【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第11分科会 自治研で探る「街中八策」

 伊勢市職労女性部では、男性職員向けの子育ての参考となる冊子を作成し、男性職員の育児休業取得促進に向けた「パパ休プロジェクト」に取り組んでいる。それをきっかけに育児休業以外の全ての休暇についても取得しやすい職場環境づくりをめざし、ワーク・ライフ・バランスの実現につなげていくことをめざしている。



ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた
働き方の見直しについて
―― 『男性職員の育児休業取得について考える』 ――

三重県本部/自治労伊勢市職員労働組合・女性部

1. 取り組みの趣旨

 政府主導で「働き方改革」が進められているが、本当の意味で働きやすい労働環境を実現するには、労働者の視点から働き方について考え、提起していくことが不可欠である。
 伊勢市職員労働組合では、女性部を中心に、育児を担う労働者の視点に立った働き方について提起するため、「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて働き方を見直す」ことを運動目標として取り組むこととした。これまで様々な休暇制度は整ってきたものの、職場の現状を見ると、人員削減や業務量の増大から時間外労働は恒常化し、また、部分休業制度を利用していても規定の終業時間に退庁することができないといった実態も見受けられる。このような職場の現状を改善するための運動を構築していくため、一つのきっかけとして『男性職員の育児休業取得』を取り組みのテーマに設定した。
 『男性職員の育児休業取得』をテーマとしたのは、2つの理由からである。
 第1には、共働き世帯の増加により、夫婦が共に子育てをする時代となってきているにもかかわらず、男性職員の育児休業取得がなかなか進まないという現状である。
 職場内の子育て世代の男性職員に話を聞くと、夫婦で育児や家事を少しずつでも分担している傾向にあるようだが、ワーク・ライフ・バランスに対する意識の世代間ギャップもあり、男性職員の育児休業取得となると「職場や上司の理解が得られないかもしれない」と感じ、取得をためらう職員も少なくない。わたしたち自治体職員にとって、育児に関わることで見えてくる行政課題はたくさんあると考えられ、育児を通じて得た経験が、行政職員としての視野を広げ、様々な分野の仕事をする上で必ず財産になるはずである。
 2つ目の理由は、男性職員も女性職員と同様に、当たり前に育児休業を取得することで、仕事、とりわけ働き方に対する意識の変化を起こすことである。
 家事や育児を中心的に担う女性の働き方は、例えば保育園の送迎や家事のために時間内に仕事を終えて帰宅する必要があるため、時間外労働を当てにした働き方ではなく、定時に仕事が終わるように日々の業務を組み立てるという働き方をしている。男性職員も育児休業を取得することで、少しずつでも家庭における役割分担が増えれば、定時に帰宅する働き方をする必要が生まれ、結果として効率的で生産性の高い働き方をすることにつなげていけるのではないかと考える。
 また、子育て中の職員は、子どもの急な病気などに備えるため、一人で仕事を抱える働き方はせず、業務のマニュアル化や副担当を置くなどの方法で、最低限業務が停滞しないような工夫をしている。このような環境が整えば、子育て中の職員だけでなく、誰もが休暇を取得しやすい職場環境を実現することにつながる。
 以上のことから、まずは、出産直後の母親が体力的にも精神的にも最も大変な時期に、配偶者の出産休暇2日間や育児参加休暇5日間に加えて、1~2週間という短期間の育児休業を取得するところから、男性職員の育児休業取得を進めていく取り組みを構築することとした。そこで、男性職員の育児休業取得を後押しするツールとして、育児の参考になる情報をまとめた冊子(以下「冊子」と記述)を作成することとした。
 これは、男性職員の育児休業取得が増えない理由の一つに、「育児休業を取得しても育児の方法が分からない」といった男性からの意見や、配偶者(妻)からの「夫が育児休業を取得しても家事・育児ができないので戦力にならない」という意見があり、こうした層の手助けとなるマニュアルのようなものがあれば取得促進につなげられると考えたからである。女性部には、保育士・保健師など、子育てにおける専門的な知識を持った職種の組合員がいるため、その経験を活かした内容にできることも女性部の活動としての強みであると考えている。

