【論文】

第37回土佐自治研集会
第10分科会 みんなで支えあおう 地域包括ケアとコミュニティー

地域で高齢者のニーズを考える
―― 地域包括ケアシステムは機能しているか ――

兵庫県本部/直属支部 辰巳 信彦

1. はじめに

 1950年には500万人に満たなかった日本の高齢者数は、2017年9月時点で3,514万人(高齢化率27.7%)と過去最高を記録した。日本の人口は、2005年からほぼ横ばいで推移していたが、2010年以降、全国的に総人口が減少し始め、少子化と高齢化が同時並行し、少子高齢社会が急速に進みつつある。2035年には高齢化率が33.4%で3人に1人が高齢者となる見込みである。
 日本の社会保障制度は、4割が借金で賄われており、この間、次世代に負担を先送りしてきたが、限界に近い状況となっている。この急激な少子高齢化により、社会保障財源がさらに厳しくなることから、日本の社会経済のあり様を根底から見直すべきときが来ていると言える。
 今回、高齢者福祉について論文を書いてみようと思った契機は、私の地元である姫路市においても着実に少子化・高齢化が進みつつあることに加え、地元自治会の事情から急きょ民生・児童委員として、地域の高齢者支援活動の末端を担うこととなり、地域での高齢者の見守り・安否確認等に携わるなかで、自治会・民生委員等をはじめとする地域の多くボランティアの協力によって様々な取り組みがされていることを知ったこと、またその一方で介護保険制度がどう機能しているのか、関係機関とは連携できているのか、高齢者の側からは見えづらい部分があることを感じたこと、そして地域で高齢者を支えることの重要性を改めて認識することとなったからである。
 地域の活動に参加することとなり、最初に疑問を感じたのは、地域包括ケアシステム構築の考え方が地域住民に浸透しているのだろうか、またその中核となる地域包括支援センターが十分に役割を果たしているのだろうか、地域の高齢者にとって地域包括支援センターが身近な頼れる存在として機能しているのだろうか、ということであった。
 姫路市の現状を概観しながら、地域における高齢者支援の有り様について考察してみたいと思う。

2. 地域包括支援に向けた経過

 高齢化社会の進行に伴って、高齢者介護が社会問題化し、2000年4月より介護保険が制度化され、在宅サービスを中心にサービス利用が急速に拡大するなど、介護保険制度は老後の安心を支える仕組みとして定着してきた。
 「制度の持続可能性」にむけ、3年ごとに制度改正が行われてきたが、制度の定着、利用者の増加とともに、介護保険の総費用は急速に増大してきている。
 介護保険の総費用実績値は、スタート時の3.6兆円から2017年度の予算ベースで10.8兆円と約3倍に増大しており、この伸びに比例して65歳以上の高齢者である第1号被保険者が負担する保険料標準月額も全国平均で約1.9倍に増加している。
 地域包括ケアシステムという言葉は、2003年に高齢者介護研究会がまとめた「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」の中で、初めて使用されたと言われているが、その目的や概念が2003年当時に既に示されている。地域包括ケアシステムは、高齢者を対象としたケアの概念を示したものであり、2012年制度改正において具体的なメニューとして地域支援事業が示された。
 この間の地域支援事業に係る主な経緯を振り返れば、2006年4月の介護保険法改正において「地域支援事業」が同時に創設され、高齢者が地域で自立した日常生活を送れることを目的に、市町村が責任主体となって実施されることとなった。
 地域支援事業は、
① 「介護予防事業」:要介護認定で「非該当」になった人が対象
② 「包括的支援事業」:地域包括支援センターが行う相談業務等
③ 「任意事業」:市町村独自の工夫に基づく事業
の3分野に分けられ、その中核となるのが①の「介護予防事業」とされた。
 2012年4月の介護保険法改正により、介護予防・日常生活支援総合事業が創設され、「事業の実施方法及び内容について自治体の裁量を大きく設定し、多様なマンパワーや社会資源を活用できる仕組み」をめざすものとされ、2015年介護保険法改正では介護予防・日常生活支援総合事業、包括的支援事業、任意事業の改正が行われ、要支援1・2の介護予防訪問介護・通所介護が介護保険から介護予防・日常生活支援総合事業として市町村事業に移行することとされたほか、地域支援事業が3年の移行期間を経て、2018年度からすべての市町村に移行されることになった。

