【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 認知症、知的障害、精神障害等によって物事を判断する能力が十分でない人たちを支える仕組みとして、成年後見制度の利用者が増えてきていますが、今後、高齢者人口の増加による認知症有病者の増加などにより、更に制度利用が必要となる人たちが増えると言われています。本レポートでは、今後の人口減少社会における「支え合う社会」の仕組みとして、成年後見制度の在り方について制度利用の課題解決に向けた考察を行いました。



成年後見制度の利用促進に向けた現状と課題


三重県本部/支え合う社会WG

1. はじめに

 明治憲法下で規定された伝統的な家族としての三世代モデルは、戦後、地方から都市への人の流入とともに、夫・妻・子の二世代による核家族の形態へと変遷してきました。さらに現在の家族形態は多種多様を極め、標準モデルを規定すること自体が難しい状況にあります。
 厚生労働省の国民生活基礎調査(2015年版)によれば、1986年に15.3%あった三世代同居世帯は、2015年には6.5%と半減し、単独又は夫婦のみの世帯が32.6%から50.4%と全体の半数を占める状況となっています。
 結果として、孤立する高齢者の増加や孤立死(孤独死)が問題(※1)となっており、自治体では、地域コミュニティとしての役割や高齢者雇用対策などにより、交流や地域活性化、高齢者政策を図っている状況です。こうして少しずつ高齢者が元気に働く事が出来る社会制度が進む一方で、病気やケガ、障害(特に認知症や知的障害)などにより働く事が出来ず、日常生活や財産管理に支障をきたす人たちを社会全体で支えていくことが課題となっています。
 このような状況を受け、2000年4月には成年後見制度が施行されました。この制度は、支えを必要とする人々を社会全体で支えるという重要な役割を持っており、利用者は年々増加していますが、その一方で制度利用が必要であろうと思われるにも関わらず、利用をしていない方も多数いると言われています。また、内閣府による調査結果(※2)では、2015年の高齢者人口約3,395万人のうち認知症有病率が約525万人(16.0%)、今後さらに増加し2025年には約730万人(20.6%)となり、制度利用が必要となる人たちがますます増えると言われています。
 そのため、2016年5月には「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が施行され、社会全体で支え合い、計画的に成年後見制度を推進していくことが確認されています。

2. 成年後見制度の概要

(1) 成年後見制度とは
 成年後見制度とは、"認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分ではない方について、本人の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度"(※3)です。判断能力が十分でない方は、財産管理や契約締結などを自身で行うことが難しい場合があり、また、判断ができずに不利益な契約を結んでしまう場合も考えられます。こうした判断能力が十分でない方の保護を図り、権利を擁護するために設けられた制度です。成年後見制度は、大きく「任意後見」と「法定後見」の2つに分けられます。任意後見は、将来、自身の判断能力が不十分となった場合に備えて、あらかじめ任意後見契約を結んでおき、判断能力が不十分になった際に任意後見が開始する制度です。任意後見人を誰にするか、どのような権限を委任するかは、自身で決定します。他方、法定後見は、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所に後見開始の審判等を申立て、家庭裁判所によって選ばれた後見人が本人の支援を行う制度です。後見人の選定や権限については、家庭裁判所が決定します。なお、法定後見は「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じた制度が利用できるようになっています【表1】

【表1】法定後見制度の3類型(最高裁判所パンフレット「成年後見制度」(2016年10月)より作成)
   後 見 保 佐 補 助
対象となる方  判断能力が全くない方 判断能力が著しく不十分な方 判断能力が不十分な方
成年後見人等の権限 必ず与えられる権限 ●財産管理についての全般的な代理権、取消権(日常生活に関する行為を除く) ●特定の事項(★1)についての同意権(★2)、取消権(日常生活に関する行為を除く)
申立てにより与えられる権限 ●特定の事項(★1)以外の事項についての同意権(★2)、取消権(日常生活に関する行為を除く)
●特定の法律行為(★3)についての代理権
●特定の事項(★1)の一部についての同意権(★2)、取消権(日常生活に関する行為を除く)
●特定の法律行為(★3)についての代理権
★1 民法13条1項に掲げられている借金、訴訟行為、相続の承認や放棄、新築や増改築などの事項をいいます。ただし、日用品の購入など日常生活に関する行為は除かれます。
★2 本人が特定の行為を行う際に、その内容が本人に不利益でないか検討して、問題がない場合に同意(了承)する権限です。保佐人、補助人は、この同意がない本人の行為を取り消すことができます。
★3 民法13条1項に挙げられている同意を要する行為に限定されません。

