【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第12分科会 新しい公共のあり方「住民協働」理想と現実

 須崎市元気創造係の協働まちづくりの取り組みを「地域おこし協力隊」「移住促進」「地域コミュニティ支援」「地域人材育成」「マスコットキャラクター」「空き家活用」「インバウンド推進」



須崎市のまちづくり
―― 人的ネットワークによる協働のまちづくり ――

高知県本部/須崎市職員労働組合 有澤 聡明

1. はじめに

 須崎市は高知県の中西部太平洋側に位置する人口約2.2万人の町です。ミョウガ生産量日本一、ご当地グルメの鍋焼きラーメン、市内を流れる新荘川でニホンカワウソが最後に確認されたことにちなんだご当地キャラクター「しんじょう君」は、ゆるキャラグランプリ2016でグランプリに輝きました。
 現在、元気創造係では「地域おこし協力隊」「移住促進」「地域コミュニティ支援」「地域人材育成」「マスコットキャラクター」「空き家活用」を担当しています。今回はこれらの取り組みを紹介しながら須崎市の地域づくりについて報告します。

2. 須崎市元気創造係の取り組み

(1) 地域活動の活発化
 2002年、高知自動車道が高知市方面から須崎市まで開通し、また2011年にはさらに中土佐町へ延伸しました。須崎市ではサービスエリアのようにまち全域を利用してもらおうと取り組みを始めました。市は、市民が地域振興につながるまちづくり・まちおこし活動を始める際に最大20万円補助する"SAT補助金"を予算化し、この補助金を活用し、地域資源や人を生かした活動が徐々に立ち上がりました。
 例えば、吾桑地区の青年組織Bokkentが2月末に満開になる雪割桜に合わせてキャンドルイベントを始め、すさき~真実~という若者のよさこいグループの結成、うつぼを名物にしようと「うつぼ祭り」をうつぼ学会が開催、婚活イベント、ウォーキングイベント、七輪を使った食イベントなど、30~40代を中心に住民有志による様々な取り組みがスタートしました。

(2) 移住の取り組み
 これら住民有志の活動では、地域おこし協力隊や移住者が活躍しています。移住者はまちづくりへの参画意欲が高く、また地域にない知識や技術を持っている場合もあります。須崎市では移住促進の取り組みをNPO法人暮らすさきに事業委託し取り組んでいます。移住検討者へのWEBを使った情報発信、都市部での相談会、空き家・空き店舗の調査と掘り起こし、市内企業訪問によるお仕事情報収集、短期滞在施設やゲストハウス運営、体験ツアー実施等により移住者を獲得。定住してもらう取り組みとして新年会・女子会・BBQや川遊びやシーカヤックなどの自然体験など交流イベントを開催。起業創業セミナーやまち歩きガイド養成、空き家DIYワークショップに取り組んでいます。数年で人事異動がある市役所ではなく、NPOが事業を担うことで現場にノウハウが蓄積され、移住者はもちろん市内企業や空き家オーナー、まちづくりに取り組む住民とのネットワークが広がっています。年々存在感を増し、今では市役所と住民との中間で継続的なまちづくりの中核を担う組織です。
 また周辺5市町で奥四万十地域移住定住促進協議会を設立し、東京で出身者と地方に関心のある若者を対象に移住セミナーの開催や地方での起業創業の仕掛けづくり等関係人口創出に取り組んでいます。

(3) 地域人材育成
 住民有志と移住者により充実する住民活動に合わせ、須崎市では地域人材育成「須崎未来塾」を2012年にスタートしました。これは、「消費ではなく価値を創る"創費"できる人財育成」をテーマに、様々な分野の講義・まちなかや漁村や地域産業のフィールドワーク・地域活動を1年間全7回に分け学び、最終日に今後自分のやりたい活動を発表するものです。4年間で100人以上が参加し55人の塾生が修了しました。修了生を中心に関係者で須崎未来塾同創会を組織し、地域人材ネットワークを維持しています。地域で何か始めたい人・地域活動に興味がある人が参加することで、同じような想いを持った仲間を得て、お互いに応援し、時には連携することで最初の一歩を踏み出す流れが生まれています。また近年では須崎商工会議所と須崎市役所で、ビジネスプラン塾やビジネスプランコンテストも開催し、地域活動だけでなくスタートアップ支援にも取り組んでいます。
 この取り組みによって生まれた動きを紹介します。第1期生として参加した須崎高校の大原先生は、未来塾に参加することで地域活動に携わる地域住民の人的ネットワークを獲得し、生徒が地域で活躍する機会を作りました。高校生カフェ、まちあるきガイド、観光企画、地域イベントでのボランティア活動、市内事業者へのコンサルティング体験、地域商品開発など、今では様々な場所で高校生が地域で活躍しています。また、2期生の女性4人はACTすさきというグループを結成し、ふるさと納税返礼品事業に参加。事業収益で空き家を購入しゲストハウス運営に乗り出しました。他にも、地域の活動やイベントの実行委員会に所属する修了生も多く、須崎未来塾の人的ネットワークは須崎市のまちづくりのエンジンとなっています。また、地域活動に意欲ある市民100人がやりたいことを市役所が把握できることで、様々支援策やまちづくりの施策を立案しやすい環境が整います。

