人権行政の確立にむけて
─ 「大阪市同和地区解放会館条例」の改正に対する取り組み ─

大阪府本部/大阪市職員労働組合・市民支部

 

1. はじめに

 市民支部は、市長室、オリンピック招致局、市民局という3所属に働く組合員で構成されており、所管する行政分野も非常に多岐にわたっています。市民局においては、1998年4月に「これまでの同和行政を後退させることなく、同和問題を人権問題という本質からとらえ、同時に様々な人権問題に対応する行政を一層総合的かつ効果的に推進していく」ことを目的として、これまでの「同和対策部」を再編して、新たに同和問題をはじめ、あらゆる人権問題に関する総合企画立案、調整機能を有する「人権部」を設置し、全庁的に人権施策を推進するための体制整備が図られました。
 以降、1999年4月に、人権行政を総合的・効果的かつ全庁的に取り組むために、市長を本部長として「大阪市人権施策推進本部」を設置するとともに、5月には、大阪市がめざす人権行政の基本理念と、具体化していくための基準や人権尊重を基礎とした施策の企画や運営システムの確立、人権行政推進のための体制づくりの指針を示した「大阪市人権行政基本方針」が策定されました。
 そうしたなか、2000年4月に「大阪市同和地区解放会館条例」が「大阪市立人権文化センター条例」へと改正されました。そのことにより、1970年の「解放会館条例」制定以降、地区住民の社会的、文化的、経済的生活の向上を図り、同和問題の速やかな解決に資するため、地区のセンターとして同和問題の解決に大きな役割を果たしてきた「解放会館」は、「人権の世紀」といわれる21世紀を目前に、同和問題を人権問題という本質からとらえ、人権が尊重される社会づくりに寄与する施設「人権文化センター」として、歴史的な転換が図られました。
 また、あわせて、人権尊重の理念を明確にし、生きがいのある人生を創造できる自由・平等で公正な社会を実現していくことを示した「大阪市人権尊重の社会づくり条例」が制定されました。
 本レポートにおいて、支部における人権行政の確立に向けたこの間の「職場自治研活動」の取り組みや、今回の「条例改正」に対する対応、あわせて、今後の人権行政の確立に向けた課題について報告します。

2. 支部職場自治研活動の取り組みについて

 支部は、行政責任にもとづく「人権行政の創造・確立・推進」にむけて、自らの職場や業務を見つめ直すことが日常の政策提起につながることから、新たな時代の解放会館の創造を追求しその実現にむけての課題を明らかにするなど、職場自治研活動を積極的に進めてきました。
 1998年7月には、取り組みの成果として「職場自治研活動報告書 ─ 新たな時代の解放会館創造にむけた職場自治研活動について ─ 」をとりまとめました。「報告書」では、1997年1月の大阪市同和対策推進協議会「意見具申」で提起された解放会館における3つの機能(①生活基盤の確立・地域福祉にかかわる施設としての機能、②周辺地域住民を対象とした同和問題をはじめとする人権問題の学習・啓発・情報発信の拠点となる地域の人権啓発センターとしての機能、③住民交流の拠点となるコミュニティセンターとしての機能)についてあらゆる角度から研究した結果、「解放会館が今後果たすべき方向」として、人権行政を総合的に推進する役割を担うとするとともに、地域に密着した拠点・総合施設として、以下の3つの機能を中心とした事業を展開する拠点施設とすることについて提起しました。

(1) 生活基盤の確立・地域福祉にかかわる施設
  地区住民の生活基盤の確立のために「総合相談事業」を実施し、自立支援にむけた総合的・継続的な相談事業の展開を図る。

(2) 地域人権センター施設
  地区内外の人権意識の高揚を図るため、人権情報の発信基地として人権啓発事業をより一層積極的に行うとともに、区役所をはじめ関係機関との連携を強め、人権啓発ネットワークを構築する。

(3) コミュニティ施設
  地区内外住民の交流を積極的に図るとともに、周辺地区住民を含めて生涯学習を推進し、人権感覚を高め豊かな人生と文化生活をめざす。
 以降、解放会館が「報告書」で提起した3つの機能に沿った拠点施設として、機能的かつ効果的な事業を充実・発展させ、行政責任に基づく「大阪市の人権行政の確立」をめざすため、主体的な分権自治体改革にむけた取り組みとして、「支部分権化推進委員会」を設置するとともに、「委員会」内に、より専門的に研究する場として「人権施策創造にむけた解放会館検討委員会」を設置し、「解放会館のあり方」をはじめ、大阪市の人権行政の確立にむけて、積極的な議論・検討を行ってきました。

