【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 改正介護保険法により、地域包括ケアシステムの構築が全ての市町村に課せられています。市町村毎の社会資源の状況が大きく異なること等を背景に、その取り組みは自治体裁量に委ねられています。本稿は、鶴居村での地域包括ケアシステム構築に向けた取り組みのうち地域サロンの開発に係る事項をまとめ、社会資源が限られた小規模自治体での取り組み例を示すことで、他市町村での取り組みの一助となることを目的としています。



小規模自治体における地域包括ケアシステム構築に
向けた取り組み
―― 地域サロン設置のための資源開発 ――

北海道本部/釧根地方本部・鶴居村役場職員組合

1. 鶴居村の概要と地域包括ケアシステムの内容

(1) 鶴居村の概要
① 基本事項
 鶴居村は、村域が東西に23km、南北に42km、総面積571.80km2と南北に広く、またその6割以上が森林で、南側には釧路湿原が広がっており、原始からの変わらない広大な自然の中に、2,500人ほどの村民がいくつかの地区に点在して生活をしています。
 基幹産業は酪農業、特に生乳の生産ですが、平成の初頭には181戸あった農家数は、2016年度には85戸とその数を減らしており、農家人口も849人いたものが427人へと約半数に減じています。一方、乳用牛の飼育頭数は、12,272頭から12,413頭へ、年毎に若干の増減はありつつも横ばいで推移しており、大規模経営化が進んでいます。
 また、村名の由来たるタンチョウや豊かな自然を観察するため、世界各国から観光客が訪れます。タンチョウの生息数は、1989年調査で全道441羽、村内262羽であったものが、2015年度調査時には、全道1,320羽、村内642羽と、順調に数を増やすとともに生息域が広がっていっています。
 村の人口は、1955年4,824人をピークに減少しており、1990年には2,829人、2015年には2,534人でした。対して世帯数は、1955年840戸、以降1980年に756戸と一時減少しましたがその後増加に転じ、2015年には1,026戸と大きく増加、小さな村ですが、都会的な核家族化が進んでいることがわかります。
② 高齢化率と地区別の状況
図1
 年齢別人口を見ると、1955年では、15歳未満2,017人、15から64歳2,587人、65歳以上220人でした。1990年では、15歳未満516人、15から64歳1,830人、65歳以上483人。2015年では、15歳未満325人、15から64歳1,393人、65歳以上816人と、近年、高齢化が急速に進んでいる状況です。
 村内には複数の地区があり、人口、世帯数はもとより、高齢化の度合いもそれぞれに違います。図1は2014年の地区別人口及び高齢化率を示したものです。
 鶴居市街地区では1,019人中高齢者が261人、高齢化率25.61%です。高齢化率は高くはありませんが、村内で最も高齢者数が多い地区です。
 次いで人口の多い下幌呂地区は、分譲地への現役世代の転入者が多く、高齢化率は高くありません(24.88%)。しかし、世代の別を問わず、分譲地販売開始以前からの住民と転入者との関わりが薄く、村内では比較的住民交流が希薄な地区になっています。
 高齢化率が30%を超えている地区は村内7か所、新幌呂、上幌呂、支幌呂、中幌呂市街、中幌呂、中雪裡、下雪裡の各地区です。中幌呂市街地区以外の地区は人口が100人未満の小規模地区で、地区に学校や公営住宅等もないため、若年層の自然増には限界があり、今後も高い高齢化率のまま推移する可能性が高いと言えます。


