【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第11分科会 自治研で探る「街中八策」

 近年、公務労働者の離職が相次いでいる。その結果、職場は毎年新規採用職員育成に労力を奪われ、職場は疲弊し、さらなる離職者を生む結果となっている。質の良い行政サービスを提供していくには、離職を防ぎ、プロフェッショナル職員を育てていかなければならない。
 本レポートでは、離職の根本原因及びその対策について統計や実際の離職者から集めた声を元に考察する。



北海道職員の離職対策を考える
―― 統計でみる退職の実態 ――

北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・宗谷総支部・書記長 佐々木勇輔

1. はじめに

 宗谷総合振興局管内の道職員は、2016年度末で2人、2017年度末で7人の若年層職員が退職しました。
 職員数適正化計画により、北海道職員の年齢構成は歪なものとなっており、安定した行政サービスを提供するためには、職員の年齢構成の適正化が急務となっています。
 北海道ではここ数年急激に新規採用職員が増加していますが、一方で20代の離職が相次いでいます。
 公務員として業務が板についてきたところでの退職は、北海道としても痛手であり、周囲の職員の業務負担増にも繋がります。
 また、近年は宗谷管内において中堅層職員の離職も散見されます。特に技術職・専門職についての退職が多く、若年層職員の急増とあわせて職場運営を困難にさせています。
 本レポートでは、安定した道政運営を行うために、離職という側面から情報を整理し、今後の人事施策について考えていくこととします。

2. 離職防止策を考える

(1) 統計情報から離職の原因を考察
① 「若年層は仕事が長続きしない」は嘘
 若年層の離職率の高さが話題になっている一方で、日本の民間企業も含めた労働者全体の採用3年以内の離職率は、この30年間でほとんど変わっていません。
 厚生労働省が公表している「学歴別卒業後3年以内離職率の推移」によると、最終学歴によって多少傾向に違いがあるものの、過去30年間の離職率に大きな変化はなく、ちまたで言われている「若年層は仕事が長続きしない」といった風潮は、メディアによって作られた虚像と言えるかも知れません。
② 実は公務員の離職率はかなり低い
 公務職場における最近5年間の離職率については、国家公務員の給与法適用職員で約6%(人事院公務員白書より)、地方公務員で約10%と言われており、民間企業における離職率が約30%であることから比べると非常に低い離職率であることがわかります。

学歴別卒業後3年以内離職率の推移
 
 
 
 
 
(2015 厚生労働省「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」より)

(2016 人事院「一般職の国家公務員の任用状況調査」より)

③ ここ10年間での離職理由の変化
 本レポートを作成するにあたり、昨年度退職した職員の声をいくつか集めてみました。
 そこで挙げられた声には共通点があり、「業務量が多いのに給料が少ない」「仕事が少なく、早く帰れる職員もいるのに自分は仕事が多く、帰れない」といった「割に合わない」という意見が多く見られました。
 2016年5月に独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した調査資料によると、入職から3年未満で退職した理由として上位に挙げられるのが、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」「人間関係がよくなかった」「仕事が自分に合わない」「賃金の条件がよくなかった」などです。
 最終学歴や性別によっても離職理由の傾向が異なり、大学・大学院卒男性の場合は「労働時間・休暇等労働条件」に対する不満が最も多く、高卒男性の場合は「仕事が自分に合わない」ことが最も大きな離職理由となっています。
 女性については、高卒の場合「人間関係が上手くいかない」が最も多く、大学・大学院卒は男性同様「労働条件に対する不満」が最も大きくなっています。
 なお、学歴問わず、1年未満で離職した理由として多いのが、「仕事が自分に合わない」となっています。言い換えるとやりがいを感じないということでしょう。
 さらに、2006年度の離職理由について同じく独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表している資料を確認してわかったことは、雇用情勢が大きく好転した現在は、雇用不安が無い代わりに賃金や労働条件に対して大きな関心を持っていると判断できるのではないでしょうか。
 この調査は公務員を対象にしたものではありませんが、今般の若年層が職場に求めているものを把握する上では重要な資料と考えられます。

 

 
(2016 労働政策研究・研修機構(JILPT)「資料シリーズNo.171」より)

(2006 厚生労働省「若者の包括的な移行支援に関する予備的検討」より)

