【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第9分科会 子どもと地域社会~子どもの居場所をつくるのは誰?~

 大分市職労では、現在の業務を自ら見つめ直し、市民サービスの向上をめざして政策提言・要求を積み上げ実現させる「自治体改革闘争」を1999年に開始し、これまで現業職場を中心に取り組んできました。今回は協議のなかで確立した「給食指導業務」について、取り組みの経過を報告します。



子どもたちの“食育”を守る、給食指導員の誕生
―― 学校給食の安心・安全と市民サービスを
維持するために ――

大分県本部/大分市職員労働組合 大重 志織

1. はじめに

 給食調理や清掃部門など、「現業職」の公務員をターゲットにした民営委託や人員削減といった行政改革が全国的に行われています。
 大分市においても過去に2度、大きな行革提案を受けましたが、労働組合としては当局からの提案を合理化攻撃と捉えず、市民サービスの維持・向上と自らの業務を確立する機会として捉え、行政責任の確保を第一義として、これまで行ってきた業務内容を見つめ直し、正規職員と非正規職員の役割の明確化や、新たな業務の確立をめざして取り組んできました。
 そうしたなか、2015年に就任した新市長より「現業職員の採用を行わない」「学校給食調理業務の民間委託を行う」との考えが示され、私たちは再び、自らの業務内容の見直しを求められました。
 本レポートでは、その労使協議のなかで"子どもたちの食育を守る"ために給食調理業務の経験を重ねた正規職員が「給食指導員」となり、委託業者や非正規職員への指導業務などを担うことの必要性を組合側から提案し、実現に至った経過について報告します。

2. 現 況

(1) 大分市の状況(2018年5月末現在)
・人  口 : 478,889人        世 帯 数 : 219,912世帯
・中学校数 : 27校(全校、共同調理) 小学校数 : 54校(共同調理4校、単独調理50校)
 ※ うち、1校は小中一貫校(共同調理)

(2) 組合の概要
・組合員数 : 1,815人(2018年5月末現在) 執 行 部 : 20人(うち、学校給食調理員1人)
・現業評議会執行部 : 16人(うち、学校給食調理員3人・保育所調理員3人)
・給食部会 : 76人(現業評議会内に設置した学校給食調理員でつくる部会)
・福祉部会 : 26人(現業評議会内に設置した保育所調理員でつくる部会)

【大分市職労の組織機構図】(給食調理職場に関連する部分のみ)

3. これまでの行改協議では……

(1) 大量退職期に対応するため、正規職員を最小限にして「応援体制」を確立
 大分市の学校給食調理場では、2005年以降の労使協議において、小学校は公設公営による「単独調理方式」とし、食数などによって「職員配置基準」を労使で確認するとともに、中学校は公設民営による「共同調理方式」とすることに合意していました。
 そうしたなか、2011年には、職員の大量退職期を乗り切るために職員配置基準の見直し協議を行うこととなったため、組合側からは、正規職員数をギリギリの人数まで絞って「職員配置基準の見直し」を行う一方で、各小学校の地域性を考慮しながら、長期休暇などによる正規職員の不足を職員相互の「応援体制」を構築して対応するため、市内を3地区に分割し、調理業務に加えて応援職員の調整を行う「エリアチーフ」「サブチーフ」を各地区に1人ずつ配置するなどの対案を示すなかで労使協議を進め、2013年4月から配置されることとなりました。

【給食体系図】

(2) 「食育」を推進するための職員を配置することを確認
 2つの大きな行政改革を乗り越え、小学校は「単独調理方式」、中学校は「共同調理方式」で給食を提供してきましたが、2017年4月開校の碩田学園(小中一貫校)については、地震・津波対策、教育施設としての多様な学習活動に対応できる教室やグラウンド等の確保、校区の地域防災拠点としての施設を整備するため、校地面積に不足が生じ、単独調理場の建設が困難となり、共同調理場で調理した給食を提供するとの考えが示されました。
 そのため、組合側からは、単独調理方式で調理員が担っている"食育"の必要性を訴えるなか、直接調理業務に携わらず"食育"の推進を行う職員の配置を提案し、「開校以降はエリア役員を増員し、児童に対する食育を含め、今後の給食調理業務の確立をはかる体制を構築していく」ことを確認しました。

