【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第12分科会 新しい公共のあり方「住民協働」理想と現実

 「土木」という仕事は、多種多様で、内容をなかなかイメージできない市民が多い。そこで、京都市では「市民」と「行政」がお互いの知恵を生かし、市民協働型の維持管理をめざすため、2017年に「市民協働指針」を策定した。内容は、今後取り組む5つの柱と9の施策に分類。また、これらの施策を推進するための具体的な取り組みを掲げた。本稿では、その内容と、施策の実現のために行っている具体的な取り組みを紹介する。



わたしたちのくらしと働く人々
―― 何が必要か。親しみやすい身近な「土木」の実現に向けて
未来の「土木」人 ――

京都府本部/自治労京都市職員労働組合 塩貝 篤史・岩渕  裕・楳田 博之

 「土木」と聞いてどのようなイメージをもたれますか。「土木」の内容を話せる方はほとんどおられないのではないだろうか。たとえ1つ2つ答えられたとしても、「土木」という仕事は多種多様で、なかなかイメージできない。結果、回答は曖昧になってしまう。実際に「土木」で働いている人も曖昧な回答になることが多い。このままでは「土木」そのものの価値が薄れてしまう。
 この現状を打破するため、2020年度にめざすイメージとして、2017年3月に「市民協働指針」を策定。指針の基本的な考え方は「市民」と「行政」がお互いの知恵を生かし、市民協働型の維持管理をめざすため定められた。
 内容に関しては、まず補修の優先順位(緊急性や重要性)、道路の維持管理においては、歩行者や自動車等が利用している状態での対応が必要なことから、優先順位(緊急性や重要性)を付けて補修を行っている。優先順位の考え方や補修の方法について、市民と行政が共有し、相互理解が図れる取り組みを進める。次に「自分ごと」、「みんなごと」として自主的な活動が広がり、これまでから、市民の皆様が自ら取り組まれてきた、除草や清掃等の自主的な活動を、自分たちのまちを自分たちで守る意識と感じてもらい、浸透していくことをめざす取り組みを進めるといった内容である。
 2020年にめざすイメージを実現させるために、今後取り組む5つの柱と9の施策に分類。また、これら取り組みを推進するための具体的な取り組みを掲げた。
 まず取り組みの「柱1」のICTを活用した維持管理の見える化。施策1として、具体的な取り組みは公共土木施設の損傷箇所を通報できるアプリの構築。誰もが簡単に維持管理に参加していただけるように、スマートフォン用アプリ「みっけ隊(美しい京のまちを守る応援隊)」の構築・運用を行う。「柱2」の情報発信の充実。
 「施策2」の具体的な取り組みは、維持管理に係る情報発信内容(コンテンツ)の強化。市民活動への参加や実施が容易に行えるよう、情報発信の内容について見直しを行い、市民の方に役立つような情報発信を行う。さらにもう1つの施策3の具体的な取り組みについては、情報発信方法の強化。建設局のイメージキャラクター「けんくん・せっちゃん」を積極的に活用するなど、情報発信の方法について見直しを行い、市民の方が入手しやすい情報発信を行う。
 「柱3」の市民とのコミュニケーションの促進。施策4の具体的な取り組みとして、土木事務所等の啓発活動の実施、土木事務所が管理する施設の役割や機能、それらの補修業務など、"土木"のPRを目的に、市民の皆様が集まるイベントなどに参加する。
 「施策5」の具体的な取り組みは、維持管理に関する講習会や意見(情報)交換の実施、市民の皆様が実施できる簡単な維持管理作業についての説明会や、意見交換・情報交換の場を設ける。
 「柱4」の市民と行政との連携の強化。施策6の具体的な取り組みは市民協働によるパトロールの実施。市民の皆様と職員が一緒に道路・河川・公園のパトロールを行う。施策7の具体的な取り組みは、既存団体等との連携。地縁組織、市民活動組織、企業や事業者などの各方面の方々と連携して市民協働を実施するために、土木事務所等の体制の強化をめざす。
 最後の「柱5」は、行政の人的・物的資源の活用。施策9の具体的な取り組みは、自主的な活動を進めるための人的支援の充実。市民の皆様の自主的な活動が円滑、継続的に実施できるよう、職員による支援等を行う。
 以上に掲げた5つの柱を中心に各それぞれに定めた施策を実施し、市民の皆様に"土木"や"維持管理"を身近に感じていただき、市民協働の実現に向けた着実な取り組みを進める。しかし、安心・安全にくらすことができるまちを実現するためには、「行政」「市民」双方になにが必要とされているか、どう交わっていくことが望ましいか、現代において非常にむずかしい問題である。「行政」だけではなく「市民」と協働して、まちを守る取り組みを実施していくことは必要不可欠であるが、公共土木施設の維持管理に対する市民からの認知度や理解度はそれほど高くなく、市民からも「土木事務所や維持管理のことがよく分からない」「話しやすい場をたくさん設けてほしい」「行政の考えや気持ちや困っていることをもっと発信してほしい」などと、行政とのつながりを強くし、理解を深めたいという意見は多数あった。
 行政の対応としては、このような意見をもとに、「柱3」の市民とのコミュニケーションの促進の施策4、5と照らし合わせて、市民の皆様とコミュニケーションの場づくりとして、中京区役所協力のもと、自治連合会会長会や小学校校長会の場において、地元のイベントや学校の授業などで土木事務所の取り組みを知っていただく時間を取り入れていただくことを提案し、その結果、朱雀第三小学校に興味を持っていただくことができ、小学校3年生の「総合的な学習」授業に取り入れていただくこととなった。実施に当たっては、子どもたちに土木事務所の業務や、まちを守ることをより身近に感じ、関心を持っていただけるよう、職員で当日の授業内容、タイムテーブル、班構成等を検討、協議を重ねた。
 実施内容としては、室内授業、校外授業の2つである。まず室内授業では、道路の損傷個所の写真を基に、パワーポイントを用いて土木事務所の仕組み、業務内容等を紹介したうえで、メンテナンスゲームという実際に土木事務所職員になったつもりで損傷している複数枚の写真を見て、決められた予算(ポイント)を使い、自分ならどの順番で直すかを考えてもらい、実際に全て直せるポイントはないので、直せないものに関してはどうしていくのが適切かを考えてもらう授業を行った。次に校外授業では、実際に損傷個所の補修工事を見学してもらい、普段、自分たちが通っている道路の安全がどのように守られているかを、身近に感じてもらう授業を、普段から使用している材料、機械を用いて行った。
 実施に当たって小学生中心の授業となったが、実施するうえで土木事務所職員を含め、他土木事務所、本庁課職員、警察、朱雀第三小学校の校長先生含め多くの教員の方々、朱雀第三小学校のPTA、地元の方々の協力なしでは実現できなかった。ここで言えることは、小学生に身近に感じてもらっていることが、自然と周りにいる大勢の大人を巻き込んで、土木事務所というものを周知できていたと推測される。小学生に、授業についてのアンケートを実施し、「今回の授業を行ってどうでしたか」という質問に対して、このような結果になった。

