「市町村におけるインターネット活用の現状と課題」調査研究について 

(財)東京市町村自治調査会研究員 古厩 忠嗣(保谷市職員)


はじめに

 (財)東京市町村自治調査会は、市町村行政の様々な分野における広域的な課題について調査研究を行っており、近年は市町村の「情報化」についても積極的に取り組んでいる。
 本調査研究「市町村におけるインターネット活用の現状と課題」は、こうした動向を踏まえて平成11年度に実施したもので、東京63区市町村へのアンケート、インターネット上での市民アンケート及び先進事例ヒアリングを中心に調査研究し、その結果を取りまとめたものである。本報告では、市町村のインターネット活用の現状とそれに対する市民ニーズをアンケートから分析し、市町村のインターネット活用の課題について、報告書の内容にしたがって述べてみる。

 

1. 調査研究の背景

 インターネットは、情報発信・閲覧の手段として広く普及しており、市町村においても、市民に向けた有力な情報発信手段として、すでに多くのホームページが開設されている(注1)
 さらに、電子メールなどの普及により、インターネットの特徴である双方向性を生かした活用が広がりつつあり、それに伴って利用者も急速に拡大している(注2)
 このような状況の中、地方分権時代を迎え、市民とともにまちづくりを進めていくことが求められる市町村にとって、的確に市民ニーズを捉える手段としてインターネットをどう活用すればよいのか、あるいはホームページからの情報発信が中心となっている市町村のインターネット活用の課題とは何かを探ることを目的に、本調査研究を行った(注3)

 

2. 市町村のインターネット活用の現状

 まず、市町村のインターネット活用の現状を把握するために実施した、東京都63区市町村を対象としたアンケート(以下、区市町村アンケート)の結果をもとに、市町村のインターネット活用の現状について述べてみる(注4)

(1) 情報発信手段としての活用の現状
  ホームページを開設している団体は45団体(71.4%)に達しており(注5)、すでに市民に向けた有力な情報発信手段として位置づけられている。一方、ホームページに掲載している内容を平均ページ数から見ると、「広報誌内容の掲載」(82.7ページ)、「地域の産業、物産、観光の案内」(30.7ページ)、「公共施設の利用案内」(29.9ページ)となり、広報誌内容の掲載がホームページの主要な部分を占めている。

図1 ホームページへの掲載内容

 

(2) 窓口(問い合わせ受付)手段としての活用の現状
  ホームページ上にメールアドレスを公開することで、市民からの問い合わせにインターネットを活用する団体は38団体(84.4%)に上っている。しかし、何らかの方法で回答を行うとした団体は13団体(28.9%)に止まり、回答体制や日数などのルールを定めている団体も少ない。

図2 電子メールへの対応

 

(3) 意見収集手段としての活用の現状

  電子メールなどを活用した市民から意見収集については、「基本構想」「都市マスタープラン」といった将来構想に関するテーマを中心に15団体(39.5%)が活用したことがあると回答しており、徐々にではあるがインターネットが活用されつつある。その一方で、インターネット・アンケートの実施については6団体(15.8%)に止まり、電子会議室を活用した団体は調査時点ではみられていない。

図3 意見収集への取り組み

 

(4) 庁内の運用体制及び情報基盤

  ホームページの管理部署としては広報関連部署が多く、職員数は2人以下が20団体(44.4%)、3~5人が21団体(46.7%)である。広報関連部署を中心に少人数による運用となっている。
  次に庁内の情報基盤の整備状況をみると、パソコンの配備は「課に1台以上設置されている」と答えた団体が63団体中31団体(49.2%)と約半数を占めており、職員1人に1台以上設置されている団体は2団体(3.2%)のみであった。
  LANの整備状況でも「全庁的にLANが整備されている」団体は26団体(41.3%)と半数以下に止まっている。
  こうした状況のもと、職員のインターネット利用についても「一部で利用できる」と回答した団体が45団体(71.4%)となっており、広報、情報管理及び企画などに利用部署が限定されている団体が多い。

図4 管理部署及び職員数

図5 パソコンの配備状況

 

(5) インターネット活用に対する期待

  今後のインターネットに対する期待を尋ねたところ、情報発信手段としては「非常に効果的であり、積極的に活用すべきである」とする団体が33団体(52.4%)に対して、問い合わせの受付手段や市民からの意見収集・交換手段としては、それぞれ14団体(22.2%)、12団体(19.0%)に止まった。情報発信手段としての位置づけが定着している一方で、より双方向性を生かした活用にはやや消極的という結果となっている。さらに、インターネットを積極的に活用するための課題としては、いずれの手段においても「作業人員、運用及び組織体制」「庁内の情報管理体制」「収集した意見の活用方針・体制」といった庁内体制の未整備に対する回答割合が高い。現在の運用人員や体制に限界を感じていることが明らかになっている。

