【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 近年、核家族化やひとり親、共働き家庭等の増加により、児童館を利用する子どもが増えています。今の子どもたちの生活から3つの間 時間・空間・仲間 が欠けてしまった。といわれていますが、子どもたちが健やかに育つために、児童館は何ができるのか、子育て支援サービスとしてどんなことが必要なのか、社会のニーズや現状をふまえ、子育て支援について考察しました。



釧路市児童館の現状と課題


北海道本部/自治労くしろ児童厚生員ユニオン 中谷 公子

1. はじめに

(1) 釧路市の児童館と放課後児童クラブについて
 釧路市では地域の児童が「遊び」を通じて社会性や協調性を培い、情操を豊かにし、心身の健康増進を図ることを目的として、21の児童館、2つの放課後児童クラブを設置し運営しています。児童館では児童厚生員により遊びの指導が計画的に行われ、母親クラブ等の地域活動を通じ、児童の健全育成に関する総合的活動を行い、放課後児童クラブでは、保護者が勤務などにより家庭にいない小学1年生から6年生までの児童を対象として、授業終了後に児童館を利用して遊びなどを行う放課後健全育成事業を実施し、釧路市の児童館は放課後児童クラブを併設しています。

(2) 釧路市の人口と児童館利用状況
 社会減少と自然減少の常態化や若年層の転出超過と合計特殊出生率の低下による出生数の減少により、人口が減少、児童館を利用する年代も減少していますが、児童館の利用人数は増えています。核家族の増加、はたらく母親の増加、ひとり親家庭の増加、ひとりっ子家庭の増加、事故・犯罪に対する親の不安感の高まりから増えているものと考えられます。



(3) 児童館を利用する児童の遊びの環境・安全について
 子ども・子育て支援新制度スタートから、一人当たり1.65m2の面積を確保する。という新基準がもうけられましたが、1.65m2では遊びのスペースを確保することがむずかしく、利用人数が多い児童館では子どもたちがひしめきあって遊んでいる状況にあり、子ども同士のトラブルが増えています。そもそも、児童館の利用人数が増えている中、児童館の建物は既存のままなのですから狭い中で遊んでいることは容易に想像できます。又、平均築年数は27年(2013年調べ)であるため耐震の部分や子どもたちに目配りしづらい古いつくりの建物が大半であるという部分から、現場の児童厚生員は安全の確保に不安を感じています。そして、児童厚生員の処遇が悪いために人材が不足し、いつも欠員をかかえています。そのため、子どもたちの安全の確保のために、子どもたちに遊びの制限をかけることをせざるをえない状況にあります。

施設名称 延面積(m2 築年数(年) 耐震状況(点) 面積あたり1日
平均利用者数(人/日・m2
松浦児童館 194.4 47 5 0.24
白樺児童館 331.7 40 5 0.11
治水児童館 213.8 39 5 0.09
春日児童館 254.9 38 5 0.18
緑ヶ岡児童館 274 36 5 0.16
光陽児童館 274 36 5 0.19
武佐児童センター 342.6 4 5 0.16
鳥取西児童センター 346 34 5 0.21
大楽毛児童センター 350.3 33 5 0.14
桜ヶ岡児童センター 371.5 31 3 0.07
米町児童センター 402.3 28 5 0.13
愛国児童センター 369.6 27 5 0.22
昭和児童センター 379 27 5 0.12
美原児童センター 369.6 25 5 0.14
第2武佐児童センター 369.4 23 5 0.08
鶴ヶ岱児童センター 381.7 22 5 0.09
鶴野児童センター 369.8 21 5 0.17
芦野児童センター 370 19 5 0.18
望洋児童センター 368.1 18 5 0.14
昭和中央児童センター 440.7 6 5 0.14