(1) 法改正前の地域支援事業
① 「介護予防事業」(含む「介護予防・日常生活支援総合事業」)
  ○二次予防事業 ○一次予防事業
② 「包括的支援事業」
  ○地域包括支援センターの運営
③ 「任意事業」
  ○介護給付費適正化事業  ○家族介護支援事業  ○その他の事業

(2) 改正法に基づく地域支援事業(2015~2017年度末までの3年以内に実施)
① 「介護予防・生活支援総合事業」
  ○介護予防・生活支援サービス事業  ○一般介護予防事業
② 「包括的支援事業」
  ○地域包括支援センターの運営  ○在宅医療・介護連携推進事業 
  ○認知症総合支援事業  ○生活支援体制整備事業
③ 「任意事業」
  ○介護給付費適正化事業  ○家族介護支援事業  ○その他の事業

 これは、地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化をめざすとされ、「地域がそれぞれの実情に応じて判断できるよう」、また「地域の住民同士で互いに助けあいながら」、介護予防・生活支援関連の事業をより柔軟に行いやすくすることが狙いであった。とりわけ、高齢者が住み慣れた地域でも生活を継続できるようにするため、介護、医療、生活支援、介護予防を充実するとして、①在宅医療・介護連携推進、②認知症施策の推進、③地域ケア会議の推進、④生活支援サービスの充実・強化をはかり、全国一律の予防給付(訪問介護・予防介護)を市町村が取り組む地域支援事業に移行し、NPO、民間企業、住民ボランティア、共同組合等による多様なサービスの提供を可能にするとした。

3. 地域包括ケアシステムの構築とは

 著しい高齢化に伴い医療と介護に関わる事柄は非常に大きな課題であり、今後ますます進む人口減少・高齢社会にむけて、これまでの社会保障制度では対応できなくなることから、厚生労働省は地域包括ケアシステムの構築を推進してきたといえる。 
 「地域包括ケア」の考え方は、高齢者が住み慣れた地域で尊厳のある生活を継続することができるよう、要介護状態になっても高齢者のニーズや状態変化に応じて必要なサービスが切れ目なく提供される「包括的かつ継続的なサービス体制」をめざすものであり、こうした体制を支える地域の中核機関として、「地域包括支援センター」の機能強化をはかり、地域包括ケアシステムの実現に向けて、高齢者の社会参加・介護予防に向けた取り組み、配食・見守り等の生活支援体制の整備、在宅生活を支える医療と介護の連携及び認知症の方への支援の仕組み等を一体的に推進しながら、高齢者を地域で支えていく体制を構築するため、市町村において地域支援事業を実施することとなった。
 以上が厚生労働省の解説であるが、実のところ、団塊世代が後期高齢者になる2025年に向けて、年々増え続ける高齢者福祉の経費を見据えて、介護保険制度維持のための見直し、社会保障費の抑制を期待しての施策であったと言える。
 地域包括ケアシステムは、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制を構築するものであり、厚生労働省は地域支援事業について、次のとおり提起している。
 生活支援・介護予防サービスの充実と高齢者の社会参加として、①単身世帯等が増加し、支援を必要とする軽度の高齢者が増加する中、生活支援の必要性が増加。ボランティア、NPO、民間企業、共同組合等の多様な主体が生活支援・介護予防サービスを提供することが必要。②高齢者の介護予防が求められているが、社会参加・社会的役割を持つことが生きがいや介護予防につながる。③多様な生活支援・介護予防サービスが利用出来るような地域づくりを市町村が支援することについて、制度的な位置づけの強化を図る。
 具体的には、生活支援・介護予防サービスの充実に向けて、ボランティア等の生活支援の担い手の養成・発掘等の地域資源の開発や相互ネットワーク化などを行う「生活支援コーディネーター(地域支え合い推進委員)」の配置などについて、介護保険法の地域事業に位置づけると言うものである。さらに、市町村が実施主体となって、様々な地域資源を活用して地域支援事業を担っていくというものである。
 これでもかと言うように、さまざまな装置が配備されつつあるが、果たして充分に機能しているだろうか。多様な主体が様々なサービスを提供しているが、全体的にうまく調整・連携できているだろうか。
(厚生労働省のホームページより転載)

