市民がつくる地域の学びと育ち
~『地方主権』『市民自治』をめざして

専修大学教授 嶺井 正也


1. 分科会テーマの変更について

 前回変更したばかりの分科会テーマ「分権、市民自治による『ゆとりとゆたかさ』のあるくらしづくり」が、今回は「市民がつくる地域の学びと育ち~『地方主権』『市民自治』をめざして」へと変更になりました。教育・学習や文化、スポーツなどの視点を明確にするということが主眼であって、前回のテーマが不適切であったというわけではありません。
 市民の主体的な教育、学習、文化、スポーツの活動ができることそれ自体が地方主権であり、市民自治であるという観点を強調したかったのです。もちろん地方主権や市民自治が「ゆとりと豊かさ」のあるくらしづくりにつながっていることはいうまでもありません。
 そればかりではありません。昨年7月に地方分権推進一括法が制定されたという状況を踏まえ、地方分権をいっそうすすめ、より地方の自己決定を強調する地方主権をめざしたい、という今回の自治研全体の方向性を受け止めようとしたからでもあります。

 

2. 教育改革国民会議の中間報告が出たけれど

 ご存じのように、9月22日に首相の私的諮問機関である教育改革国民会議が中間報告 ― 教育を変える17の提言 ― を出しました。小渕前首相の強い意思を受けて3月に設置された同会議の主眼は教育基本法「改正」にあったのですが、委員内部の強い反対や世論の動きもあって「教育基本法の見直しについて国民的議論を」と提言するにとどまっています。しかしながら、これを受けて森首相は先の臨時国会の所信表明演説で中教審等で幅広く議論をしていきたいと述べています。
 教育基本法「改正」が一気呵成に進むという事態ではなくなりましたが、改革提言のなかに教育基本法「改正」論者の主張につながる道徳の教科化、奉仕活動、伝統や文化の尊重などが盛り込まれていることや、憲法「改正」論議との絡みなどに注意したいと思います。それにしても、教育の地方分権化という流れの中で、中央政府の長たる首相の肝いりで設置された「私的」諮問機関が、日本の教育全体についての改革を一方的に提言するというのは逆行ではないでしょうか。「地域の信頼に応える学校づくりを進める」、「授業を子どもの立場に立った、わかりやすく効果的なものにする」等いくつか賛同できる部分もありますが、しかし、こうした提言は従来から言われてきたことでもあります。それより問題はこうした上から教育の基本的あり方を示していくという手法自体であります。「地方主権」、「市民自治」の立場からは大いに問題にしなければなりません。

 

3. 改めて「地域に根ざした共生の教育、文化、スポーツを」

 このフレーズは長いこと、この分科会のテーマでした。前回からこのテーマは表面からは消えたけれども、内容的にはこの分科会では基調になってきたものです。このテーマは今回の自治研全体の「基本的な考え方」で示されている「高齢者、子ども、女性、男性、障害者、健常者、定住外国人など多様な人々が多様な価値観を持っているなかで、地域に住む市民が共に生き、生活し続けることの出来るための新たなビジョンを、地域から創りだしていかなければなりません」との考え方ともピッタリ重なっております。また、これは奉仕や規範という形で「公」や「国家」が強調される状況に対抗していく意味もあります。改めて、それぞれの地域での教育、文化、スポーツの活動を「地域に根ざした共生」という観点から見直してみませんか。そして、それができていないならば、それに向かって実践を進めていこうではありませんか。
 地方財政の厳しい状況、ますます求められるアカウンタビリティ、情報公開等々の中で市民自治としての教育、文化、スポーツのあり方を、一緒に考えてみましょう。そのための素材として多くの代表レポート、自主レポートがあります。自治研「地域教育政策作業委員会」報告書ももっと議論していただきたいと思います。積極的な意見交換を期待しております。