分 権 と 地 方 財 政 の 課 題

九州大学大学院教授 伊東 弘文


地方財政の悪化

 1997、98年度日本経済は、2年度続けてマイナスの経済成長となった。2年度続けてというのは戦後初めてである。99年度はプラスの経済成長に転じたものの、その勢いは弱い。
 地方財政は91年春のバブルの崩壊後、相次ぐ経済対策の道具として用いられ、大量の地方債発行を余儀なくされた。97年秋に始まる一連の金融機関の破綻といった経済危機に直面して、98年度には6兆円を上回る、「恒久的な減税」が決定され、99年度から実行された。地方は税収と交付税の減を通じて、「恒久的な減税」に「協力」させられた。
 これらの結果、地方財政は悪化が進んでいる。1985年度以後、13年間にわたって黒字を保ってきた都道府県の実質収支が98年度決算で4都道府県が赤字に転じ、実質収支計は△872億円となった(4都府県の実質収支赤字は△1,718億円)。市町村は、全体では実質収支の黒字幅は9,292億円で、97年度の9,378億円から若干の低下にとどまっている。しかし市町村においても、赤字決算の団体数は13団体(94年度)、12(95年度)、14(96年度)、13(97年度)といった推移の中で、98年度は一挙に25団体へと倍増している。
 地方財政の悪化の根は深い。地財計画ベースで地方歳出の対前年度伸び率を見ると、伸び率こそ傾向的に低下しているものの(11年度1.6%、12年度0.5%)、少なくとも1975年度以後、地方歳出の伸び率は常にプラスである。他方、地方税収は90年代に入って3度、対前年度伸び率がマイナスになっている(94年度△5.7%、11年度△8.3%、12年度△0.7%)。

 

地方交付税の「竹馬経済」化

 地方税の変動を相殺し、地方歳出の伸びを支えているのは、地方交付税である。地方交付税は90年代にはいって、93年度に△1.6%となった以外は常にプラスの対前年度伸び率を維持している。
 国税が90年代にしばしば対前年度伸び率がマイナスとなる中で、地方交付税はどうしてプラスの伸び率を維持できているのであろうか。地方交付税は、国税5税の一定割合をベースとしており、「地方団体の共有財源(税源)」と呼ばれる。しかし、地方交付税の実態はこれでは説明し尽くされない。地方交付税はその創設以来、国税の一定割合を加減する「総額の特例」を講じない年はなかった。「総額の特例」は「特例」ではなく「常例」化している。とりわけ地方交付税特別会計の「借入金」方式が再開された1992年度(補正予算)以後、地方交付税は国税5税の一定割合が交付税特会借入金の上に乗っかかる「竹馬経済」である。
 「竹馬経済」は「恒久的な減税」実施後の99、2000年度はとくに著しい。両年度の交付税額はそれぞれ20兆8,642億円、21兆4,107億円であるが、そのうち交付税特会借入金(総額の特例)はそれぞれ8兆4,193億円、8兆881億円に達し、交付税の4割前後となっている。特会借入金(実体は地方団体共同の地方債)という竹馬の「足」を払われれば、地方交付税という本体は倒れてしまう。これは「異常」な事態というしかない。

 

地方税改革

 地方財政は地方税という強い「足腰」を必要とする。周知のように、国と地方の支出の構成比は25対75(すなわち、約1対3)であるのに、国税と地方税の構成比は59対41(すなわち約3対2)である。このような国と地方の支出及び財源におけるアンバランスこそが問題であり、国から地方への税源移譲が必要である。裏返していえば、国庫補助金の縮減及び交付税の地方税による一部代替(所得税から住民税へ、あるいは消費税から地方消費税への移譲等)を行い、税を主役、交付税を脇役とする地方財政の「本来の姿」を再構築する必要があろう。
 ところで、地方財政の悪化と地方分権の推進は、国から地方への税源移譲を待つことなく、地方の自主課税権の行使を活性化している。そのひとつは、法定外普通税・法定外目的税の新設の動きであり、他は、2000年春の東京都の「銀行税」に始まる事業税の外形標準課税化である。
 前者の法定外地方税の中には、必ずしも財源調達機能ではなく、租税の「道具的性格」を利用した政策目的機能を目指すものも見られるようである。自動車税のグリーン化(電気自動車等に軽減税率、一定の自動車に超過課税)は、必ずしも税収増(財源調達機能)を目的としないこともできる。
 事業税の外形標準課税化は政府税調が示した4つの課税標準・なかでも所得型付加価値(給与、支払利子、地代、貸借料等、企業が財・サービス等の生産過程で付加した価値の合計)を中心に進められるものと思われる。もし外形標準課税化が実現されれば、都道府県が独自に課税基準を決定することになり、分権と自治にとってはかりしれない意義をもつことになる。