4. 地域包括支援センターの位置は

 それでは、姫路市を中心に地域包括ケアシステムの現状を検証するため、まずは包括的支援事業を担う地域包括支援センターについて見ることにする。
 厚生労働省は、地域包括ケアシステムを支えるのが、中核機関という形で各々のエリアに存在している地域包括支援センターであり、要介護状態になる前の要支援、要支援になる前のハイリスクグループ(特定高齢者)を継続的にマネジメントするために地域包括支援センターと介護予防支援事業所の一体的運営をすることとした。
 地域包括支援センターは、2006年から全国規模で設置が進められ、2015年の4月の時点でおよそ4,685か所(ブランチ等7,268か所)となっている。
 兵庫県内の中核市4市を比較してみると次のようになる(明石市は2018年4月1日より中核市に移行)。

(人口・高齢化率は2017年10月1日現在)
自治体名 面積(km2) 人口(人) 高齢化率 設置数 運営形態
姫 路 534.48 528,456 26.3% 23か所 社協5、福祉法人12、医療法人3、生協1、株式会社2
尼 崎 50.72 451,405 28.1% 12か所 福祉法人10、医療1、生協1
西 宮 100.18 487,207 23.2% 15か所 福祉法人14、医療法人1
明 石 49.42 295,908 26.1% 2か所+ブランチ12か所 社協3、福祉法人5、医療法人6
神戸市 557.02 1,532,153 27.6% 76か所 福祉法人53、医療法人13、財団3、生協3、株式2、独立行政法人1、NPO1
京都市 827.83 1,472,027 27.5% 61か所  
大阪市 225.21 2,713,157 25.3% 66か所  
堺 市 149.82 831,858 26.9% 21か所+基幹型7か所  

 姫路市では、地域包括支援センターの設置は、33の中学校区に対して、23か所となっており、中学校区と一致するところ、中学校区よりも広範囲となっているところもある。
 地域包括支援センターごとの対象高齢者数をみると、離島や合併前の旧町の小規模を除けば、少ないところで3,881人、多いところで9,368人となり、平均では6,500人となっている(2017年3月31日現在)。
 自治体からすれば、補助金を含めた財政面での制約もあり、費用対効果のバランスの上で今日の体制になっていると思うが、今後ますます進行する少子高齢化に対して、現状の事業提供の継続が可能なのかどうかも問われている。
① 地域包括支援センターの利用の有無
【一般高齢者】
【要支援者】
 地域包括支援センターを利用したことがある割合は、一般高齢者では7.6%だが、要支援者では75.9%となっている。
(2016年度姫路市高齢者実態意向調査より)
 地域包括支援センターの人員・体制等の検証と合わせ、一つのセンターで、高齢者6,500人を対象(後期高齢者数は平均で3,226人)となっていることの検証も問われているのではないか。
 次に、運営状況をみてみると、姫路市の地域包括支援センターは、2018年度では、23か所あり、2006年度当初は、すべて直営で8か所の地域包括支援センターがスタートしたが、今はすべて委託運営となり、その委託先は、姫路市社会福祉協議会が5か所、社会福祉法人が12か所(10法人)、医療法人(生協)が4か所、株式会社が2か所となっている。
 同じ兵庫県内の中核市である尼崎市の設置状況を見ると、12か所となっているが、運営は、社会福祉法人10、医療法人1、生協1である。西宮市は、社会福祉法人14、医療法人1となっている。
 単身世帯等が増加し、支援を必要とする軽度の高齢者が増加する中、生活支援の必要性が増加し、ボランティア、NPO、民間企業、共同組合等の多様な主体が生活支援・介護予防サービスを提供することが必要とされ、2015年度では全国で地域生活支援センターの設置主体は、直営が約3割、委託が約7割となっているが、運営は社会福祉法人55%、社会福祉協議会19%、医療法人17%となっており、株式会社を含むその他10%という委託状況になっている。
 その運営については概ね全国的に次のように集約されているところである。
・これまで市町村の在宅支援センター等で行われていた相談業務等を外部委託できることにより市町村窓口負担の軽減がされている。
・専門的な知識を持つ職員によりきめ細かい相談業務が行われている。
・人口が10万人を超える都市や小規模自治体の一部は外部の法人(社会福祉法人等)に対してそれぞれ地域毎に委託運営されているが、委託形式の場合立ち入り調査等に関して一定の制限が設けられている為に虐待等の発見及び対処が十分にされない場合がある他、相談援助を希望してきた高齢者及びその家族に対する地域の事業所紹介が運営受託法人優先になる傾向があり、利用者・関係事業者への公平な対応がなされていない現状もある。
 介護予防ケアマネジメントの中心的役割を担う「地域包括支援センター」においては、現状は要支援者を対象とする介護保険(予防給付)のケアプラン作成業務にかなりの時間を割かれ、介護予防事業にまでなかなか手が回らないのが現実というところも多いようだが、その解決には、地域包括支援センターの人員体制強化、そして居宅支援事業所や地域社会との連携強化などが必要である。