(2) 具体的な対策案とその問題点
① インターンシップの拡大でマッチング率の向上を
 1年未満で離職する理由として多く挙げられている「仕事が自分に合わない」の問題点は、入庁後実際に業務を行うまで何も分からないことにあります。
 「いざ入ってみたら思っていた職場と全然違った」という声は、労働組合に最も寄せられる意見の一つです。
 こういったミスマッチを解消するためには、あらかじめ受験者と北海道の齟齬を明確にし、マッチング率を上げておく必要があります。
 そこで積極的に活用すべきなのがインターンシップ制度です。
 インターンシップ制度とは、社会人になる前に、その会社組織の実際の仕事内容などを経験できる制度です。
 これを適切に運用することができれば、入庁前に公務員の仕事をある程度把握することができ、マッチング率向上が見込めます。インターンシップは民間企業で行われているイメージが強いかと思いますが、一部の公務職場でも実施されており、昨年度は北海道においても実施しました。その効果については検証・確認はできませんでしたが、「仕事が自分に合わない」ことを理由に離職する層に対する有効策と考えられます。
 本制度の問題点としては、インターン生への指導が指導担当者の業務量の増大を招くことが挙げられます。これは民間企業におけるインターンシップ制度でも同様の問題を抱えており、一定程度余裕を持った指導人員が確保できていなければ、労働強化に繋がりかねず、適切な運用が求められます。
 また、公務員の業務は多岐に渡るため、インターン生が希望する部署に配属されるかわからないのも大きな問題です。本来のインターンシップの大きな目的の一つとして、学生自身にやりがいを感じてもらうといった趣旨がありますが、北海道のホームページを確認する限り、道のインターンは「職業意識の向上」及び「道行政への理解を深める機会の提供」を目的としているため、インターン時と採用後の配属先・業務に関連性がなく、離職防止効果は薄いと考えられます。
 ほかにも、現状北海道で実施されているインターンシップ制度については、行政職場であれば1週間、専門職でも長くて2~3週間程度となっており、あまりにも期間が短いことや、インターンに係る費用が全て個人負担という点において、人材確保の観点から実施されている制度ではないと考えられるため、インターンシップ制度の考え方の見直しを当局に提言していく必要もあります。
② 初任給の大幅なベースアップもしくは人員の大幅な増員
 昨年度退職した職員の一部について退職理由を調査した結果、「仕事内容の割に給料が低い」「給料が低いのに仕事の責任が重い」「民間企業に勤めている友人等の給与と比較して、給与が低い」といった給与・待遇面の声は非常に多いと感じました。
 先ほど挙げられた離職理由の中にあった「労働条件の悪さ」や「賃金の低さ」はどちらか一方によるものというよりも、双方が関連している事項であると考えます。つまり、「労働内容がきつい、労働時間が長いのに賃金が見合わない」もしくは、「賃金が低いくせに労働時間や内容が悪い」ということです。
 事実、厚生労働省及び総務省の初任給調査でも、地方公務員の初任給の低さは数字に表れています。民間企業の初任給(事業規模問わず)と比べ、地方公務員の初任給は2~3万円も低いのです。

 
 
(2016 総務省「地方公務員給与の実態」より)

 また、人員の大幅な増員についても、急務と言えます。
 先ほど紹介した独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した離職理由上位に、「労働時間・休暇等労働条件が良くない」とあります。大卒・院卒の場合は男女問わず最も多く、高卒の場合も上位に位置しています。
 労働時間については本レポートを作成する上で、インターネット上で公表されている様々なアンケート・意識調査などを確認しましたが、調査したほぼ全てのアンケートで「自分ファースト」志向が年々増えている結果となっており、とりわけ長時間労働・サービス残業に対する注目は非常に高いものとなっています。
 2013年厚生労働白書においても、「労働」よりも「楽しく生活できるか」を重視する傾向は年々高まっています。
 人員不足は長時間労働を引き起こすのは言うまでもなく、さらに職場の人間関係にも悪影響を及ぼします。先ほども触れましたが高卒の離職理由1位は「人間関係の悪さ」である以上、長時間労働是正とあわせて早急に解消を図る必要があります。

(2013 「厚生労働白書」より)

 こうした中、公務職場は旧態依然の長時間労働もサービス残業も当たり前のように存在しているのは周知の事実です。
 これまで確認したのは主に民間の調査結果ですが、公務職場の若年層職員も会社組織に求めていることは同様である可能性は高く、労働時間・休暇等労働条件が悪いことを理由に退職・転職することは今後も十分あり得ると考えます。

3. まとめ

 2018年現在は表面上の景気回復も手伝い、就職市場は売り手市場と言われています。
 質の良い、安定した行政サービスを提供するためには、人材育成の観点からも若年層職員はもとより、全ての職員の離職を徹底して防がなければなりません。
 本レポートでは、インターネット上に公開されている資料から中途退職を引き起こす要因を考察してきました。しかし多様化が認められている現代社会においては、本文で記載した離職要因も氷山の一角であると考えるのが自然です。
 また、離職率、離職理由を元に対症療法的に仕事のマッチングや賃金・人員面で改善策を検討するだけでは足りないと考えます。
 誰もが公務員である前に一労働者であり、仕事という人生の大半を占める重要な選択に慎重になるのは当然のことです。
 したがって消去法による解決策も重要ですが、今後求められるものは「収入」や「ステータス」よりも「会社ではなく自分に合った働きがい」や「充実した私生活」であり、それは真のワークライフバランスと言うべきものではないでしょうか。
 締めになりますが、充実した道政を運営するためには、職員自身が健全に無理なく働き続けることは必要不可欠です。無理な人事施策によりやりがいも持てずに行う業務が道民のためになるはずもありません。
 「積極的な離職防止」こそがプロフェッショナルな職員を育て、安定した道政運営につながるのではないでしょうか。