【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
地元企画分科会 「ふるさと」を次の世代へ~「犠牲者ゼロ」の防災まちづくり~

 2016年1月、40年に一度といわれる大寒波が美郷町を襲った。町内各所で水道管が多数凍結・破損し、水源が乏しくなり、水不足になるなかで住民の暮らし、ひいてはいのちを守るべく活動を行った。本レポートにおいては、実際の活動から見えてくる「私たちにできる防災」についての課題認識および、未来へ向けて改善等の考察を行う。



緊急時における人とモノの付き合い方
―― 大寒波はある日突然に ――

島根県本部/美郷町職員組合 和田 哲也・尾原  太

1. 2016年豪雪は記録的な大寒波に

(1) 災害の発生
 2016年1月23日(土)から24日(日)昼前にかけて低気圧が日本海沿岸に次々に発生して東に進み、24日昼過ぎには冬型の気圧配置となった。24日21時には上空約5,000メートルに氷点下43.9度の強い寒気が入り、25日にかけて非常に強い冬型の気圧配置となった。この低気圧の影響により、23日未明から雪が降り平地で大雪となった。
 最深積雪は、粕渕地域では30センチ、沢谷地域50センチ、比之宮地域80センチ程度で大和エリアでの積雪の多さが目立つものであった。加えて数十年に一度の最強寒波で町内でも酒谷地区では-7度を記録した。
 この大雪と低温により県道、町道など主要な道路が通行不能となり鉄道や路線バスなどの公共交通機関が運休した。また長時間にわたる停電や山間地域での孤立集落発生、ハウスなどの農業施設や車庫の倒壊が相次いで発生するなど、大きな被害がもたらされた。
 25日以降は異常低温による水道管の破裂による漏水が空き家中心に多発し、公共簡水などでは給水制限や断水などを余儀なくされ、日常生活に過去にない甚大な影響を及ぼした。
 水道業務を長らく担当した職員でも経験のしたことのないマイナス下での気温変動による水道管の破裂は、これまでの町の凍結防止対策も功を奏さず、ましてや経験上の予測よりも早い段階で発生したといえる。

(2) 被害は拡大~災害対策へ
 美郷町の水道施設は、給水規模で分類されるところの簡易水道である。簡易水道は町で運営管理し、それ以下の給水規模の簡易給水施設は地元管理で行っている。簡易水道については、監視システムを設置しているため、災害の影響は早期に発見できる。25日未明には一部の地区において異変が見られたため、水道係の職員はこのときから警戒にあたっていた。翌26日には、被害は町内全域へ拡大したため災害対策本部が設置され職員も最大数での動員体制となっていった。

 対策本部の指示は、「最速での復旧」。
~被害の対応~ 美郷町災害対策本部等設置状況

○準備体制を設置(1月24日5:00)
 設置事由<大雪警報発令による>
○警戒本部を設置(1月25日17:15)
 設置事由<吾郷地内の水道施設の漏水発生に伴う給水活動開始>
○対策本部を設置(1月26日15:00)
 設置事由<複数の水道施設の断水による一般家庭への給水活動開始>

 美郷町の簡易水道施設のしくみは、いたってシンプル。水源となる河川や井戸から取水をし、高所に設けた配水池という貯水タンクに貯めた水を配水池から水道管によって自然圧(流下)によって各家庭へ給水されている。基幹部分である水道管本管の破損ということも勿論考えられるが、今回の災害は、末端部にある各家庭の給水管の破裂による漏水に対し、取水が追いつかないことが原因である。

(3) 被害は最小限に復旧は最速に
 美郷町の簡易水道は、町の直轄運営である。組合でも訴えてきた直営堅持の方針で、水道料金メーター検針や特殊な設備のメンテナンス以外の維持管理業務については、直営で行ってきた。そのため、水道業務の特殊性はあるが、経験者も複数人いる。
 被害を最小限に抑える方法は、配水池の水を確保しつつ漏水を発見し止めることである。それを最速にする方法とは、まず給水を止めて配水池に水を貯める。これは、漏水を発見するため配水池が満水に近い状態にすることが必要なためと、空にしたときに配管内にエア(空気)がかむ(残る)のを防ぐためだ。配水池に水があるうちに各給水家庭の水量メーターで漏水チェックをし、止めていくのだ。時間にして1地区4~5時間程度かかり全地区のメーターをチェックしていく。これをグループ化して給水地区ごとに行う。
 まったくもって単純なやり方ではあるが、小規模な簡易水道施設では、実はこれが最速の方法となる。

(4) 方法と役割
 グループを作るうえで指揮及び配管バルブを操作できる経験者とメーターを確認していく職員がチームとなる。ここで課題となるのが、寒波とともにきた積雪による障害である。各戸の給水管は自己管理とはいえ、この状況下で自己のメーターを確認する者は少ないだろう。それを検針の経験もなくましてや積雪でメーターの位置もなにも見えない状況・マイナスの気温の中、探して歩くのは、いうまでもなく過酷である。
 この時間を最小限にするために、夜間に配水池に水を貯める時間を確保するための計画断水を行い、設置当時のメーター位置を記録した施行時の工事写真を探しだし資料づくりを行う。建物の位置とメーターの位置を写真からみて推測するのだ。闇雲に探しても時間をロスするだけである。時にこの準備は、朝まで続くこともあり、この作業を一週間繰り返した。

 