(2) 地域包括ケアシステム
① 地域包括ケアシステム概要
図2
 厚生労働省が示す地域包括ケアシステムの構築に関する基本的な考え方は図2に記載されています。総じて、高齢者が長く在宅での生活を継続できるような地域体制の整備を図るための施策です。
 医療、介護サービス、生活支援サービスの三つの要素について、地域(介護保険の保険者所管地域)の実情に応じて整備し、高齢者が地域で継続して生活することができる地域づくりを進めることとなります。
 医療については地域の病院、診療所、調剤薬局による医療の提供が確保されていることに加え、入院治療の長期化を避け、在宅での療養が可能となるよう、介護サービス等福祉的支援の充実が必要とされます。
 介護サービスについては要介護認定を受けている方が対象となり、在宅系サービスとしてのヘルパー(訪問介護)、ショートステイ(短期入所)、デイサービス(通所介護)等、施設・居住系サービスとしては、老健施設・特養等の入所施設、サービス付き高齢者住宅(居住系サービスではないが運用上類似の機能を持つ)等、地域のニーズに合わせたサービス提供量の確保が必要であり、高齢者支援体制における基盤となる要素です。
 生活支援サービスについては、介護予防としての意味合いが強く、在宅での生活の中で予め提供を受けることで、重度の要介護状態になることを防ぐことが大きな目的です。ヘルパー、デイサービス等のサービス提供の他、老人クラブ、自治会、ボランティア等が、高齢者の集う場所としての地域サロンの運営、見守り・安否確認、外出・買い物・調理・掃除等の生活支援を行い、地域住民同士の支え合いによって、高齢者の在宅生活を支援します。
 粗々と記しましたが、おおよそこれらの要素が、高齢者の状態に応じて適切に提供される地域体制を整備することが、地方公共団体に求められています。
② 地域包括ケアシステムに関係する鶴居村の状況
 上述の各要素についての鶴居村の状況を次に示します。
 医療については、鶴居村立診療所が無床診療所として設置されており、内科診療を中心に、軽度の外科的処置は対応が可能です。つるい養生邑病院は、精神科診療が中心ではありますが、内科診療も対応可能です。また、病床数は、精神科病床106床、その内認知症治療病棟が46床あり、その他内科病棟も26床あります。その他の診療科については、村内での対応はできず近隣市町村の医療機関に受診することとなるのですが、現在は、村外医療機関への受診支援施策は取られておらず、目下の課題の一つとなっています。
 介護サービスについては、内在宅サービスについては、村直営のヘルパー事業所が1ヵ所、2018年度から指定管理に移行したデイサービスセンターが1ヵ所あります。入所サービスについては、つるい養生邑病院が実施する老健施設が1ヵ所(100床)あり、そこでは空床型ショートステイ(4床)も実施しています。活用している村外のサービスとしては、特養、サ高住、訪問看護、デイサービス(機能訓練対応)等が挙げられます。
 2016年度時点で、生活支援サービスについて、村内で確保されているサービスは、地域包括支援センターや村直営のヘルパー事業所による独自の生活支援以外にはありませんでした。高齢者の生活支援を行うボランティアは、個人的な取り組みを行っている少数の方を除いて村内にはおらず、またその把握も、制度的な支援もほぼ行われてはいませんでした。村は、2016年度から、生活支援体制整備事業として、村の社会福祉協議会に事業委託を行っています。内容は、生活支援コーディネーターの配置、生活支援サービスの開発、地縁組織等の多様な主体による協力体制の構築、多様な関係主体参加の協議体の設置及び運営等です。地域資源が乏しい状況下から、協力者の発掘・確保や資源開発等を行うことが事業内容だと言えます。
 本村は人口規模から社会資源、人的資源にいずれも乏しく、村内の体制整備のみによっては支援体制の構築を図ることは困難で、近隣市町村の資源の活用を前提とした体制構築が現実的なものとならざるを得ません。その中で、生活支援サービスについては、その性質上、村内での資源を新たに開発する以外にはなく、これまでボランティア等の支援者確保が十分にできてこなかったこともあり、その体制の整備については村の大きな課題となりました。

