【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

 介護保険制度改正等にともなって、在宅介護を中心とした地域包括ケアシステムの構築が求められるなか、佐伯市における在宅介護に関する調査研究事業の取り組み報告。



平成29(2017)年度共同調査研究事業の実施について
―― 佐伯市における在宅介護に関する
調査研究事業の取り組みについて ――

大分県本部/佐伯市職員労働組合 戸高 真一

1. 事業実施に至った経緯

 事の発端は、おそらく2年くらい前に、市内の訪問看護事業所の事務長から、富山モデルと言われていた「障がい者と高齢者の両方にサービス提供できる構造改革特区」の資料をいただくとともに、お話をお聞きしたことだったと思います。
 私も防災危機管理課から異動して1年目であり、その時はあまり意味もわからないまま、話を聞いていた記憶があります。
 その後も、看護小規模多機能施設への移行等の相談を受けたりしましたが、現行の第6期介護保険事業計画では実施できなかったことが、自分でも歯がゆい思いでした。
 その一方、地域密着型サービス運営委員会の中で、第6期の介護保険事業計画では、国・県の方針もあり、小規模多機能居宅介護・看護小規模多機能居宅介護・定期巡回随時対応型介護看護の公募計画に基づき公募を行いましたが、応募者がないという現状もありました。
 また、事業所の方からも実地指導等で介護現場を訪れた際に、小規模多機能居宅介護施設や定期巡回・随時対応型介護看護施設から事業を実施する際の採算面での問題やケアマネジャーへの制度の周知不足等、色々な面で悩みながら事業を展開している話も聞きました。
 そこで、平成28(2016)年7月に、平成28年度老人保健健康増進事業(老人保健事業推進等補助金)「高齢者の在宅生活継続に向けたサービスのあり方に関する調査研究」で応募し、調査研究をまず進めてみようと考えましたが、残念ながら不採択となりました。
 次に、平成28(2016)年8月に、一般財団法人地方自治研究機構の「平成29年度共同調査研究事業」に、さらに小・中学校の廃校利用や共生型社会の実現を見据えた障がい者との介護施設やサービスの共同利用を盛り込んで応募したところ採択され、事業実施の運びとなりました。

2. 佐伯市における在宅介護の現状と課題

(1) 佐伯市の人口の推移

 このグラフは昭和55(1980)年~平成52(2040)年までの人口の変化及び推計をしたグラフとなります。佐伯市では、65歳以上の高齢者人口のピークが平成32(2020)年であり、75歳以上の高齢者人口のピークが平成42(2030)年になることが特徴です。

(2) 佐伯市の介護サービス別給付費と介護保険料基準額の推移

 佐伯市における介護保険料基準額の推移です。
 現在、第6期介護保険事業計画(平成27(2015)年~平成29(2017)年)については、第5期と同様に5,300円となっています。しかし、先ほどの高齢化人口の増加等により推計すると、第7期介護保険事業計画においては、6,700円、又その後第9期介護保険事業計画では8,000円必要だと予測されています。
(給付額は、平成18(2006)年で4,539百万円、平成26(2014)年7,208百万円、平成37(2025)年は10,701百万円と予想されます。)
 今後の負担増が予測されています。

(3) 国の方針、佐伯市の取り組み

 国は、費用負担の軽減をめざし、介護保険制度改正等により、利用者負担の増加や地域包括ケアシステムの構築により、施設介護から在宅介護へ、公助から共助・自助へのシフトチェンジを推進しています。
 佐伯市においても、在宅での介護や看取りを想定して、小規模多機能居宅介護、看護小規模多機能居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の3つの事業をこれからの在宅介護の中心と考え、公募を行い施設の整備を行ってきました。
 しかし、現在は小規模多機能居宅介護施設(2施設)、看護小規模多機能居宅介護施設(1施設)、定期巡回・随時対応型居宅介護施設(2施設)と施設整備は伸び悩み、九州一広い佐伯市をサービス提供するには、十分といえません。

(4) 今後の課題
① 介護サービス提供に係る地域間格差の是正
 ア 少子高齢化・過疎化による地域間格差を是正し、地域におけるサービス提供の手法を構築する。(効率化・採算化への取り組み)
 イ 日常生活圏域の見直し(事業ごと、サービスごとの圏域の設定を検討)
② 共生社会の実現に向けての取り組み
 ア 高齢者や障がい者等同一施設内での複数福祉サービス提供を検討
 イ ふれあいサロン、さいきの茶の間運営事業等元気なお年寄りやボランティアの活用によるサービスの提供を検討
③ 小規模多機能居宅介護、看護小規模多機能居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の充実
 ア 先進地の取り組みを検討し、佐伯市での手法を検討
 イ 公設民営、NPO法人等でのサービス提供の検討
④ 廃校等公共施設の再利用
 ア 廃校等の改修による地域の拠点整備を検討
 イ 生活支援ハウス等直営事業の再構築
 以上の4項目について、課題を整理していくとともに、佐伯市における在宅介護の支援の手法を研究し、第7期の介護保険事業計画に反映するとともに、将来の在宅介護の理想像も模索していく予定です。

