【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 「子ども・子育て支援法の成立」「待機児童の解消」「保育士処遇の改善」―全国的に保育園を含む子育てのあり方が制度改正とともに変わりつつある一方で、これまで地域の子育て支援の支柱を担ってきた公立保育園は減少し、民営化、民間委託という形態が増加しています。
 公立保育園は時代とともに消えていくのでしょうか? 大田市の子育て支援はどのような形になっていくのでしょうか? 形はどうあれ「保育・子育て」は重要な地域課題です。私たち公立保育園の保育士は、「明日の保育園を考える会」をつくり、これからの保育について定期的に議論しています。
 保育をテーマにした大田市の将来を考えることで、自治研活動に参加したいと思います。



地域で子育て・そのとき公立保育園は?


島根県本部/大田市職員連合労働組合・保育部会(明日の保育園を考える会)

1. 子育て・保育をめぐる情勢

(1) 子ども・子育て支援法の成立
 2012年8月に成立した「子ども・子育て関連3法」により、すべての子ども・子育て家庭を対象に、「幼児教育」「保育」「地域の子ども・子育て支援」の質・量の拡充が図られることになりました。背景には、ひとり親家庭や核家族の増加など、子育てを行う家庭環境が変化したことにより、育児不安を抱える親が増えたということがあります。そもそも、古来より子育ては家庭をベースにしながらも地域全体で行ってきたという文化がある中で、地域資源の有効活用と住民を巻き込みながら子育てをしていこうという考えが、法改正や制度改正の流れを生み出したわけです。
 ただし、都市部と地方における子育てや育児環境や実態は、一律というわけではなく、この制度改正が地方に沿うものになっているかというと、疑問は残るところです。それ故に、市町村が策定する「子ども・子育て支援事業計画」には、実効性が期待できるものとそうではないものが出てくることは仕方のないこととも言えます。

(2) 子ども・子育て支援事業計画の策定
 法整備に伴う新たな子ども・子育て支援制度は、2015年4月の本格施行となるため、市町村では2014年度中に「子ども・子育て支援事業計画」が策定されていきました。大田市においても、子どもを持つ保護者の保育ニーズ、中学生の生活実態及び結婚、子育て意識を把握するためのアンケートを実施し、計画の基礎資料としながら、計画策定を行いました。策定にあたっては、会議委員に保育所関係者として公立保育園長が、労働者代表として連合地区会議議長が参画しました。
 しかしながら、法律や制度に沿う計画に仕上げるには、もっと深く住民ニーズを探り、市に散在する地域資源は何か、それはどう活用されてきたか、ブラッシュアップするものはないか、将来を見据えたサービス展開等、様々な角度から議論する必要がありましたが、それをするにはあまりにも期間が限られていました。
 そしてその計画の中には「保育所のあり方」の章も組み込まれましたが、多くのことには触れられませんでした。というのも、大田市では「保育所整備計画」が別に策定されていたため、原則整備計画を踏襲するということになったわけです。

2. 大田市の保育をめぐる現状と課題

(1) 大田市の現状
 前述のとおり、大田市の「子ども・子育て支援事業計画」、とりわけ保育園に関する計画については、先に策定された「保育所整備計画(~2014年度)」を踏襲することになりました。ご多分に漏れず大田市でも指定管理者制度の波が押し寄せており、整備計画では、公立園のうち3園を指定管理者制度導入という内容でした。現在、公立保育園が分園1園を含めて9園、民間保育園は指定管理を含め10園となっています。この5年間で2園の公立保育園が計画通り指定管理者制度の対象となりました。また、地域型保育施設が5園(家庭的保育、小規模保育、事業所内保育)、公立幼稚園が2園という状況です。その他、認可外保育園が2園あります。
 大田市は県内他市町村と比較すると、人口(2017年5月1日現在35,763人)に対して公立保育園の数が多い部類に入ります。県内にはすでに公立保育園が無いという市町村もある中で、9園が存続している理由は、「中山間地の公立保育園は民営化しても採算が取れない」だけではないと思います。公立の必要性を訴え続け当局との交渉を続けてきた歴史があることも大きな要因だと思われます。

(2) 住民ニーズ(アンケート結果の抜粋)について

調査対象市在住で、小学校就学前の子を持つ保護者市在住で、小学校に通う子を持つ保護者市在住の中学生
調査期間2014年1月30日~2月18日
調査票配布1,234票843票896票
調査票回収656票460票301票
回収率53.2%54.6%33.6%