(2) 成年後見制度の利用状況
 内閣府によると、成年後見制度の利用は、2011年は153,314件であったものが、2015年には191,335件と、5年間で約4万件増加しています。法定後見(後見、保佐、補助)、任意後見のいずれも増加傾向にあります【表2】

【表2】成年後見制度の利用者数の推移(2011年~2015年)
※ 内閣府・成年後見制度利用促進委員会事務局「成年後見制度の現状」P.2より抜粋

 以上を踏まえ、成年後見制度の利用促進について考えることは、今回のWG「支え合う社会」のテーマと合致することから、成年後見制度の県内利用状況を踏まえ、県内各自治体及び関係機関へのアンケートを行い、分析結果から制度利用の課題解決へ向けた考察を行いました。

3. 成年後見制度の利用促進に向けた現状と課題に関するアンケート集計結果について

(1) アンケートの概要
 三重県内の成年後見制度の利用を促進するにあたっての課題を把握するため、本ワーキンググループでは、「成年後見制度の利用促進に向けた現状と課題に関するアンケート」と題するアンケート調査を実施した。アンケートは、2017年2月1日付で発送し、同年2月28日を回答期限とした。
 アンケート調査は、三重県内の行政機関、相談機関、専門職団体、金融機関、利用者団体の207機関(団体)を対象として実施し、回答不可となった7つの家庭裁判所を除した対象総数は200となる。回答は、無記名11を含む133あり、回収率は66.5%であった。(別添資料①参照)

(2) アンケート結果と分析
 以下、アンケート結果と分析を記す。
Q.1 貴団体の職員又は会員の成年後見制度に関する理解について
 本設問では、「①十分理解している」が14%、②「ある程度理解している」が70%の回答があり、①と②の回答合計は84%であった。成年後見制度に関係する機関を対象としただけに職員は比較的理解が進んでいることが分かる。
 ただし、成年後見制度の相談を受ける主要窓口となる相談支援事業所・地域包括支援センター、本人・親族が申立てできない場合に市町長申立てを行い、成年後見制度利用支援事業を担当する市町村において一定数の理解していない職員が存在することは、今後の課題ともいえよう。

Q.2 各団体での制度理解を深める取り組み
 次に、各機関における職員の理解を深める具体的な取り組みについて確認したところ、本設問では、「②団体外の研修・学会への派遣」が32.6%と最も高い値を示した。「①団体内での勉強会・研修会」の20.6%を合わせると53.2%と過半数を研修等が占めたことになる。
 2番目に多かったのは「⑤関係団体・機関との相互連携」であった。これは実際に成年後見制度に関する相談を受けて申立てを行うことで体得していく部分が多いとことを示していると考えられる。相談機関である以上、研修等によって教科書的な知識は身に付けているが、実際に相談を受け、支援を行っていくという実践のもとで体得していくことが多いのであろう。これは自由記述でも「OJT」との回答があったことも実践を通じた理解促進と言えよう。
 また、回答した133機関のうち35機関が理解を深める取り組みを行っていないと回答している。この数値は全体の26.3%にあたり、4つにひとつの機関が取り組んでいないことになる。成年後見制度の利用が進んでいない中で各機関の職員が制度自体を学ぶ機会を持っていないことが大きな課題であろう。

Q.3 各団体に対する制度に関する相談頻度
 各機関における相談頻度を尋ねたところ、「①多くの相談がある」が5%、「②ある程度の相談がある」が50%であり、①と②の回答合計は55%であった。これは相談機関に対して一定数の相談があることを示している。そして、過半数の機関が成年後見制度に関する相談機関としての役割を実際に果たしている現状を表している。
 なお、「③あまり相談がない」「④相談がない」と回答した59機関のうち、地方自治体が12、社会福祉協議会が11、金融機関が6であり、この3つで49.2%を占めた。これらの機関は成年後見制度に関係するものの、相談機関ではないことから頻度が少ない回答となった。

