【要請レポート】

第37回土佐自治研集会
第8分科会 市民とともに「憲法」と「平和」を考える

 今、石垣島は陸上自衛隊配備問題に揺れている。防衛は国の専権事項として、反対住民の意見をかわし続ける市長や議員。辺野古新基地建設では、沖縄県知事が反対を表明し、石垣島とは違った構図がある。ここから見える国と地方の関係、住民の声をどのように国に届けるのか、地方自治体は何をすればいいのか。地方自治の本質とも言える問題を考える。



島の未来は市民が決める
―― 石垣島の自衛隊配備問題 ――

沖縄県本部/石垣市職員労働組合 宮里  勝

1. これまでの経過概要

(1) 防衛大綱及び中期防衛力整備計画
 政府は、2013(平成25)年12月に「国家安全保障戦略」、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(25大綱)及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」(中期防)を閣議決定した。
 25大綱は、従来の「動的防衛力」、「強靱な機動的防衛力」に代わり、陸海空3自衛隊を一体的に運用する「統合機動防衛力」構想を打ち出したことが特徴的とされている。これは、東シナ海での軍事行動を優先し、島嶼防衛を重点とした防衛計画で、海上保安部隊の衝突から第一次現地部隊の衝突、第二次後方部隊の本格的戦闘が想定されている。
 再び沖縄を戦場と想定し、自衛隊の踏み台にした計画と言え、辺野古沖新基地もこうした背景で進められていることは疑いない。
 中期防では、25大綱で掲げる防衛力の水準をおおむね10年で達成するために策定され、当初5年間に達成すべき計画とされている。
 具体的には、「統合機動防衛力」を構築するため、特に警戒監視能力、情報機能、輸送能力及び指揮統制・情報通信能力のほか、島嶼部に対する攻撃への対応、弾道ミサイル攻撃への対応、宇宙空間及びサイバー空間における対応などのための機能・能力を重視するとの方針の下に主要事業を掲げている。
 この中で、陸上自衛隊の大規模改編により、南西島嶼部への対応能力向上が掲げられ、既に与那国島(与那国町)へのレーダー基地配備は完了し、宮古島(宮古島市)へのミサイル部隊配備も施設整備が進められている。