(56人中)
主な意見件 数
補修工事を見られてよかった(工事がすごかった)35
土木に興味がわいた10
車両展示がよかった10
また工事の見学をしてみたい
土木工事をやってみたい
土木事務所で働きたい

 この結果から、小学生にも興味を持ってもらえたことがわかる。また特に、少数ではあるが「土木工事をやってみたい」「土木事務所で働きたい」などの意見をもらえた。小学校時にこういった体験に触れることで9、10歳の時にあまり親しみのない「土木」を身近に感じてもらい、触れ合ってもらうことで、将来の「土木」を担う子ども達が1人でも増えると推測される。また、興味を持った子どもが、自分の家に帰り親に喋ることで、大人にも「土木」という言葉を浸透させることができ、相乗効果を生む可能性が十分にあり得るものだと考える。
 なぜここまでこだわるのか。ある別の建設局の課で行った「土木ツアー」の、2016年、2017年のデータがある。次ページのグラフは「土木ツアー」の参加するきっかけを図に表したものである。

(2016年度・参加者35人)
(2017年度・参加者40人)

 この2つの図を見比べても、2016年度の「学校」が26%なのに対して2017年度の「学校」は9%と大幅に減っているのが分かる。
 その理由としては、2016年度時は、ツアーとして選ばれた場所が「京都駅八条口・みやこ夢テラス・サンクスガーデン」を含む、自転車の地下駐輪場等であった。ツアー内容も、京都八条口の各施設の見学、子ども対象の土木体験も用意はしていたが、決して子ども向けのイメージではなく、子どもの集客が乏しいと推測した。そこでツアー初年度ということもあり、南部土木事務所にお願いをし、ビラを南部土木事務所管内の小学校に配布。その結果、2016年度の26%に繋がっていると推測。
 2017年度に関しては、2016年度の反省等を踏まえ、子どもに興味を持ってもらいやすいツアー場所、内容を検討、協議。土木体験等の充実などを増やすこととした。2017年度は、場所を「JR嵯峨野線京都・丹波口間新駅・梅小路公園」とし、内容も工事中の新駅の見学、2016年度と大きく変わったのが土木体験、子どもに楽しんでもらいながら「土木」を感じてもらうため、普段できないような体験(セメント体験、インターロッキング設置体験、植樹体験、ホイルローダー試乗体験)、インターロッキング設置に関しては、設置時に裏に落書きなどを行い、実際に設置するというような特別感のあるものにした。このことから、2017年度の応募は順調であった。結果、小学校にビラを配布する必要がなく、子どもを集客することができた。9%に落ち込んだこともこのことが理由にあげられる。
 総合的に、ツアーだけを見れば、2016年度から改善され、2017年度の応募状況等の移り変わりは良い方向に向いている。ただ私の考えでは、小学校にビラを配ったことで、2016年度の応募のきっかけで「小学校」は全体の2割を超えている。対して2017年度はビラを配布しなかったが子どもは集まった。だが、応募のきっかけの「小学校」は1割にも満たなかったのが現状。私たちはここに違和感を感じる。小学生、子どもたちは行政が思っている「土木」を身近に感じてもらう、親しみを持ってもらうなどの以前の問題で、まず、子どもたちに「土木」に触れる環境を与えることが大事ではないだろうか。この環境が整っていない状態で、身近に感じてもらうなどというのは無理である。まずは子どもたちに気づいてもらう。そのような場を行政等がつくり、子どもから大人へと伝える。そのような場を、今回、朱雀第三小学校の「総合的な学習」で子どもたちに伝えられたことは、将来の土木の光であり、未来の「土木」人の大きな可能性に繋がるのではないだろうか。
 最後に、添付させていただいた資料の一番後ろの資料は、今回の取り組みが、京都市が行っている職員提案制度において、市長賞を受賞し、優秀提案発表会(「トライ 京舞台」)で2018年度(平成30年度)新規採用職員の前で、取り組み内容を発表している様子の写真である。
 発表内容も分かりやすく、楽しく伝えたいと考え、授業内容を漫才で伝えるなど、「土木」を身近に捉えてもらうための工夫も行った。
 この取り組みが、こうして評価していただき、多くの人の前で発表することで、「土木」というものを伝えていけることは非常にうれしいことであり、こういった取り組みをしっかり続けていかなければならないと思う。
建設局土木管理部西部土木事務所