図6 インターネット活用に対する期待

 

3. 市民が求めるインターネット活用

 区市町村アンケートとともに、自治体のインターネット活用に対する市民意識を把握するために、民間のインターネットリサーチ会社の登録会員を対象にしたインターネット・アンケート(以下、市民アンケート)を実施した(注6)。ここでは、その結果をもとに市民の求める自治体のインターネット活用について整理する。

(1) 利用率の低さ
  自治体ホームページの利用経験については、57.6%の人が「ほとんど利用したことがない」と回答し、自治体が期待するほどホームページが利用されていない結果となっている。
  さらに、自治体ホームページのイメージについては、「市民交流の工夫に乏しい」(375件:50.7%)、「必要な情報がない」(364件:49.2%)、「情報がどこにあるのか分からない」(317件:42.8%)といった厳しい指摘が上位を占めている。

図7 利用経験の有無

(2) 窓口サービスへの期待
  一方、これからの自治体のインターネット活用に期待することは、「行事やイベント、公共施設の利用方法などの案内の充実」(452件:61.1%)、「各種届け出・申請の受付」(340件:45.9%)、「公共施設の利用予約の受付」(310件:41.9%)、「各種証明書の発行」(287件:38.8%)となっている。
  さらに、インターネット活用が進むことによって市民と自治体との関係がどう変化するかについては、「公共サービスの水準向上」(362件:48.9%)が最も多く、「様々な方針決定への市民意見の反映」(271件:36.6%)がこれに続いている。市民は自治体のインターネット活用に対して、「窓口サービス」への活用とそれに伴うサービス水準の向上を期待していることが明らかになっている。

図8 期待するインターネットサービス

(3) 意見収集への期待
  最後に、自治体のインターネット活用について自由にアイデアや意見を記述してもらった。その内容を整理すると、「(市民からの)意見収集・交換」「電子アンケート」「電子投票」など、自治体がインターネットを通じて何らかの形で意見を収集することへの期待が強くなっている。

表1 自由意見の傾向 

意 見 区 分

回答件数

意 見 区 分

回答件数

意見収集や交換について

175

PR不足について

28

申請受付窓口について

65

電子アンケートについて

24

発信内容の充実について

61

市民と行政の交流について

18

情報公開について

39

電子投票について

17

 

4. インターネット活用の課題

 以上、2つのアンケートの集計結果をもとに、報告書では市町村におけるインターネット活用に向けた課題について、インターネット活用と情報意識の視点から以下のように整理した。

(1) 市町村のインターネット活用に求められているもの
 ① 市民の期待とその背景
   市民アンケートをみる限り、市町村のインターネット活用に対する市民の期待は、大きく分けて、(ア)情報提供の充実への期待、(イ)窓口サービスの実現への期待、(ウ)意見収集手段としての活用への期待の3点である。
   こうした期待の背景には、電子メールの普及など双方向性を生かした活用の高まりとともに、「オンライン・ショッピング」のように、インターネットが単なる情報流通に止まらない実用的手段へと変化しつつある点と、分権型社会の推進により市民参加の実践が求められる今日、その前提となる市民と行政との「情報共有」の手段としての可能性をインターネットに見出している点の2つがあることを捉えておく必要がある。
 ② 窓口サービスの総合性、完結性
   インターネットを通じた窓口サービスの実現は、今後のインターネット活用方策の1つとなる。しかし、市民アンケートの結果をみる限り、市民が求める窓口サービスとは、(ア)(利用に際しての)情報提供、(イ)各種申請受付・証明発行、(ウ)問い合わせや苦情への対応の3つの形態を含む、総合性、完結性の高いものとなっている。したがって、総合的に取り組むのではなく、業務を特定し、それについて上記の3つの内容を満たす「パイロット・サービス」的な導入を図ることが必要である(注7)
   同時に、問い合わせや苦情への対応は、多様化する市民ニーズに対応する補完的な窓口サービスとして重要である。区市町村アンケートをみる限り、その対応は試行錯誤の段階にあり、今後どのように回答体制を確保していくかは、市町村ホームページの課題の1つと考えられる。
 ③ 意見収集手段としての可能性と課題
   市民からの意見収集にインターネットを活用することも、今後の市町村におけるインターネット活用のあり方として重要である。特にインターネット利用者は、これまで意見収集が困難であった若年層、青年層に多く、こうした市民の参加を促す装置としての可能性は高い。しかし一方で、収集意見の政策等への反映が必ずしも高くないことや(注8)、「顔の見えない」オンライン・コミュニケーションの技術的難しさ(注9)など、現段階では解決しなければならない課題も多い。
   先に述べたように、インターネット活用への期待は一方向的な意見収集にあるのではなく、市民参加に向けた双方向的な「情報共有」の新たな仕組みとしてのものである。したがって現時点では、参加(=意見表明)の前提となる情報提供の充実と、そのための運用体制や情報基盤の整備に力を注ぐことが市町村に求められている。
 ④ 情報提供手段としての再構築の必要性
   このように、窓口サービスと意見収集手段としての活用を整理すれば、今、市町村のホームページに求められていることは、双方向性を生かした活用に向けた情報提供手段としての再構築にある。
   インターネット上で窓口サービスを実現するにしても、そのためには、利用にあたっての必要な情報を市民生活の立場から分かりやすく提供する視点を欠かすことはできない。一方、意見収集手段としての活用に向けても、市町村からの情報提供について、区市町村アンケートのように広報誌の掲載内容を中心とするのではなく、今後はより政策的な情報の提供の充実と蓄積を図ることで、改めて意見収集の可能性を探ることが可能となる。