(4) コミュニティ活動支援
 高知県では過疎化少子高齢化が進む集落での持続可能な地域づくりを進める為に「集落活動センター」の設立を支援しています。須崎市では安和保育園の統廃合の提案を受けた安和地区の住民(集落人口約720人)が、廃園させない為に自分たちが地域のためにできる事を考え行動する為、5年間地域で議論を重ね2018年4月に集落活動センターあわを設立しました。5つの部会を作っており、①教育協働部会では、保育園と小学校の運営を支援し、2018年度より安和小学校がコミュニティスクールとなる原動力となりました。②観光交流部会では、地域でのイベントを企画。③移住促進部会では、空き家掘り起こしに取り組み、空き家マップと耕作地マップで資源の見える化に取り組んでいます。④高齢者福祉部会ではサロン活動と健康増進⑤特産品部会では、耕作放棄地対策と特産品づくりと販売・ふるさと納税返礼品事業 に取り組んでいます。市の集落支援員の配置と、特産品部会の収益による独自活動によって、センター設立前の2017年度には集落人口が増加に転じ、20人を切るかと思われた保育園と小学校の子どもの数も、それぞれが30人に届きそうな状況です。高知大学地域共働学部や須崎未来塾と学びの場を持ち、移住者用住居の確保の為にNPO法人暮らすさきや市の空き家活動事業と連携するなど、住民自ら持続可能な住みやすい地域づくりに取り組んでいます。

(5) 文化的アプローチによるまちづくり
 須崎市のまちづくりの重要な拠点となっている施設が「すさきまちかどギャラリー」です。現代アート作家のアーティストインレジデンスを中心としたアートイベント「現代地方譚」を開催しています。現代アートの若手作家を県外から招聘し、作家が地域住民と交流し、まちの歴史や文化をリサーチします。須崎をテーマに滞在制作された作品を通して、住民が自分たちの住む須崎やまちの価値を捉えなおします。また、2018年に開催した現代地方譚5では、上記に加え演劇と音楽も企画しました。演劇プログラムでは昔の須崎の話を聞き取って脚本を制作し、住民が朗読劇を演じました。音楽プログラムでは、雪割桜キャンドルナイトイベントの会場にアーティストを招聘しライブを行いました。
 4年間で5回開催した現代地方譚の成果は、来場者数や経済効果だけでなく従来の観光イベントとは違った効果を生み出しています。写真家の西村知己さんは、イベント終了後も漁村集落を訪ね地域住民と交流しながら写真を撮り展覧会で須崎の写真を発表しています。竹川宣彰さんの作品「はちきん観音」はすさきの元気な女性達のプライドになっています。西村有さんの描いた作品は権威ある賞を受賞しました。多くの作家が須崎での滞在を楽しみ、招待していない年にも須崎を訪れています。イベントに関わることで、スタッフも作家も見学に来た住民も、商業的に衰退してきた商店街に新たな価値を見つけ、須崎のファンになっています。関係人口の創出に留まらず、地域づくりに取り組む住民を鼓舞し、須崎に住む住民に誇りを与えています。まちづくりの大きな方向性を楽しみながら共有する機会となっています。また、展示会場はギャラリーを中心に周辺の空き家空き店舗を活用しますが、展示会場として使用した空き家は、その後全て活用されています。本イベントを始め文化的なイベントや取り組みによって、すさきまちかどギャラリーの来館者数は年々増加し、現在1万人を超えています。

