【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第11分科会 自治研で探る「街中八策」

 全国的に、若手職員の組合活動への関心の低さや、参加率の低下が課題となっている。その現状を受け、若年層の取り込みをはかるとともに、参加者の自主的なつながり、自発的な自治研活動を促すことを目的として始まったのが「UNDER35学習会」である。本レポートでは、2017年に大分県杵築市で行われたU35学習会の取り組みとその成果を振り返り、若手と行う自治研活動のこれからについて考えたい。



身近な自治研
―― 全国自治研U35セミナーinきつきを振り返って ――

大分県本部/杵築市職員連合労働組合・大分県自治研究センター・地域活性化専門部会 大川 祐美
・仲  正恵

1. 全国自治研U35の経緯

(1) これまでの経過
 UNDER35(以下U35)学習会は、2014年の佐賀自治研の関連企画として開催された「U35自治研前夜祭」がはじまりである。
 これまでのU35学習会

2014年2015年2016年2017年
場所佐賀市鯖江市仙台市杵築市
大会名全国集会
前夜祭
UNDER35合宿
ゆるぷろ
全国集会
分科会
U35セミナー
in杵築

 佐賀自治研の後、本年に至るまで上述のとおり毎年このU35学習会を開催している。

(2) U35セミナーinきつきの取り組みについて
 2017年10月27日~29日に大分県杵築市で自治研UNDER35セミナーin杵築が開催された。私も現地実行委員として企画を行った。全国から35歳以下の組合員を中心に20県本部90人が参加した。
① 10月27日(金)1日目
 初日は、佐賀・宮城で行われた自治研集会のDVDの鑑賞からスタートした。これまで組合の活動に関わる機会の少なかった若年層をターゲットとした集会であるため、そもそも自治研とは何か、どんな活動をしているのかについて、イメージを持ってもらうことを第1ステップとしたためだ。
 その後、4労組が「業務改善」「地域に関わる活動」「職員同士の親睦」などを目的に行っている事例をそれぞれ紹介するトークセッションが行われた。地域の特色あふれる発表に、会場も盛り上がった。
 トークセッション終了後は、参加者は各グループに分かれ「わがまちPR」と題したグループワークを行った。自分の住む地域について考え、その魅力を再考することはもちろん、参加者同士の自己紹介・交流もねらいとした。
② 10月28日(土)2日目
 2日目は「地域活性化とは何か」「行政は地域住民とどのようにかかわっていくべきか」「地元の魅力とは何か」を考えることを目標に、地元企画を行った。
 午前は、1日目のトークセッションの助言者である前田和男氏(路上観察家・作家)が「まちの見方・とらえ方」と題した、午後のフィールドワークのイントロダクションを兼ねた講演を行った。今回のフィールドワークは"路上観察"がメインテーマとなっている。路上観察とは、一般的に観光スポットとして認知されているような建物・オブジェなどを観察するのではなく、人々が暮らしの中で作ってきた生活用品や何気ない日常の光景、看板など、通常は「鑑賞するもの」ではないものに視点を置き、その光景に隠された意味、人間の生活の面白さなどに想像を膨らませ、地域をより深く楽しむ観察のことである。
 前田氏の講演では、過去に行われた路上観察の写真やエピソードが多数紹介され、参加者は新たな観点でのまちあるきの方法を学んだ。
 午後は、始めに「きつき子ども歴史ガイド」の紹介をした。子ども歴史ガイドは地域団体の「城下町地区まちづくり協議会」が行っている事業である。次に、城下町地区まちづくり協議会会長より「自治体と市民との協働のまちづくりとは」をテーマに、これまでのまちづくりの経過の紹介があった。これらの紹介を受け、参加者は、2日目のメインであるフィールドワーク(路上観察)を開始した。先に話のあった「子ども歴史ガイド」と城下町地区まちづくり協議会員・ボランティアガイドによる案内の後、各グループは自由に杵築のまちをあるき、その景観を観察・撮影した。その後、会場に戻り、グループ毎にフィールドワークで発見したこと・感心したことなど、それぞれの「路上観察」をプレゼンテーションした。ユニークな視点、発想に会場は大いに盛り上がった。
 3日目は、台風接近で急遽セミナー終了となったが、2日間を通して、参加者同士の絆も深まり、自治研について、地域との関わりについてなどを考えることができた。

