【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 福島市内の保育需要は、震災・原子力災害からの復興とともに高まっていますが、深刻な保育士不足により、定員を受け入れることができていません。待機児童解消と適切な保育環境提供のためには、正規・非正規を問わず人員確保と待遇改善が必要です。また、支援が必要な児童、保育者も増加しており、これまで以上に関係機関の連携が求められています。福島市公立保育所の現状と取り組みを報告し、解決策について考えます。



福島市の公立保育所のあり方を求めた取り組みと課題
―― 「行政機関のネットワークを
生かした公立保育所の役割」 ――

福島県本部/福島市役所職員労働組合 渡邉 由紀

1. はじめに

(1) 福島市の状況
① 人 口    289,506人(2018年6月)
② 認可保育所   44か所(公立保育所 13か所、民間保育所 31か所)
③ 認定こども園  9か所
④ 地域型保育   16か所
⑤ 認可外保育   20か所
⑥ 2018年4月の待機児童数 112人

(2) 福島市の公立保育所の現状
 東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故に起因する放射能災害により、一時的に減った出生率と待機児童でしたが、震災対応が進むにつれて避難していた住民が戻り、出生率も回復し、待機児童が増加してきました。しかし、保育への需要が高まるにもかかわらず、保育士不足は深刻で、福島市公立保育所では、保育士不足のために児童を定員まで入所させることができず定員割れとなっています。待機児童が増加する一方で、非正規保育士は雇い止めのある雇用条件を変えられないため、さらに保育士が減っていく危機感の中、保育所の運営をしてきました。
 組合を通じて正職保育士の増員と非正規職員の処遇改善を訴えてきたところ、2017年11月に当選した新市長の重点施策「待機児童解消緊急パッケージ」により、正規保育士8人の上積み採用と臨時保育士(注1)の嘱託化、それと共に嘱託保育士(注2)の12,700円の賃上げなどの処遇改善が行われました。
 一定程度保育士が確保されたことで、公立保育所での受け入れが増加し、待機児童が減少しましたが、まだ待機児童は100人以上おり、今後も保育士確保の取り組みが必要な状況にあります。
(注1) 臨時保育士 11カ月雇用1ヵ月切替え 雇い止め3年
(注2) 嘱託保育士 通年雇用 雇い止め5年

2. 福島市公立保育所の取り組み

(1) 現状と課題―支援が必要な児童・保護者の増加
 保育所入所には、保護者の就労や疾病、家族の介護などが保育を必要とする事由とされてきましたが、待機児童の増加により、保育必要度が点数化され、細分化されてきました。入所の申し込みを受け、その後、担当課による入所判定がなされ、保育所の入所が決定されます。
 以前は、保護者の精神疾患や要保護児童の入所は件数としても少なかったのですが、近年は、少子化や核家族化、地域とのつながりの希薄化などによって、子育てに対する負担感や孤立感など様々な課題を抱える保護者も増え、保護者の精神的な疾患や児童虐待の件数が増加しています。
 子どもたちの命と育ちを守り、保護者を支える機関として、保育所の役割が重要になってきており、それらの事由による入所が増加し、重篤なケースも多くなってきました。
 障がい児等の養育の難しさを持った子どもに対しても、悩みながらの子育てのため精神的に追い詰められてしまう保護者も多くいます。それと共に、障がい児、もしくは障がいの診断はされていないものの、発達の遅れやアンバランスさなど気になる子どもの入所も多く、保育の必要性と保育の質の向上が求められるところです。

(2) 公立保育所における「支援の必要な保護者」の推移と「障がい児」の受け入れ数
① 支援の必要な保護者数
保育所名
定 員1206060606060607090601206090970
2015年度1073
2016年度27
2017年度48
2018年度10111058
※ 2015年は、震災後の避難から戻ってくる保護者も多く、放射線への不安から細やかな支援を必要とした保護者も多くいたため、人数が多かったと思われる。
② 障がい児(診断書有)の受け入れ数
保育所名
定 員1206060606060607090601206090970
2015年度27
2016年度22
2017年度23
2018年度27