2. 児童館の役割とは

(1) 児童館の機能と保護者の要望、求められる施設の質
 2013年に調査された釧路市子育て支援に関するニーズ調査では、放課後の過ごし方について「子どもの遊び・体験の場や機会の充実」(屋内で遊べる施設の整備や充実を求める意見)「放課後児童クラブの充実」(利用時間帯の拡大)(サービスの質への不満等に関する意見)等がでています。では、児童館の機能や求められる施設の質とはどのようなものでしょうか。児童館の機能は大きく6つ、施設の質は大きく4つに分けられます。
① 児童館の機能    
・保護者の就労を支える   ・子どものセーフティネット
 共働き、ひとり親    貧困・虐待懸念
・子どもの遊び(教育)と生活の場   ・保護者の就労を支える支援
・多様な育ちを支える    家庭とともに育てる
 障害・発達障害・アレルギー   ・地域の在宅子育て家庭の支援
     家庭を孤立させない
     
② 施設の質    
 設備 部屋のゆとり   人材  職員の資質
    近隣の公園等の環境   保護者 保育への理解・協力
 教材 遊具・玩具・書籍等表現の道具や素材    

(2) 児童館での遊びと学びについて
 児童館でのメインの活動は遊びです。子どもにとって遊びとは生活のすべてといわれています。小学生には学校での勉強(学び)もありますが、遊びと学びは同じもので、子どもが自ら学ぶようになる力は楽しいことに熱中した経験(遊び)から培われます。熱中した経験から集中力を身につけ、感じる心を育てます。例えば、けん玉の上手なおともだちがいたとします。「すごいなあ……」と感動がきっかけで、そこから自分も上手になりたいという向上心・探究心(感性)を身につけていきます。感性に基づき、じゃあこれをやってみようという自主性や、こんなことを考えてみたよという創造力も磨かれていきます。そして、さまざまな経験のなかで他人から認められ、それらが子どもの自信になっていきます。自信のある子どもは挑戦する力を持ち、自分の力で進んでいきます。子どもたちが楽しいと感じることや、そのような熱中できることがある場が児童館であり、子どもたちが育ちあう場という大切な役割を担っています。

(3) 保護者との関わり
 近年、子どもを産み育てるという家族の機能の低下がいわれています。核家族化が進み、子育てのさまざまなことを相談する人がおらず、子育てのモデルが育児雑誌だったりします。本当に低下したのかと考え直さなければならないところではありますが、低下しているとみるならば、支援する社会の基盤が必要で、そこに保育士が関わって欲しいという社会的ニーズもあります。ひとり親家庭、特別な配慮を必要とする子どもを持つ家庭、子どもへの不適切な関わり(児童虐待、保護者への支援)等の支援をすることも児童館の大切な役割です。

3. 課 題

(1) 面積基準
 面積基準は最低基準であり、子どもの遊びや育ちを支えるためには改善が必要です。ひとりあたり1.65m2では、健全育成を目的とした遊びのスペースとしては狭すぎます。

(2) 人材確保、人材育成
 釧路市の児童館での大きな課題です。現場の人員が足りなければ子どもの安全を確保できません。又、適切な保育を行うためには、保育者のゆとり(手がかけられる)、専門性(子どもの身体・心理・発達への理解)、経験(適切な判断・対応ができる)ということが必要ですが、人材育成が難しければ、そのしわよせが保育の質にも及びます。

(3) 配慮を必要とする子どもへの支援
 子どもの状態や課題等に応じて個別的な対応を行えるよう、配慮が必要な子どもの保育を行うための知識や技術を有した保育士等の配置、専門的な支援体制、保護者に対する相談支援が行えるよう地域での協働体制を整備する必要があります。

(4) 保育士の資質向上を具体化する処遇改善、研修の拡充
 働きやすい環境、働き続けられる職場づくりを図るべきです。

4. まとめ

 児童館利用者が増えているということは、それだけの人が家庭外に子どもを預けるのですから、その家庭外の養育・教育の質や施設の質が低ければ、日本人全体の質が低くなります。事業者は児童福祉への理解を理念にもち、施設設備や教材への投資、職員の育成や職員の適正な処遇を整えるべきです。保育者はただの子守ではなく専門性を持った大切な仕事であるということを訴えていかなければいけません。行政の施策を非難するのではなく、協力するために子どもの最善の利益が何かを訴えていくことが重要です。