立川町の風が描くまちづくり

山形県本部/立川町職員労働組合

 

1. 立川町の概要

 立川町は、山形県の北西、庄内平野の東南部に位置し、霊峰月山を南瑞に立谷沢川に沿う月山山麓と、日本3大急流の一つ最上川の河畔に開けた静かな山間丘陵の町であり、東西約11km、南北約321km、総面積190平方キロメートル、月山を源とする立谷沢川は東北一のきれいな水質で、緑多い山々とともに私たちの誇りです。
 人口は、昭和35年以降減少額向にあり、11,260人をピークに現在は約7,500人で、老齢化率も高く、65歳以上の人口は23.8%(平成7年国調)を占める過疎の町です。気象は一般に海洋性気侯を示し比較的温暖ですが、冬期間は南部に至るに従い深積雪地となり、北部は北西の季節風が激しいところでもあります。また、春から秋にかけては最上川の峡谷から南東の強風「清川だし」が吹き荒れ、しばしば農作物に被害を与えたり、大火の原因になったりするため人々からは厄介なもの、恐ろしいものとして敬遠されてきました。
 産業は米を中心とした水田農業中心の町ですが、最近では農業離れが進み、近郊の酒田市、鶴岡市への会社勤めが多く、町内では女性を中心とする弱電、縫製及び卸売・小売業が中心となっています。

2. 逆転の発想から町おこしヘ

 「清川だし」は岡山県那岐山麓で吹く「広戸風」、四国山地を越えて吹きおろす愛媛県伊予三島市付近の「やまじ風」と並び‘日本三大悪風’と呼ばれる局地風としても有名で、春から秋にかけて主に気圧配置が東高西低の時に発生し、新庄盆地にたまった冷気団がおろしとなり最上川峡谷で収束し、庄内平野に吹き出すもので、立川町はその吹出し口に位置するためその影響を強く受ける一方、冬は逆に北西の季節風が強く地吹雪が発生するなど、年間をとおして風が強いのが特徴で、全国的にも内陸部としてはまれな強風地帯となっています。
 立川町では、この悪風を逆手にとり町おこしに利用しようと、昭和55年から60年まで風エネルギー実用化実験事業として、1kwの小型風車による温室ハウスの加温による農業部門への活用を目的に初の実験を実施したり、科学技術庁が全国10箇所で実施した風力発電の実験事業の受入れなどに取り組みましたが、残念ながら風車が小型のため強風時は利用できなかったり、変化の多い自然条件の中でトラブルが多発するなど実用化には至らず、全国的にも日本の風況は風力発電には適さないとの概念が大勢を占めるにいたりました。
 しかしながら、平成元年から2年頃にかけて全国的に話題になりましたふるさと創生事業をきっかけに、町民のアイディア、意見交換をとおして再度風による町おこしに意見が一致し、風をキーワードにした地域づくり構想「立川町風車村計画」が生まれました。
 立川町では、強風を地球に優しいエネルギーとして活用し、①環境問題への小さな行動のPRを図ること、②風を多面的に捕らえ風にこだわった地域づくりを図ること、③町おこしのため心に風を起こすことの3点を基本コンセプトに風車村計画を総合的に進めています。

(1) 風車村の主な施設
 ○ シンボル風車
   地球に優しいエネルギーとしての風力発電の先進性を実証するため、平成4年度にアメリカ製風力発電気100kw×3基を導入し、清川だしを受けて発電する電力量は、一般家庭の年間電気使用量の約60世帯分に相当し、当時自治体では日本一の風力発電施設で、同年誕生した余剰電力買取り制度による売買システムなど先進的な運営を行うとともに、夜にライトアップされた風車は幻想的な世界を作り出しています。
 ○ ウィンドーム立川、バッテリーカー広場、遊具広場
   風をみつめ、風を理解するスペースとして平成7年にオープンした施設で、アリーナ棟の外観はラグビーボールのようなドーム型で、清川だしをやわらかに受け流す効果もあります。風車コントロールルーム、風の資料室、多目的アリーナ、軽食喫茶、売店が併設され、展望塔からは360度のパノラマで広がり、庄内平野や最上川、遠く月山、鳥海山も一望できます。また、風車で発電された電気で充電した子供バッテリーカー広場、風の広場、木製遊具広場を整備し、観光と教育を兼ね備えたゾーンとしての役割を果たしています。
 ○ 風のシンボルモニュメント
   風を芸術的にとらえるシンボルとして、世界的に活躍する風の造形作家新宮晋氏の作品を設置。ステンレスの4枚羽が複雑な回転をする中央公民館前の「光の機織り」、風をイメージして設計され、立川中学校の屋上と屋内の作品が連動して風を表現する「宇宙への窓」の2作品が、立川町の自然のリズムを表現しています。

