【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
地元企画分科会 「ふるさと」を次の世代へ~「犠牲者ゼロ」の防災まちづくり~

 2017年5月1日~10月31日までの半年間、名古屋市の丸ごと行政支援の一環として陸前高田市立図書館に司書として派遣されましたので、その報告をするとともに新図書館の紹介をします。



名古屋市の行政丸ごと支援
―― 陸前高田市立図書館派遣報告 ――

愛知県本部/自治労名古屋市労働組合・教育支部 田中里枝子

1. 派遣までのながれ

 名古屋市は、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた陸前高田市を、震災直後から行政丸ごと支援という形で職員の派遣を行っています。これまで様々な業種の職員が、2016年まででのべ200人派遣され復興支援に当たってきました。陸前高田市立図書館は、震災で建物、資料、職員とも甚大な被害を受け、長く仮設図書館で運営をしてきました。新図書館は6年を経てようやく再建されることになり、開館前後の半年間、1日でも早い開館と、円滑な運営をサポートするために名古屋市から司書が派遣されました。

(1) 名古屋市が陸前高田市を応援することになった経緯(注1)
 2011年 3月11日 震災発生
     3月16日 「名古屋市被災地域支援本部」設置
     3月19日~31日 先遣隊を岩手県沿岸部に3回にわたり派遣
     4月1日 調査チームを陸前高田市に派遣
          ・市街地は壊滅的な状況
          ・100人を超える市職員が死亡、行方不明
          ・市役所の行政機能がマヒ状態
          ・岩手県及び陸前高田市から強く支援を要請
     4月7日 陸前高田市を全面支援することに決定 
 2012年 5月2日 両市教育委員会による「絆協定」の締結

(2) 職員派遣内訳
 2011年 33ポストのべ144人 2012年 16人 2013年 13人 
 2014年 11人 2015年8人 2016年8人

 2017年 11人 防災関係業務 防災課・主事1人 
        産業労働事務 商業観光課・主事1人
        道路等復旧業務 建設課・技師1人
        復興計画推進 市街地整備課・主幹1人 主事1人 技師2人
        学校建設の施工管理等 教育施設整備室・技師1人 主事1人
        水道整備関係業務 水道事業所・技師1人
        司書業務 図書館・司書1人(司書以外の派遣はすべて1年単位)
 震災直後は多くの職員が大量に派遣されました。全体を通しても司書の派遣は今回が初めてでした。


2. 陸前高田市立図書館の歴史

1959年 中央公民館図書部として設立
1964年 陸前高田市立図書館
1978年

体育文化センター内に整備
・鉄筋コンクリート造2階建891m2
・蔵書数 8万冊

2011年3月 地震と直後の津波により全壊
2011年7月 移動図書館「やまびこ号」活動開始
2012年4月 仮設図書館にて資料整備
   6月 移動図書館「はまゆり号」活動開始
   9月 北海道よりログハウス図書館寄贈
   12月 図書の貸出開始
2017年6月20日 新館開設に伴い閉館
2017年7月20日 新図書館開館

 震災前の図書館には、岩手県指定文化財の吉田家文書ほか貴重な郷土資料も保管されていましたが、東日本大震災により建物、職員、資料ともに甚大な被害を受けました。貴重な資料4,000点は岩手県立博物館レスキューにより救出され、都立図書館によっても修復作業が行われました。

3. 新図書館のあらまし

 10mかさ上げした市の中心部に建てられた商業施設「アバッセたかた」(「アバッセ」は地元の言葉で一緒に行きましょうの意味)に隣接して新図書館は建設されました。この商業施設には陸前高田市唯一の書店、地元スーパー、100円ショップ、手芸店、衣料品店、介護施設等が併設されています。図書館は木造平屋建てで、災害査定を受けるため、敷地面積は震災前とほぼ同じスペースである894.73m2です。限られたスペースをできるだけ有効に使うため、大人用のトイレや、多くの図書館にある集会室も商業施設のものを利用しています。建築費は、5億6,800万円、加えて外構工事は約3,400万円です。開館当初の蔵書数は、本が約65,000冊、視聴覚資料約4,000点、雑誌のタイトル数は約100点でした。
 図書館は、一般開架、ティーンズコーナー、児童室、親子トイレ、授乳室、東日本大震災コーナー、サイレントルーム、おにわ、読書テラスからなっており、建材には地元の杉材などが使用されています。また蓋つきの飲み物であれば館内に持ち込むこともでき、館内に設けられたソファや電源を自由に使える学習スペースでみなさんくつろいで読書や学習をされていました。
 館内で利用できるタブレット端末とノートパソコンが3台ずつあり、インターネットで調べ物ができます。視聴覚資料を視聴するブースはありませんが、ヘッドホンを使用して館内の好きな場所でCDやDVDを楽しむことができます。施設自体は決して大きくはないのですが、居心地のよい場所になるよう様々な工夫がされています。今後の維持管理を考えても、市の規模にあった図書館と言えると思います。

