【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 文化、自然、特産品や郷土芸能といった、その地域独自の素晴らしさを失わないためにも、町民の積極的・自発的な活動、そして未来ある子どもたちへ想いをつないでいくことが重要である。しかし、少子高齢化・若年層の町外転出の影響により地域の魅力を内外へ発信するチカラが衰退している。年々衰退していく状況の中で、町全体でのコミュニティの形成、そして自治体としての取り組みやあり方を考え、地域を再発見することについて提言する。



郷土芸能を通じたコミュニティのあり方


青森県本部/横浜町職員組合 橋本慎太郎

1. はじめに

 日本には四季があり、その季節ごとに気候が変わり、草木が芽吹き、旬の食材に恵まれ、というように様々なことからその時々の瞬間を味わうことができる。その中には、私たちが生まれる更に前からある伝統芸能も含まれており、幼少期から格式高く、それでいながら豪快で楽しげな、いわゆる"お祭り"といったものに触れる機会が多くあった。
 しかしながら、近年の少子高齢化や平成の大合併といった人口減少や地域性の希薄が生じ、生まれ育った土地に誇りや親しみを持つ人たちが減っている。結果として、地方は転出者が増え、農林業・観光そして郷土芸能の衰退が顕著になっている。
 その一方で"お祭り"がもつチカラとは、地域において年齢を超えて、全員が想いを共有し地域の絆を強固にすることのできるものである。伝統的な郷土芸能に愛情、そして誇りを持っている住民も少なくない。
 近年では、活動する住民がいなくなり、活動が無くなってしまった町内会も、自治体の支援、自治体職員の積極的な参加やその地区に住む大人たちが地域の子どもたちを交えながら、伝統を繋ぎ、生まれ育った場所を誇れるように再び活動を行っている。
 ここでは、地域の住民だけでなく、町全体で郷土芸能を通じて、地元独自の魅力の再発見から子どもたちが生まれ育った場所に想いと誇りを持てるようなコミュニティの形成に向けた取り組みについて報告する。

2. これまでの経緯

 私の生まれである青森県横浜町は人口が5,000人を下回り、主な産業は、農林漁業といった典型的な田舎である。町の観光イベント自体も多くはないが、晩夏には八幡神社例大祭と言われる大きな祭りがある。前夜祭では平安時代から続く神社での神事のあとに、社殿前の舞台で神楽舞や手踊りなどの郷土芸能が披露され、祭り当日の神興渡興では、神輿を中心に前後に神楽団が並んで、にぎやかな笛、太鼓、鉦の音とともに町を練り歩く。神社に帰る際には神楽団が一斉に祈祷舞を行い、故郷の泰平を祈る。私自身、実家が農業を営んでいたこともあり、五穀豊穣をお祈りするものとしてだけでなく、友人と遊びながら楽しむもの、として馴染みがあった。小さい子からお年を召した方まで沿道に大勢の住民が並び、参加する側は同じ地区や他の地区の人と触れ合う重要なコミュニティの場となっていた。しかし、小中学校を地元で過ごし、地元を離れ町外で学んだ後に、地元に戻ってきたときには、私の育った新丁地区は祭りに参加していなかった。伝統芸能が継承されていなかったのである。 
 新丁地区を例に、衰退してしまった要因として、3つを挙げそれらについて考察した。
① 過疎化や高齢化が進む中で、参加していた方が体調不良で参加できない、技術を継承することが難しい状況に陥ったこと。今まで、率先して地域をまとめ、活動の推進に尽力している人が数人かつ高齢だったこともあり、協力できない状況になった時に、誰が、どのように、どうやって、という部分で具体的な行動に移すことができなかった。
② 郷土芸能に対する熱意やコミュニティ形成への意欲低下に伴い、参加者が少なくなり、消極的な活動になったこと。それぞれの仕事がある中で、多忙や自分の時間を確保したいという理由から、練習時間の捻出・確保が難しくなった。
③ 郷土芸能に用いる楽器や衣装等の必要備品が老朽化し、思うように活動ができないこと。会員数の減少に伴う、会費等の自主財源の減により、活動を維持することが難しくなり、子どもたちを含めた住民に対しての郷土芸能の意義や重要性を伝える場の喪失となった。
 以上のことから、衰退の一途を辿ったところであったが、祭りや郷土芸能の体験は、郷土愛を育み、地域の絆を認識する貴重な機会と位置づけ、自治体だけの取り組みとせず、その地区に住む住民の活発な取り組みを支援していくこととした。