① 子を持つ保護者の不安感、負担(回答656)
 就学前児童保護者に対し、子育てに関する不安感や負担を問うと「非常に感じる」「なんとなく感じる」の合計が53.1%を占めています。
 また、日ごろ子をみてもらえる親族・知人がいるかとの問いに対して「緊急時であればみてもらえる」割合合計が61.6%、「いない」が6.6%となるなど、日常的に子どもをみてもらえるわけではないという状況がわかりました。これは核家族化の進展や地域との繋がりが希薄になっていることの裏返しであり、また、統計では「ひとり親家庭」特に母子家庭が増加傾向にあり、就労と育児の両立させていくためには相当の負担があるものと推察されます。
② 幼児期の教育・保育施設の利用について(回答656)
 利用の有無については「利用している」割合が65.8%、内訳で最も多かったのは「認可保育所」が78%、次いで「幼稚園」の9.7%でした。保育園が幼児期における利用施設として高い割合を維持しています。なお、公立保育園の定員合計は420人、立地箇所は大田市の全町というわけではありませんが、比較的バランスのとれた配置となっています。民間保育園も加えればさらに多くのエリアがカバーできていますが、いわゆる山間部については手薄となっています。
③ 就学前の子が病気のため施設利用ができなかった際の対処(回答359)
 最も多かったのは「母が休んだ」で79.7%、次いで「親戚・知人にみてもらった」が53.5%、「父が休んだ」は25.9%となり、緊急時には母親が仕事の都合をつけて対応しているパターンが多いことがわかります。
④ 小学校低学年における放課後に過ごす場所(回答128)
 「自宅」で過ごす割合が46.9%で最も多かったものの、次いで「放課後児童クラブ」が43.8%と拮抗しています。保育所の利用率は「核家族化」「親の就労」などで全国的に高まっているとされますが、小学校に就学しても低学年のうちは居場所として保育施設(児童クラブ)を利用する率は変わらず高いことがわかります。

(3) 大田市の子育て支援の課題
① 保育士の不足
 地域における子育て支援拠点としては、公立、民間ともに保育園が一定数あるものの、公立においては正規保育士と臨時保育士の割合が半々であり、かつ、保育園定員を受け入れることが困難な状況にあります。
 2005年の市町村合併以降、正規保育士の新規採用は無く、年々、定年退職等で正規保育士の人数は減少しています。人員確保の交渉においても「保育園をめぐる状況は過渡期にあり、今後公立保育園がどのように存続していくかが不明である。そのような状況では新規採用の判断はできない」との理由で採用が無く、結果、臨時保育士の配置と、指定管理者制度導入で凌いでいる状態が続いています。
 保育士の不足により、入園希望への対応や在園児への対応が不十分になってしまいます。希望する園の保育士が不足すれば、家や職場から遠く離れた保育所を選択しなければならなかったり、複数職員で対応しなければならない園児への対応ができなければ、最悪の場合死に繋がることもあり得ます。それは制度で謳っている「保育の質・量の拡充」から遠ざかることになります。
② 臨時保育士の処遇
 ①に関連して、臨時保育士の配置が多くなっています。本来、臨時職員は「臨時的」「補助的」な業務を担うはずであるにもかかわらず、正規職員と同じように働いている臨時職員が多数存在します。
 保育職場での独自アンケート調査を実施したこともありましたが、現在の処遇への驚きや不満が書かれていました。担任を持ち、書類作成をし、経験を積んで昇給昇格があるわけでもなく、正規職員になるわけでもない。職場で愚痴を言うこともせず、ただただ目の前にいる園児への対応を懸命にしている臨時職員の頑張りに対し、正規保育士は申し訳なく思っていますし、当局も臨時職員の良心に甘えていてはいけないと思っています。
 一方で、その臨時保育士も早期離職があるため、職員の入れ替わりが多い状態が続いています。市内民間保育園への転職が主な理由であり、これまでの労使交渉で賃金改善を図ってきましたが、離職は後を絶たない状況です。
③ 保育所の将来ビジョン
 新たな支援制度となり、地域の子育て支援拠点としての保育園の役割は、これまでと大きく変わってはいないものの、この先、社会情勢の変化や園児数の推移、ニーズの変化、市の財政状況など、保育園が置かれる立場や役割は変わっていくことが想定されます。
 保育士採用が無いのも、当局に言わせれば「保育園をめぐる状況は過渡期」だからです。では、そのような状況で、大田市は何をめざすべきなのか、保育士は何を見つめるべきなのか、先進地視察でも制度運用の事例検証でも良いので、将来に繋がる動きをとっていくべきだと思います。ただ「過渡期」と言っているだけで将来への投資が無いままでは、永遠に「過渡期」を脱することはできません。
 「大田市はこうだ」という保育のビジョン無しには、具体的な計画も、具体的な動きも、ましてや職員採用もできません。「今現在保育園があるから運営している」だけでは今以上の保育の充実はあり得ません。

3. これまでの取り組みについて

(1) 明日の保育園を考える会
 各公立保育園から1人ずつ役員を選出し、役員は各園を代表して意見を述べ、議論に参加することとしています。また、この役員会には代表、副代表、連絡係を配置し、会議で議論したことや決定したことは、各園に持ち帰り、全体で確認をします。役員は1年で交替し、なるべく多くの保育士に役員を担ってもらうつもりでいます。
 役員会は概ね月1回ペースで開催しており、議題によっては役員だけの議論にせず、保育士全体での意見交換を行うこともあります。ただ、園ごとに立地地域が違ったり、規模が違ったり……と環境が異なるため、出される意見も多様なものになります。時には収集がつかないこともありますが、見方を変えると、広い視点から出される意見は貴重だとも思います。
 また、保育士一人ひとりが誇りを持って働いており、それぞれの思いや意識は非常に高いものがあるため、議論が熱くなり過ぎることもありますが、思いが無ければビジョンや政策は生まれないとの自負もあり、このような議論は大切にしたいと思っています。

