個人情報・プライバシー保護の課題について

愛知大学助教授 牛山久仁彦


 自治体には、地域住民のさまざまな個人情報が蓄積されており、これらの情報が保護されることが必要であることはいうまでもない。そして、それは、高度情報化社会の到来によってますます重要性を増している。
 自治体が保有する住民の個人情報は、住民基本台帳に記載されたさまざまなデータの他、納税、年金・保険料、健康・福祉など多岐にわたっており、高度情報化がそれらの大量蓄積を可能にするとともに、高度に発達したネットワークの下で集中的に管理されることとなった。このことは、自治体行政の効率性を高め、住民の利便性に資すると同時に、地域住民の個人情報が流出し、プライバシーが侵害される危険性を増大させている。
 現実には、自治体職員による個人情報の漏洩・流出事件、住民基本台帳の大量閲覧による個人情報の流出といったことが、日常的に地域住民のプライバシーを脅かしている。プライバシー侵害は、具体的な被害が住民に見えにくく、なかなか事件として認識されることがないが、それゆえに問題は深刻である。

 こうしたなか、中央政府
自治省が住民基本台帳法の改正によって進めている住民基本台帳のネットワーク化は、全国の自治体が保有する個人情報を集中管理し、国民総背番号制を実施するものである。このネットワーク化によって、住民は自治体の枠を越えて住民票の交付が受けられることとなり、将来のワン・ストップ・サービスに道が開かれることとなるが、その一方で個人情報流出の危険性は否応なく高まり、プライバシー侵害の被害が危惧されることとなる。

 中央政府は、そうした批判や不安に圧され、これまで極めて不十分であった個人情報保護制度の見直しに着手し、民間も含めた包括的個人情報保護制度の創設に向けて検討を進めている。一方、中央政府に先がけて、すでに個人情報保護条例の制定に取り組んできた自治体も、住民基本台帳のネットワーク化という課題が突きつけられる中、新たな個人情報保護への取り組みを迫られている。
 そこで、ここでは、そうした状況を踏まえ、①自治体の個人情報をめぐる現状、②自治体の個人情報保護への取り組み、③住民基本台帳ネットワーク化への対応、といった点を中心にレポートをしていただき、それらについて議論を深めていきたい。
 例えば、①については、住民基本台帳の大量閲覧の現状、介護保険の導入などによる変化の中で福祉や医療についての個人情報がどのような現状にあるのか、民間に対する規制の状況はどのようなものであるのか、といった点が問題になる。また、②では、自治体現場で個人情報の大量閲覧に窓口等でどのような対応がとられているのか、また目的外利用の禁止や個人情報管理への参加の問題など個人情報保護の諸原則がどのように守られているかといった点が議論されることとなろう。さらに、③では住基ネットワークの構築に対して自治体はどのような対応をしていくべきかについても報告と討論が予定されている。
 高度情報化が不可避とされるなか、それに対応するための自治体における個人情報保護制度のあり方について積極的で活発な議論が展開されることを期待したい。