3. 地域の取り組み

 技術継承の部分について、その地区に住む役場職員が主導となり、参加していた当時の映像等を貸借し、練習を行った。併せて、他の地区の演奏者から演奏方法を指導してもらう取り組みを行った。映像での練習も効果的であったが、それ以上に指導者から直接不明な部分を聞くことにより、理解の促進だけでなく、郷土芸能に対する考え方や今後のあり方について改めてそれぞれの郷土への想いを感じることができた。この取り組みを1年以上継続して行い、演奏技術を徐々に確立させていくことができ、衰退する前の形を取り戻すことができた。
 これらの活動を行う上で重視したのは、一人だけが活動するのではなく、郷土芸能を保存し次の世代に継承する想いを持った有志を募り、集まった仲間全員で活動することであった。その場に集まり会話をすることにより、同じ目標に向かって頑張る意思を共有することができたことや都合がつかず、活動へ全員の参加が困難な状況でも、周りがサポートする環境が構築された。そして、5年間活動がなかった新丁地区において、再度、八幡神社例大祭に参加するまでとなった。(写真1、2

 
写真1 新丁神楽会集合写真  

写真2 八幡例大祭時の様子

 また、子どもたちにも定期的に練習する機会を設ける取り組みを行い、より郷土芸能を身近なものに感じてもらうことができた。懐かしさや真新しさを感じながらも、新しいことに挑戦する気持ちや、同年代の子どもたち同士のコミュニケーションの一端を担うものとなった。この取り組みについても、子どもを持つ親に対して、有志や役場職員が地域の振興のうえで重要な役割である子どもたちに、町の文化と歴史を引き継いでいくことの重要性を訴えた結果であった。毎年、練習や声掛け等の地道な活動を続けていくことで地域一体となったコミュニティが形成されることに繋がった。
 この取り組みが他の地区へも広がり、お互いが時に切磋琢磨し、時に協力し合いながら、町おこしの一助を担っていると考える。町の八幡神社例大祭に参加する人も、子どもたちを含めた若年層が増加し、活気を取り戻しつつあり、その時期に帰省してくる方も増えてきている。また現在では、新たな取り組みとして子どもたちだけの神楽舞の披露や町が主催するイベントへの参加、老人ホーム等の慰労訪問、そして、町外の郷土芸能の発表の場へ足を運び、地域の独自性を町内外に発信するとともに、これらを通じて町の魅力を多くの人に知ってもらう機会を作り出している。
 地方から都会へ行った地元の人が、いつでも変わらずにそこにある、郷土芸能等を含めたその町独自のコミュニティを無くさないことが町として定住促進や人口減少に対する施策の中で大切にするべきことの一つであると考える。

4. 自治体の取り組み

 この間、自治体においては、県指定の無形民俗文化財である「獅子舞・神楽(写真3)」、また国指定の無形民俗文化財の「能舞(写真4)」の各種必要備品の整備について、各団体の状況を踏まえ、町独自の補助金を出す取り組みを行った。今後、数十年使用され活動の推進を目的とすることを条件としたところ、12団体中、2団体がこの補助金を活用し、神楽団で使用する、笛、太鼓等の他、舞手、演奏者の正装とされる羽織・袴の整備が行われた。また、他の団体においても今後計画的に町と協議し、整備を進めていくこととしている。金銭的な部分以外にも、町職員の積極的な祭りへの参加を推進しており、半数以上の職員が八幡神社例大祭へ自発的に参加している。

 
写真3 八幡例大祭時の獅子舞披露   写真4 八幡神社例大祭前夜祭の能舞披露

 これらの取り組みについても、始めてから数年が経過し、全てにおいて順調ではない。財政状況の低迷において、事業実施が困難となる一方で、取り組みが発展し広がりをみせているものもある。取り組みとしてあげたもの以外に、今後活動を続けていくことで模索しているものが形となる可能性もある。これらの活動が地域の町おこしにどの程度繋がっていくのかどうか数年の活動ではまだわからない部分も多い。自治体や職員の取り組みではあるが、重要なことは地域住民の一人として自らが地域コミュニティ活動として動きだしたということである。

5. まとめ

 今回、郷土芸能を通じてのコミュニティ活動をまとめてみたが、こうした地域での動きの中に、自治体の職員も地域住民の一員として関わりを強くしていくことが必要になってきていると感じる。
 当町では、業務や町の考え方のひとつとしてコミュニティ活動の助長や地域活動の推進を図ることにしているが、業務を離れた部分で職員それぞれが地域の構成員となり、積極的な地域コミュニティ活動へ参加するという姿勢が大切になっている。
 こういった活動が継続することで、地域に人が集まってくる動きとなるかは、まだまだ未知数だと思われる。しかし、短期的な視点でなく中長期的な視点を持って取り組んでいくことにより、よりよいコミュニティの形成、そして町おこしに繋がっていくと考える。
 人口減少・高齢化という問題を考えるときに、そういった地域の繋がりの中で地元に子どもたちが残りたいという思いを強くし、また希望通り残っていけるような町とするために、今後より何が必要なのかという視点や、町の魅力の発信を通じ移住定住の促進、またその移住者が地域コミュニティに参加し共に地域振興に加わっていく体制をどう創り、広めていくかということを念頭において活動していくことが大切である。