3  「完全無欠の市民参加」
  -市民は、行政はどこまで持ちこたえられるか
    (住民参加による高齢者・児童地域施設の建築基本計画づくりの場合から)

  日進市職員連帯会議 宮 地 勝 志

 

はじめに
 『住民参加』 を 「公共事業の意思決定に市民が参加すること」 と位置づけて、住民主体による高齢者・児童地域施設の建築基本計画づくり (施設テーマの作成及び内容の企画) に取り組んだ。
 この取り組みにおける参加方法は、誰もが参加できるようにと、中心核となる設計研究会への参加、計画づくりの要所に関わる特別ワークショップへの参加、地域団体懇談会への参加、そのほかファクシミリ、電話、Eメールなどによる随時参加という4つの機会を設けた。
 分権型自治社会をめざす基盤づくりとして、地方自治の活性化は、自治体内部の日常的な市民自治と参加の保障が不可欠であると言われている。 そのために、協調、協働型の社会として、住民と行政がそれぞれの良いところ、弱いところを認め合い、その上で共通の目標に向けて協力していくことが求められている。
 この取り組みにおいては、住民と行政とが互いをよく知り、互いに学び合い、共に考え、一緒に発見していく過程の中で信頼関係を築いていくことをめざして、『住民参加』 の場におけるコミュニケーションや意思決定の過程をできる限りガラス張りにし、経験を共有化していくことに努めた。

1. 「わくわくワーク」 の10カ月のあゆみ
 平成11年9月、生涯支援部福祉推進課、児童課は、ワークショップ形式による施設の計画づくりの参加者を公募した。 この呼びかけに応じた地域住民 (参加者26名) により、設計研究会 (愛称 「わくわくワーク」) はスタートした。 この年10月29日の第1回の集まりから、今年8月20日の最後の集まりまで、ワークショップによる全体会の回数は24回。 そして、この他に、議論を深めるために、グループに分かれての討議も数多く行い、結果、「わくわくワーク」 のメンバーが関わった会合は合計すると100回をゆうに越えた。 さらに、少ない回数でもぜひ計画づくりに参加したいという住民のために、4回の特別ワークショップ (参加登録者31名) を実施した。
 この10カ月余りの 「わくわくワーク」 は、大きく3つの段階に分けられる。 初めに学習、次に研究、そして最後に計画作り、という段階である。
 なお、計画づくりで話し合っている内容を地区住民に伝えるため、メンバーによる広報活動も積極的に行った。 方法としては、5回のニュース紙の発行、これは市広報紙に折り込んで地域の全戸に配布した。 またインターネットでのホームページによる広報も行った。