(3) 福島市公立保育所における「支援の必要な保護者」の実態
 事例は様々ですが、特徴的なものを記述します。
① 母親の育児不安と育児能力の低さによる支援
② 母親の精神疾患への支援(育児困難)
③ 両親の精神疾患による支援
④ 乳児期に骨折、硬膜下血腫などがあり、虐待のモニタリングをしながらの保育
⑤ ネグレクトにより、食事、入浴などをしていない子どもの支援及び家庭支援
⑥ 母親のDV被害があり、子どもへの虐待のおそれもあるためのモニタリング
⑦ 性的虐待児へのフォローと家庭支援
⑧ 発達障がい児への育児、対応が虐待に近いための入所と保護者支援
⑨ 虐待による児童相談所の一時保護、児童養護施設退所後の、入所とモニタリング
⑩ 両親の知的レベルの低さのために養育困難な子どもの入所、モニタリングと生活指導
⑪ 家庭環境の複雑さの理解と対応(嫁姑関係、シングル家庭でもパートナーがいる等)
⑫ 離婚後の面会拒否の対応

(4) 対応と取り組み―関係機関によるケースカンファレンスの実施
 福島市では、入所前にわかる情報について担当課より情報提供があり、所長、主任保育士、担任保育士と入所前に関わりのある機関(担当保健師、ケースワーカー、子ども発達支援センター、児童相談所等)とのケースカンファレンスを行っています。
 それぞれの機関の持つ情報をすり合わせながら保育所においてできることを決め、気になることや心配なことをお互いに情報共有しながら、機関ごとの支援のすみわけを確認し、児童を迎えます。ケースによっては、情報提供をしていることを嫌がる保護者もいるため、情報の出どころや内容等を確認し、整理します。
 保育所においては、担任だけでなく様々な保育士が対応するために、それらの詳細な情報を共有しつつも、知らないこととして保護者への対応を統一したり、対応する保育士を決めておいたり、きめ細やかな連携を求められます。対応の難しさのために、民間の保育所での受け入れはなかなか困難であるため、公立保育所が受け入れるケースが多くなっています。
 公立保育所は行政機関として、常にそのネットワークを生かしながら、子どもの健やかな育ちの実現に向けた取り組みを行っています。しかし、保育所入所によって安心感がうまれるために、児童相談所や関係機関とのつながりが希薄になってしまうこともあるため、保育所としては常に情報発信し、保護者や子どもに変化が見られた場合はすぐに連携をとり、対応していくためのネットワークを構築しています。

3. おわりに

 入所にあたっては、子どもの育ちの保障が優先されますが、保護者対応も求められます。
 精神的に疾患を持つ保護者への寄り添い方や、虐待やDVの保護者への対応はとても難しく、ケースが重篤であればさらに保護者支援の比重が重くなってきます。
 保護者に対して、声をかけ、寄り添いながら、励ましや養育に必要な情報を伝えることを、日々の業務として行わなければならないだけでなく、保護者との関係性を保つために、ケースごとに対応の仕方を考慮しなければなりません。そのためには保育士の専門性が必要である一方、負担も多くなってしまいます。現状では、手探りの部分も多く、日々悩みながらの対応を続けています。
 保育所保育指針でも、子育て支援の重要性は謳われており、これからの社会において、「保育所保育」に求められる内容は「子どもの保育」と「保護者への支援」となっていきます。「保育所保育」を行う社会資源としての保育所の必要性、それを行う人材としての保育士の役目は今後さらに重要性を増すと思います。
 セーフティネットとしての公立保育所において、保育士一人ひとりが心にゆとりを持ち、質の高い保育を行うために、処遇改善や働き方改革も必要になっていると感じています。