5. 地域支援事業の行方

 地域支援事業の基本となるのは、生活支援・介護予防ではないだろうか。地域で高齢者の日常的な暮らしを支えること、健康で長生きできる環境を整えることが重要である。
 「介護予防・日常生活支援総合事業は、介護保険の指定サービスではない」こととされ、2015年の介護保険法の改正で、「介護予防訪問介護」・「介護予防通所介護」の2サービスが国の介護保険のサービスから外れ、2018年3月末までに市区町村の地域支援事業(総合事業)へと移行することになったが、今後は要支援者が住んでいる市区町村の裁量如何によってサービスの報酬単価や利用料、そしてサービスのあり方が変わってくる可能性も指摘されている。
 この間の地域支援事業については、2018年4月以降も引き続いて自治体が担うこととなるが、自治体の財政力・地域性等によって、自治体ごとにその事業内容に格差が生じることが懸念されていた。
 2017年においてもスムーズに移行できている市区町村は全体の4割程度に留まっていたが、それぞれの自治体でどの事業が継続されるのか、見直しがあるのか、新たなサービス提供があるのかどうか、注視していきたい。

 ここで、神戸市の地域支援事業について神戸市ホームページから拾ってみると、次のようになっている。
<神戸市の主な地域支援事業>
① いきいきライフ「生きがいと社会参加」
 ・就労相談(シルバー人材センター)
 ・生きがいづくり(老人クラブ、生涯体育大学)
 ・敬老祝い金(2016年度より廃止)
 ・敬老優待乗車証
② すこやかな毎日「健康と医療」
 ・健康診断(健康・歯科診査、訪問指導、寝たきりの人の歯科診療、ふれあい浴場、はり針灸マッサージの施術料助成)
 ・医療費助成
③ あんしんの輪「介護・介助サービス」
 ・総合相談(地域包括支援センター、認知症生活相談センター)
 ・在宅サービス(ショートステイ、デイサービス、訪問理美容サービス、家族介護用品の支給、ヘルパー派遣サービス)
 ・入所サービス(特養・擁護老人ホーム、ケアハウス)
 ・介護保険サービス
 ・介護保険外サービス(住宅改修助成、貸付制度、ショートステイ、介護用品の支給、訪問利用・美容サービス)
④ あんしんの暮らし「安全と豊かな生活」
 ・地域のふれあい(地域福祉センター、地域支え合い推進員、友愛訪問活動、ふれあい給食会、シルバーフレンドの訪問)
                         
 今日現在でも政令市・中核市・その他の市町村との間では、すでにサービス内容に格差が生じている現状にある。一例であるが判りやすい事例を紹介する。
 姫路市は敬老慰労金を、2万円(88歳)、1万円(77歳)支給している。神戸市は、3万円(100歳)、1万円(88歳)を支給していたが、2016年度より廃止している。また、多くの自治体が、年額10万~12万円の家族介護慰労金を支給しているが、大阪市・神戸市などは12万円支給している。姫路市に隣接する太子町は10万円となっており、自治体の財政規模により支給額に差が生じている。また、姫路市のように従来通りの在宅高齢者介護手当として月額10,500円を支給している自治体もある。
 以上のようにこれまでも地域支援事業に格差がみられたが、その他の事業についても、自治体ごとにサービスの有無を含め内容に格差があるなかで、地域支援事業は新たな段階を迎えることとなった。