2. 職員の育児に関する休暇の取得状況の分析


女性部・青年部共催の学習会
 冊子の作成を進めるにあたり、組合員からの意見を聴取する機会として、2017年2月22日に女性部・青年部共催による学習会を開催し、男性職員の育児休業取得についてのアンケートとグループワークによる意見交換を行った。(参加者:男性22人、女性51人)
 また、職員の育児に関する休暇の取得状況について分析を行うため、職員課へデータ提供を依頼した。学習会では、意見交換を行う上での資料として、この分析結果についても説明を行った。
 職員の育児に関する休暇の取得状況及び分析については以下のとおり。

(1) これまで育児休業を取得した男性職員の職種別人数・取得期間
職 種取得人数平均取得期間
事務職10人155.5日
※ 個別の取得期間については記載省略

(2) 過去5年間の男性職員の配偶者出産休暇及び育児参加休暇取得者数、平均取得日数
 ※ 基準日:1月~12月
 年次における取得率は算出されていないが、次世代育成支援対策推進法に基づく伊勢市の特定事業主行動計画には、計画作成時(2014年度)に行ったアンケートから「配偶者の出産休暇については47.9%が取得しているものの、育児参加休暇は7.9%と低く、制度を知らなかった人が25%程度いる」と記述されている。

(3) 過去5年間の職種別の育児短時間勤務取得者数
 ※ 基準日:4月~3月
 2013年度から、育児短時間勤務の利用が増えているが、「(5)過去5年間の職種別の育児休業取得者」のデータから、2011・2012年度における育休取得者が多く、2~3年取得している職員が多いため、ちょうど職場に復帰してくるタイミングの2013年度で育児短時間勤務を選択した職員が多くなったのではないかと考えられる。取得理由を聞いたところ、「育児短時間勤務だと嘱託職員を配置してもらえるため、部分休業と比べて職場への迷惑がかかりにくい」「周りの先輩や他課で取得者が多くなってきて、所属も参考にしやすかったようだ」という意見があった。
 このように「制度が周知されて、周りに取得する人が増えたため、取得しやすくなった」ということであれば、男性職員が育児に関する休暇を取得することやその他の休暇についても、「みんなで取得していく」という雰囲気が取得の促進につながるというヒントがここにあるのではないかと考える。

(4) 過去5年間の職種別の部分休業取得者数
 ※ 基準日:4月~3月
 部分休業取得者の意見によると、「部分休業は育児短時間勤務より取得できる時間が少ないので、家族のサポートがある場合はこの時間数でやっていける」という意見があった。
 このことから、祖父母等のサポートの有無など、自身のライフスタイルにあわせて、多様な働き方を選択しているようである。

(5) 過去5年間の職種別の育児休業取得者(女性)の取得日数別人数及び平均取得日数
(① 1年未満、② 1年以上2年未満、③ 2年以上3年以下)
 ※ 基準日:4月~3月

(6) 育児休業時の給付金の算定モデル
◎支給月額(1ヶ月あたりの給付日数22日の場合)給付対象日180日(給付率67%)
 ・25歳…133,980円 (給料月額 204,100円)
 ・30歳…160,798円 (給料月額 236,400円)
 ・35歳…187,638円 (給料月額 280,400円)
 ・40歳…214,456円 (給料月額 311,900円)
 ※ 算定条件と計算式は省略

 男性職員が育児休業を取得するにあたって経済的な不安は大きいと思われるため、育児休業取得中の給付金の算定モデルを試算し、給付金の支給月額は共済掛金が免除になると実質手取り分の給料額に近くなることを説明した。

(7) 50代・40代、30代年代別男性職員の妻扶養の割合
 「50代・40代、30代年代別男性職員の妻扶養の割合」については、50代を管理職の年代、30代を子育て世代と想定し、妻を扶養している割合を分析したデータである。若い世代ほど妻の扶養割合は減っており、年収130万円以下の収入の妻は扶養者に含まれているため一概には言えないが、男女共同参画白書における国の動向からも共働き世帯が年々増加傾向にあるのと同様に、伊勢市職員においても、共働き世帯が増えていると推測できるのではないだろうか。