表2 「窓口サービス」「意見収集手段」における情報提供のあり方

 

窓口サービス

意見収集手段

提供すべき情報

生活情報

政策情報

情報提供における重要な視点

市民生活の視点に立った情報の構成

情報共有から市民参加へ

技術的応用や工夫

コンテンツの操供方法リンク

情報の蓄積検索機能

(2) 「情報意識」の改革
  以上のように、情報提供の再構築の観点からインターネット活用を整理すると、もはや区市町村アンケートにみられるような広報関連部署中心のホームページ運営では、今後ますます需要が高まるインターネットに対応するには限界がある。市町村の運用体制の見直しは避けては通れない課題であり、そのために庁内の「情報意識」をいかに改革できるかが、市民の期待に応えるインターネット活用に向けての課題となる。
  先進事例をみる限り、こうした意識改革に向けてのアプローチ手法は様々にあり、それぞれの市町村の実情に応じて効果的に組み合わされている。ここでは以下に4つ取り上げ、本報告の結びとする。
 ① 処理の分散化
   市町村における情報化は、これまではホストコンピュータによる事務効率化が中心で、処理形態も情報処理部門による「クローズ処理」が多いため、庁内の情報意識の醸成が十分に図られていない。区市町村アンケートにみられるホームページの運用体制も同様になっており、今後は情報基盤を整備するとともに、ホームページを利用した情報提供について全庁的な「分散化」を図ることが必要である。
 ② 情報政策の導入
   今日の情報提供に求められているものは網羅的で総合性が高く、今後は情報に対するビジョンを全庁的に統一し、インターネットの情報伝達手法としての位置づけを明確にする「情報政策」の導入が不可欠となる。何らかの計画の中でビジョンを提示することが一般的だが、事業実施段階におけるトップダウンが、意識を浸透させるケースが多い。
 ③ 人材活用(育成と発掘)
   社会一般におけるパソコンの普及などに伴い、特に20~30代を中心に職員の情報リテラシーは向上している。これからは情報化に対応できる人材を育成するとともに、そうした人材を庁内から積極的に発掘・登用できる仕組みづくりも不可欠となる。
 ④ 情報化投資
   区市町村アンケートの結果からも明らかなように、庁内におけるパソコンの配備数やLANの整備は十分ではない。基盤整備の観点からも一定の情報化投資は不可欠である。


 地方公共団体の公式ホームページ開設率は、平成11年度末で71.5%に達する見込みとなっている。(平成11年版「通信白書」)

 平成11年末の日本におけるインターネット利用者数は約2,706万人であり、世帯普及率は19.1%、事業所普及率は31.8%、企素普及率においてはすでに88.6%に達している。(平成12年飯「通信白書」)

 市町村におけるインターネット活用は、ホームページのみならず小中学校における情報教育など様々な場面が考えられる。本調査研究では、市民と市町村との間に介在する情報流通手段としてのインターネットの可能性を探ることを目的としており、市町村のホームページを調査研究の対象としている。

 アンケートは平成11年8月に区市町村に配布し、平成11年8月1日現在で回答してもらった(回収率100%)。

 その後、ホームページの開設はさらに進んでおり、平成12年9月1日現在、59団体(92.5%)が開設している。

 アンケートは、平成11年9月7日から9月8日にかけて実施し、専用ホームページに自由にアクセスして回答する方法で、目標数(400名)を大きく上回る740名から回答を得た。

 神奈川県横須賀市では、建設工事の入札に係る各種書式のダウンロードや、業者決定の告示を含めた受注状況の公表は、すべてホームページで行っている。さらに、入札行為もインターネットで行うことを予定している。

 神奈川県大和市が都市マスタープランの策定に際して行ったインターネットによる意見収集でも、意見表明率は高かったものの、実際の都市マスタープランへの反映率は、他の手段と比較しても低くなっている。

 神奈川県藤沢市では、電子会議室を利用した市民会議で「ゴミ」「図書館」などをテーマに意見交換を行ったが、意見を集約する過程で、施設見学会などのオフライン手法も取り入れたことで政策提言としてまとめることに成功している。