4. 一方的な"採用停止"と"民間委託"提案に対する全員協議

 2015年に就任した新市長から「正規職員でなければできないマネジメント等の業務を行ってもらいたい」「可能な限り民間活用を進めたい」との政治姿勢のもと、現業職員の"採用停止"と、単独調理場の"民間委託"提案を受け、学校給食調理員・保育所調理員全員で労使協議に臨みました。

5. 民間の"指導"で子どもの"食育"を守る「給食指導員」誕生

 協議では、調理員の職種変更は行わず、単独調理場の民間委託を行うとして、2017年4月から3校で試行実施、2018年以降は委託校数を拡大しながら本格実施し、全小学校の民間委託を進めていく姿勢が示されました。
 しかし、「食育」の推進や、栄養士が配置されていない学校での「発注業務」など、正規職員でなければできない業務があるうえに、委託業者の検査などの「指導的役割」は現場経験を持った調理員でなければ対応できないため、安易な民間委託により安全性やサービスの低下につながることを訴えるなか、碩田学園の協議で確認した"エリア役員の増員"を"給食指導員"と改め、学校給食を担当する事務職場である体育保健課に配置する対案を示し、2017年4月から「給食指導員」3人を配置することを協議で確認しました。そして、給食指導員の業務内容や民間委託の課題などを検討する場として、労使でつくる「給食指導員業務のあり方検討委員会」を発足させ、詳細の議論を進めていきました。

【給食指導員体制図】(2017年4月~2018年8月)

【給食指導員の業務内容】(2017年4月当時)
① 学校現場における基本的な業務
 ・エリアチーフ(サブチーフ)及び調理員の統括
 ・緊急時の対応
 ・低学年クラスで児童への給食指導補佐
② 栄養教諭・学校栄養職員未配置校への対応
 ・献立に関する業務
 ・アレルギー対応食の調理指導・情報共有
 ・栄養教諭による学校栄養職員未配置校での食に関する指導の際の補佐
 ・年間提出書類に関する説明会
③ 民間委託業者及び民間委託導入校への対応等
 ・各学校の現場責任者との協議(補佐)等
 ・委託導入校への調理業務実施状況確認及び職場巡視
 ・委託導入時の業者との引継ぎ等
 ・委託導入校での食に関する指導の際の補助
④ 施設・設備・物品等の管理
 ・調理場施設、設備や調理機器等の営繕等の要求調査(年1回)の実施
 ・日々の営繕等の要求及び上記の営繕等の要求に対する現地調査の同行及び状況確認
 ・強化磁器食器補充要望への対応
⑤ 地産地消の取り組み
 ・食材共同購入等において、食材の各学校からの受注、業者への発注後の対応
 ・毎月開催される地産地消推進会議への出席
⑥ 衛生管理関係
 ・毎月2回実施される給食調理員等の検便の容器配布、学校からの受付、検査機関への提出や、保健所・学校からの検便に関する問い合わせへの対応
 ・異物混入があった学校への出張、混入時の状況等の確認・調査
⑦ 研修会関係
 ・衛生管理研修会等の研修の開催準備
⑧ その他
 ・国、県などからの照会文書等の各学校への送付、各学校からの回答の取りまとめの補佐
 ・交流給食会等の補佐
 ・学校給食研究会
 ・「豊っ子給食会」実行委員
 ・エリア会議への参加
 ・バイキング給食準備補佐
 ・消耗品等の取りまとめの補佐

○学校給食の流れと業務委託した部分

6. 実施後の状況

 2017年4月を過ぎて、いよいよ"単独調理場の民間委託"と"給食指導業務"がスタートし、実施後には想定できなかった課題も生じましたが、給食指導員を中心として対応してきました。
 試行実施後の検証委員会による検証結果報告書では、「すべての事業者から、栄養教諭等による熱心なアドバイスや打ち合わせによる功績が大きいとの意見があり、業務委託の導入の際には、学校給食調理業務に精通した職員を配置することが望ましい」などの見解が示されており、給食指導員による栄養教諭と連携した委託業者への対応の重要性が評価されています。