3. アンケート結果及び学習会における意見の分析

 学習会の後、さらに育児休業取得中の職員に対しても郵送によるアンケートを行った。(アンケート回収数29人)
 アンケート内容は、育児休業に対する意見を聞くものと、冊子の内容を検討するための情報を得るための項目の2種類で構成しており、ここでは育児休業に対する意見について特徴的なものを記載する。
 まず、学習会参加者の中に男性の育児休業経験者はいなかったが、育児のための休暇を年休で取得した職員もおり、制度の周知が課題であることが分かった。取得した職員からはおおむね取得して良かったという感想が得られた。
 次に、育児休業等取得経験のない男性職員では、やはり男性職員が取得できる休暇についての認知度が低い中で、育児短時間勤務の認知度は比較的高く(表①)、職場において育児短時間勤務を取得する女性職員が増加した影響と考えられる。また、「将来的に育児休業を取得してみたい」と答えた人に取得を希望する日数を聞いたところ、「3ヶ月~6ヶ月」といったある程度まとまった期間を希望する意見もあり、今回のアンケート対象数は少ないものの、育児休業取得促進に取り組んでいく意義はあると考える。
 女性職員では、配偶者の育児休業取得に関する設問で「思う:41人」「思わない:37人」という結果(表②)であったが、「思わない」と回答した職員に、職場で男性職員が育児休業を取得することについての意見を聞いたところ、「取得してほしい:29人」「取得してほしくない:2人」「回答なし:6人」であり、自分自身の配偶者に対しては経済的な理由で取得を望まない人でも職場の同僚に対しては、家庭での育児参加を勧める意見がほとんどであった。
 学習会における主な意見は冊子に掲載のとおりであるが、特に育児休業取得中の職員からの意見は、育児の大変さはもちろんのこと、妊娠中の業務の負担や復帰後の仕事への不安などが多く記載されており、これらは女性部独自要求書に反映するなど、別の形でも女性部の取り組みにおいて活用していきたいと考えている。

(表①)育児に関する休暇について、知っているもの全てに○をつけてください。
項 目人 数
ア 育児休業13人100%
イ 配偶者の出産休暇8人62%
ウ 育児参加休暇5人38%
エ 育児時間1人8%
オ 育児短時間勤務10人77%
カ 部分休業6人46%

(表②)配偶者に育児休業を取得してほしいと思いますか?
ア 思う41人
イ 思わない37人

上記で「思わない」と回答した人の「職場で男性職員が育児休業を取得することについてどのように感じますか?」の回答内訳
ア 取得してほしい29人
イ 取得してほしくない2人
回答なし6人

4. 男性職員の育児休業取得促進を応援する取り組み「パパ休プロジェクト

 アンケートの分析結果等をふまえ、執行部自治対策部・青年部の協力も得ながら、2017年3月~4月にかけて、冊子の編集に向けた議論を行った。
 そして、男性職員の育児休業取得促進を応援する取り組みを「パパ休プロジェクト」と総称することとし、伊勢市における「育児休業および育児に関する休暇」を「パパ休」と呼ぶことにした。
 編集会議ではまず、学習会において、「育児休業取得経験のある男性職員の意見を聞いてみたい」という意見があったため、育児休業取得経験のある男性職員に協力を依頼し、以下の項目で意見聴取を行い、結果を掲載した。
 ① 育児休業を取得したきっかけについて教えてください。
 ② 取得してよかったことは何ですか?
 ③ 取得中に困ったことはありますか?
 ④ 仕事・キャリアが中断されることについての不安などはありましたか?
 ⑤ 給料など経済的なことについての不安などはありましたか? 
 ⑥ 育児休業中の育児や家事について、どのように覚えたのかや配偶者との役割分担などについて教えてください。
 ⑦ これから育児休業を取得する職員に対してのメッセージがあればお願いします。

