【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、各自治体において地域包括ケアシステムの構築の実現が求められています。その基盤整備の1つとして実施している、いきいき百歳体操を活用した住民主体の集いの場づくりの取り組みについて報告します。



いきいき百歳体操を通じた住民主体の集いの場づくり


島根県本部/吉賀町職員労働組合 中田 菜摘

1. 取り組みの経緯

 我が国では、2025年には団塊の世代が75歳以上になり、3人に1人が65歳以上に、5人に1人が75歳以上になるといわれています。吉賀町においては、2017年3月末現在で高齢者数は2,684人、高齢化率は42.56%と全国平均を大幅に上回り、超高齢社会を迎えています。このような状況の中で、今後は団塊の世代が75歳以上になる2025年を目処に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が必要になります。
 地域包括ケアシステムには「自助」「互助」「公助」「共助」の4つが必要とされています。「自助」とは自分で自分を助けることで、自分の力で住み慣れた地域で暮らすために、介護予防や健康増進活動に取り組むことです。「互助」とはお互いがそれぞれに抱える生活課題を解決し合う力のことで、住民同士の助け合いのことです。「共助」とは制度化された相互扶助のことで、医療・年金・介護保険など被保険者による相互の負担で成り立つものです。「公助」とは自助・互助・共助では対応できないことに対して最終的に行う社会福祉制度のことです。それぞれが独立するのではなく、最大限に力を出し合うことが重要になります。しかしながら、少子高齢化や財政状況を考えると、「公助」「共助」の大幅な拡充は難しく、「自助」「互助」の果たす役割が今後大きくなっていくと考えられます。
 吉賀町では、住み慣れた地域で暮らし続けることのできる地域づくり、要介護状態や認知症になっても生きがいや役割を持って生活できるような居場所と出番づくり、人と人との繋がりづくりの基盤整備のひとつとして、2014年度にモデル事業として行った「いきいき百歳体操」を活用した住民運営の集いの場づくりに取り組んでいます。この取り組みを通して、介護予防・健康増進活動に取り組む「自助」、そして住民同士の顔の見える助け合いである「互助」が強化されることを期待しています。

2. 「地域づくりによる介護予防推進支援モデル事業」への参加

(1) 「地域づくりによる介護予防推進支援モデル事業」とは
 「地域づくりによる介護予防推進支援モデル事業」とは、地域において元気高齢者と二次予防事業対象者を分け隔てることなく、体操などを自主的・主体的に行う住民運営の集いの場の創設をめざすというものです。吉賀町では、高知県を始め全国で効果が実証されている「いきいき百歳体操」を媒体に、自主グループ活動の創設に取り組みました。いきいき百歳体操とは、手首と足首におもり(0kg~2.2kgまでの11段階に負荷調節ができる)をつけて行うことで、筋力やバランス能力を高める運動です。椅子に座り、DVDを見ながら実施します。

(2) モデル事業の取り組み経過
 2014年度は1ヵ所の創設をめざし、野中自治会をモデル地区に定め活動を行いました。野中自治会長、高齢者ふれあいサロンのリーダーへの打診を経て、野中地区の高齢者ふれあいサロンにて説明会を開催しました。多数の方が参加の意向を示したため、野中自治会でいきいき百歳体操に取り組むことになりました。取り組むにあたっては、3人以上のグループで取り組むこと、週1回開催すること、最低3ヵ月間は継続して取り組むこと、という3点をお願いしました。取り組みの経過は以下のとおりです。

2014年 11月17日【1回目】 プレゼンテーション(動機付け)
  11月24日【2回目】 初回評価
  12月1日【3回目】 おもりの増やし方、記録の方法
  12月8日【4回目】 体操方法の確認
  12月15日【5回目】 自主運営
 
2015年 2月2日【12回目】
  2月9日【13回目】 3ヵ月目評価
  2月16日【14回目】 結果説明会

 最初4回のみ役場保健師や包括支援センター職員が介入し、動機付けのためのプレゼンテーションや、体操指導などを実施しました。5回目以降は自主運営で取り組んでいただきました。寒い時期であったにもかかわらず、週1回地区の集会所に集い、体操に取り組まれました。

(3) モデル事業の成果
 体操に取り組み始めた当初と、3ヵ月後とで評価(体力測定・アンケート)を行い、体操の成果の確認を行いました。結果は以下のとおりです。

 下肢筋力を評価している椅子からの立ち上がりテスト、バランス能力を評価している開眼片足立ちテストの結果に改善が見られました。さらに主観的健康感も高まりました。主観的健康感とは、医学的に健康な状態のことではなく、自らの健康状態を主観的に評価する指標であり、死亡率・有病率などの客観的な指標では表せない全体的な健康状態を捉える健康指標です。主観的健康感が高い人の方が生存率が高いという研究報告もあり、いきいき百歳体操を取り組むことで主観的健康感が高まったことは大きな成果だと言えます。