4. 支援の内容

(1) 最初に求められていた仕事
・配架・蔵書点検、新図書館内で実際に本の配置決め
・書誌データの作成(特に郷土資料)
・カウンター業務の助言・指導
・運営面の指導
  利用者サービス
  マニュアル作り
・勤務シフトに関する指導
・図書館イベントの企画・立案指導、各種イベントの企画・実施方法
 職員は仮設図書館での経験しかないため、新図書館に向けての開館準備と運営指導

(2) 実際に行った仕事
・図書、視聴覚資料の分類の見直しとラベル変更、配架の見直し
・利用案内や配架図の作成
・子ども向けおはなし会等行事の立案、ボランティアとの調整
・開館前の事前利用者登録や子どもキャンパス事業(生涯学習課主催事業。市内小中学生を対象とし、さまざまな施設の見学や学習を行う。)開催
・開館記念イベント(在札幌アメリカ総領事館首席領事による英語のおはなし会、絵本作家イベント等)ほか日常的に行う各種イベントの企画・運営
・絵本リスト、震災の前と後の地図と写真のブックリスト作成
・学校との他機関連携事業
・その他図書館運営事務

 その時々で必要に応じ、また名古屋市図書館での事例も参考にしてもらいながら、陸前高田市の職員とともに新しい図書館づくりに日々奔走しました。なんとか夏休み前の開館にこぎつけることができ、市民に愛される図書館になったと思います。
 仮設図書館時代は、図書館のすぐ横に「小さいおうち」(子どものためのNPO図書館)があったため、子どもへのサービスは、ほぼお任せしていたところがありました。新図書館が開館するにあたり、将来の利用者を育てる意味でも子どもへのサービスを通常の業務の中に位置づける必要がありました。

5. 利用状況

 まだ復興も十分とは言えず、市民の方々が楽しめる施設が少ない中、待ちに待った図書館の開館ということで、オープンから大変多くの方が来館されています。開館半年で、震災前の図書館を大きく上回る利用がありました。入館者数も仮設図書館時代は6年間で約3万人強だったのが、新図書館開館後は、1か月で2万人を突破、2か月で3万人に達しました。
 市民だけでなく、近隣市町村からの利用も増え、陸前高田市の賑わいに貢献しています。新しい図書館には「東日本大震災コーナー」として関連書籍を集める他、まだ多くの方が仮設住宅で生活をされていることから、気軽に読める本、雑誌、漫画、CD・DVDも充実させています。仮設住宅を出て新たに家を新築される方には住宅建築の本が人気です。農業をされている方も多く野菜の育て方の本もよく貸し出しされました。

6. 今後の課題

 震災後、全国から多くの寄贈本が寄せられましたが、保管場所が足りず、市内数カ所に分けて保管している状況です。現在は郷土資料以外の寄贈は受け付けておらず、その代わりにバリューブックスゆめプロジェクトにて支援をしていただいています。これは、不用本を現金に換算して図書館に寄付する制度で、図書館側に選書の余地があるため、非常に使い勝手の良い寄付のあり方です。一方、これまでいただいたたくさんの資料をどのように活用していくのか結論は見えません。
 また、被災地の図書館は、建物、資料費とも、補助金に頼っているところが大きいのですが、今後、予算的に非常に厳しい状態になることが予想されます。今いる司書も任期付職員で、期限が切れた後の職員の確保、慢性的な人手不足にどのように対応していくのか、人件費、資料費とも、財源の確保が求められます。

7. 震災から図書館員が学ぶべきこと

 陸前高田市立図書館では地震直後、図書館員たちは床に散乱した本を拾ったり片付けをしたりしている中で津波の被害にあったと聞いています。津波に限らず、余震で棚や本の下敷きになることもあるでしょう。まずは高台など安全な場所に避難することが重要です。貴重な資料も大切ですが、人命に勝るものはありません。利用者と自らの安全を確保すべきです。貴重な資料はデジタル化を推進するなど違った形で後世にその価値を伝える工夫が必要です。
 また寄贈本については、たとえ震災直後の混乱期であっても、受付後の取り扱いについては図書館側に委ねてもらうことが必要です。せっかくの好意を無駄にしないためにも心がけたいことです。

8. 最後に

 日本に住んでいる以上、どの自治体の図書館でも震災にあう可能性はあり、また地震以外の災害を被ることがあります。図書館を新築・改築する際には建物を耐震・免震構造にすることも大切ですし、より安全性の高い書架を採用するなど、ハード面の減災の工夫はもちろん必要です。ですが、人的支援として、被災地に他の自治体の職員が支援に行く制度の充実は、被災地の復興には大変有効な手段です。こうした取り組みは、被災地だけではなく、派遣を行った自治体側も学ぶことが多く、双方にとってメリットがあります。今後も様々な自治体で支援の輪が広がることを期待します。




(注1) パンフレット「応援します!! 東北 陸前高田市 ~行政丸ごと支援~~市民交流~」(名古屋市被災地域支援本部事務局)より