6. 地域の活動から見えるもの

 最初に、姫路市の「高齢者実態意向調査」(2016年12月実施)の集計の関連部分について紹介すると、次のようになっている。 
 「高齢者実態意向調査」の「地域での活動について」の調査結果は、次の通り。
地域での活動について
① 地域の活動への参加
【一般高齢者】
【要支援者】
② 地域の活動への世話役としての参加
【一般高齢者】
【要支援者】
 地域住民の有志によるグループ活動に対して参加意向がある割合は、一般高齢者では58.8%、要支援者では44.0%となっているが、世話役としての参加意向はこの約半数で、一般高齢者では32.0%、要支援者では20.1%となっている

ボランティアについて
① ボランティアによる生活支援サービスの提供
【一般高齢者】
【要支援者】
 ボランティアによる高齢者の生活支援サービスの提供については、一般高齢者の64.4%、要支援者の54.6%が肯定的な意見となっている。
② 利用したいサービス
【一般高齢者】
【要支援者】
 内容によっては良いと思うボランティアによるサービスは、一般高齢者、要支援者ともに「掃除」との回答が最も多く、次いで「買い物」となっている。
③ ボランティアとしての活動
【一般高齢者】
【要支援者】

④ ボランティアとして提供したいサービス
【一般高齢者】
【要支援者】
 自身が高齢者の生活支援サービスの提供者となることについては、一般高齢者では24.5%、要支援者では9.6%が前向きな回答をしている。その活動内容としては、家事援助を挙げる回答は比較的少なく、趣味のグループや介護施設の手伝い、話し相手、見守りを挙げる回答がやや多くなっている。
 姫路市の高齢者実態調査で見ると、互助・共助を担う高齢者の地域活動への参加については、半数近くの方が消極的であり、ボランティア活動の提供内容と受ける側の求める内容に乖離がある。また、多くの高齢者が困ったときに頼りにしているのが、親族(別居含め)であり友人となっていることを踏まえておきたい。

 2018年から拝命した民生委員の役割は、厚生労働省によれば、「民生委員は、厚生労働大臣から委嘱され、それぞれの地域において、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い、社会福祉の増進に努める方々であり、『児童委員』を兼ねています」とされているが、「必要な援助」の範囲・中身があいまいであり、多くの民生委員・児童委員は自治会や地元の社会福祉協議会支部等と連携し、ふれあい食事会や友愛訪問などを行っており、地域や委員によっては、買い物、ごみ出し等の日常的な生活支援にも関わっている実態にある。
 私が担当する地域の高齢化率は、47.28%(姫路市でトップ)で町民の半数が65歳以上という状況で、約200世帯のうち、34世帯が高齢者単身世帯となっており、機会あるごとに町内の高齢者の見守り・訪問を行っているが、その他にも15件の高齢者単身世帯・75歳以上の高齢者夫婦世帯に対しては、自治会と民生委員・推進委員が連携して、定期的に見守りと訪問活動に取り組んでいる。
 これらは、社会福祉協議会の各地域支部の事業として、ふれあいネットワーク活動として取り組んでいるが、その他の事業として小学校区内の単身世帯の高齢者に、月1回のふれあい食事サービスを提供している。これも各地域の多くのボランティアによって支えられている。
 また、厚生労働省の推奨もあり、高知市が開発した「いきいき百歳体操」が全国的に広がりつつあるが、姫路市でも各地域の地域包括支援センターが指導し、各町の老人クラブが中心になって実施している。この活動も地域で多くのボランティアに支えられている。
 今後も少子・高齢化がさらに進み、高齢者の単身世帯、高齢者夫婦の世帯など、移動難民・買い物難民など生活支援を必要とする高齢者が増えつつある地域社会で、今現在でも高齢者が高齢者を支える構造となっていることから、どこまでの日常的な生活支援が今後も可能なのか問われている。

