政府税制調査会中期答申(2000年7月)と今後の課題

2000年8月 自治労本部政策局


 政府税制調査会(以下政府税調)は、去る7月14日、3年の任期を終えるに当たり、「わが国税制の現状と課題」と題した中期答申をとりまとめ総理大臣に提出した。この答申は、税のあり方と国のあり方、税の原則、各税目の仕組み、経緯、問題点などをとりまとめており、今後の税制のあり方を国民が選択するにあたっての材料を提示する「税制白書」的なものと位置づけられ、382Pにも及ぶものとなっている。
 地方自治体に関わる内容では、法人事業税の外形標準課税と地方分権と地方税・財源等の論点等について言及されているが、外形標準課税の早期導入の必要性について明記されたものの、地方自治体の最大の関心事であった国と地方の税源配分の見直しについては「危機的な財政状況では現実的ではない」として先送りされることとなった。
 中期答申をまとめるにあたっては様々な議論が行われているが、その中で、地方に対する各委員からの攻撃が目立ったことが特徴である。地方三団体の各代表と諸井地方分権推進委員長、榎本自治労委員長など地方側委員は少数であり、地方三団体代表が財政の厳しさなど形式的な意見しか述べられず、諸井委員はあくまで推進委員会の代表であるなどの状況から、地方攻撃に対して榎本委員長が孤軍奮闘を余儀なくされたといっても過言ではない。
 以下、最大の争点となった外形標準課税と地方交付税制度を中心に、地方自治体に関わる内容について、概要や答申に至る政府税調の審議経過などについて報告する。

外形標準課税に関する答申の概要     

【法人事業税への外形標準課税の導入意義】

○外形標準課税の導入は、地方分権を支える安定的な地方税源の確保、応益課税としての税の性格の明確化、税負担の公平性の確保、経済の活性化・経済構造改革の促進等の重要な意義が認められる地方税のあり方として望ましい方向の改革。

【望ましい外形基準のあり方】

○事業活動価値は、法人の人的・物的活動量を客観的かつ公平に示し、各生産手段の選択に関して中立性が高いことから、外形基準としては理論的に最も優れている。なお、経過的な措置等として所得基準による課税と併用することが適当。
○給与総額は、法人の人的活動量を示すとともに、事業活動価値のおおむね7割を占め事業活動
の規模を相当程度反映しており、実務上の簡便性に優れている。事業活動価値における利潤のウエイトと同じように所得基準を併用すれば、事業活動価値の簡便な方式ともみなせる。
○給与総額に、事業活動価値の構成要素である支払利子や賃借料と一定程度相関性のある物的基準を組み合わせたもの(物的基準と人的基準の組み合わせ)は、事業活動規模を相当程度総合的に表す仕組みとなると考えられる。この場合、両基準の比重を事業活動価値に近似させるように検討し、事業活動価値における利潤のウエイトと同じように所得基準を併用すれば、事業活動価値の簡便な方式ともみなせる。
○資本等の金額(資本金と資本積立金の合計額)も、事業活動の規模をある程度表す課税の仕組みだが、法人の事業活動規模を適切に反映させるという観点からは、所得基準による課税や他の外形基準による課税と組み合わせて用いるべき。
○調査会としては、事業活動価値が理論的に最も優れているとの考え方に留意しつつ、さらに事業活動価値を含めた各外形基準案について、納税・課税事務負担の観点から検討を進めていくことが適当と考える。
○各都道府県が税率設定について自由度を有する仕組みとすることが重要だが、課税標準は全国共通のものとすることが適当。

【改革に伴う諸課題】

○外形標準課税の導入に伴う税負担の変動については、税負担能力に配慮するなどの観点から、所得基準による課税を併用して、負担の変動幅を縮小することが適当。
○納税事務負担については、検討した四つの外形標準は、財務諸表や各種法定資料などを活用した簡素な納税手続の仕組みを整えることが可能。
○既存の地方税との関係については、外形基準の採用の仕方によって所要の調整を行う必要が生じる場合も考えられるが、そのような場合、個人・法人を通じた地方税全体の税体系について十分留意することが必要。
○中小法人の取り扱いについては、その租税力に配慮するため一定の配慮が必要。考えられる方式としては、軽減税率方式、基礎控除方式、免税店方式、導入率変更方式などがあり、外形標準課税の導入意義や各配慮方策の本来の趣旨などを踏まえ、薄く広く税負担を求めるという観点から検討することが適当。
○ベンチャー企業の取扱いについては、中小法人の税負担に配慮する措置によって対応することが可能と思われるが、さらなる政策的配慮が必要かどうか今後具体的に検討する必要がある。
○雇用への配慮については、外形標準課税の導入にあたって、雇用への影響を極力少なくするよう十分留意し、具体的な課税の仕組みを検討することが必要。