(2) 取り組みの概要
 年度により議論する内容は異なりますが、「現場の声を聴く」⇒「課題や問題点を抽出する」⇒「自分たちでできることと組合を通して改善することを整理する」⇒「具体的な行動に移す」という形は変わりません。
 昨年度は、年度初めに職場アンケートを実施し、特に臨時職員の思いを形にすることを試みました。結果、「業務内容と処遇が合っているのか?」ということになり、基本組織に状況を伝え、処遇改善闘争や賃金確定闘争で当局交渉に臨みました。
 また、春闘にむけて秋段階から職場の意見をまとめておくことも行っています。正規保育士にも労働条件に対する不満はたくさんあり、おかしなことに園ごとに取り扱いや運用が異なっているため、一律に「保育職場の状況」では片づけられないこともわかってきました。
 その他、公立保育園の役割を議論したり、公立保育園を残すための取り組みを検討したりもしてきました。しかし、こういったことは政策に左右されることもあり、未だ結論が出てはいません。とは言え、非常に重要な議題であるため、他市状況も参考にしながら検討は続けていきたいと考えます。
 残念ながら現在のところ、職員だけの議論に終始しており、自治研活動というためには、やはり保護者や地域住民、外部機関との接触をしていかなければならないと感じています。直接意見交換をすることで生のニーズや市の方針づくりのヒントも見えてくるのではないでしょうか。

4. 今後の取り組みについて

 大田市に求められているのは、将来にむけた"保育"のビジョンです。大田市のニーズはどう推移するのか見極め、必要となるサービスを取捨選択し、残すべきサービスは磨き上げ、最終的に住民が安心して子育てができる環境を整えることをめざさなければなりません。決して財政論が先立つのではなく、「本当にやるべきこと」を決めてから財政の話になるはずです。
 このことについては、組合として当局に対する政策提言をしていくことも一つの手法だと思います。なぜなら、当局は「過渡期」と言い、財政論ありきで民間委託を進めようとしているからです。大事なのは何か、必要なのは何かを当局に提示し、めざすべき方向を協議すれば良いと考えます。
 政策提言をするためには、きちんとした裏付けが必要です。「本当にやるべきこと」を探るには保護者を中心としたニーズを把握しなければなりません。市もアンケートを実施していますが、直接外部と触れ合い一緒になって取り組む形を作っていけたら、より判断がしやすくなると思います。そして、広い範囲で継続していければ、さらに精度が上がるのではないでしょうか。
 方針が決定し、具体的な保育の取り組みが決まれば、私たちは保育のプロとして一所懸命、全力で取り組むだけです。そこで必要になるのは、人員確保や処遇改善の交渉でしょう。継続して100%の力が出せる環境をつくる必要があります。
 「子は宝」と言います。特に地方にとってはそのとおりだと思います。将来の地域を背負う人材をその地域でどう育てるか、それをどう繰り返していくかが地域の将来を決定づけると言っても過言ではないと思います。人格形成のベースは言うまでもなく家庭ですが、アンケートや統計から、家庭の子育て不安もまた高まっています。こういった状況で子育ての核になるのは、やはり保育園です。就学までの間、幹を太くし肉をつけていく、心身ともに逞しく優しく育てていく。保育園は非常に重要な役割を担っています。
 このような考えの下では、公立も民間も意識に大差は無いはずです。双方、保育のプロとして役割を精一杯果たしていると思います。あえて違いを言うならば、やはり民間は利益を求めることが挙げられます。地域全体で保育を担うのであれば、利の無いところは公立が入る必要がありますし、逆に公立にできないことは民間に任せて良いと思います。公立と民間で補完しあって、地域で子を育てていければそれが理想だと思います。
 公立と民間が一体となって取り組んでいるものに「保育研究会」があります。給食献立を共同で作成し、統一献立としてどの園の給食もバランスの良い適正な給食が提供できているのも、保育研究会の成果です。また、年に1回開催している「子育て応援フェスティバル」は、地域の親子が自由に来場して楽しめる催しとなっています。体を使って親子で遊べるステージや各園の展示コーナー、給食調理の体験等を通じて、地域住民に保育園のことを深く知ってもらう取り組みになっています。
 新たな取り組みを一から考えてスタートさせなくても、現在取り組んでいることを工夫してアレンジを加えて外部接触のツールにしていくことも有効だと思います。保育について行政側から「サービス提供」するのではなく、行政も住民も一体となって「サービス構築」を考えることができる場をつくれたらよいと感じています。