ベトナム・ハイフォン市「アジア子どもの家」評価会議に参加して

アジア子どもの家 秋田県本部運営委員 仙葉  久


1. 「アジア子どもの家」事業とは

 「アジア子どもの家」事業は、自治労結成40周年記念する国際貢献事業として95年からスタートし、急激な社会変動の波にさらされているインドシナ3国(ベトナム、カンボジア、ラオス)に焦点を定め、それぞれの子どもたちを支援するため、日本のNGOや各国政府機関、あるいは地方機関と連携し、地域に開かれた施設の建設と運営に乗り出すことを目的に行われてきました。
 運営については、自治労本部国際局を中心として社会福祉などの各部局の役職員、そして、全国9つの地連選出の運営委員で構成されている「アジア子どもの家」運営委員会での議論を中心に行われています。また、資金に関しては、91年の湾岸戦争に端を発する難民問題への緊急救援カンパとしてはじめられた「国際連帯救援カンパ」をこの事業にあてています。
 自治労は、この「アジア子どもの家」事実について2000年3月までの5年間の事業としてきましたが、各国の現状から「一定の自立まではまだ時間を要する」との判断から、2000年4月から3年間事業を延長することを決定しています。今回のベトナム・ハイフォン市にあるベトナム「子どもの家」の評価会議は、これまで5年間の第1フェーズを総括し向こう3年間とした第2フェーズの活動の合意を行う大変重要なものでした。
 私は昨年末、東北地連選出の「アジア子どもの家」運営委員に任命されましたが、「子どもの家」の予備知識はほとんどない状態でいきなり3月28日から29日にかけて行われたこの評価会議に参加することになり、多少面食らってしまいました。また、春闘も十分に総括できないまま事前の予習もせずの参加になってしまいましたが、とにかく「百聞は一見に如かず」、組合員のカンパがどのように役立っているのかを確認できるだけでも大きな収穫との思いを抱きながら現地に向かいました。

 

2. ベトナムと「子どもの家」

 ベトナムの「子どもの家」があるハイフォン市は、北部の港町で首都ハノイからは車で約2時間半、人口160万のベトナム第3の都市(中央直轄市)です。第一印象は、信号がほとんどない道路に自転車とバイクがあふれ、自動車はクラクションをひたすら鳴らしながら通行しなければならず、怖くてとても自分では運転できないところだと思いました。また、食堂や屋台は衛生的とはとても思えないもので、はじめは抵抗がありました。しかし、7日間の滞在期間中、日本にはない強い活気や、子どもたちをはじめ、非常に人情深く素朴な人たちが多いことを感じてきましたし、食事についてもうどんが非常においしく、すっかり慣れてしまいました。
 ベトナムは社会主義国であることもあり治安はよいとのことです。しかし、アメリカとの戦争、そして現在の世界的な不況の中では、経済の発展はなかなか容易ではない状況であり、経済的な理由や「戸籍がない」などの問題から学校に通えない子どもたちが多く存在しています。
 「子どもの家」があるハイフォン市のニエムギアというこの町では、一人の退職教師が自宅でこのような子どもたちのために「識字教室」を開いていましたが、その活動に自治労が、NGOであるJVC(日本国際ボランティアセンター)の協力でかかわり、ハイフォン市当局との合意の基に95年に「子どもの家」の設立に至りました。
 「子どもの家」はハイフォン市児童保護委員会の管轄のもと、保護者と生活できる条件にない児童、小学校未入学または中途退学の児童、虐待を受けている児童、児童労働を課されている児童、家族状況・経済状況が困難である児童など99年度だけでも160名が利用しています。そして、これら児童に対する衣食住の提供、初等教育、職業訓練、仕事の紹介などの活動を実施、最終的には児童が保護者、地域と共に安定して生活できるための基盤を整える努力が、市の管理委員会のメンバー7名とフルタイムおよびパートタイムのスタッフ10名によって行われています。
 JVCからは現地スタッフ数名が中心に支援が行われていますが、特に日本人スタッフの常葉(ときわ)氏が常駐しており、自治労と「子どもの家」、さらにはハイフォン市側とのパイプ役として重要な役割を担っていました(なお、常葉氏は奥さんと子ども2人の4人でハイフォンに駐在していましたが、奥さんの仕事がインドネシアに決まり既にお子さんも住んでいるので、いずれ本人もインドネシアに行くとのことで何ともグローバル。他のJVCのスタッフも評価会議の後、ベトナムの山村の活動に向かう人、他の国での活動に参加する人など元気なメンバーが多い)。
 自治労は資金的な援助のほか、現地への専門知識をもった組合員の派遣(最長1年の長期派遣者もいた)、各県本部や単組レベルのスタディ・ツアー、現地スタッフの日本での研修受け入れなど多様な支援活動を実施してきています。
 そしてこの間、職業訓練で製作した物品の販売やイベントの収益金で「子どもの家基金」を創設。市当局からの運営費負担も増額されるなど、それぞれの努力によって運営も軌道に乗ってきています。(なお、3国の中ではベトナムが行政側との連携もしっかりしていて、活動の到達度が最も高い)