7. 今後の課題

 厚生労働省は本来、社会保障制度の改革にあたっては、「自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくことを基本としており、地域包括ケアの提供に当たっては、それぞれの地域が持つ『自助・互助・共助・公助』の役割分担を踏まえた上で、自助を基本としながら互助・共助・公助の順で取り組んでいくことが必要」とし、そのことを基本として、以上見てきたような地域包括ケアシステム構築にむけた様々な仕組みが考えられ、また改革が行われてきたものである。
 2017年9月27日には、厚生労働省が立ち上げた「地域における住民主体の課題解決力強化・相談支援体制の在り方に関する検討会(地域力強化検討会)」の最終報告が出されたが、この検討会の中で、「子供・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる『地域共生社会』の実現」が掲げられており、これは地域包括支援ケアシステムと連動するものであり、地域包括支援センター、社会福祉協議会、地域に根ざした活動を行うNPOなどが中心となって、小中学校区等の住民に身近な圏域で、住民が主体的に地域課題を把握して解決を試みる体制づくりを支援し、2020年~2025年を目途に全国展開を図ることとしている。
 この地域力強化検討会においても、民生委員・児童委員に対して、引き続き課題を抱えながらも「自ら相談に訪れない人」「SOSを発信することができない人」などを把握し、相談支援につなぐ役割を担うことなどが期待されていることも付け加えておきたい。
 また、支え手側と受け手側に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し、福祉などの地域の公的サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる仕組みを構築するとしており、これは、住民が主体となって支え合う地域社会を創るという、地域総がかりの自助・互助・共助を強調するものであり、このことを強調し過ぎると、国・自治体の公助の部分である社会保障・福祉を抑える方向に繋がりはしないか。
 そのことを踏まえながら現状のサービス提供の内容をみれば、地域包括ケアに携わる自治体職員としても、様々な施策や事業がバラバラに展開されていることや、サービス内容を管理しきれないこと、介護施設・介護人材の不足などを懸念する声がある。
 同じサービスでも事業所や施設による格差が大きいこと、自治体による支援事業の格差などがあるが、高齢者の思いは、①住み慣れたところで穏やかに暮らしたい、②車を運転できなくなったら買い物や移動はどうすればいいのか、③日々のごみ出しは、④困ったときの相談は誰に、⑤施設が高い、不足しているなどにあるが、これらのことに対応できているだろうか。
 地域包括支援センターのほとんどが委託運営されている状況で、行政が現場を持たない状況となっていることや、介護保険の利用まで行かない一人暮らしの高齢者や高齢者夫婦世帯にとっては、日常的に地域包括支援センターと接する機会がないのではないか。
 現状をみれば、介護保険制度及び自治体の制度・サービスがあり、日常生活の一番近い部分については、地元の自治会・民生委員・NPO等の関係者(機関)がフォローしていると言えるが、多くの所で、元気な高齢者による高齢者支援となっている現状にあり、さらなる高齢化を考えたとき、どこまで地域資源の有効活用が継続できるのか、不安を感じざるを得ない。
 今、国・自治体に求められるのは、将来的な社会保障制度の明確なビジョンとともに、当面する少子高齢化に対する具体的な対策を示すことによって、社会保障制度の後退による地域住民・高齢者・社会的弱者の不安を少しでも払拭することではないだろうか。
 その上で、国・自治体がその役割・責任を明確にし、行政、地域包括支援センター等の関係機関、NPO・自治会・ボランティアなどの地域資源等の間での調整と連携強化を図りつつ、多様な地域資源の掘り起こしと活用をめざすことが問われている。
 地域包括ケアシステムであれ、地域共生社会の実現であれ、国として必要な財源を確保し、介護保険制度の充実、地域包括支援センターの機能強化や関係機関・住民とのネットワーク強化・連携強化をさらに図ることが喫緊の課題である。
 最後になるが、今回、高齢者福祉に携わる機会を得て、日常的に地域と関わり、地域住民・高齢者に寄り添うことの大切さを実感したところであるが、他方で高齢者福祉とは対極の児童虐待などの子育ての地域課題も増えており、これらも含め微力ながら地域活動の一翼を担っていきたいとの思いを強くしていることを報告し、地域力を活かした地域包括支援がシステムとして機能していくことを願い、土佐自治研の論文とする。