(2) 石垣島配備の経過と現状
① 石垣島が陸自配備候補地であることが判明
 2015年3月防衛省が民間委託した奄美・宮古・石垣の配備のための調査結果が情報開示された。大部分が黒塗りであった調査結果から石垣市の7か所の候補地を市民団体等が解明し、公表した。
 同年5月11日には、防衛副大臣が石垣市長に対し、調査協力の要請を行うなど、配備に向けた動きが加速しはじめた。
 同時に、配備反対の取り組みも具体化していく。同年8月20日に労働組合や市民団体を中心に「石垣島への自衛隊配備を止める住民の会」(以下「止める会」)を結成し、「自衛隊配備を止めるため、保革の立場を問わず、基地のない、安心して暮らせる、自然・文化豊かな島を残すために力をあわせよう。」と、個人加盟の運動体としてスタートした。
 「止める会」は、配備撤回署名、ビラ配布や講演会、学習会の開催、街頭アピール、ノボリ、ステッカー、ホームページ、フェイスブックなどを作成し世論形成に取り組み、同時に、政府、防衛局、市長などへの要請行動、議会への請願、宮古・与那国などとの連携を進めた。配備撤回を求める署名は全国から大きな支援もあり2017年5月30日に13,650筆(第3次集約)を提出し、2018年5月28日第4次分460筆を提出し累計で46,093筆となっている。
② 配備予定地の地元公民館も反対
 2015年11月26日に、防衛省が候補地として「平得大俣(ひらえおおまた)の東側にある市有地及びその周辺」であると市に示し、調査協力を正式要請したことで、候補地周辺の嵩田(たけだ)、開南(かいなん)、於茂登(おもと)の3公民館(地域の自治組織)が、配備反対に動き出した。2016年1月15日、3地区公民館長は、防衛省に対し抗議文を、市議会へは配備撤回を求める陳情や請願を提出し、「止める会」も連携して運動に取り組んだ。
 2016年6月市議会定例会で「平得大俣への陸自配備推進を求める」請願が与党多数の市議会で否決、「配備反対」を求める請願が継続審議となった。ところが、与党は9月定例会で「自衛隊配備を求める決議」を提案、可決。これに対抗し、「止める会」を中心とした実行委員会を直ちに結成し、同月29日に「自衛隊配備を求める決議」に抗議するデモと市民集会を開催し、延べ200人が結集し怒りの声をあげた。この実行委員会を軸に「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」(以下「市民連絡会」)が、「止める会」、3公民館、労組、平和団体・市民団体、野党市議、個人で組織され、運動が広がった。10月には平得大俣に近接する川原公民館が陸自配備反対を決議。12月に市民連絡会に加入した。
③ 配備ありきの政府・防衛省、市長
 防衛省は、2016年4月と6月に住民説明会を開催。しかし、配備によるリスクは明らかにされず、市民の疑問や不安には答えていません。
 一方、市長はこの間、「情報をオープンにし、市民、議会の議論を踏まえて判断する」と記者会見や議会での答弁を繰り返す姿勢に終始し、自らの意志・立場を明確にすることはなかった。ところが2016年12月議会で野党議員の質疑に対する「4公民館と会って話を聞く」という答弁を反故にし、12月26日、突然「配備手続きを了承する」と表明し、事実上の受け入れを表明した。(しかし、その後も「受け入れ表明ではなく、事務的な手続きの容認である」と詭弁を弄し続ける。)
 これに対し、市民連絡会は、直ちに抗議し、2017年1月29日「これでいいのか? ミサイル基地受け入れ~住民無視の市政をみんなで考えよう~」市民大集会を開催(約800人参加)し、大衆運動の取り組みをさらに強めた。
 防衛省は市長の表明を受け、2017年度予算で用地測量や土質調査、環境調査、基本設計などの経費約7億円を前倒しで確保し、2017年5月17日配置図案を提示し、6月11日に3回目の住民説明会を開催、住民無視の既成事実を積み重ねてきた。
④ 島の未来は市民が決める
 2017年8月末の防衛省の概算要求を睨み、野党と「市民連絡会」は協議を重ね、6月定例市議会において、自衛隊配備の賛否を問う住民投票条例を提案した。与党会派14人、野党5人、中立2人という市議会勢力図となっていたが、与党内部の思惑から住民投票が可決される可能性もあった。残念ながら、自民党本部や国会議員からの圧力があり否決され、市長も「国防は、国の専権事項。住民投票はそぐわない」という対応に終始した。
 住民投票条例案否決を受け、「市民連絡会」は、いかにして住民の意思を表明し、既成事実の積み重ねに対抗するかを議論の末、「島のどこにもミサイル基地いらない、平得大俣の市有地をミサイル基地に提供しないことを求める」署名運動の取り組みを決定した。7月22日「みんなで決めよう 島の未来」市民大集会の開催を皮切りに、署名運動をスタートさせた。8月には、臨時事務所を開設、2種類のビラと署名用紙のセットを約2万戸に配布するなど取り組んだ結果、9月1日時点での第一次集約では11,013筆が集まった。
 自ら署名する目的や、集めた署名用紙の提出など、事務所に足を運ぶ市民が300人を超えたことは、自らの立場を明確にすることを躊躇する人が多いと言われる島社会においても、自衛隊配備問題が浸透し、島の未来は市民が決めるという思いを、多くの市民が抱き、行動を起こしたことを示している。9月19日には、市長宛へ14,022筆を提出するに至った。
 この署名に対し、市長は「重く受け止める」としながら、正確な署名数の把握を理由に重複チェック、選挙人名簿や住民基本台帳との照合を行おうとした。これは、表現の自由や参政権、プライバシーの侵害の問題を孕んでおり、公権力を持つ市長の市民に対する恫喝とも言える暴挙だ。
 この問題に関し、12月定例市議会では、野党議員の追及に誠実な答弁で応じないばかりか、「選挙人名簿に記載されていない署名が多数ある」等の論点ずらしによる強弁を繰り返し、署名により示された市民の思いを踏みにじった。
 そのような状況下のまま、2018年3月の市長選挙を迎えることとなった。
⑤ 石垣市長選挙2018年
 2018年3月11日に執行された石垣市長選挙では、自衛隊配備を容認する現職・中山義隆氏が三選を果たす結果となった。
 この選挙結果について各候補者の自衛隊配備に対する主張から分析すると下記のとおりとなる。
 (有効投票数 28,220票)
  中山義隆 13,822票(48.98%) ― 理解する
  宮良 操  9,526票(33.76%) ― 島のどこにも配備反対
  砂川利勝  4,872票(17.26%) ― 平得大俣白紙撤回・住民投票の実施
 敗れたものの、宮良氏、砂川氏の合計得票数が現職・中山氏を上回ったことから、民意は平得大俣への配備反対を示した。
 選挙後の3月定例市議会は、22議席のうち反市長の勢力が11人(市長選で現職市長に反旗を翻し砂川氏を支持した4人の与党・保守系市議、中立2人、野党5人)、議長を除く与党10人(うち公明2人は判断先送り)という状況になり、市有地の処分や受け入れについて市長は判断を示すことができなかった。
⑥ 着々と進められる陸自配備
 市民連絡会は、2017年5月28日に沖縄防衛局に対し、入札公告及び配備に向けての諸手続きの中止撤回を求めるなどしてきたが、防衛省は顧みることなく、2018年4月27日に調査のための入札公告を行う旨を石垣市に伝えた。
 政府は2018年度予算で石垣市への整備関連費用として用地取得、敷地造成など136億円を計上した。内訳は(ア)駐屯地整備関連(平得大俣地区)で約123億円(用地取得費、設計費、調査費、敷地造成費)、(イ)宿舎整備関連(場所は未定)で約13億円(用地取得費、設計費、調査費)となっている。一方、佐賀空港へのオスプレイ配備に伴う整備費は地元の合意が見通せず14億円から3,000万円に減額している。
⑦ 市長が唐突に受け入れを表明
 2018年7月18日、石垣市長は毎月定例で開催している八重山記者クラブとの懇談会終了後に唐突に会見を開催し、自衛隊受け入れを表明した。事前の通告もなく、突然の会見となったことに対し、同記者クラブも市民の知る権利をないがしろにする市長の姿勢を強く非難する声明を発表している。
 また、市民連絡会も受け入れ表明を受け、翌日19日に市役所前で抗議集会を開催し、市長への面談を求めたが、市長がこれを強く拒否するなど、配備問題は更に混迷を深めている。
⑧ 今後の展望
 2018年9月に、石垣市議会議員選挙があるため、その結果が政治的に大きな影響を及ぼす。また、「島の未来は市民が決める」を要に大衆運動を更に強化していくことが求められている。
 この配備問題を政治又はイデオロギーの対立として位置づけることなく、地方自治の課題として考え、取り組みを進めることがこれまで以上に求められている。

