【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 大分県地方自治研究センター・社会保障専門部会が行った「地域の困りごとアンケート」「自治体職員困りごとアンケート」結果から、住民(当事者)と自治体職員の困りごと解決に向けた「協働」による新たな仕組みづくりについて、宇佐市民自治研究センターの取り組みから考察する。



ともにつくる地域福祉


大分県本部/大分県地方自治研究センター・社会保障専門部会 内尾 和弘

1. はじめに

 地方分権の流れか、企業の生き残り競争で生じた社会的矛盾の対処策か、住民の一番身近な基礎自治体である新たな仕事が、介護保険法、障害者自立支援法、自殺予防対策法、生活困窮者自立支援法と矢継早にその受け皿となった職場ではどうなっているだろう。
 大分県自治研センター「社会保障専門部会」が2014年2月に行った県下の福祉職場(福祉6法関係)職員の困りごとアンケートでは、1位「仕事量が多い」43.2%、2位「解決困難な仕事がある」34.7%、職場毎では「子育て関係」や「障害者福祉関係」職場では半数以上の人が「仕事量が多い」と回答、生活保護関係では「仕事量が多い」は31.9%だが、「解決困難な仕事がある」と回答した人は62.5%だった。


2. 住民と自治体職員の困りごとのミスマッチ

 自治体合併、民営化等々で生じた人員をそれらの職場に配置したが、多数は職員定数を減らし、増え続ける社会保障費の財源にあてられ、仕事量の増大に対しての増員とはならなかった。そのため人員不足からくる多忙化と社会的矛盾の激化や少子高齢化も加わり、生じる住民の困りごとの多様化の解決が基礎自治体に求められた。
 しかし、経験したことのない仕事も多くノウハウの蓄積もなく、職員には大きなとまどいと過大なストレスを伴っての毎日であった。
住民の困りごとの多様化とは
 県下(1自治体除く)で2012・2013年に実施した住民の困りごとアンケートでは
 「高齢化で元気がない」「農業の跡継ぎがいない」「近くに店がない」「仕事がない」「自治区の役員のなり手がいない」「公共交通機関の不便さ」「学校統合」「給料が上がらない」「子どもの病気、休日の保育」「高齢者の一人暮らし」「下排水による公共水域の汚染」「歩道がない」「移動手段」「騒音・振動」「災害など恐怖」「救急医療」「バスの時刻」「病院がない」「医療費が高い」「老後が不安」「子育て」「イノシシ・シカの被害」「買い物」「年金が年々下がる」「山林の手入れ」「荒地が増えている」「空き家が増えている」「家を建てる土地がない」「若い人が少ない」「子どもが少ない」「皮膚科がない」「近所付き合いが昔のように必要」「子どもが病気になった時に見る人がいない」「小児科がない」「後継者不足」「母の認知症」……
 まだまだ続く。どれ1つとっても大切なことである。
 多忙化とストレスのかかる職場の中でも職員は、「解決ができない問題」についても何とかしようとしている。
 困りごとの解決のために制度・政策を超えた対応も検討する 28.3%
        〃        の運用を緩やかにする  23.4%
 困りごとを職員個々で解決していくことは、思いはあってもなかなかできることではない。解決できにくい原因の一つに自治体の福祉の職場がないか、あったとしても少数さらに民営化されなくなってしまったからである。私が働いていた自治体でも、障害福祉の事業所には全て民間、高齢者福祉では特養と養護老人ホームが民営化され全て民間になった。一般職の人が障害福祉に来た時に知らない・分からないということが窓口に来る方との問題を生じる原因となっている。市民からみたら「よく聞いてもらえていない」という。こちらはわからないので聞くと怖いからとガードしてしまう。お互い困っていることを言えない、聞けないというところが困りごとかなと思う。