3. 「解放会館条例」の改正と「人権文化センター条例」の制定について

(1) 「解放会館条例の改正」提案
  2000年1月に、所属より支部に対して「大阪市同和地区解放会館条例の改正」について提案がありました。支部は、条例改正が大変重要な課題であるにもかかわらず、十分な協議経過がないなかでの唐突な提案であること、さらに条例改正後の解放会館の位置づけが不明確であることなど、所属の主体性について厳しく追及した結果、提案内容を一部修正した内容で、あらためて所属より提案がありました。支部は、その内容が支部の指摘をふまえたものであることから、今回の提案が同和行政の後退を意図するものではないことなどを確認したうえで、「提案内容について持ち帰りあらためて支部の考え方を明らかにする」とし、以降、支部におけるこれまでの取り組み経過をふまえて、組織的に対応することとしました。

(2) 提案に対する支部の認識と態度
  支部は提案以降、当該職場である「人権分会」の班長会や「人権施策創造にむけた解放会館検討委員会」を開催し、提案内容を報告するとともに、今後の取り扱いについて協議を行い、こうした経過をふまえて「支部の態度(案)― 職場討議資料 ―」を提起し、全職場での討議を要請しました。


◎支部の態度(案)
 1 経過(省略)
 2 提案内容(省略)
 3 支部の認識と態度(要旨)
   [提案の具体的な項目(名称・目的・対象及び使用料等)に対する支部の考え方については省略]
    1970年に全国で最初に制定された「大阪市同和地区解放会館条例」は、「基本的人権尊重の精神に基づき、同和地区住民の社会的、文化的、経済的生活の向上を図り、同和問題のすみやかな解決に資する」という目的を明確にするとともに、施設名称を「同和地区解放会館」とすることにより、地域住民と大阪市が部落差別に立ち向かう決意を高らかと誇示するものとして画期的なものでした。
    解放会館は条例制定以降、部落解放運動及び同和行政を取り巻く状況が変化するなかで、それぞれの時代に応じた様々な事業を実施した結果、地区住民の生活環境の向上等に大きく寄与してきました。そして、現在では、条例の狭義の枠を超え、地区住民を中心に広く視野に入れ、多様な人権問題の取り組みにより、人権意識の高揚を図る事業を積極的に展開し、以て同和問題の解決に大きな役割を果たしています。
    「隣保協同の精神」に基づく市民館条例の枠を超えた現場での実践の積み重ねから、「解放会館条例」が生まれたのと同じく、現行の解放会館事業の実践を直視するならば、歴史的転換点である新たな条例の制定は必然であり、さらなる事業展開を推進するには必要であると考えます。また、国や大阪市等の状況から、確固たる行政責任に基づく「新たな解放会館への速やかな移行」が求められており、条例改正をさらに遅延させることは責任放棄につながるとも言わざるを得ません。
    支部は以上のことから、今回の提案が「解放会館条例」30年の歴史と実績をふまえ、同和問題の解決を図るという行政責任に基づき、同和問題を人権問題という本質からとらえ、基本的人権の確立をめざして機能する施設として、市政の中に人権文化センター(解放会館)が明確かつ体系的に位置づけられものであると認識します。
    なお、今日時点で未解明な点については、当局責任を引き続き追及し整理をはからせるとともに、労働条件の低下をきたさないことを確認することを前提に、提案内容の方向性で「解放会館条例」を改正することについて大綱判断します。

 支部は、以上の態度(案)について、職場オルグの実施や職場での熱心な討議を経て、2月22日に開催した「第4回支部中央委員会」において機関決定を行いました。また、2月28日には、所属に対して「支部の考え方」について回答するとともに、未解明な点について考え方を明らかにするよう「申し入れ」を行いました。

4. 人権行政の確立にむけて

 「人権の世紀」である21世紀を目前にして、「解放会館」は30年の歴史と実績をふまえ、基本的人権の確立をめざして機能する施設としてさらなる発展を図るべく「人権文化センター」へと新たな第一歩を踏み出しました。
 支部は、4月の改正条例の施行以降も、残された課題について当該職場との連携のもとその解明に努め、10月からは施設の「有料化」についても実施されています。
 引き続き、「人権行政の確立を図る」という基本的立場を堅持し、新しい時代にふさわしい、人権文化センター事業の「再構築」の取り組みにむけて積極的に取り組みます。
 また、同和問題をはじめ、外国籍住民、障害者、高齢者、子ども、女性の人権にかかわる問題など、さまざまな課題に対して、それぞれの問題の関連性なども考え、総合的・体系的に施策を推進するためには、全ての施策の企画から実施にいたる全過程を通じて、すなわち行政運営そのものを人権尊重の視点から推進していかなければなりません。そのためには、「人権行政基本方針」の着実な実践は必要不可欠であることから、「人権尊重を基礎とした業務の遂行と施策の企画・運営システムの構築」の課題をはじめとした「基本方針」で記されている課題について、労働組合の立場から主体的にその進捗状況等について検証を行い、その結果を「人権行政の確立」に反映できるよう取り組みを強めます。さらに、区役所、人権文化センター、地区内をはじめとする公共施設の人権啓発施策の役割を明確にさせた、「人権啓発ネットワークの確立」にむけた取り組みなど、今後の課題とされている点についても、日常的に研究・検討を行うなど、「人権行政の確立」にむけて積極的に職場自治研活動に取り組みます。