Q.4 制度の現状とニーズ
 相談現場における現時点での成年後見制度のニーズについて確認したところ、「①現状よりニーズはもっと多いと思う」が52%、「②現状よりニーズはやや多いと思う」が32%であり、①と②の回答合計は84%であった。この回答から、各機関においてはほとんどが成年後見制度のニーズはもっとあると考え、感じていることが読み取れる。つまり、まだまだ把握できていない潜在的なニーズが多数あり、成年後見制度が必要でありながら制度につながっていない事例が多いことを示している。

Q.5 制度の今後のニーズ
 相談現場における将来的な成年後見制度のニーズについて確認したところ、「①著しく増加すると思う」が19%、「②徐々に増加すると思う」が72%であり、①と②の回答合計は91%であった。ここから、相談現場においては、将来的に成年後見制度のニーズが高まっていくと考えていることが分かる。

Q.6 制度の利用促進を阻害している要因
 本問は、本調査において最も重視している質問であった。成年後見制度の利用促進にあたって課題となっている要因を見極める中心的資料となることが期待される。ここから見て取れる課題については、便宜上大きく3つに分類して紹介したい。制度自体が複雑であるという最も大きな課題を一次的課題、制度を理解した上で実際に利用しようとした場合に課題となるものを二次的課題、制度運用や体制整備に関する課題を三次的課題として分類する。以下のそれぞれの課題について調査結果を紹介する。
【一次的課題:制度の複雑さ】
 上位の回答は、「①制度が複雑で理解しづらい」が11.1%、「②制度の利用方法が複雑」が10.2%、「④申立書類が煩雑」が9.9%、「③制度の周知不足」が9.6%であり、これら4つの回答合計は40.8%であった。これらは成年後見制度の複雑さに大きな課題があることを示している。成年後見制度の仕組みと利用方法が複雑なことから相談機関の職員はもちろん、住民への周知啓発が困難を極めているといえる。正に成年後見制度の一次的課題と言えるであろう。この一次的課題の解決なしには利用が促進しないことは明らかである。
【二次的課題:制度の拒否】
 5番目に多かった「⑥親族間の同意確認・意見調整が難しい」が8.0%、8番目に多かった「⑧制度利用について本人・親族の抵抗感が強い」が5.8%と高い値を示しており、成年後見制度の利用に関して本人や親族の理解の不足や拒否感が強いことが読み取れる。成年後見制度はかつての禁治産制度・準禁治産制度が戸籍記載等の理由からその利用が忌避されたとされるが、制度の複雑さはもちろん、かつての偏見等の影響も少なからず残っていると思われる。本人の拒否については、成年後見人等の法定代理人が本人に代わって決めてしまうことができる制度である以上、一定の拒否があることは当然であろう。
【二次的課題:利用判断の難しさ】
 9番目に多かった「⑦制度利用について判断できない」は5.8%であり、相談機関の職員でさえ利用の適否を判断することに困っている現状が分かります。これはもともと複雑な制度の理解に加え、利用判断には一定の経験が必要であることが分かり、利用促進の大きな障害と考えられます。
【三次的課題:利用までの長い期間】
 6番目に多かった「⑤申立手続きに時間が掛かる」が6.4%と時間的な課題もあった。最高裁判所が発表している「成年後見関係事件の概況―平成28年1月~12月―」によれば、申立てから決定に至る審理期間は1月以内が45.5%、1月超え2月以内が31.9%となっており、77.4%が2か月以内に決定がなされている。家庭裁判所で取り扱う一般的な家事事件と比べると比較的速やかな決定がなされていると思われるが、申立人や支援者からすれば現に困っている状況の中での申立てがほとんどであるので、2か月という期間は非常に長いものと感じるであろう。成年後見制度が本人の権利を奪ってしまう性格をもつ以上、慎重な判断が求められるが、申立人や支援者との感覚とは大きな時間差があり、実際の運用面での課題は多い。
【三次的課題:受任者の不足】
 同じく、「成年後見関係事件の概況―平成28年1月~12月―」によれば、受任者の71.9%は第三者後見人であり、親族後見人の28.1%を大きく上回っている。第三者の内訳は弁護士、司法書士、社会福祉士という制度創設初期から活発な活動を展開している3つの職種が大多数を占めている。その他は社会福祉協議会の法人後見、行政書士等が続いている。しかし、これらの専門職等を成年後見人等としていくには自ずと本業に支障のない範囲での受任に限られ、そもそも数に限りがあることも明白である。そのため、国は受任者不足を解消すべく市民同士が支え合う社会をめざすべく市民後見人の育成も進めている。
【三次的課題:後見報酬への不安】
 成年後見人等が活動した場合、おおむね1年の活動を経た段階で家庭裁判所に財産目録等を提出し、監督を受けることになる。同時に報酬付与の申立てを行うことで審判によって成年後見人等の報酬が家庭裁判所によって確定される。このような報酬の事後決定という不安要素から、本人や親族、支援者は「いったいいくらくらい支払うことになるのだろうか」という不安を抱くことになる。実際には本人の生活を脅かすような金額が報酬として認められることはなく、支払うことができない場合は成年後見制度利用支援事業による助成もなされることがあり、大きな心配はいらないが、報酬の事後決定という不確定要素は多くの者に漠然とした不安を与えている。