【導入の時期】

○外形標準課税の導入は重要な意義を有する改革であり、景気の状況等を踏まえつつ、早期に導入を図ることが必要。

  外形標準課税の導入の必要性については、政府税調としては合意済み事項と思われていたが、通産省や経済団体の外形標準課税反対の動きと連動して、一部委員から導入反対論、慎重論が続出した。反対・慎重の主な論点としては、
① 国と地方を比較した場合、地方税における法人の負担は個人に比べ重い。
② 賃金、資産等を課税標準とするのは、経済実態上も実務上も困難だ。
③ 新市場開拓にチャレンジする企業の活動を阻害する。
④ 企業の国際競争力を阻害する。
⑤ 経済活動の中立性を阻害する。
⑥ 薄く広い課税が確保できず、不公平となる。
⑦ 課税標準の信頼性が確保できない。
⑧ キャピタルゲインの取扱い、人材派遣業の取扱い等が不明確
⑨ 国・地方の税財政全般にわたる見直しの中で実現すべき。
⑩ 他に緊急的な税収確保策を検討すべき。
⑪ 国際的な潮流に逆行。
 等があげられる。これらのうち①、④、⑤は、都合のいい数字を意図的に活用しており、根拠があるとは言い難い。また、②、③、⑥、⑦、⑧は具体的に導入する際に配慮すべき条件にすぎず、十分対応可能との結論が出ている。⑨、⑩は導入を遅らせるための論理のすり替えであり、⑪については、事情や条件が全く違うことから単純な比較はできないなど、反対・慎重の意見はいずれもしりぞけられている。
 外形標準課税については、①応益課税としての税の性格の明確化、②税負担の公平性の確保、③都道府県の税収の安定的な確保、などの観点から早期導入について強く求めてきたが、答申については自治労としてもおおむね理解できる内容であることから、様々な反対の動きを乗り越えて導入に向けた条件の整理がすすみ、早期導入が明記されたことは大きな成果といえる。
 なお、連合は、外形標準課税の具体的なあり方について、①所得基準を併用する、②課税標準に含まれる人件費のウエイトを大幅に低める、③資本金等も課税標準に加え、中小法人と大手法人の変動格差を圧縮する、④中小法人については、基礎控除方式による軽減措置を検討する、⑤所得課税額と増減税ゼロ(レベニュー・ニュートラル)の税収規模とする、⑥景気回復後の実質成長率が2%を上回る2002年度以降に導入する、などの基準を示し、「法人事業税の外形標準化に対する連合の方針(案)」を、9月14日の中央委員会に提案することとしている。

地方税財源の充実確保についての基本的な考え方についての答申の概要

【地方財政における自主性の向上】

○地方自治体の財政面における自己決定権と自己責任を確立することが必要であり、地方分権の進展に伴い地方税の充実確保を図る重要性が高まる中で、国庫負担金、地方交付税などの地方財政制度も新たな局面を迎えている。
○地方の歳出規模と地方税収の乖離をできるだけ縮小するという観点に立って、課税自主権を尊重しつつ、地方税の充実確保を図る必要がある。

【地方税の充実確保と行財政改革の推進】

○地方税の充実確保を図る場合には、地方自治体が自立的な行財政運営を行えるよう、国と地方の役割分担を踏まえつつ、国庫補助負担金の整理合理化や地方交付税の見直しを図るとともに、国と地方の税財源のあり方について検討することが必要。
○地方税を充実し、国からの移転財源への依存度をできるだけ少なくすることに加えて、課税自主権を活用することにより、地方自治体の財政面における自立度が高まり、受益と負担の対応関係のより一層の明確化が図られ、国・地方を通ずる行政改革や財政構造改革の推進にもつながるものと考える。
○地方においても自ら汗をかき、行政改革、課税自主権の活用、市町村合併などへの取組み、行政評価、情報公開による住民の監視機能の活用が重要。

【国・地方を通ずる行財政制度のあり方の検討】

○国・地方を通ずる行財政のあり方は、国・地方の役割分担、国庫補助負担事業、地方に対する義務づけ、公共投資・社会保障などの行政水準各々のあり方、国の財政政策そのものに関わり、幅広い観点から取り組むべき課題。
○地方税財源の充実確保については、国の財政・税制と深く関わるものであり、国庫補助負担金や地方交付税を含めた国・地方を通ずる行財政制度のあり方を見直し、改革することが必要となる。しかし、現在の危機的な財政状況の下では、国と地方の税源配分のあり方について見直しを行うことは現実的でないことから、今後景気が本格的な回復軌道に乗った段階において、国・地方を通ずる財政構造改革の議論の一環として取り組むのが適当であり、関係方面との連携を図りつつ、地方税の充実確保の方策について具体的な検討を進める。