3. 「困りごと」を解決すための宇佐市の仕組みづくり

 当事者(家族)と地域との協働で、困りごとを何とかしようとする職員の思いをどう実現していくか。
 一番困りごとを知っていて解決してほしいと思っている人は当事者である。障害のある人、家族、住民である。その人達を知らずに又は抜きには困りごとを良くしていくことはできないはずだが、当事者である人たちの所に足を運び、困りごとを知り、思いを知り、そして一緒にその解決にむけて協働していく。答えは簡単だが実行は困難である。
 2005年障害福祉施策の大転換であった障害者自立法が成立、2006年10月本格施行で職場はパニックになった。
 当事者・家族・福祉事務所とのつながりも薄く、新たな制度の解釈やそれをどう生かしていくかも見えなかったのが実態であった。
 私が選択したのはコンサルに頼むのでなく、新たな法・制度で戸惑っていた当事者・家族・事業所の方々に足を運び、いっしょに考えてほしいと助けを求めることであった。教育、療育、就労、地域生活、2ケ月毎夜の7時~9時に集まってもらい、それぞれの困りごとや思いを出し合い、障がいのある人・家族の「生きづらさ」の実態を知り、支援者の戸惑いを知り、その上で法・制度をどう活用していくのかの方向を探り、障害者福祉計画と障害者計画を作成した。この取り組みは、次のような成果につながった。
 障害のある人・家族からは、「障害者自立支援法は全く私たちの声を聞くこともなくつくられたが、市は初めて私たちの困りごとや思いを聞いてくれてその声を生かそうとしてくれた」
 事業所からは
 「法は今までなかった就労や利用者負担、それに大幅な減収を伴うもので、一事業所ではどうしていいかわからなかった」
 「事業所を超えた集まりがあったことと、これから市を含めいっしょに考えていこうとなったことで少しは安心した」
 市では
 「当事者・家族・事業所とつながったことがこれから一緒に考えてもらえ、実践していくことができるという手ごたえを感じることができた」

 2年目の職員として自立支援協議会の中に「ともに生きる」専門部会(療育・教育・地域生活・地域移行)を立ち上げ、困りごとの思いを形にしていけた。何よりも部会で出た一人の意見を聞いただけにせず、制度化していくことに心掛けた。
 「事業所に行く以外は家にいて家族と過ごしている。家以外で家族以外と交流する場がほしい」との意見から、余暇の過ごし方アンケートを実施し、絵手紙、音楽、将棋、料理教室も実施した。また、余暇を過ごすのに一人ではできない、移動手段もない人のために、運転介助ボランティアがついた10人乗り(車椅子2台、1台)の「かけはし号」もできた。

4. 拡がる協働のつながり~宇佐市民自治研センターの取り組み~

 「工賃が安くて働きがいがない」との当事者の声から、事業所を超えた共同受注協議会をつくり、工賃の底上げをはかろうともした。その他、「支援学校のスクールバス運行」「5歳児発達相談会」「バリアフリー検討会」「働く者、療育の場見学会」「就労カフェ」「官公需受注協議会」「ピアサポートフェスティバル」等々、部会でつくり上げ、現在は宇佐市民自治研センターが部会事務局を担当し、一般市民の方も多く参加している。

 そして2017年度で第11回目となる「共に生きる共生社会をめざす宇佐市民集会」は、宇佐市自立支援協議会が主催し事務局を宇佐市民自治研センターが担い、毎年500人の当事者・家族、事業所、市民が参加し、実践体験報告や講演等を継続している。講演会に参加した、市民、当事者、家族の市民集会参加者アンケートでは、
 「今まで施設に入っていたので、集会には参加したことがなかった。良かった」
 「これからも参加したいと思う」
 「地域における人と人とのつながりを基本にしたまちづくりに未来を感じることができた」
 「とても心に響く言葉がたくさんあり、つい涙ぐんでしまった。同じ気持ちの人たちってなかなかいないし、相談する相手もいない。そんな気持ちに支援者の方々の支えがとても嬉しく思えた」等の声が寄せられた。

5. おわりに

 自治体職員の皆さんは仕事の枠があって、職場の枠があって、枠の中の仕事をこなすことで大変で、難しい問題があると思う。そればかりやっていると落ち込むことが深刻になることもあると思うが、本来の仕事は地域全体を考えてこれから地域をどうつくっていくか、そのことを考えるのが自治体職員の役割だと思う。
 住民と一緒になって取り組んでいただきたい。協働はそのためのごく当然の手段だと思う。
 ~「少子高齢者社会」の希望をつくるシンポジストより~
 「一緒に困りごとや思いを共有し、困りごとを解決していこうとするつながりが出来ることで仕事が苦痛でなくなり楽になり、また喜びにもかわるのです」