Q.7 制度周知の適切な対象
 成年後見制度の利用を促進するためにはどのような対象に周知すべきかを尋ねたところ、「⑥ケアマネジャー」、「⑦計画相談事業所」、「⑭療育手帳を有する者とその家族」、「⑬介護保険の認定を有し、認知症自立度Ⅱ以上の者とその家族」「⑮精神保健福祉手帳を有する者とその家族」の順となった。⑥と⑦は高齢者と障害者に対する支援者、⑭・⑬・⑮はいずれも当事者とその家族である。特にケアマネジャーと相談支援専門員は支援対象者をアセスメントしており、定期的なモニタリングも行っていることから適切に本人の状況を把握している立場にあり、有効な周知先と考えられたようである。また、専門職ではないが、家族も重要な立場にある。第三者であるケアマネジャー等が成年後見制度の利用が適切と判断したところで、最終的な判断は本人に最も身近な家族の意見も重要になってくるためであろう。当然、ノーマライゼーションの観点から本人の意思尊重も必要である。

Q.8 住民全般への制度周知方法で不足しているもの
 本問では、「①研修会・講演会等を通じた制度周知」が70%を占め、他の選択肢に大きな差をつけた。しかし、研修会等では興味、関心の高い者のみが参加するにとどまり、広く周知する決定的な方法とはなり得ない。成年後見制度は必要になってから制度を知ろうとする、実際に成年後見制度の申立てに関わった者が理解できるものとなってしまっており、ここにも課題が見いだせるであろう。

Q.9 制度利用にあたり支援が必要な内容
 本問では実際に利用する場合に支援が必要なことについて尋ねた。上位の回答は、「②制度利用の必要性の判断」(20.1%)、「①制度の概要説明」(18.8%)、「⑨申立書類作成の支援」(17.8%)の3つであり、他の選択肢を大きく引き離している。ここでも②と①については、本人・親族の理解が十分でない部分を支援する必要があることが伺われる。⑨についても申立手続きが煩雑であるという一次的課題につながっている。

Q.10 制度利用にあたり行政機関に期待される施策
 上位の回答は、「①制度の周知」(19.5%)、「③相談できる職員の育成」(16.7%)、「⑤成年後見制度利用支援事業の充実」(15.9%)の3つであり、他の選択肢よりも多い結果となった。次いで「②相談機関の設置」(11.1%)が続き、あとは10%未満であった。ここでも一次的課題である制度の複雑さを補うべき施策を講じることが期待されており、①、②、③がこれを示している。⑤は制度を利用しやすくするための助成等を行う成年後見制度利用支援事業の積極的運用が期待されている。