子育てに関する知識をまとめた冊子
 また、赤ちゃんの育児に関するマニュアルページについては、女性部幹事の保育士・保健師からのアイデアにより、おむつ替えやお風呂の入れ方、泣き止まないときの対処法、病気やアレルギーなど、初めて育児に携わるパパの参考になる項目を選択し、意見交換を行いながら編集作業を進めた。
 このほか、「休暇の制度がわからない」といった意見も多かったため、「パパ休」を浸透させていくために休暇の一覧も掲載した。
 冊子の目的は、男性職員の育児休業取得促進であるが、全体を通じて「パパとママがふたりで育児をすること」をテーマとしている。これは、『子育ての楽しいこと、大変なことを夫婦で共有したい』という意見がアンケートの中で多く寄せられたからである。子育て中の母親たちは、仕事・家事・育児に追われる毎日を過ごし、少しでも負担を減らしてほしいと感じていることは間違いないが、本当のところは、子どもの笑顔の瞬間を「パパにも見せたいな」と思ったり、ママひとりでがんばっている大変さを分かってほしかったりするのではないだろうか。「子育てに正解はない」が、この冊子が夫婦で子育てについて話し合うきっかけになる役割を果たしてほしいと期待する。

5. 冊子「パパ休プロジェクト ~パパとママの育児休業~」を活用した取り組み

 2017年9月に、冊子「パパ休プロジェクト ~パパとママの育児休業~」が完成した。女性部では、「パパ休プロジェクト」を職場において浸透させ、「パパ休」だけでなく、全ての休暇を取得しやすい労働環境を実現するための取り組みの構築が重要であると考え、冊子の活用方法について議論を重ねた。
 まず、組合における取り組みとして、女性部をはじめ、組合が実施する学習会等の機会を利用し、冊子を活用して「パパ休プロジェクト」について説明を行ったほか、2018年3月には、自治労三重県本部女性部セミナーにおいて、本レポートについての講演を行った。
 また、労使協議の場でも活用方法について話し合いを行い、2018年4月から子どもが生まれた職員(男女とも)に対して、職員課から冊子を配布し、男性職員の育児休業取得促進について周知を行っている。
 さらに、今年度の取り組みとしては、2018年9月の開催に向けて、「父親と子どもが参加できるイベント」を企画している。内容としては、組合員とその家族を対象に、保育士による絵本の読み聞かせ教室、給食調理士によるヘルシーおやつのレシピの提供や育児休業取得経験のある男性職員との意見交換会などを計画しており、親しみやすいイベントを通じて、育児中やこれから育児をする男性職員が「パパ休プロジェクト」を理解するきっかけを作り、取り組みを実効あるものとしていきたいと考えている。次年度以降は、地域の労働団体へも協力を依頼し、イベントの参加対象を拡大することで少しずつ「パパ休プロジェクト」の取り組みを地域へ拡大していきたい。

6. まとめ

 団塊の世代が後期高齢者になる2025年を目前に控え、子育てに加えて、今後は介護の問題が増加していくことが予想される。どちらかというと、育児は若い女性職員の問題とされていたため、代替職員で対応可能であるとこれまで見過ごされてきたが、介護になると年齢的にも対象が広がり、管理職が介護のための休暇や時間休を取得することも想定される。このことから、介護離職の対策としても、今から休暇を取得しやすい職場環境を整備しておく必要がある。
 さらに、この取り組みは働き方の見直しだけでなく、多様な働き方を考える上でも重要である。休暇分析でも明らかなように、育児短時間勤務などの新たな制度を活用し、職員それぞれが自分自身のライフスタイルに合った働き方を選択し始めている。女性の働き方において、将来の働き方を展望する場合にロールモデルを持つことを勧める意見があるが、今まさにそういった職員がそれぞれのロールモデルを作りながら、新しい働き方を模索している段階にあると言えるのではないだろうか。これまでの時間外労働も厭わず、全力で仕事に邁進できる職員を前提とした働き方から、それぞれの働き方を尊重し、多様な働き方を受け入れることのできる柔軟な職場風土への変化が求められている。例えば、30年間勤務するとして、そのうちの数年間、休暇を取得したり、短時間勤務を選択したとしても、それまでと異なる立場での生活を経験することは決してマイナスではなく、新しい視点を生み出し、その後の人生を豊かにすることにつながると考える。
 このような多様な働き方を受け入れることができる寛容性を持つことは、ワーク・ライフ・バランスを実現していくうえで重要な要素である。そのため、「男性職員の育児休業取得促進」というこれまでの価値観を変えていくテーマを活用し、新たな働き方の価値観を創造していく運動をこれからも展開していきたいと考えている。

パパ休プロジェクト