 

3. 評価会議の概要

 評価会議の中では、5年間の総括としてそれぞれの活動について行政側(ハイフォン市児童管理委員会)、JVC側から評価がありました。JVC側からは、行政側に対して「子どもの家の細かな点について意見するのではなく、行政の任務をもっと十分に果たすべき」との厳しい意見も出されましたが、各分野での当初目的については概ね順調に推移していると感じられましたし、行政側や保護者、子どもたちからも「子どもの家」に対しての高い評価と大きな期待が寄せられていることを感じました。今後の課題としては、行政側の予算確保をはじめとする対応について未だ不十分であること、中には保護者が子どもの家にまかせっきりになってしまう事例も少なくないこと、児童相談での専門知識の向上が必要であることなどが出されていました。
 なお、今後3年間の活動については、JVCがこの活動について「運営はベトナム側(行政と子どもの家のスタッフ)が自立してできる目途がたった」との判断から、この「子どもの家」の事業からは撤退することになっています。このため、これからは自治労とベトナムとの直接の接触による運営となります。言葉の問題をはじめ多くの困難も予想されますが、自治労としては自らの国際貢献事業がどうあるべきか真価が問われることとなりそうです。

 

4. 感 想

 私自身の感想としては、まず5年間の第1フェーズが終了するというこの時期でも事前の知識がほとんどなかったことが一番の問題だと思いました。私の勉強不足もありますが、そのことは県本部内各単組、そして実際にカンパをしている組合員においては、「カンパがどのように利用されているのか」実態がわからないことにつながっています。すでに現地研修やスタディツアーなど活発に実施している県本部、単組がある反面、秋田県本部のような実態のところも少なくないのが現状だと思います。自治労運動は各県や単組によって温度差があるのはやむを得ないのですが、この課題は特に温度差が大きい分野だと思います。自治労としての関わり方などについても検討の必要がありますが、同時にまず現在進行中の事業をもっと組合員と共有できることが必要だし、私も運営委員の立場として微力ではありますが努力をしたいと思います。
 また、「子どもの家」の現場の運営については私自身が意見を述べるような段階ではとてもありません。ただ、様々な問題、課題を抱えていることも確かですが、これまで自治労、JVC、ベトナムでつくり上げてきた信頼関係を基に努力をすれば、最終的にはベトナムが自立して運営できる体制にもっていけるのではないでしょうか。
 最後に、今回の評価会議や交流を通じて、ベトナムの人々の熱意と同時に、常葉氏をはじめJVCのスタッフの熱意、そして本当に自分のやりたい仕事をしているという充実感、その反面気負いのないところなど、大いに感化されるものがありました。今回の評価会議にあたってあらゆる面でお世話になったことに心からお礼を申し上げるとともに、今後の大きな活躍を期待しております。