4. 考 察

(1) 利用促進における課題
 本レポート作成にあたって行ったアンケート調査の結果から、一次的から三次的までの課題分類を試みた。即ち以下の通りである。

【一次的課題】 制度の複雑さ
【二次的課題】 制度の拒否、利用判断の難しさ
【三次的課題】 利用までの長い期間、受任者の不足、後見報酬への不安

 まず、成年後見制度の根本的課題である、「制度の複雑さ」という一次的課題を解消する手段を講じなければ、成年後見制度の利用促進は実現しない。一次的課題が生じる背景としては、制度の仕組みのみならず、申立方法、申立書類、報酬の事後決定による費用の不確定さといったあらゆる複雑さが加わってその複雑さを増幅している。
 二次的課題は、一次的課題から波及した課題と言える。制度の複雑さが根底にあるが故に、制度の理解不足による拒否、利用判断の難しさが生じている。
 三次的課題は実際に制度を利用した場合の課題である。現状では必要に迫られて利用につながった場合にもまだまだ多くの不安が残ってしまう。
 これらの課題を総合して判断すると、成年後見制度をより身近な存在にする工夫が必要であろう。制度の複雑さが起因して制度自体に漠然としたイメージが付きまとっているのが現状であり、その漠然としたイメージを払拭すべき有効な手段が講じられていない。
 成年後見制度を利用するにあたって窓口となる家庭裁判所、受任者となる第三者の専門職が一般の住民に身近な存在でなはないことも心理的距離を大きくしていると思われる。これらのイメージは実際に接することで容易に解消されるが、日常では司法が身近にない中で生活している住民にとっては、先入観や固定観念で忌避してしまう部分も多いであろう。さらに、本人の権利を奪ってしまう性格をもつことも本人や家族の拒否を強める要因になっていると考えられる。この一次的課題を解消しなくては、成年後見制度の利用促進は実現しないであろう。
 一次的課題とそこから波及する二次的課題を解決していくためには根治治療的手段としては制度の仕組みを改めること、対症療法的手段としては周知啓発と相談機関の充実が有効な手立てとなり得よう。このいずれか又は両方の手段を講じていかねば制度の利用は促進することができない。利用が進まないこと自体を課題と捉えて対策を検討していくべきであろう。
 三次的課題は今後の制度の運用と維持に関する課題である。最も大きな課題としては、受任者の不足である。今後、成年後見制度の利用が拡大するのであれば、第三者後見人が多く選任される傾向が続けば、専門職の不足は明らかである。従来からの弁護士、司法書士、社会福祉士に加えて行政書士、税理士、社会保険労務士、精神保健福祉士等が新たに受任体制を整えつつあるが、これらの増加をもってしてもニーズに応えることは難しいであろう。
 したがって、国が進める市民後見人のさらなる充実が求められよう。市民後見人とは、裁判所の定義では「弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士、行政書士及び精神保健福祉士以外の自然人のうち、本人と親族関係及び交友関係がなく、社会貢献のため、地方自治体等が行う後見人養成講座などにより成年後見制度に関する一定の知識や技術・態度を身に付けた上、他人の成年後見人等になることを希望している者」(※4)とされ、住民が支え合っていくことが想定されている。しかし、三重県内では伊賀市及び名張市が共同で市民後見人を養成し活動しているのみで、その他の市町ではいまだ選任されておらず、全国的にもあまり活発に行われているわけではない。

(2) 桑名市における「法福連携」の取り組み
 ここで桑名市の取組事例を紹介したい。桑名市では成年後見制度の利用促進に向け、様々な取り組みを行っている。特に市長申立ても積極的に行っており、2015年度には13件の市長申立てを行った。これは県内の市町長申立総数78件の16.7%にあたり、四日市市の27件に次いで多く、人口規模に比すると県内で最も件数が多かった。
 桑名市では、2011年4月から「法福連携」という取り組みを行い、桑名市直営の地域包括支援センターの社会福祉士が中心となって、弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、税理士、土地家屋調査士の有志とのネットワーク構築に努めている。これらの法律専門職は、無償での活動を基本としており、高齢者虐待防止研修会への参加、虐待防止チラシの作成、困難事例支援への協力など多様な活動を行っている。
 中でも成年後見人等の受任が特筆される。市長申立案件に限らず、申立書類の作成受任、成年後見制度に関する相談等の協力も行っている。これらの法律専門職は、一方的な協力を行うのではなく、認知症の理解を深めるべく認知症サポーター養成講座の受講等も行っている。
 2015年7月には桑名市社会福祉協議会に委託する形で桑名市福祉後見サポートセンターを設置した。2016年2月には市民後見人養成講座を開講し、28人が修了、うち13人が候補者名簿に登録した。現在は2017年度上半期の市民後見人誕生をめざして受任を想定している案件とのマッチングを経て申立準備に入っている段階にある。
 また、桑名市では成年後見制度サポーター養成講座の企画も行っている。これは、金融機関等の職員を対象に90~120分程度の成年後見制度に関する研修を受講してもらい、相談スキルを向上させることをめざしている。2017年度から実施する予定であり、地域全体の相談力向上が期待されている。
 桑名市では地域包括ケアシステム(※5)の構築を積極的に進めており、成年後見制度サポーターや市民後見人の養成は、まさに住民同士が「支え合う社会」を実現するための有効な具体的施策と言える。(【別添資料②】桑名市における「法福連携」のあゆみ

