みんなで考えよう! 21世紀の福祉社会
─ 社会的支援を必要とする人々の自立支援と権利の保障 ─

大阪大学大学院人間科学研究科 斉藤 弥生


 介護保険制度の施行、社会福祉事業法から社会福祉法への流れ。21世紀を目前にして、社会保障や社会福祉の枠組みが大きく変わってきています。同時に深刻な地方財政危機のもと、各自治体においては福祉施策等の見直しや後退、2次医療福祉圏域における医療機関と福祉施設の再編統合、福祉施設の民間委託や統廃合も進められています。
 こうした状況の中で、高齢者や障害者などの社会的支援を必要とする人々の生活をどのようにして守っていくかが、ますます大きな課題となってきました。社会サービスの一層の基盤整備、そして質の高いサービスを提供するための施策が求められています。
 措置制度から利用者契約制度へ移行するにあたり、たとえ判断能力が低下した状態であっても本人の自己決定や自己選択が尊重され、事業者と対等な関係のもとでのサービスが利用できなくてはなりません。
 医療分野においても、精神保健福祉法の改正や感染症予防法の制定により、精神障害者や感染症、難病患者等のノーマライゼーションの議論が始まりました。医療・福祉サービスの充実とともに、高齢者・障害者の人権擁護・権利擁護に向けた具体的な施策がまさに求められているのではないでしょうか。
 以上のような問題意識に基づき、本分科会では主に3つのテーマで議論を深めていきます。

 

1. 介護保険がスタートして半年。自治体の取り組みは…。

 2000年4月に介護保険制度が実施されてから、早半年が過ぎました。自治体は保険者として、介護保険の運営責任を担っていますが、その取り組み姿勢には自治体間で大きな開きがあるようです。
 例えば、「介護保険条例」。介護保険の開始にあたり、各自治体では介護保険条例づくりが行われました。厚生省からモデルが提示されましたが、自治体によっては「介護の社会化」「自己決定・自己選択」の理念をさらに追求する形で、一歩進んだ条例をつくったケースもみられます。
 多様なサービス事業者が存在することも介護保険制度の大きな特徴です。民間企業、社会福祉法人、NPO法人などが提供するサービスの現状はどのようになっており、そのようなサービス供給体制の中で、自治体はどのようにかかわっていくべきなのでしょうか。
 独自のアンケート調査を行い、介護サービスに対する利用者の意向を図り、積極的に施策に生かそうとしている自治体もあります。
 また介護保険の導入に伴い、各地に広域連合が誕生しました。広域連合における介護保険の取り組みを整理する中で、高齢社会における自治体の役割について一層の議論を深めることができるでしょう。
 年老いても、自分の選択で、地域で暮らすことができるために、自治体には何ができるのでしょうか。各方面からの事例をもとに考えてみたいと思います。

 

2. 障害者の自立支援と生活保障

 障害者の生活保障のためには、社会サービスの充実が前提条件となります。しかし、そのサービスは高い質のものであり、さらに当事者が選択できるものでなくてはなりません。また措置から契約への流れの中で、判断能力が低下した状態であっても、自己決定が支えられ、また権利が守られる体制づくりが急務となっています。
 たとえばスウェーデンでは、新たな立法により、施設職員に施設内虐待の通告義務を課し、またオンブズマンを配置するなどして、障害者・高齢者の人権擁護・権利擁護の取り組みを強化しています。
 日本でも「介護相談員」制度を設け、研修を受けた一般市民が施設を訪問し、入居者の声を聞き、介護サービスの向上につなげようという試みが始まりました。また地域権利擁護事業では、生活支援員を配置し、判断能力の低下した方々の契約や金銭管理をサポートするなどの取り組みも始まりました。また今年から、新たな成年後見制度も始まりました。
 「完全参加と平等」を基本理念としたノーマライゼーション社会の実現のため、今、私たちに何ができるのか。当事者の方々の生の声を踏まえて、議論を深めていきます。

 

3. 地域における保健・医療・福祉の連携

 高齢化が進行する中で、保健・医療・福祉の連携がますます必要とされています。地域の中には、より重度な障害を持つ方々が生活するようになり、また後期高齢者は福祉サービスと同時に医療を必要とする方がほとんとです。ノーマライゼーションの社会を実現するためには、この3者の連携は不可欠な時代です。地域における実践事例を報告していただきながら、本当に安心して生活できる地域について考えていきたいと思います。
 21世紀の社会保障は、私たち自身の手で築いていくものです。安心して暮らせる社会づくりに向けて、自治体の役割がますます問われる時代でもあります。
 参加者の皆さんには、「自分に何ができるのか」という視点を持っていただきたいと思いますし、そのヒントを見つけていただけるような分科会にしたいと思います。