2. 国と地方の関係

(1) 地方自治法

第一条 この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。
第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。
2 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。

(2) 国の専管(専権)事項
 米軍基地の問題に触れると、必ずと言っていいほど登場するのは「外交、国防に関する問題は、国の専管事項であり地方自治体は関わることができない」という論理だ。国の「専管事項」論は、政府、また訴訟における国側が常用しているものであり、極端な形で用いられた例として、辺野古新基地建設のための公有水面埋立てにつき翁長雄志沖縄県知事のした承認取消しに対して農水大臣が求めた是正指示をめぐる違法確認訴訟において、2016年9月16日に福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長) が下した判決にもみられる。
 また、今日では地方自治体自身も無批判に用いるほど広く流布したものともなっている。

(3) 地方自治体の役割
 しかし、はたしてこの論理は無条件に成り立ちうるものであるのか、またそれは、地方自治体が国防事務に関与することを一切遮断する論理なのか。
 日本国憲法は、個別の事務についての国・地方への配分を明示していない。しかし、1999年改正地方自治法は、国と地方自治体との関係を上下・主従から対等・協力の関係に改め、両者の役割分担において同法第一条の二第二項のとおりとされた。それは、地方自治体が「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う」(同条一項) という「趣旨を達成するため」のものであることが明記されたのである。
 このように規定された国の役割から、「国防や外交の事務が国に排他的に専管されるという解釈を導き出すことはできない。」と指摘し、「それらの事務につき、地方自治体は、住民福祉の増進のための自らの役割を当然に果たすことになる。」とする憲法学者や専門家の意見は多く存在する。

(4) 地方はどう向き合うか
 地方自治体は、住民の権利の実現のために、それに資する施策を自ら講じると同時に、国に対しても要求し、また、それに反する国の施策についてはそれを改めさせるために抵抗することこそ、本来の使命である。日本国憲法や地方自治法の定める国と地方の役割分担の原則は、決して国防・外交に関する地方自治体の判断を否定したものではないのである。
 そこから見えてくる、地方自治体の首長や議会議員、事務に携わる地方公務員の担う役割は、果てしなく大きいことは言うまでもない。

3. 地方自治は平和を創造できるか

 現在、憲法を変えようとする動きが顕著にみられる。特に自民党の改憲草案では、地方の役割や地方住民の主権を後退させる文言がちりばめられている。
 この国の主権は国民一人一人にある。その国民一人一人は、地方の市民、住民である。
 地方自治の事務を担う地方公務員は、主権者に最も身近な行政機関職員だ。その私達が、住民福祉の向上を追求することは、法律にも定められた責務だ。積極的に地方自治体が国との関係を変えていくことで、住民福祉の向上を実現していく必要がある。
 地方自治は平和を創造できる。今、努力次第では実現できる。
 しかし、現状の政治状況下では、地方自治の権能は徹底的に奪われていくだろう。
 私達は正念場を迎えていることを再確認し、理想とする地方自治の姿を追い求めていく決意を固めなければならないのではないだろうか。




参考:「地方自治体の『平和のための事務』をめぐる法と政策」、「沖縄における地方自治体の住民保護条例制定の課題(試論)」(小林武)

陸自配備関連資料