【地方税財源の充実確保方策の方向】

○地方交付税の充実確保を図る際には、所得・消費・資産等の間における均衡がとれた国・地方を通ずる税体系のあり方等を踏まえつつ、税源の偏在性が少なく税収の安定性を備えた地方税体系の構築が重要。
○地方税の基幹項目の中では、個人住民税はその充実が望ましいと考えられる。地方消費税は今後その役割がますます重要なものになっていくと考えられる。固定資産税は引き続きその安定的な確保に努める必要がある。法人事業税の外形標準課税は、景気の状況等を踏まえつつ、早期に導入を図ることが必要。

【課税自主権の活用】

○地方自治体が、地域住民の意向を踏まえ、自らの判断と責任において、課税自主権を活用することにより財源確保を図ることは地方分権の観点から望ましい。その際、公平・中立などの税の原則に則ることが必要であり、国においてもできるだけこれらの動きを支援する必要がある。

 各委員からの地方攻撃は主に地方交付税制度に対して行われており、生々しいやりとりは、資料の議事録抜粋(自治日報)からもうかがえるが、たとえば、答申文中の「地方交付税の見直し」について、「地方交付税制度の見直し」とすべきだということで、原案段階で事務方(大蔵省・自治省)の間で熾烈な争いがあったと伝えられているように、実際には、抜本的な税財政制度見直しに向けて大蔵省がしかけた自治省との代理戦争と見なすことができる。政府税調は大蔵省主導であり、自治省及び地方側委員が少数派であった状況を考えると、健闘したといえるだろう。
 交付税論議の論点はおおよそ次のとおりである。

【交付税見直しの必要性】

○中期答申で、地方交付税そのものの改革を議論すべき。(河野、松尾、大田、竹内、松田)
○交付税の見直しなくして地方税の充実確保は議論できない。交付税の見直しも今すぐにできる話でなく、大がかりな舞台でやるべき。(河野)

【交付税制度の破綻】

○地方交付税はすでに破綻。地方交付税は諸悪の根元。地方交付税は国を滅ぼす仕組み。地方財政のマネージメントの失敗が将来の国民の負担となり、国を滅ぼすことになるのは問題。(河野、竹内、松田)

【需要額の水準論】

○地方交付税が、97年から地方の財源補填の考え方に変わっており、これをやめさせるべき。まずは減らすべきだし、減らせないならこれ以上増やさないとか、GDP成長率以下の伸びにするとか上限を設けるべき。(竹内)
○交付税はナショナルミニマムを保障するものというが、東京都しか達していない水準は、ナショナルミニマムではない。教育など国の基準があるというが、国の基準がない部分での問題も大きい。(大田)
○公共事業など歳出が初めから決まっていることがおかしい。景気対策や公共投資計画にメスを入れるべき。(竹内)
○国で決まった政策を地方財政計画に落とし込んでいくというのが問題。(本間)
○個別の団体のチェックをしないままで数字を積み上げて、地方財政計画を作成し、不足分の財源を確保するというやり方にどれだけ意味があるのか。(竹内)
○交付税で地方団体の借金返済まで見ているし、補助金化している。地方の歳出全ての面倒を見るのはやめるべき。(松尾)
○国から金を持ってくるのが有能な首長というのが問題。地方団体は、自分の地域の中で調達した税収を基本に暮らしていくべき。(本間)
○地方団体は財源が足りないというが、行政サービスを部門別に分解して、コスト情報を示し、その対価として、料金でも税でも確保すればよい。(竹内)

【モラルハザード論】

○基準財政需要額と収入の差額が交付税という仕組みが問題。地方団体が税収を増やしても交付税が減るため、自助努力しなくなり、モラルハザードを生む制度。(河野、大田、松尾、本間)
○税源配分しても、交付税で調整されて交付税は減るのだから、全く意味はない。地方交付税とセットの地方分権はあり得ない。受益と負担の緊張関係がない中で地方税の強化をいっても説得力がない。(大田)
○現在の交付税を前提にすると、課税自主権といっても、5分の1、4分の1の課税自主権をいっているにすぎず、大きな政府になる。(本間)

【赤字借金論】

○今や銀行から借金し、この借金分まで国が面倒見るやり方を見直すべき。交付税特別会計の借金について地方に責任があると意識していないのが問題。出口ベースと入り口ベースの差は借金であることを認識させ、マーケットの荒波を受けるべき。(河野、松田)