2. "あたりまえ"のありがたさ

(1) 水の価値
 最初に述べたように、町の水道には、町管理のものとそれ以外の地元管理、個人管理のものがある。今回のこのような災害では、多くの職員を動員し、凍結や漏水による断水となっている家庭に生活水を給水(配布)していく。毎日多くの職員が、夜遅くまでこの作業にあたってくれた。美郷町で取り組んでいる職員の地域担当制は、地元出身の職員がその地域の担当になることが多い。メーターを探す前に家が分からないと話にならないのだ。この点でいえば、地域担当制のおかげでスタートラインが前にあったのだと後になって実感した。
 水道水は、ライフラインの中でも最重要の位置にあるものだと考える。飲料水はもちろんのこと、近年では下水道(トイレの水洗化)の整備もあり、断水をするということは、利用者にとっては非常に不便なことである。とりわけ水道料金を払っている者にとっては、24時間いつでも水道水が使えて当然という都会の常識で思われる。この間、町で電話対応にあたった職員は、目測のつかない復旧と苦情の間で大変だったと思う。
 一方で、地元管理の水道施設についても同じような状況がおきていた。町の職員は、町管理の水道施設の復旧対応で、人手を回す余裕すらなかったのが現状だった。当然のことながら断水も強いられたし、町からの給水対応も受けた。しかし、もともと自分たちで管理しているので復旧にいたっては、町を頼らなかったのだ。
 私たちがした手順と同じように地元の利用者で行っていた。とりわけこれは、「災害なのだ」という意識が高いのだと感じた。
 このような状況になった場合、これは災害と呼ぶべきだろう。「最速での復旧」を考えれば、計画的な断水も実行するし、突発的にも行う。より流末(端部)で給水を受ける者にとっては、不便であるし、影響も長時間に及ぶ。しかし、災害の状況下では、それは理解してもらわないとならない。
 給水にあたる者、電話対応にあたる者、利用者と直接的に接した職員にとっては、今回いろんなことを感じたかもしれない。

漏水・断水に伴う対応一覧
 空き家や公共施設、遊休施設などの漏水調査、断水に伴う各家庭への給水活動を18Lポリタンク、6L給水袋で実施、詳細は下記のとおり

簡易水道名漏水調査実施日給水活動実施日
酒谷九日市簡易水道全域1/26~29全域1/27~29
石原簡易水道全域1/26全域1/30
熊見簡易水道全域1/26全域1/26~27
粕渕・浜原簡易水道全域1/25~28久保地区一部1/26~28
吾郷簡易水道吾郷地区一部1/26吾郷地区一部1/26
別府簡易水道
君谷簡易水道全域1/28~29全域1/26~29
潮簡易水道
都賀行簡易水道全域1/26全域1/26~27
都賀本郷簡易水道
都賀西簡易水道全域1/26全域1/26
比之宮簡易水道全域1/27
その他地頭所・久喜原

 石原簡水と君谷簡水には配水池への取水が追い付かないため、粕渕・浜原簡水の水道水を直接配水タンクへ補水を実施して給水安定を図った。
 住民への情報提供においては漏水箇所の点検や節水のお願い、給水活動実施内容、復旧見込みなどを防災行政無線、広報車両、IP告知放送で周知

(2) 利用者の声
 一週間経ってようやく簡易水道施設の給水範囲においては、完全に水道が復旧された。この間、昼夜を問わず復旧にあたる職員の姿や給水活動などの様子は、全国的な災害報道の情報とともに直接目の当たりにされた町民も多かったのであろう。しばらく時間が経過した、ある日の山陰中央新報にこの寒波での給水活動に対する感謝が述べられた投稿が美郷町の住民からあった。
 当然、全員の意見でもないし、町として対応に最善は尽くすものの、反対の意見やもともとの施設の課題もある。現場で聞いた声は、災害時の今回、動員等で関わった職員全員にはそのときに届かない。
 この伝わる声を聞いたとき、あらためてこの災害の終わりを実感した。

3. 災害を乗り越えて

(1) 職員・組合として
 美郷町職員労働組合としての自治研活動においては、美郷町の地域担当制度がよく議論になる。この地域担当制度は、「住民参加による行政を推進し、行政と住民が連携、協働しあいながら町づくりを進めるために、住民の意向や要望を行政施策等に反映させることを目的とする。」とされており、この目的を達成するために地域担当職員を配置する、となっている。
 この地域担当制度の実際の運用とその内容にあたって、職員労働組合として異論を持つ部分もあるが、少なからずこれまでの職員として業務のなかや地域担当制度での活動のなかで経験として培ったものがあって、前述のように災害対応時に効果を感じた部分があった。今回の寒波による災害のみならず様々な災害の対応において地域担当制度の役割は大きい。

(2) まとめ
 災害が一段落したころに、この寒波による災害にあたった職員に対し意見や今後の対策の参考とするためのアンケートがあった。反省点の洗い出しと次回への対策のためである。このような災害がおこったときに必要なのは、この点である。寒波での災害の対応で言えば、今後、職員が町内へ行ったときにも、メーターの位置を確認したりするなど、自発的にそのような意識が芽生えるものだと思う。今回の対応での反省を生かし事前の対応準備もしっかりできる。地域担当として、職員組合として予習という取り組みもできる。
 次に同じ災害があった場合、どう対応できるかが問われる。そして、そのときに、今回よりも一歩でも二歩でも先にスタートラインが引けているように組合としても携わっていくべきだと考える。