2. U35セミナーinきつきの成果

(1) 若手職員の巻き込み
 今回参加した人たちのきっかけは、それぞれだろう。自治研活動を主導する立場から、他の事例に触れることを目的に来た人、また、所属する自治体で行っている職務内容と関連するため来た人、など、様々と推察される。しかし、ここで注目したいのが、いわゆる「動員」で本人の意思と関係なく参加することになった人たちだ。動員という強制力は、本人にとっては必ずしも望ましいものでないことも往々にしてある。だが、その強制力は、結果として、本人のやりたいことにつながる大きなきっかけとなることがあるのだ。「最近の若者」は積極的に種々の活動に取り組む気概がない、という声を聞くことも多い。その中で、このU35の取り組みは、その若者層が自治研活動に触れるきっかけをつくる。知らないものに触れる機会を与える実に大きな可能性を秘めている。
・自治研というものになじみがなかったので、他市町村で具体的にどんな活動をしているか知れて勉強になった。
・自治研へのハードルが下がった。

                                      (アンケートより)
 セミナー後のアンケートでは、上記のような意見が聞かれた。
 このことからも、U35は若手職員を巻き込み、自治研の活動を行うことへのファーストステップの役割を担うものの一つになれると言えよう。

(2) つながりのひろがり
 全国から人が集まるU35の取り組みの持つ魅力が「出会い」である。多くの人と知り合い、交流を深めることは、その人の人生を豊かにする。また、困難に直面した際、その出会った人たちが、なんらかの手助けをしてくれることもある。
 人とつながるにはそのきっかけとなる出会いが必要であるが、出会った人たち全員と仲良くなれるわけではない。10人と出会ったとしたら、その中で交流が続いていくのは1人かもしれない。それならば、出会いの機会は多いほうが良いはずだ。100人と出会えば、10人と仲良くなれるかもしれない。そして、出会わない限り、その人とは交流できないのだから、出会うきっかけを得なければならない。
 冒頭に述べたとおり、U35は、普段出会うことのない遠い地域の人たちと知り合うことのできる、貴重な出会いの機会そのものである。
・多くの人と話をして、いろいろな価値観に触れました。また、他の県、市町村の取り組みを知れたのは貴重な時間でした。
・全国のさまざまな状況を知ることができ、当たり前であったことが、全く当たり前ではないことを知り得た。

                                      (アンケートより)
 日常生活を過ごすだけでは出会うことのない人と知り合うことは、自分の経験や知識の幅を広げることにも役立つ。U35が生み出す、人同士の"つながり"の広がりは、その人のこれからの可能性も広げてくれるのである。

(3) 地域との協働
 2日目の地元企画では、地域団体である城下町地区まちづくり協議会と連携したフィールドワークを行った。U35を通して、"公務員"の仕事の枠に留まらず、地域の生活に触れることは、"住民"としての自分のあり方を見つめることにもつながる。また、公務員の仕事は「その地域住民の生活、困りごとを解決し、より住みやすいまちづくりをする」ことであるから、住民として地域を見ることは重要である。フィールドワーク前の講演でも、城下町地区まちづくり協議会会長からの「行政に対する思い」「地元への思い」についての話を聞くことで、役所の庁舎内にいるだけではわからない、地域のいまや、私たち公務員が組織の外でどう見られているのかといった、よりリアルな感覚を得ることができた。
 今回のU35のような地域と協働した企画を体験する機会は、地域を見つめなおすうえでも大切にすべきだと思う。地域を知るため、関心を持つためには、地域の人に接し、会話をし、実際に歩いてみることが効果的だからだ。地域住民にとっても、公務員が自分たちの生活の近くに来て、話をする機会があれば、「これを改善してほしい」「こんなことを検討してほしい」と、要望を伝えることや、行政との距離感を縮めることも容易になる。
 U35は、若手職員の巻き込みに加え、地域の巻き込みも実現できる活動であるのだ。

(4) 地元単組との協働
 杵築市でも、単組での自治研は活動できていない状況であるが、今回のU35は杵築市で開催されたこともあり、全90人の参加者のうち、杵築市連労(杵築市・市立病院の連合労働組合)からは10人弱の参加があった。単組内では未だ「自治研」の存在感が薄い。その中で、単組役員による会場運営等も含め、今回のような企画に参加してもらうことが、自治研への興味・関心を醸成することに寄与したと考えている。杵築市連労ではU35の後、単組自治研組織を立ち上げる検討会が行われた。U35は毎回全国各地を開催地に行う予定であるが、その際の開催自治体となった単組との協働が、単組での自治研活動を考えるきっかけになりうるかもしれない。