2. 学習段階
 学習の第1段階は、計画作りの第一歩を地域の現状を把握することとして、地域の特徴の把握をKJ法等によって行った。 KJ法は、参加者一人ひとりが、自分の考えをカードに書き、出されたカードを似たもの同士に分類し、整理していくことにより、メンバーがどのような考え方をしているのか、あるいは物事の構造を明らかにしていくやり方で、このあとの計画づくりの中でも何度も用いた。
 学習の第2段階は、「地域住民の新施設に対する要望の収集」 である。 様々な方法により、地域住民の要望をできるだけ多く集めた。
 まず、地域で活動中の団体の要望を聞くため、団体との懇談会を行った。 ニュース紙などの呼びかけに応じた17の団体から施設に対する要望を集めた。 個人の意見についても、ニュース紙などで呼びかけ、Eメールやファックス、電話、また、郵便局やスーパーに設置した意見箱などの方法で要望が寄せられた。 また、小学生を対象とした子ども向けワークショップを行い、また、中高校生を対象とした街頭ヒアリング調査も行い、ユニークかつ貴重な意見をたくさん得た。
 これらの方法で集めた要望カードは、全部で1,470枚となった。 この膨大な数の要望カードは、「わくわくワーク」 の大切な宝物として、この後の計画づくり等の基礎資料として、もっとも重要なものとして、大切に扱われていくことになる。
 次に、学習の第3段階は参考施設視察会である。 参考施設を実際に見ることにより、新施設のイメージを思い描きやすくするために、市内外の同種同類施設、遠い所では金沢の市民芸術村を見学した。 市民芸術村は、紡績工場だった建物を改築したユニークなデザイン、24時間オープンの運営体制など、参考になる点が数多くあり、メンバーにとってはとても刺激的な視察会となった。
 学習の第4段階では、「アドバイザーの講演会」 を開催した。 これは、行政事業への市民参加について、理論的にどう考えていったらよいのかを学ぶために行った。 愛知大学の牛山先生の講演では、市民参加にはどのような段階があるのかについて明快に説明いただいた。 形式だけの参加から権利としての参加にもっていくためには、実質的な参加のシステムをどう作っていったらよいのかについて学び、住民参加の新しい形としての 「わくわくワーク」 の試みがいかに重要なのかを考えさせられた。
 また、金城学院大学の櫻井先生の講演では、地域施設計画における住民参加の意義は、行政・市民・設計者が学びあうことにより、トータルに計画ができること、それは要求をぶつけ合うことではなく、理解を深め合うことであって、結果的には完成後の利用が活発になり、地域コミュニティーの活性化につながっていく、ということを学んだ。
 また、地域ニーズを把握するときに大切なこととして、ニーズが少なくても優先的に配慮されるべき人たちに配慮することや、ニーズが強くても内容によっては考え直す勇気も時には必要なこと、ニーズは年月が経過すれば変化するものなので、将来のニーズの変化に対応していくこと、などを学んだ。
 学習の最後に、「施設整備に関連する他の計画等の把握」 を行った。 日進市では日進市老人保健福祉計画の中で、従来の 「困ったときの福祉」 から、これからは 「幸せづくりのための福祉」 へと、福祉の捉え方を転換していく方針を持っていることや、さまざまな法律・計画などについてを学んだ。

3. 研 究
 まずは1,470枚の要望カードを、年代ごとに整理した。 乳幼児・小学生・中高校生・成人・高齢者、それぞれの年代は、どのような部屋や使い方を望んでいるのか、また、午前・午後・夜間・平日・休日といった時間帯によって、それぞれの年代がどのような利用を望んでいるかについても整理した。 次に、1,470枚の要望カードを部屋の機能ごとにまとめた。 この計画づくりの基礎資料となった 「地域住民からの要望カード一覧表」 という資料は、A3サイズで34ページという分厚いものとなった。

4. 計画づくり
 様々な角度から地域住民の要望を研究した後、最終段階である計画づくりにとりかかった。 計画づくりの最初は 「設計テーマ」 を決定すること。 テーマは、設計者に建物のねらいをはっきりと伝えるための言葉である。
 テーマ決定後、いよいよ 「福祉会館の施設内容」 についての検討作業に入った。 施設内容については、室企画・配慮事項・外構計画の3つに分けて検討した。 それぞれの内容については、省略するが、どのように施設の部屋について企画していったかについてを説明する。
 地域住民の要望をどのように取り入れるかが、言うまでもなく計画づくりでの最重要課題であった。 敷地も予算にも限りがある中で、1,470の要望を生かした施設を考えていかなければならない。 「ニーズが少なくても優先的に配慮されるべき人たちに配慮すること、ニーズが強くても、内容によっては考え直す勇気も時には必要なこと、ニーズは年月が経過すれば変化するものなので将来のニーズの変化に対応していくこと」 など、アドバイザーからの講義で学んだことが参考になったようだ。
 また、研究段階で整理した 「年代ごとの特性と施設利用の研究」 を生かし、1つの部屋を利用時間によって様々に使ったり、部屋の機能が似通ったものを1つの部屋に兼用させたりしながら、16室の機能、趣旨 (目的とねらい)、特徴、面積、他室との関係等を企画書にまとめて、結果として1,470の要望は可能な限り取り入れられるものとなった。

おわりに
 「わくわくワーク」 が始まったころは、メンバーの中に 「私個人の要望を実現させたい」 という気持ちが多くあったが、地域住民から預かった多くの要望を整理して、研究していくうちに、「1,400枚のカードをどう生かしていったらよいのか」 という方向に発想が転換していった。 これが、アドバイザーの講演にあった 「要求をぶつけ合うのではなく、相互の立場についての理解を深め合う」 ということだったのだと、終わった今、メンバーは感じている。
 「わくわくワーク」 での試みは、市民参画としてはどのような意味を持っていたのか。 「市民が要求をするのみで行政と対立関係にある」 という従来の図式を脱却して、今回は 「住民の権利としての実質的な参加システム」 をとることができたのではないかと考えている。 「わくわくワーク」 は、行政と市民が真のパートナーシップを結ぶことの醍醐味を味わうことができたと思う。