【算定方法論】

○交付税は算定方式を公表もせず、複雑怪奇でよくわからない。自治省が恣意的に計算しているのが問題。(松尾)

【地方行革論】

○地方団体のリストラの監視は、住民がやるべき。地方団体に課税自主権を与えて、行政サービスと自らの負担を一体とすれば、住民が監視することになる。(中西)

【地方財政の危機の原因】

○地方財政の危機は、度重なる景気対策という国の政策に地方もつきあわされ、国の財政と同様にボロボロになったということ。地方が無駄遣いしたのを国が面倒見なければならず国が滅びるというのは誤解だ。(榎本)

【補助金の問題】

○交付税はあくまで地方が共有する調整財源であり、個々の団体毎に必要額を計算するもの。また、一般財源であり、その使途は自己決定、自己責任だ。補助金こそ特定財源であり、事業の必要性の吟味は曖昧になり、モラルハザードに最もなりやすいものだ。(榎本)

【税源の偏在と財政調整】

○税が1割にも満たない団体もあり、税源が偏在しているので、全国的な財源調整装置としての交付税制度は不可欠。(榎本、栗田、松本)

【交付税の補助金化】

○交付税の補助金化とは、地方団体が需要額の算定にあたって補正係数で見てほしいということもあり、本来のナショナルミニマムから実額保障的になってきたもので、算定を簡素化することは必要。(榎本)

【税源移譲の必要性】

○財政力指数は努力の結果ではなく、条件の要素の方がはるかに大きい。地方の財政は地方だけで決められない。補助金と交付金が国の地方に対する支配の道具となっていることが問題。一歩でも二歩でも税源を地方へ移すことで自主性と自己責任を高めることが重要だ。(諸井、榎本)

  このように、地方や地方交付税攻撃の論点は、地方交付税制度やこれまでの国と地方の関係などを無視あるいは誤解した乱暴な議論が多い(意図的なものを含めて)。地方交付税は、いうまでもなく、地方自治体間の税源の不均衡を調整し、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供できるよう財源を保障するためのもので、地方の固有財源であり、いわば国が地方に代わって徴収する地方税である。地方や地方交付税攻撃の論点は、そもそも国や国庫補助金に向けられるべき議論であることはいうまでもない。
 しかし、学者を含む税調委員ですら十分理解できないほど、現在の地方交付税が複雑化、肥大化しすぎていることがこうした議論を許す背景にあり、榎本委員長が述べているように、今後の地方交付税の改革課題であることは認識しておく必要がある。
 その他の課題についての問題として、個人所得課税では、①最高税率の据え置きと分離課税の容認、②児童手当の拡充と扶養控除廃止を否定、③給与所得控除の縮小、④退職所得税の見直し等がある。さらに、法人課税では、NPOへの寄付金への優遇措置導入が急がれるにもかかわらず明記されていない。消費課税では、将来の引き上げを含みとしながら、インボイス方式への改革などが先送りされている。等があげられる。
 また、納税者番号制度は、プライバシー問題、付番方式の検討を理由に早期導入は見送られているが、早急に検討をすすめる必要がある。環境税関系については今後の議論に持ち越されたが、①他の政策手法との効果の比較、②国際的な状況や産業活動への影響、③現行税目との関係、④特定財源化の是非、⑤環境対策の緊急性、実効性、などの論点があり、国税か地方税かについても争点となるだろう。自治労としても早急に考え方をまとめる必要がある。
 いずれにしても、国と地方の税源配分の見直しは次の政府税調の審議に委ねられることとなった。政府税調の審議経過から明らかなように、未曾有の財政危機と地方分権の推進を背景とした国と地方の財政戦争はすでに始まっている。今回の政府税調の舞台では、榎本委員長の奮闘により、不利な状況にもかかわらず、外形標準課税の早期導入問題とあわせ半歩前進の成果を勝ち取ることができたが、様々な方面から、今後ますます地方と地方交付税制度への攻撃が強まることは必至である。
 今回の先送りが地方にとっての時間稼ぎとなり、決着方向を地方にとって有利なものとするためには、何よりもまず地方の側が、地方分権の新たなステージのもとで、国と地方の対等・協力関係の確立をめざした分権の実践を積み重ねることが必要である。地方がこのまま国に依存し、自己改革の努力を怠ればその帰趨は明らかであろう。
 1年延長された地方分権推進委員会は、今後の活動の大きな柱として、地方税財源の充実確保のあり方について検討を進めることを明らかにしている。その活動に期待するとともに、私たち自治労も、改めて地方分権の実践に全力で取り組むことを確認したい。

2000.6.23 自治日報  政府税調 地方交付税縮減論が噴出 5月19日・48回総会議事録より