5. 結びに

 成年後見制度は仕組みの複雑さから一般住民への理解が十分になされていない。合わせて相談機関も十分に機能していないことからその理解の促進がなされていないままである。現状では成年後見制度の利用が必要な状態に追い込まれてから住民が制度を知る努力を始めるだけであり、相談機関も実際の相談が生じてから調べ始めるのが多いと思われる。
 本レポートで提唱した一次的課題の解消を図るべく、制度の仕組みを見直すことは必要であろう。その上で、周知啓発と相談機関の充実を図る何らかの手立てが求められる。
 今後の運用に関しては地域包括ケアシステムと同様の考え方をもとにしていくべきであろう。
 人口はジェットコースター的減少期に入った。今後、ヒト・モノ・カネの増加は見込み辛く、その限定的な環境の中で行政はもちろん、人の暮らしのあり方も適合するよう変化させていかねばならない。当然、成年後見制度に協力的な専門職に関しても増加は期待できない。そのためには住民同士が支え合う社会を実現しなければ、成年後見制度に限らず暮らしのすべてが回っていかないことが予想される。
 私たち地方自治に携わる者は、大きな転換点に立たされている。
 本レポートでは成年後見制度の在り方について検討したが、今後の人口減少社会では「支え合う社会」をいかに構築していくかが課題である。住民に支え合うことを求めた場合、理解が十分でないと「行政は何もしない」「住民負担の増加」「丸投げ」等と捉えられかねない。なぜ「支え合う社会」が必要なのかという根本的理由を丁寧に伝え、その重要性を周知していかねば実現しないであろう。成年後見制度の利用促進も「支え合う社会」の具体的実現手法のひとつとしてなされていくべきと考える。

【支え合う社会WG】
座  長  堀井 清太  津市職員組合
委  員  岡  秀和  三重県職員労働組合
委  員  川北 佳雅  三重県職員労働組合
委  員  西村 健二  桑名市職員組合
委  員  西尾 高洋  志摩市職員組合
委  員  駒田 智哉  朝日町職員組合
委  員  片岡 紀貴  川越町職員組合
委  員  児玉 一成  菰野町職員組合(~2016.7)
委  員  大矢 哲司  菰野町職員組合(2016.8~)
委  員  荒木 隆伯  明和町職員労働組合
委  員  佐々木 剛  三重県地方自治研究センター(~2017.3)
委  員  大川 昌士  三重県地方自治研究センター(2017.4~)
委  員  高沖 秀宣  三重県地方自治研究センター
事務局長  奥本 智礼  自治労三重県本部
事 務 局  高安 圭子  自治労三重県本部

【WG開催状況】
1 自治研推進委員会及び自治研ワーキンググループ合同会議
 (1) と  き  2016年5月17日
 (2) と こ ろ  三重地方自治労働文化センター

2 第2回ワーキング
 (1) と  き  2016年7月13日
 (2) と こ ろ  三重地方自治労働文化センター

3 第3回ワーキング
 (1) と  き  2016年8月9日
 (2) と こ ろ  三重地方自治労働文化センター

4 第4回ワーキング
 (1) と  き  2016年9月29日
 (2) と こ ろ  三重地方自治労働文化センター

5 第5回ワーキング
 (1) と  き  2017年3月13日
 (2) と こ ろ  三重地方自治労働文化センター

6 第6回ワーキング
 (1) と  き  2017年4月18日
 (2) と こ ろ  三重地方自治労働文化センター

7 第7回ワーキング
 (1) と  き  2017年5月18日
 (2) と こ ろ  三重地方自治労働文化センター

8 第8回ワーキング
 (1) と  き  2017年6月28日
 (2) と こ ろ  三重地方自治労働文化センター




※1 内閣府 平成28年版高齢社会白書(全体版)P.60
※2 「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)
※3 最高裁判所パンフレット「成年後見制度 -詳しく知っていただくために-」(平成28年10月)P.1
※4 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―平成28年1月~12月―」10頁注5
※5 地域における医療及び介護の総合的な確保の推進に関する法律第2条によれば、「地域包括ケアシステム」とは、地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防(要介護状態若しくは要支援状態となることの予防又は要介護状態若しくは要支援状態の軽減若しくは悪化の防止をいう。)、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制をいう。