3. 全町普及の取り組み

(1) 展開方法
 野中自治会での取り組みで一定の成果が得られたため、2015年度から全町普及に取り組んでいます。吉賀町内35地区で開催されている高齢者ふれあいサロンを中心に啓発活動を行っています。啓発の際には、"いつまでも元気でいるためには運動機能の維持・向上が重要であること"、"運動機能を高める手段としていきいき百歳体操が有効であること"、"いきいき百歳体操の実施を希望すれば全力で支援すること"を伝えますが、「やってください」とお願いはしません。いきいき百歳体操に取り組むか、取り組まないかについては住民自身に判断してもらうようにしています。立ち上げにあたっては、3人以上のグループで取り組むこと、週1回開催すること、最低3ヵ月間は継続して取り組むこと、という3点をお願いしています。加えて、テレビ・DVDデッキ・椅子はグループで準備してもらうこととしています。立ち上げ後は、初回の4回、3ヵ月後、6ヵ月後、12ヵ月後には支援に入ります。12ヵ月を経過したグループには6ヵ月に1回程度支援に入っています。

(2) 現 状
 体操に取り組むグループは2015年度末で7ヵ所になり、2016年度末には20ヵ所にまで増えました。2017年度5月末時点では22グループが立ち上がっています。高齢者ふれあいサロンでの啓発活動もさることながら、住民同士の口コミの力が大きいと感じています。「いきいき百歳体操グループの立ち上げ」→「参加者が効果を実感」→「他地区への口コミ」→「いきいき百歳体操グループの立ち上げ」という好循環で全町への広がりを見せています。
 地区の集会所にはテレビ、DVDデッキの設備がないところが多いため、当初はテレビ・DVDデッキの準備が開始のハードルになるだろうと予測していました。しかし実際には、自治会長さんにかけあって購入してもらったり、家で使っていないものを持ち寄ったり、寄贈したり……と様々な方法で準備をされます。やる気になった住民さんの行動力に驚かされています。

(3) 全町普及の成果
 いきいき百歳体操は、重りの負荷を個人の能力に合わせて調整することができることや、単純でゆっくりとした動きを繰り返す体操であることから、元気な高齢者から虚弱な高齢者まで誰もが行うことができます。そのため、脳卒中の後遺症で麻痺のある方、認知機能が低下している方、閉じこもりがちな方など、身体機能レベルも、認知機能レベルも様々な方の参加があります。様々なレベルの参加者がいるなかで、元気高齢者が虚弱高齢者の重りの装着や記録を手伝ったりと、会場内で自然と助け合いが生まれます。また元気参加者が閉じこもりがちな人や虚弱な人を体操に誘い合う姿や、連絡もなく体操を休んだ方には電話で様子を確認する姿も見られるようになりました。"体操をする場"から自然と"地域の支えあい、見守りの場"にも発展しつつあるように感じています。
 表1は参加者の自覚的効果をまとめたものです(3ヵ月後アンケートより)。身体面で良い変化を実感しているのはもちろんのこと、精神面や社会面においても良い変化があったことが分かります。中でも「仲間ができた」と多数の方が回答されており、体操を通じて住民同士の仲間意識や絆が深まったことが分かります。

 

【表1】
いきいき百歳体操に参加しての自覚的効果(n=148) 人数(人) 割合(%)
運動不足が解消された 52 35.1
気分がよくなった 45 30.4
仲間ができた 42 28.4
体の調子が良くなった 40 27.0
体力がついた 37 25.0
外出する機会が増えた 29 19.6
転ばなくなった 25 16.9
肩こりがやわらいだ 25 16.9
腰痛がやわらいだ 24 16.2
膝痛がやわらいだ 19 12.8
外出するのが楽しくなった 18 12.2
他人から「なんだか元気になったね」とほめられた 6 4.1

 "最低3ヵ月間は継続する"ということを立ち上げの条件としていますが、3ヵ月間で辞めてしまうグループはなく、どのグループも継続して取り組んでいます。体操だけを目的にしていたら継続は難しいと思います。"仲間がいる"そして"仲間に会える"という楽しみがあるからこそ継続できるのだと思います。体操を通して住民同士の仲間意識が深まり、その仲間意識が体操の継続意欲に繋がっています。       
 いきいき百歳体操の効果は介護予防にとどまらず、地域包括ケアシステムの基盤となる住民同士のソーシャルキャピタルの醸成にも寄与しています。

(4) 今後にむけて
 住民主体の活動ではありますが、「やらせっぱなし」「放ったらかし」にせず、必要な時には一緒に悩み、考え、支えていける関係性でありたいと思っています。いきいき百歳体操を通じた住民主体の通いの場づくりの取り組みを通して、地域住民は自分たちが何をすればいいのかを自分で選び、行動する力を持っているということを体感しました。地域住民が最大限に力を発揮できるように、縁の下の力持ちとして、今後も住民主体の活動を支援していきたいと思います。