(6) 空き家空き店舗活用
 地域人材育成や様々な活動が充実していく中で、住民が活躍できる仕掛けとして空き家活用事業に取り組みました。多くの市民が思い入れを持ちながら朽ちていく空き店舗を市が借り上げ、改修し、活用団体を募集しました。改修では一部を市民が職人に習いながらワークショップ形式で改修し、活用案を出し合いました。活用団体として選ばれたNPO法人暮らすさきは、クラウドファンディングで資金調達し更に改修を行い、ゲストハウス・コミュニティ施設・焼き菓子店としてオープンしました。まちかどギャラリーに続いて新しい拠点が商店街に生まれました。また、その後、4階建ての病院跡施設も市が借り上げ改修し、移住者がカフェ事業とコンテンツ事業を創業しました。

(7) しんじょう君事業
 2013年4月に誕生し、個性的なブログやTwitterなどが人気となり、2016年のゆるキャラグランプリでは全国1,421キャラクター中1位となりました。ご当地キャラクターの目的は、観光推進や市のPR、イベント集客など様々なものがありますが、当市では「情報発信」と「発信力強化」を最優先に取り組んでいます。しんじょう君のTwitterフォロワーは須崎市の人口を上回り2018年8月現在で約9万人となっています。2016年度のふるさと納税はしんじょう君の情報発信力を生かした宣伝によって、前年度200万円の300倍となる約6億円の寄付を受けることができました。(2017年は約10億円。2018年は約11億円。)

(8) ふるさと納税事業
 しんじょう君の発信力によって須崎の産品が注目を集め、多くのふるさと納税を集めることが出来ました。自ら販路を持たず市場や問屋で買い叩かれていた事業者も、寄付者からの感謝の声が届き、また人気ランキング上位に自社製品が登場することによって、新たな事業展開を考えています。土佐打ち刃物業者は最終製品まで自社で製造し海外も含めた販路開拓に挑戦し、また、ふるさと納税をきっかけに起業した未来塾修了生は、耕作放棄地対策としてふるさと納税を活用したオーナー制度に取り組んでいます。また、事業者連絡会を組織し、勉強会や地域商社設立にむけた協議をしています。ふるさと納税をきっかけに行政と民間事業者のネットワークが再構築され、一過性でない形の産業振興にどうつなげるかを官民で考え進める契機となりました。また、高知県内の10の市町村と連携し担当者会や連携イベントの実施、協議会の設立を進めています。

(9) インバウンド推進
 地方にとっての人口減少は避けることができず、それに伴う国内需要の低下も進行し続けます。そこで海外需要を開拓することは必須であると考え、しんじょう君を活用し台湾、フランス、イギリス、ハワイなどのイベントに参加し、事業者と共に須崎市のPRと海外販路開拓に取り組んでいます。
 2016年からはフランスのJapanExpoに参加しています。JapanExpoは毎年24万人の日本に興味のあるフランス人が集まるイベントで、日本をテーマにした世界最大のイベントです。市内事業者と共に須崎の産品や加工品をPRしていますが、パビリオンでは販売額が過去最高を記録し、海外展開を検討する事業者にとって非常に貴重な場となっています。また情報発信においても、しんじょう君の認知度は年々向上し、現地でのLIVE配信では4万人以上が視聴しました。須崎の打ち刃物を始めとする伝統的な技術は高い関心を集め、ナショナルジオグラフィックからも取材の申し入れがありました。
 また、2017年からは同イベントにおいて須崎市アンバサダー事業を実施しています。イベントHPや会場で須崎市のアンバサダーを募集し、注目を集めながらオーディションを行い、毎年3人のアンバサダーを選定しています。アンバサダーを後日、実際に須崎市に招きモデルツアーを体験してもらいます。一連の取り組みを大きくPRし、フランスでの須崎市の認知度を高めています。またアンバサダーには帰国後もフランスで須崎のPRを手伝ってもらい、フランスでの須崎市の関係人口創出の起点となってもらっています。これらの取り組みによって海外からの観光客数も徐々に増え始め、インバウンドの機運の全くなかった町に徐々に芽が出始めました。そして現在、フランス人観光客2人から移住の相談を受けています。

3. おわりに

 このように須崎市元気創造課では官民協働のまちづくりを進めています。まちづくりの基礎は人財のネットワークが充実しながら機能することです。須崎市では地域人材育成事業を核に取り組み、人財ネットワークと共に様々な事業に取り組むことで、少しずつ独自性を持った取り組みが生まれ、成果が出ています。
 これらの動きをきっかけに企業との連携の動きも始まっています。2018年4月にはデル株式会社とインテル株式会社との連携協定を行いました。同月には株式会社ダンデライオンアニメーションスタジオとアジアを中心にしんじょう君のアニメ放送プロジェクトも始動しています。
 引き続き、現場に根差した事業を展開しながら、市民と共にまちづくりを進めていきたいと考えています。