性に偏る職種 国際比較

 

女性と仕事研究所代表 金谷千慧子


1. 女性と雇用労働

(1) 働く権利は、社会の発展に最も重要な手段
  働く権利は、人が経済的に自立して人間としての尊厳を維持し、幸福や福祉を追求するために最も重要な権利である。働くことは、精神的発展と自己実現をはかり、政治・経済・文化・学問などに参画するための主要な手段でもある。このように重要な働くことを、性にかかわりなく、すべての人に平等に機会と待遇を保障することが、社会の公正かつ健全な発展の基礎といえる。
  しかし女性はこれまで、働く場で平等な機会と待遇から排除されてきている。性による分業の論理は、女性の役割は家庭を守ることで、女性は経済的に男性に依存することを前提としてきた。賃金理論においては、「労働力の価値は、労働者ならびに家族の再生産のための社会的必要労働時間によって規定される」とされ、女性(妻)が働かなくてもよい賃金(家族賃金)を男性に保障することが目標とされた。女性が働くことは、例外的であり、労働力の窮乏化現象とさえ考えられた。労働運動においてさえ賃金の値上げは家族賃金を基本になされてきた。

(2) 情報技術が男女の労働の均質化をもたらした
  高度情報化社会を迎えて従来の性による分業の枠組みが大きく変化した。情報技術は生産における筋肉労働をロボットやコンピューターに代替させ、事務労働についても、定型的な作業はOA機器が肩代わりをする。高度に工業化された社会では、労働に求められるものは、筋力ではなく情報処理能力・想像力・適応力・判断力などに変化していく。そしてこれらの能力は、個人差はあっても、基本的男女によって異なるものではない。科学や技術の発達にともなう労働の質の変化こそ、性による分業の組み替えを不可避的なものとする基本的な条件である。

(3) 労働における男性と女性の同等の実現
  本質的に女性の労働が男性の労働と同等なものとなってきたことから、1960年代からの男女平等は、雇用における平等を中心的な課題としてきた。性による分業を前提として、女性が経済的に自立することのできない弱者として保護をはかることから、女性を経済的に自立して、独立した人格者として独立した存在となるための要として、そして社会の意志形成に参加する手段として、雇用における男女平等の実現がめざされたのである。

(4) 労働力人口における男女比率
  総労働力に占める女性の割合は、世界各国でも5割を超える国はない。わが国は40.6%(1999年度女性労働白書)であり、他の国の比率は下図の通りである。雇用労働者に占める女性の比率は、39.7%であり、世界各国の中では高い方ではない(表1)。年齢層別では、日本の女性の労働力率が台形ではなく、M字型を示していて、結婚、出産、育児期に労働現場から離脱するというのが、いわゆる先進資本主義国と決定的に違うというのは、もういい尽くされている感があるが、実態としては大した改善はない(図1)

 

2. パートタイム労働とフルタイム労働

(1) 女性はパートタイム労働に出現
  いずれの先進国でも、経済成長期には、労働力の不足をカバーするために女性の労働力が期待される。そして女性がその期待に応えて、本格的に働こうとすると、その後の不況期には、労働コストの削減、雇用調節のために、女性は調節弁として、安価な労働力と位置づけられる。パートタイム労働や派遣労働、臨時的働き方が女性の働き方の主流である。特に1960年代からのわが国のパートタイム労働は、家庭責任を一切背負ったままの主婦労働者が、家庭責任と両立が可能な存在として、企業からも男性(夫)側からも女性(妻)自身でも納得ずくで急速に広がっていった。しかし、男性の方が労働コストの削減、雇用調節のためにパート労働を選択せざるを得ない例は、女性に比べていかに少ないか。男性はフルタイム労働、女性はパートタイム労働という、性による就業形態別の区分けは明確である(図2)

(2) 女性パートタイム労働者は
  高度経済成長期の製造業に、配備されたパートタイム労働者は、その後経済のサービス化に伴い、サービス産業に伸びが著しくなってきた。なかでも卸・小売業(飲食店を含む)を中心に第3次産業で7割、製造業で8割がパートである。ただ日本におけるパートの問題は他国のパートとは比較にならないほど困難な問題を抱えている。実際上はパートには雇用期間が設けられ、いわゆる「雇止め」の役割を果たしているし、夫の配偶者手当受給可能な範囲内で就労する「103万円の壁」に阻まれ、税、社会保険、低賃金構造の原因をなしている。パートタイム労働者が既婚女性の7割に達し、彼女たちは労働者でありながら被扶養者というきわめて特殊な「身分」的存在である(図3図4)