番 外
 仲のよかった高校の同級生とかつて語った。 「いつか、世の中を動かしてやろうぜ」。 彼は、一浪の末、全国に名の通った東京の大学に進み、音楽プロデュースのサークルに入り、念願のTV局に入社して番組制作にいそしんでいる。 僕は、名古屋では名が知られているところに進み、風前の灯となっていた学生運動に関わったりしたが、うまいこと役所に入ることができた。
 どうせ、仕事をやるのなら、意味のあることをしたい。 意味のあることとは、もちろん、「世の中を動かす」 ことである。 そんな不純な動機でこの稼業を選んだ。 広報担当を9年間勤めた。 その中で、楽しく仕事をしていくためには、どうしたらよいかを学ばせてもらった。 ひとりでも多くの市民と知合いになり、いろんな思いを仕事上のアイデアに生かしていくことが、それであった。 ところで、そのころ僕は、若者向けの大型イベントに取り組んでいた時期があった。 仕事が終わると、腹に適当なものを詰め込んで、一時は100人を超えていたスタッフたちと、深夜までああだ、こうだと企画会議や準備を進めて、午前3時ごろの帰宅、8時30分のギリギリ出勤という毎日を5~6年過ごしていた。
 役所稼業18年めに回ってきた仕事が、このレポートで報告する本市6番めの福祉会館づくりである。 建築基本計画づくりからのスタートであった。 目標を立てた。 完全無欠の市民主体の建築基本計画づくりを実現することをめざした。 といっても、役所内部の意思決定のタイミングが重要であった。 平成11年度当初予算に組み込まれていた事業なので、春先からのスタートは可能であった。 しかし、市民参加に対する庁内理解度の温度差は当然のごとくあり、いったんイチャモンがついたら、サイド・ブレーキが引かれることは想像できた。 こちとらは、フット・ブレーキどころかブレーキ本体をそっくりはずしてこそ、完全無欠のそれを実現できると考えていた。 運良く時の上司、そのまた上司は、過大な? 理解を示していてくれて、影日向となってその実現を応援してくれた。 7月、その時が来た。 市長選挙である。 現職対新人との争いで、現職やや有利の前評判。 選挙が近づくある日、現職はまともに決裁書を読んでいられる状況ではなくなってきていた (と思う)。 そして、どの候補者の公約もキーワードは 「市民参加」 だった。
 市民参加をきっちり取り組んだら、おもしろいけど、結構たいへん。 たいへんだけど、楽しい。 自治労の 「地域・自治体政策集 50の要求と提言」 は、最近僕が仕事をしていくうえでのバイブルとなっている。 あれは結構いいこと書いてある。 このレポートで報告する仕事に取り組むうえでも、まちがっていないよな、の後ろ盾として役立った。
 この仕事を進めている僕に対して、「あいつは、自分の仕事を市民参加という言葉を使って、市民にまる投げしている。」 などといった声が聞こえてきている。 じゃあ、やってごらんなさい。 役所の人間は、多くの場面で非力で (もしくは分かっていなくて)、力量を求められるときがすごく大切な場面であることが分かるから。 役所っていうところは、様式美というか、標準化ってことが好きなところだ。 だから様式にない形、準則にない表現については、慎重というより不穏な疑心が先立つ。 でもね、形を整えることはやりやすさにつながるだけで、そのことの意味を伝えられるものではないんだな、これが。
 この仕事と同時期に進めていた 「新高齢者保健福祉計画」 では、「笑って死ねるための自分づくり。 その支援としての互助・公助づくり」 という考え方を整理して、生涯支援・生活支援につながる施策を提案した。 役所はこれまで 「泣かないため」 をお題目として、仕事を作ってきた。 新世紀の夜明けにあって、市民生活本位の行政へ変わっていくきっかけとして、市民参加によって 「本当に笑えること」 を考えていくことこそ、そこにつながっていくのでは、と思う。