2. 地区毎の高齢者サロン設置の取り組み

 2016年度から開始した生活支援体制整備事業ですが、2016年度には、事業内容の整理ができておらず、地域資源開発のノウハウもない中で、配置した生活支援コーディネーターの退職も相俟って、十分な事業実施ができなかったのが実情でした。実際的に事業が展開されたのは2017年度からです。
 端緒として着手され、現在も作業を進めているのは、地区毎の高齢者サロンの設置です。サロン設置の目的は、地域で生活している高齢者等が気軽に集まり、生きがいづくりや仲間づくりの輪を広げ、閉じこもりや孤立を予防することと、地域住民同士が交流を通して顔見知りとなりつながりを強め、地域での見守りや支えあい活動等を促すことです。また、運営に際しては各地域の住民や団体が主体になるように働きかけることで、地域住民の支え合いの力を向上させ、支援する側の人・団体づくりを促進します。
 サロンの設置を推進するにあたり、村内を8地区に区分けして、それぞれの地区に設置していくことが計画されました。地区の分け方は、サロンの運営主体となり得ることから、老人クラブを単位としています。また、設置に際しては、運営主体となり得る個人や団体に個別に事前説明をし、地区毎のサロンの必要性について理解してもらう働きかけを行っています。
 地域住民・団体によって自ら運営される体制が整ったサロンは、運営主体が生活支援体制整備委員会(協議体)に申請することで、認定サロンとして認定し、活動費用の補助を行うことにしました。基本的に、生活支援コーディネーターは後方支援に回り、地域住民の主体性に任せた自由な運営を促進するためです。
 2018年6月現在、村内の8地区の内5地区で認定サロンが設置され、各地区の住民が主体者となって、月1回以上のサロン運営が行われるようになりました。以下は、それぞれの地区毎の経過を記載しています。

(1) 鶴居市街地区
 2017年6月、第1回の鶴居村生活支援体制整備事業運営委員会が開催されました。協議の内容は、2017年度に取り組むサロン事業に関しての意見聴取です。生活支援コーディネーターとしては、同月中から月に1度程度、数度にわたって、試験的なサロンの実施を想定しており、鶴居村として継続的に実施するサロン事業は初の取り組みであることからも、関係機関からの多様な意見を受けて取り組みに繋げたいと考えていました。
 試験的なサロンの設置は、鶴居市街地区から始めることにしました。先ずは最も高齢者の多い地区から開始することと、村内の農協が、近年住民交流スペースを店舗内に開設したために場所の確保の都合が良かったこと等が理由です。
 鶴居市街地区での試験的設置は6月から10月まで計5回実施しました。運営については、生活支援コーディネーターが中心となって実施しましたが、当初から地域のボランティアに声掛けをして参加してもらい、試験的設置の第4回目からは、参加してくれていた地域ボランティアの方々で農協サロン設置委員会を立ち上げ、委員会委員による運営に切り替えていきました。
 2018年1月からは、サロンの名称を「鶴居にこにこサロン」として、月1回の継続的な実施をしています。

(2) 幌呂市街地区
 幌呂市街地区では、従前から地元の住民の方の家で任意でサロン活動を実施しており、そのサロン活動を拡大する形での認定サロンの設置が想定されました。ですが、サロン活動参加者の方に意見を聞くと、個人宅での実施のためスペースが限られることや、実施の目的の違い等の課題があり、サロン活動を拡大してもらうのは難しいとの結論に至りました。
 そのため、幌呂市街自治会の方々に声掛けをし、サロン設置委員会を担ってもらい、2017年11月のプレ開催を経て、以降「ほろろおちゃっこ会」という名前でサロンを設置することになりました。場所は鶴居村農村環境改善センターという元鶴居村役場幌呂支所として建てられた建物で、現在は地域の集会施設となっているところです。
 11月プレ開催の際には、運営委員会先行での開催だったこともあり、4人程度の参加者でしたが、その後は幌呂市街周辺地区からの参加者も含め、10人以上が継続的に参加しています。

(3) 茂雪裡地区
 茂雪裡という地区は、住民数が100人弱の小さな地区です。住民の方々は、15~16年も前から、地区にある個人商店に立ち寄っては、お茶を飲みながら店主とお話をして過ごす等、地域のサロン的な役割を果たしていました。
 認定サロンのことについて、その個人商店の店主にお話をすると、「自分が元気なうちはやりたい」と言ってくれ、2017年12月にプレ開催、以降は認定サロン「茂雪裡こすもすサロン」として、店主と他地域の住民数人が協力して活動しています。日頃からの住民との交流は変わらず、月1回のサロンの日には、いつもより多くの住民が集まって、持ち寄りで漬物の品評会等を行っています。