<検証結果報告書(抜粋)>

Q5.お子さんは給食の時間を楽しみにしていると思いますか。

 50.8%が「とても楽しみにしている」、37.7%が「楽しみにしている」と回答した。
<主なコメント>
・家だと、なかなかここまではできないので、おいしくてありがたいです。
・衛生管理がしっかりした所で作られていて安心しました。
・自分達が子どもの頃食べていた給食より、とても美味しいと思いました。
・子どもも給食を楽しみにしています。
・民間委託になっても、味が変わらず、引き継いでいただけているので安心しました。
・民間委託になり心配しましたが、試食を通して味もおいしく安心しました。
・子どもがいつも家で給食がおいしいと言っています。
・うちの子どもは、アレルギーがあるので毎日全てお弁当を持ってきていますが、食べれる物も増えてきたので来年からは給食をお願いしたいと思います。
・委託業務がスター卜して、やはり親としては不安や心配が多々あります。
・業務委託になり、異物混入やこげてて食べれなかったという話を聞くようになりました。慣れてない人ばかりが作っているようなので、焦がしてしまうのではないかと思います。今までのように慣れた人の中に新しい人が入るような感じでなければ、大規模校の給食調理は難しいのではないでしょうか。
・配膳の時にマスクをしていないことが気になる。
・メイン料理が、もう少し立派だといいなあと思いました。
・おいしかったです。ぜひ家で作ってみようと思いました。
・調理の過程で、エプロンを材料ごとにかえたり、段ボールは調理室に入れないなどの対策がとられていることを知ることができました。

 すべての事業者から、栄養教諭等による熱心なアドバイスや打ち合わせによる功績が大きいとの意見があり、業務委託の導入の際には、学校給食調理業務に精通した職員を配置することが望ましい。
 なお、当該職員にはこれまでと同様に調理業務の全般にわたり業務責任者等とのコミュニケーション能力や調整力を発揮していただきたい。
 また、業務委託の円滑な導入には引き継ぎ時における給食作業体験の実施や、人員確保のため業務責任者等の条件設定見直しについての意見もあるので、これらを参考にする中で、今後の民間委託に活かして頂きたい。

7. 民間委託"拡大"とともに、給食指導員を"増員"

 検証結果を受け、2018年8月からは、試行実施した3校に加え新たに8校の民間委託を行うことについて労使協議を行いました。
 協議では、提案された11校の民間委託を受け入れるには給食指導員の増員が不可欠であることを訴えるなか、体育保健課に配置している3人を「統括チーフ」(1人)「統括サブチーフ」(2人)として、学校に配置しているエリア役員6人を「エリア兼指導員」として選任するとともに、「エリア兼指導員業務等検討委員会」を開催し、今後、委託業者や非正規職員への指導を進めていくための手法について、労使で検討していくことについて合意しました。
 また、これまでの協議のなかで、栄養教諭等が配置されていない学校(23校)については「食育の推進」や「地産地消を踏まえた食材の手配」、「突発的な献立変更」などに対応する必要があることから、民間委託は「栄養教諭等が配置された学校(概ね500食以上)を対象とする」ことを確認しています。
 そして、給食指導員はさまざまな学校の状況に対応した委託業者への指導が求められるため、食数の規模や調理場の種別(ドライ・ウェット)などの観点から、調理経験の蓄積が必要不可欠であるため、栄養教諭等が配置されている学校のうち、地域性や男性調理員の労働環境が整備されているかを含め、一定の学校数は直営を維持していくことも確認しています。

8. おわりに

 学校給食現場では、全国的にも民間委託が進められていますが、行政サービスが低下したために公設公営に戻す自治体もあると耳にします。
 私たちは市民に最も近い立場の自治体労働者として、市民目線で"学校給食"を見て、現在私たちが行っているサービスがどのように見えるのか、どうすればサービスの充実・向上をはかることができるのか、労働組合としても提案していくことが重要だと改めて感じています。
 このように、現場でなければわからないこと、正規職員でなければできないことは、必ずあります。だからこそ、これまで公務職場として、公設公営で取り組んできたサービスなのだと思います。
 2017年4月から給食指導業務をスタートさせて以降、現在もさまざまな課題がありますが、子どもたちへ「安心・安全・あたたかい」給食を提供できるよう、引き続き、給食指導員の業務の拡大や増員などについて考えていくことが重要です。
 また、近年は"防災"という視点でも行政責任の確保が求められているなかで、給食調理場は大規模災害時に大量調理を行えることを考えれば、避難所に指定されている学校に隣接する単独調理場は、地域の防災拠点としての役割を担うべきであり、そのためには直営校と正規職員の給食調理員の配置は不可欠と考えています。
 今後も、さまざまな視点から自らの業務を見つめ直すとともに、「市民が求めているサービスは何か」「市民のためにできる業務は何か」「公務職場だからこそできるサービスは何か」を模索し続け、自らの業務を職場から発信して創り上げていく取り組みを進めていきたいと思います。