(5) 事業実施の取り組み
① 在宅介護推進委員会の設立
 ・市内の在宅介護事業所、障がい者福祉施設、大分大学、県職員、市職員等で構成する委員会を設立した。(管理者レベル)
② 在宅介護作業部会の設立
 ・市内の在宅介護事業所、障がい者福祉施設、県職員、市職員等で構成する作業部会を設立した。(介護従事者レベル)
平成29(2017)年4月28日(金)第1回委員会及び作業部会合同開催
     ″  5月17日(水)事業所職員聞き取り調査
     ″  6月15日(木)~16日(金)佐賀県現地視察調査

(6) 先進地の事例
① 医療法人慈孝会 七山診療所
 ・毎日、午後から訪問診療と巡回診療を行っている。巡回診療については、集会所及び公民館等に行っている。午前中は、診療所での受診対応であるが、緊急時にはそちらを優先して対応している。
 ・巡回診療は、毎月県の許可が必要(3ヶ月分まとめて申請している)。
 ・巡回診療先を視察。10人ほどが来ていた。地域の方は、昼から診察を受け、その後も17時まで談笑したりしている。巡回診療をすることで、地域住民の集いの場となっている。
 ・院長自身で、夜間に寺子屋を実施し、自助及び互助等の話をしていて、地域の中へ自ら入っている状況である。
 ・院長に行政に対して、不満や意見があるとしたらと聞いたところ、何をするにも遅い、先を見て欲しい、ことが起こってから動くと言っていた。
② 七山ぬくもいホームなないろ
 ・介護サービスとして、地域密着型通所介護(定員:12人)及び認知症対応型通所介護(定員:12人)を実施し、ぬくもいホーム(共生)として、宿泊(お泊りデイ)、障がい児・者、乳幼児一時預かりを実施している。
 ・お泊りデイは、9人まで受入れ可能で、平均6人の利用がある。1人で対応し、看護師が近くに住んでいるので、緊急の際は対応は可能である。 
③ 地域共生ステーション 特定非営利活動法人 とさくさん
 ・古民家を改修した「たしろ茶屋」を運営。カフェを経営している。地域住民を巻き込んだ様々な事業(ノルディックウォーク、手芸、リトミック教室等)を実施している。
 ・「デイサービスとす」では、高齢者、障がい児・者、こどもと共生型サービスを実施できている事業所であった。
 ・デイサービスとしても、介護等を含めて、自立支援をめざしたサービス提供を考えている事業所であった。
 ・理事長等が日々、いろいろなことを地域住民を含めながら考えている方で、地域包括ケア、地域づくりに目を向けた方であった。
④ 佐賀県庁 健康福祉部 福祉課 地域福祉担当
 ・佐賀県庁にて説明を聞く
⑤ 唐津市及び唐津市地域包括支援センター(計7人)
 ・説明会及び懇親会でゆっくり交流を深めた

(7) 今後の取り組み
8月 第2週 第2回事例調査 富山市、石川県
        (構造改革特区による障がい者と高齢者の相互利用)
9月 第2週 第3回事例調査(1班) 福岡県大牟田市
        (小規模多機能居宅介護、定期巡回・随時対応型介護看護)
       第3回事例調査(2班) 鹿児島県垂水市
        (構造改革特区による障がい者と高齢者の相互利用)
10月 第2週 第4回事例調査 奈良県、あすなら苑
        (小規模多機能居宅介護、定期巡回・随時対応型介護看護)
12月 第2週 第6回事例調査 兵庫県朝来町、生駒市
        (地域ケア会議)
1月 第2週 第7回事例調査(行き先未定)
        (廃校利用)

3. まとめ

 佐伯市の中で、こういった事業を構築することは、残念ながら財政的な面からもかなり厳しいですが、国・県の補助事業の採択を受けることで、企画サイドや財政サイドからの理解も得られ、事業実施の実現が可能となります。
 今回も市単独費での予算計上であれば、視察旅費などほとんどのケースで認めてもらえない現状でありましたが、6割補助の事業認可となったため、意欲を認められ予算も計上することができました。
 今回の事業構築は、佐伯では前例のない、高齢者と障がい者の両方を介護サービスする事業の構築や、新しく始めた定期巡回・随時対応型訪問介護看護等事業実施のため、介護事業所の職員も苦慮している現状がありました。
 そこで、いちばんの特効薬は、先進地の事例をみて、佐伯市でやれる効果的な部分を参考にして事業展開していくことが、事業者のヒントにもなり事業構築の近道だと考えました。
 今回の委員会や作業部会は行政主導で無理やり設置した感は否めないし、委員間のモチベーションのギャップを埋めることは厳しいですが、先進地の事例調査に参加することで、少しでも何かヒントを得たり、モチベーションを上げることができれば、今後の佐伯市の在宅介護の推進ができると思っています。
 「人材育成事業の構築」一言で言うのは簡単ですが、その成果を費用対効果で表すことは難しいですし、事業を構築する手間暇もかかると思います。
 しかし、こういった補助事業を実施することで、少しでも参加者の意欲が上がり、それぞれの事業所で今回の経験を持ち帰り、その経験を生かし活躍することができれば、佐伯市にとっての財産になり、事業実施の効果だと思います。