(3) 主要国のパートタイム労働者比率
  いずれの国でもパート比率は高まっている。1997年のOECDのレポートによると、最もパート比率の高い国は、オランダで38.0%、その中で女性の比率は67.9%を示している。次いでイギリス、スウェーデンという順序である。そして産業別のパート比率をみると、オランダの場合は63%が保健・非商業サービス部門である。次いで金融では42%、商業では37%である。介護・看護やケアに関わる労働で大幅に増加したのである。主要国いずれにおいてもその傾向は同じである。今、オランダでは、「オランダモデル」または「ポルター(干拓)モデル」といわれ、パートタイム労働を中心に産業構造が大きく変化し、経済の活性化と失業率の低下で、いまやEUの優等生といわれるまでに経済復興を果たしたのである(図5図6)

(4) 「オランダモデル」の成功の背景
 ① オランダのパートは、基本的に常勤(パーマネント)雇用契約であること=正規雇用者
 ② オランダでは「労働時間差差別」禁止の法律(1997年成立)時間給格差は5%
 ③ オランダでは年金制度の個人化と全市民に対し国民老齢年金で生活水準が維持できる

 

3. 性に偏る女性の産業・職業分野

(1) 職域の分離
  性による職域の分離は欧米諸国とも同じ傾向である。女性は男性と比べると、産業別では第3次産業分野に多く、職業別では専門職(看護婦・保母、小学校の教師など)、サービス・事務・販売などに集中している。女性の職種では、①事務従事者34.2%、②技能工・生産工程従事者15.9%、③専門技術職15.7%、④保安・サービス職13.5%、⑤販売従事者12.1%となっているが多い(女性労働白書1999年版)。経年比較でみると、②技能工・生産工程従事者が90年代後半に減少し始め、③専門技術職は若干の増加がみられる。管理的職業従事者は均等法後今まで、ほとんど増加してない(図7)。女性に多い職種と賃金との関係をみること、③専門・技術職以外は、相対的に低賃金の職種である。

(2) 女性の就業の多い職業、上位15職種
  女性の多い職業を上位15種をみると、最も多いのは、①一般事務職、②商品販売従事者、③農業作業者、④保健医療従事者、⑤接客・給仕職業従事者、⑥飲食物調理従事者、⑦その他の労務作業者、⑧衣服繊維製品製造作業者、⑨その他の技能工・生産工程作業者、⑩食料品製造作業者、⑪教員、⑫販売類似職業従事者、⑬電気機械器具組立・修理作業者、⑭生活衛生サービス職業従事者、⑮社会福祉専門職業従事者となっている。
  経年変化でみると、絶対数では少ないが、保健・医療と介護福祉専門職の伸びが際だっており、高齢化への対応を表している。今後ともこの傾向は継続すると考えられ、看護や介護に従事する女性は増加すると考えられる。管理的職業に従事する女性が少ない。管理的職業が男性に多く、女性は非管理的職業に多い(図8)
  女性の職業では、秘書、OA機器操作者、看護婦などは典型的である。これは欧米を問わず共通である。しかし、日本で特徴的なのは、女性職に関してコース別採用における「一般職」が女性職である。総合職(基幹職)は男性、一般職(補助職)女性という分離が日本的である。

(3) 職業別大卒女子の就職者の推移
  「学校基本調査」で職業別就職状況の推移をみると、「事務従事者」が45.4%と最も多いものの、5年位前から徐々に「事務従事者」の比率は減少しており、教員も少子化を背景に新規学卒者からの採用は激減している(22.0ポイント減)。一方で「小売・卸売店主・販売店員・外交員」などの「販売従事者」7.8%から16.7%と8.9ポイント増加している。しかし「技術者」が10.9%程度の増加で、職種の偏りと低賃金構造の密着を解消するために、「技術者」の増加は今後の課題である(図9)

(4) 学卒時の就職の偏りと専攻分野の偏り
  女性の4年制大学志向は強まっている。しかし、大学(学部)などの男女間の専攻分野の違いは明確である。学生数と専攻分野別構成をみると女性は、人文科学、教育、家政その他の保健の割合が高く、理学、工学、社会科学で低い。このような女子学生の専攻分野の特徴は、教育する側の専攻分野にも関わるが、卒業後の就職の際の職業選択に多大の影響を与えていることは確かである(図10)

 

4. 男女の職域分野の国際比較

(1) 職務別男女比較国際比較
  職務別に男女の国際比較をみると、日本の場合は「行政職および管理職」がきわめて少ないのがわかる。欧米諸国でも事務、サービス業には男性の2、3倍の女性が従事している(図11)が、管理職の少なさは特筆すべきことである。

