてはほとんどが「知っている」という回答が高かったが、民生・児童委員については「知らない」という回答が15%に及ぶことが分かりました。また、「ニーズ」の実態については「近い将来、後見制度が必要と思われる方が何人いるか」という問いに対して「132人」。そして、「現在、後見制度が必要と思われる方が何人いるか」という問いには「25人」という回答結果となり、臼杵市全体で150人以上となるニーズが判明しました。


2. 避難行動要支援者に係る個別計画作成への取り組み

(1) 避難行動要支援者と個別計画について
① 避難行動要支援者名簿の活用への法改正
 災害時要援護者対策については、2006年3月に国より「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」が示され、市町村にその取り組みが周知されていました。
 しかし、2011年の東日本大震災において、被災地全体の死者数のうち65歳以上の高齢者の死者数は約6割、障害者の死亡率は被災住民全体の死亡率の約2倍に上った。他方では、消防職員・消防団員の死者・行方不明者は281人、民生委員の死者・行方不明者は56人にのぼるなど、多数の支援者も犠牲となりました。
 こうした東日本大震災の教訓を踏まえ、2013年の災害対策基本法の改正において、避難行動要支援者名簿を活用した実効性のある避難支援がなされるよう、以下のことが市町村の取り組みとして規定されました。
・地域防災計画の定めるところにより、避難行動要支援者名簿を作成すること。
・災害の発生に備え、避難支援等の実施に必要な限度で、消防機関、都道府県警察、民生委員等へ名簿情報を提供すること 
 この名簿を作成することで、平常時は区長や民生・児童委員、自主防災組織等が避難行動要支援者の把握や普段からの見守り等に繋げ、災害発生時はこれらの関係機関が連携を行い、効果的な避難支援に繋げることを目的としています。
② 個別支援計画について
 災害時の避難支援等を実効性のあるものとするため、避難行動要支援者名簿の作成に合わせ、平常時から個別計画の策定を進める必要性は高いといえます。その際には、地域の特性や実情を踏まえつつ、名簿情報に基づき、市町村が個別に避難行動要支援者と具体的な打合せを行いながら、個別計画を策定することが望まれます。

(2) 臼杵市における取り組み
① 避難行動要支援者名簿の作成から配付
 このような流れを踏まえて、本市では把握している避難行動要支援者を抽出して、2017年8月に対象となる1,256人宛に「避難行動要支援者名簿の提供に関する同意書」を発送しました。
 この同意書には、本人が要支援者名簿への情報記載を【①同意する】、【②同意しない】に加えて【③施設入所中】、【④自力で避難できる】の4つの選択肢を設けました。1,192人の回答があり回収率は94%でした。それぞれの項目の割合については、①が579人(48%)、②が61人(5%)、③が192人(16%)、④が245人(20%)という結果となりました。送付した回答を踏まえて、平成30年1月に各行政区ごとに避難行動要支援者名簿を作成し、関係機関(消防、警察、区長、民生・児童委員、社会福祉協議会、自主防災組織等)に提供を行いました。
 区長と民生・児童委員については、各小学校区単位で名簿配付時に集まってもらい、名簿の活用方法や情報の適切な管理の徹底、そして2018年度からの個別支援計画作成予定の説明を行いました。
 要支援者名簿については、年に3回更新作業を行う予定としています。具体的には、死亡による名簿からの削除や新規で対象となった方については、同意書を送付して意向を伺い、新たに名簿への記載をしていくといった作業を予定しています。

② 個別支援計画の作成
 そして、個別支援計画作成についての説明会を、2018年7月から2019年2月にかけて対象となる地区(旧野津町を除く)の区長や民生・児童委員、自主防災組織の長を対象として行う予定としています。旧野津町については2019年以降に順次行う予定です。
 個別支援計画の内容としては、(ア)本人情報(氏名、住所、性別、生年月日、連絡先等)、(イ)同居家族等、(ウ)緊急時の連絡先、(エ)特記事項(普段いる場所等)、(オ)避難支援者情報(個人及び団体)、(カ)かかりつけの医療機関、(キ)避難場所等情報(地図等)、(ク)その他留意事項を記入し作成していきます。
 活用方法としては、日頃の見守り活動はもちろん、各地区で取り組んでいる避難訓練等で活用してもらいます。避難訓練については、可能な限り避難行動要支援者にも参加をしてもらうことで、自宅から避難所までの避難経路が無理なく非難できる最適なものであるか、また、避難時に要支援者に対してどのような支援が必要かといったことを、区長や民生・児童委員、自主防災組織等の支援者と協力して改正を重ねることで実際に役立つ計画書を作成していきます。


【資料】

 臼杵市は、高齢化率(65歳以上人口比率)が既に35%を超えており、人口も減少局面にあります。
この傾向は、今後も続き、数年後には高齢化率は40%の水準となり、20年後には、人口も3万人を割ることが予想されています。
高齢化率40%時代の地域づくりを行うとともに、人口減少に少しでも歯止めをかける取り組みが必要です。
 これは市内を行政区ごとに分け、高齢化率が高いほど濃くなるように着色をした図です。市の中心部は高齢化率が約20%台になっていますが、周辺部、特に中山間地は50%を超えている所もあります。
 これが現状ですが、数年後は中心部を含むほぼすべての各行政区において、高齢化率が上昇することが予想されています。

市民後見人養成講座受講者数
・2014年度 定員20人(14人修了) 受講時間53時間
・2015年度 定員15人(14人修了) 受講時間51.6時間
・2016年度 定員15人(14人修了) 受講時間51.1時間
・2017年度 定員15人(14人修了) 受講時間43.4時間
・2018年度 定員25人(22人受講中)受講時間40.6時間(予定)
臼杵市における「避難行動要支援者」は下記に該当する者
① 要介護認定3~5までを受けているもの
② 身体障害者手帳1級及び2級
③ 療育手帳Aを保持する知的障がい者
④ 精神障害者保健福祉手帳1級及び2級を所持する者で単身世帯の者
⑤ 難病患者(大分県から特定疾患医療受給者証の交付を受けている者)
⑥ 前各号に掲げるもののほか、自治会、民生・児童委員が支援を必要とする者