(4) 上幌呂地区
 上幌呂地区は、住民60人前後、内高齢者が20数人程、住宅が一部を除いて点在しており、バスも便数が少なく移動手段が限られる等、生活継続のための支援が求められる地区と言えます。
 運営主体として適当な団体がないこともあり、地域の住民の方でサロンの実施に興味のある個人の方とお話をすることになりました。その方は、他の市町村で友人が個人宅でのサロンを実施していることから興味を持たれ、閉じこもりの高齢者が生じないよう、地域にそうしたサロンが必要だと感じていました。上幌呂地区にはコミュニティーセンターがあり、サロンの実施場所として想定していましたが、その方とのお話しの中で、コミュニティーセンターは、冬場の除雪や暖房の関係で使用には課題があることがわかりました。
 その個人の方の家で10人前後の来客対応ができることから、地域の自治会や老人クラブの方にも協力を仰ぎ、個人宅でのサロン実施に取り組むことになりました。
 2018年3月、初回のサロンを開設する運びとなりましたが、来場は0人という結果に。自治会や老人クラブへの周知に再度取り組み、4月、5月はそれぞれ2人の参加を頂いており、「上幌呂おひさまサロン」と命名もされました。今後はより多くの方に来てもらえるよう、継続して取り組んでいく想定です。

(5) 下幌呂地区
 下幌呂地区は、もともと住んでいた方と分譲地への移住者とが混在し、人間関係が複雑になっており、地域自治会や老人クラブ等へ十分に説明をした上で取り組みを進める必要がある等、一定の配慮や根回しが求められました。地域住民のうち協力いただける方からのアドバイスを受けながら、老人クラブ総会で説明会を開き、また自治会長や協力者の方に先行している鶴居市街地区の見学に行ってもらい、サロンの効果や取り組み方等について理解を深めてもらいました。
 設置委員会を立ち上げ、委員としては自治会長、老人クラブ会長、民生委員等の方に参加してもらい、サロンの運営を担っていただける方についても委員会内で検討する等、しっかりとした準備の上で、2018年5月、初回のサロン設置に至りました。
 結果として11人の住民の方に参加いただき、スカットボール等の軽スポーツも行う等で盛り上がり、初回の開催としては成功であったと考えられます。6月には18人の参加をいただき、その場でサロン名を「下幌呂あおぞらサロン」にすることに決めました。今後も継続した取り組みになるよう、自治会・老人クラブと協力しながら進めていくところです。

(6) 今後の展望
 1年程度の間に、8地区のうち5地区で、住民主体のサロンを立ち上げることができたのは、大きな成果だと考えられます。下幌呂地区での立ち上げでは、村内での先行事例を参考に、住民が取り組みを学習して実施する様子が見られ、今後のサロン立ち上げに際しての参考にできる事項と考えられます。
 各地区への働きかけを生活支援コーディネーターが中心となって継続的に実施し、全地区でのサロンの設置をめざしていくとともに、サロン設置以外の生活支援に関する取り組みとして、移動・家事・掃除等の日常生活支援ボランティアによる支援体制の整備を視野に、住民主体の取り組みを促進していく予定です。

3. まとめ

 鶴居村での地域包括ケアシステム構築に係る一部として、各地域の高齢者サロンの取り組みについて紹介をしましたが、これは先進的事例として取り上げたのではなく、過去の遅れを取り戻すための試行錯誤の一例を示すことで、他市町村での取り組みの参考になればと考えたところです。
 小規模自治体であるために、それぞれの地区の状況に則して働きかけができることは、取り組みに際しての大きな優位性であり、担い手となってくれている住民ボランティアの方々の自発的な協力を引き出すことができたことは、評価できる点であると考えます。
 ただし、短期間での集中的な取り組みとなったことは、過去の地域住民への働きかけ、資源開発の取り組み不足が主な原因であり、今回の取り組みを通して一定の改善が図られたところですが、今後、高齢者数が増加していくことからも、また継続的な支援体制の確立の観点からも、より多くの、また広い世代にわたる住民参画が必要となっていきます。
 そのため、今後の重点課題として、より多くの住民に関わってもらえるような仕組み作りが必要となりますが、現時点で決まった取り組みはありません。今後、村の協議体で課題として提示し協議を図り、もって「自分が住みたい土地に住み続けることができる村づくり」に資するよう検討していきます。