3. 単組自治研の現実と課題

 自治研の最も大きな取り組みの単位は「全国」である。それより小さな単位は「都道府県」で、それよりもさらに小さな単位が「市区町村」だ。
 現在、全国単位の自治研は、自治研集会をはじめ定期的に行われているが、県単位、また、市区町村単位での取り組み状況には地域によって差があるのが実情である。
 私の出身である大分県の状況を見ると、単組での自治研を組織しているのは全18市町村中14単組であった。
 A市では自治研をセンターとして置いている。その『自治研センター』では大きく分けて2つのテーマを研究している。ひとつは"主に市役所内部における問題点を中心に研究する「職場自治研グループ」"。もうひとつは"主に地域との連携等における問題点を中心に研究する「地域自治研グループ」"だ。学習会・講演会、問題解決のためのアンケート調査、自治研センターに所属する職員以外も交えた討論会、交流会、当局に対し行う政策提言などの活動をしながら、よりよい職場づくり、地域づくりをめざしている。A市の自治研の特長は、自治研組織の活動が単組全体を巻き込む形で行われていることだ。自治研センターへの参加の有無を問わず、全職員向けに職場改善のための学習会や講演会を行うことは、幅広い意見や議論のきっかけとなり、問題解決や政策提言にも一役買うことができる。
 B市は2005年の合併時に単組自治研の活動をスタートした。保健師部会・行財政部会・自治体自立部会、といったように、各分野それぞれ部会を組織している。大分県自治研センターにも各々の分野に専門部会が組織されているが、B市の自治研の組織構成はその単組版に近い。県自治研センターにも毎年5・6本のレポート提出実績がある。議員を招いた報告会の開催も行うなど、積極的に活動している事例である。
 上述のとおり、単組での自治研の推進ができている例もあるが、そういった例は全自治体のうちの割合としてはさほど大きいとは言えないのが現状である。
 また、組合活動全体に言えることだが、年々、40代~50代の職員が行ってきた活動を、承継する若年層が少なくなっている現実がある。先ほど紹介したA市・B市の例でも、今現在の活動の核になっているのは40代~50代で、若年層の取り込み・承継に苦慮しているそうだ。やはり、自治研も含め、その他さまざまな活動に対する若年層の参加を促すことは、多くの自治体に共通する課題といえよう。

4. 単組自治研のこれから~身近な自治研~

 これまで述べてきたとおり、全国自治研、全国自治研U35の活動は「若手職員の巻き込み」「人と人のつながりの広がり」「地域との協働」「地元単組との協働」などに効果をもたらす、今後も推進すべきと考えられる活動である。
 全国単位での活動も行いつつ、私が最終目標に位置付けているのは、"単組で行う自治研活動を強化すること"だ。「地方自治研究」の名のとおり、自治研の活動は全国よりも都道府県、都道府県よりも市区町村、というように、より小さな地域単位で行うことに大きな意味がある。気候・文化・習慣・食・自然環境など、地域にはそれぞれの特徴があり、そのすべての課題に対応した解決案、改善案を全国単位で画一的に考えることには限界があるからだ。
 私は、全国単位での自治研は「イベント」だと思っている。一年に1、2回、各地域で働く公務員の仲間が集まる、知らない人との出会いや新しい発見を生み出す自治研の一大イベントのような感覚だ。そして、そのイベントに参加することと同様に「日常の取り組み」、つまり、単組での自治研活動を恒常的に行うことが重要であると考えている。単組の小さな単位で問題提起・改善・解決に向けた研究を行うことこそが、自治研の本質ではないだろうか。
 全国の「イベント」に参加することを通じて、まずは気軽な気持ちで若手世代に自治研活動に触れてもらう機会をつくる。そして、若手世代も含め自治研を身近なものとして捉え、多くの自治体が単組単位で行うものにすること。それが、理想の自治研の姿ではないか。
 組合の活動状況にも地域差がある中で、単組での自治研活動となると、乗り越えなければならない壁は多いと思う。しかし、これから加速度的に進行する人口減少・高齢化に伴う地域コミュニティ存続への危機感や、社会機能の維持などの問題に向き合うときに、その地域ならではの問題をその地域のためだけに考える"小さな自治研"は存在するべきだと私は思うのだ。
 自分たちに何ができるのか。より良い地方自治とは何なのか。これからを生きる私たち若年層が、より自発的に自治研的思考で未来を考え、自治体職員一丸となって、課題解決・改善への関心を持つことを忘れないようにしたい。