【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 多くの地方都市では少子高齢化問題や、商業機能の空洞化問題等が顕在化しています。本レポートでは「健幸」をテーマに子どもから高齢者までが健康で幸せに暮らせるまちづくりを進めている取手市の取り組みを報告します。



健幸(けんこう)なまちをめざして


茨城県本部/取手市職員組合 下市  聡

1. はじめに

図1 取手市の位置図
出典:取手市公式ウェブサイト
 茨城県南部の都市である取手市は、利根川を隔てて千葉県と接し、東京から40km圏内に位置しています。江戸時代には水戸街道の宿場町として、また、利根川水運の拠点地として賑わいを見せ、昭和40年代後半からは、JR常磐線による都心へのアクセスの良さから首都圏のベッドタウンとして発展してきました。2015(平成17)年には隣接する藤代町と合併し、現在の市域は69.94km2、人口は約10万8千人です。
 急速な発展から約40年が経過した今日、市は、他の自治体よりも速いスピードで進む少子高齢化と市民の消費行動の変化による商業機能の空洞化に直面しています。

2. 「健幸」=健康で幸せ

 「健幸」とは身体面の健康だけでなく、人々が生きがいを感じ、安全安心で豊かに生活を送ることができることを表しています。この「健幸」を主眼にとらえたまちづくりの実現をめざすため、2014(平成26)年に「スマートウェルネスとりでの推進」を策定しました。策定にあたっては、市民アンケートの調査結果から少子高齢化の現状と市民の幸福感の判断基準を基に、健康づくりと幸せづくりを支援するための施策として「元気な体をつくる運動の推進」「おいしくバランスのとれた食生活の推進」「生きがいづくり」「地域・家庭の絆づくり」の4つを体系的に位置付け施策展開を図っています。
図2 「スマートウエルネスとりで」実現に向けた施策
出典:取手市公式ウェブサイト

3. 健幸づくりの交流拠点「取手ウェルネスプラザ」

 「取手ウェルネスプラザ」は2015(平成27)年10月にオープンしました。JR取手駅西口から徒歩3分に位置しており、コミュニティバスのルートでもあることから利便性も高く、健康づくりの施策展開の中核的な施設となっています。この建物は地上3階建て、延べ床面積約3,000m2からなり、隣接する約1,800m2の都市公園「取手ウェルネスパーク」と一体的に整備を行った複合施設で、市民交流支援、健康づくり支援、子育て支援という3つの機能を備えています。年間約20万人の来館者で賑わっています。
図3 取手ウェルネスプラザの外観
図4 取手ウェルネスパークの外観
出典:取手市公式ウェブサイト
 また、取手ウェルネスプラザの整備にあわせて、取手駅周辺の歩行回遊環境と交通結節機能の向上にも取り組み、2014(平成26)年3月に歩行者デッキを、4月に地上3階、地下1階建ての機能性の高い機械式駐輪機と汎用性の高い自走式駐輪スペースを組み合わせた自転車駐車場「サイクルステーションとりで」の供用を開始しています。
 このように「スマートウェルネスとりでの推進」にあたっては、ソフト面からは上述の4つの施策、ハード面からも取手ウェルネスプラザ等の両輪による施策展開を行っています。

4. 取り組みの内容

(1) 元気な体をつくる運動の推進
 数ある運動の中で健康づくりの核として推進しているのが、誰もが気軽に取り組める「歩く」ことです。歩くことを推進するために、市内のゴルフ場の協力を得て行っているゴルフ場ウオーキングという企画を行っています。美しく整備された広大な芝生の上を歩く体験は日常とは異なるもので、ウオーキングを趣味にしている人だけでなく、ゴルフ場に初めて入ったという人や家族も参加いただいており好評です。
 また、取手ウェルネスプラザのトレーニングジムで開催している健康運動教室では、有酸素運動と筋力トレーニングをベースとした運動指導を行っています。一人ひとりの体力に合わせた個別プログラムや効果の見える化によって参加者が高いモチベーションを維持したまま健康づくりに励んでいます。

(2) おいしくバランスのとれた食生活の推進
図5 とりで食育かるた
出典:取手市公式ウェブサイト
 「運動」と並ぶ健康づくりの大きな柱が「食」です。ライフステージに応じた間断のない食育の推進をめざして、保健センターや保育所、学校、農業振興を担う農政課などが様々な事業を展開しています。また、各課の事業に横串をさすため、関係各課による食育事務連絡会議を開催し、情報の共有化や意見交換も行っています。
 食育事務連絡会議のアイデアを具体化した事業の一つが「とりで食育かるた」の制作です。これは市制施行45周年記念事業の一つとして実施したもので、市内15校の小学生に読み句、県立取手松陽高校美術科の生徒に絵札の原画制作を依頼しました。制作したかるたは一般に販売しているほか、原画展の開催、保育所や幼稚園でのかるた遊び、小学校での総合学習や総合型地域スポーツクラブでも活用されています。

(3) 生きがいづくり
図6 市民大学の一コマ
出典:取手市公式ウェブサイト
 学びを通じて市民がいつまでも心身ともに幸せに過ごせるよう、誰もが参加できる教養・専門講座として「市民大学講座」を開講しています。開講場所は各公共施設で行っており取手ウェルネスプラザも位置づけられています。
 また、地域、NPO、ボランティア活動等で社会参加することで生きがいにつながるよう、支援や情報提供を行う市民活動情報提供サイト「いきいきネットとりで」を運営しています。
図7 いきいきネットとりで
出典:いきいきネットとりで公式ウェブサイト

(4) 地域・家族の絆づくり
図8 おやすみ処
出典:取手市公式ウェブサイト
 絆づくりでは、地域での高齢者の活動を促し、お互いに支えあう関係を構築するための数々の取り組みを行っています。
 高齢者がいつでも立ち寄れ、地域の方と触れ合い、お茶を飲んだり、おしゃべりをする喫茶スペース「おやすみ処」を戸頭(とがしら)地区と井野地区の2カ所で整備しています。運営は市民が主体で行っており、地域住民が交流し絆を深めています。

5. まとめ

 ひとりでも多くの市民が「健幸」になるためにはこれらの施策を持続的・継続的に行っていく必要があります。一方で社会状況は常に変化していることを踏まえ、市民のニーズに応えていくには、全ての職員が自らの業務を越えて全ての業務を俯瞰的に見渡し課題を見つけ、解決する力が求められます。各課事業の横断的に取り組んでいきます。