(2) ILO報告にみる女性の管理職と専門職の比率
  1997年度のILO報告で女性の管理職と専門職の比較をみると、アメリカが43%で最大の数値になっており、ついでオーストラリア、イギリス、フィリピン、ノルウェー等が続いているが、なんとわが国の場合は21番目、トルコの次になっている。9%という数値は、係長クラスの女性の比率ということになるが、国際的にみると奇異な数値ともいえる(図12)
  アメリカと日本における産業、職業別就業者における女性比率をみると、日本では、管理職・技術職が少なく、販売職に多い。産業別にみると、日本では公務における女性比率の低さとともに、卸売・小売業と金融・保険業・不動産業の販売職が比較的高いことが目につく(図13)

(3) アメリカの場合
  アメリカでは、1964年にできた公民権法第7編が「人種、皮膚の色、出身国、性、宗教」による差別を禁止している。1991年には職場で女性やマイノリティが昇進するのを拒むガラスの天井(グラスシーリング)を打破するグラスシーリング委員会ができ、そこでは、企業、女性代表、議員など21名、三者構成で運営され、そこで調査報告と提言が出された。この報告では、女性が上級管理職になるのを妨げる壁として、次の3つが指摘されている。①社会的障壁(大学などの教育機関における問題と女性に負わされている家庭責任の重さ)、②政策的障壁(女性の昇進の実態に関する資料やデータの不足と法的不備や対策の不足)、③企業内における構造的障壁(女性を発掘しようという意図のない募集・採用慣行、ガラスの天井のある企業風土)等である。そこでこの報告書と提言に基づいて政府も企業も民間団体も撤廃に向けて動き出した。
 ① アメリカの管理職

   アメリカの管理職は、サービス業に多いが、伝統的に男性の職域であった製造業や建設業では依然として男性管理職が多い。全体で女性の管理職が5割に近づいているのも、サービス業で女性の管理職が増えたからである(図14)。さらに重要なことは、アメリカの上級管理職になった女性の多くは専門職として採用されており、事務職や秘書からはなりにくい。これはわが国にも共通する現象であると思われる(図15)

 ② カタリストセンサス

   アメリカの管理職に関して、ニューヨークにあるNPO組織カタリスト(プレジデント、シェーラ・ウエリントンはグラスシーリング委員)は、毎年3月に、カタリストセンサスを出している。フォーチュン社と提携して、アメリカのビジネス界における女性の実状を数量化している。最も新しいデータ(2000年3月)ではアメリカの管理職・専門職は49.3%を占めるに至っている。しかし、取締役会の女性の比率は、フォーチュン500社で女性は11.2%を占めるのみであるといっている(図16)

  ● フォーチュン1,000社の内、女性取締役の占める率の高い業種としては、①玩具・スポーツ用品が26.9%、②石鹸・化粧品類20.0%、③金融・貯蓄機関15.0%、④出版・印刷14.9%となっている。
  ● フォーチュン1,000社の内、女性取締役の占める率の低い業種としては、①半導体3.6%、②廃棄物処理4.7%、③エネルギー5.3%、④たばこ5.4%となっている。

(4) カナダの場合
  カナダでは1977年に人権法を制定しており、そこでは、第7条で、①雇用における直接差別、間接差別を禁止しており、また、第11条では、②同一価値労働、同一賃金を規定していて、「同じ価値のある仕事に従事し、同じ職場に雇用されている男性と女性が賃金の格差をもうけるか又は維持する場合、それは差別的行為である」とうたっている。
  カナダは10州からなる連邦制の国家であるが、オンタリオ州はカナダで最も人口が多く、自動車工場などで経済が活発な州である。1961年にはオンタリオ人権法典が制定されており、1981年にはこの法律の改正により、「人種・出生地、皮膚の色、民族、国籍、信条、性、性的志向、年齢、前科、婚姻上の地位、家族関係、障害」に基づく差別を受けない権利、およびセクシュアル・ハラスメントや他のハラスメントを受けない権利を保障し、平等推進のためにアファーマティブ・アクションを認めた。
  1987年にはペイ・エクイティ法(賃金の差別禁止法)ができ、性によって分離されてきた女性職の仕事の価値を再評価することによって、女性に対する賃金差別を是正するための戦略なのである。この法律ができた1987年では、男女の賃金格差は、36.5%であったが、1997年では24%に縮まっている。

(5) ペイ・エクイティとは
  ペイ・エクイティとは、異なる職種間の差別を撤廃、縮小するためのものであり、またペイ・エクイティは、性に中立な職務評価のシステムをつくるもので、そのことが結果的には、女性の仕事の価値観を公正に評価することにつながるのである。
  この職務を公正に評価するということについては、「職」そのものに対してであり、仕事をする「人」そのものが評価の対象になるのではない。
  ペイ・エクイティは同一価値労働、同一賃金の概念を包括するものであるが、さらにそれを一歩進めたものである。

(6) ペイ・エクイティ実施方法
  個人、労働組合、機会均等委員会などへの申し立てに基づき着手する、個人申請主義と、申し立てを待つことなくあらかじめ使用者自身の責任において賃金格差を除去する義務を法律によって課す積極的介入とがあるが、オンタリオ州の場合は積極的介入を行っている。これは公共部門のみならず、民間部門(従業員10以上)にまで拡大している。従業員はフルタイムだけではなくパートも含む。
  いずれかの性がその職種に一定の割合を超えると、その職種はそれぞれ男性職、女性職とされるが、それを改善するために一方の性に偏らないように職域を拡大するし、そこでの職務を正しく評価し、男女の賃金格差を是正するのである。
 ① 男性職、女性職を決定する
  ア 女性職といわれる職種は、一般にその職種に従事する者の60%以上を女性が占める職種をいう。事務職、セールス、サービス業、秘書、保育職、看護婦、司書などである。
  イ 男性職といわれるのは、一般に70%以上を男性が占める職種である。男性職種というのは500種ほどになる。しかし最近では男女混合職種というのも増えている。
 ② 性に中立な職務評価をする
  ア ペイ・エクイティを実施するということは、性に中立な職務評価をもとに現実の男女双方の職をポイントをつけて比較するのである。またこれは、賃金の決定が使用者の恣意に基づくものであってはならないということでもある。
  イ 職務評価の4つの要素を用いて賃金を確定する(図17)

   ● 技能(
skill):教育・経験・職務遂行上必要な特別の能力
   ● 力量(
effort):身体的、精神的な力量
   ● 責任(
responsibility):決定権および人事・備品・予算などに関する責任
   ● 作業環境(
working condition):単調さ、出張・ストレス、時間的圧迫

  ウ 職種・職務比較・職務評価から、ペイエクイティ(平等賃金)を確保する。このようにして職務評価に基づいて賃金を計算する方法で、カナダにおける女性職と男性職の賃金格差は次第に縮まっていった。

 

5. 雇用平等政策

 「働くことが、人間としての尊厳を維持し、幸福や福祉を追求するために最も重要な権利である」としたら、働くことは、性にかかわりなく、すべての人に平等に機会と待遇を保障されなければならない。ところが、性による役割分業が、女性には男性に依存して生きることを求め、自立して生きることは重要でないと排斥されてきた。女性は女性向きとされるいくかの職業に集中していることは、いずれの国においても同じ傾向を示す。
 職業における性分離(
sex segregation)とは、女性比率と(その仕事をする労働者のうち女性が占める割合)と女性の集中度(全女性労働者のうちその仕事についている女性の割合)によってはかられるが、その女性職は、賃金においてはいずれも低い職種である。最も男女平等が進んでいるといわれるスウェーデンでも、男性は300種以上の職種に散らばっているのに、女性の場合にはわずか20種程度の職種に集中しているといわれる。

(1) 差別撤廃政策
  まず、法律の規定に基づき、なにが差別であるかを明言すべきである。法律に基づき裁判も実施できるとのは最終的な解決策であるが、簡易な行政による救済方法なども重要である。税金や社会保障などに専業主婦を優遇するのは差別的制度である。
  職務を性に中立な基準で職務評価することがなによりも優先して重要である。

(2) 職域拡大
  学校教育においてジェンダーの視点を持った教育内容や隠れたカリキュラムのチェックをはじめとして、女性が賃金の高い職種に就けるような就職前教育が重要である。
  また就業を継続するための保育施設の充実や、家庭責任の両性の負担(男女共同参画)施策は不可欠である。

(3) ポジティブアクション
  性による職務分離や男女の賃金格差を積極的に解消していくためには、ポジティブアクションが最も有効である。

 

  図 表

表1 主要国の労働力人口、労働力率

図1 女性の年齢層別労働力率国際比較

図2 就業形態別労働者割合 1994年

図3 女性パートの年間収入別分布

図4 パートタイム労働者の推移(非農林)

図5 主要国のパートタイム労働者比率1997年

図6 オランダの産業別パートタイム労働者比率(1996年)

図7 職種別従事者の性・年齢層別構成1997年

図8 女性の就業者の多い職業上位15職種(1995年)

図9 職業別大卒就職者の推移(女性)

図10 女子学生の専攻分野別構成

図11 職務別男女比国際比較(1995年)(男性を100としたときの女性の数値)

図12 管理職・専門職の国際比較1997年ILO報告

図13 日米の産業、職業別就業者における女性比率

図14 業種別管理職男女比

図15 女性上級管理職の初職

図16 カタリストセンサスより

図17 カナダにおける職務評価システムの四つの要素のサブファクターの例示

 

参考文献

 ● 女性と仕事ジャーナル6号、7号、8号(女性と仕事研究所発行)

 ● 金城清子『法女性学』日本評論社

 ● 中島通子他『男女同一賃金』有斐閣選書