(2) 風にまつわる事業の開催
 ○ 第1回全国風サミット
   風をテーマに地域活性化を進めている全国の12市町村参加による第1回全国風サミットを平成6年立川町を会場に開催し、各市町村が活性化構想や現状の発表、意見交換を行い、共同宣言を採択して以降、風力発電に関心を持つ産学官そして民間も一堂に会する交流の場として、毎年加盟市町村持ち回りで継続しており、今年で第7回となり岩手県葛巻町を会場に開催されます。
 ○ 風のサーカス・風のぺージェント・風の学校
   世界的な造形作家新宮晋氏の風で動く彫刻9点の野外展覧会を開催し、会期中1万5千人が訪れました。また、風車村周辺をライトアップし、姫神や佐藤宗幸など出演による風と音のぺ一ジェントなどの芸術行事を開催するとともに、風の持つ魅力とその姿を知ってもらうため、風の講演会や手作り風車教室、風の映画祭りなど風にこだわった多彩な事業を行ってきました。

3. 地域おこしとしての成果・効果

 地球環境問題への関心が高まる中、100kw風車は建設当時地方自治体としては全国一の規模であり、電力会社との余剰電力売電方式の連携で運営する最新技術の施設であったこと、またその後も第3セクター会社による最新の機種の増設により、風車村には県内はもとより全国各地から現在も年間5万人を越える視察、見学者、観光客が風車村を訪れています。
 また、風力発電は装置産業のため、直接雇用を生むことはありませんが、風をキーワードにした地域づくりは、風をデザインした施設づくりのみならず、ユニークなソフト事業の開催などにより、地域の新しい活性化事例として全国に情報発信されています。
 さらに、風車グッズや特産品などの開発意欲も高まってきており、町の誇りとしての意識が高揚しています。

4. 事業としての風力発電への挑戦

 平成8年には、第1回全国風サミットが縁で、風力発電による売電事業を行う民間会社が最上川の河川敷近くの田園に400kwの大型風車を2基建設した。同じ時期に町では、通産省の新規事業である地域新エネルギービジョン策定事業の補助を受け「立川町新工ネルギー導入計画」を策定しました。これまで町が取り組んできた「町のシンボル」「地域おこし」的発想から脱却し、二酸化炭素の削減を始めとする地球温暖化問題に対する本格的な風力発電の導入を目的とし、最終的には立川町全体の年間消費電力量2,200万kwhを風力発電を中心とした新エネルギーで賄う計画です。
 第1次計画の中心となる集合型風力発電施設(ウィンドファーム)は、立川町出資の第3セクター㈱たちかわ風力発電研究所により平成11年度から12年度の継続事業として最上川沿いの田園に600kwの風車が4基整備され、既に建設されている町直営の100kw×3基、㈱たちかわ風力発電研究所に移管された400kw×2基と合せると、現在出力3,500kw、年間総発電量657万kwhとなり、立川町全体の年間消費電力量2,200万kwhの約30%に匹敵し、石油削減量に換算すると160万リットルに相当します。
 また、平成13年度以降の第2次計画では、最新の大型風車(1,500kw相当)2基を立川町直営で整備する計画を盛り込むなど、積極的に風力発電事業を推進しています。日本の風力発電事業は、環境問題の追い風を受け急速に事業化が進み、ヨーロッパで設計された第一線の大型風車が建設されはじめ、民間資本による大規模な集合型風力発電所が出現しています。建設コスト、発電コストとも欧米に比べて高く、事業としての採算性を疑問視する声もありますが、環境に対する負荷が少く純国産の地域資源として無尽蔵な風力発電は、環境問題また将来のエネルギー問題からもその普及が望まれます。

5. 持続可能な社会形成めざして

 資源エネルギー問題と環境問題は21世紀の最も重要な課題です。人類が将来的に住み続けられる環境、現在の経済活動を維持継続するためには、「人間社会」と「自然循環」の関係を修復する方向での開発でなければ達成できないとも言われています。こうした地球全体、社会全体のグローバルな問題に、地域や家庭の中などのローカルな範囲で何をすべきなのかを模索しようというのが、平成11年度から始まったエコランド事業です。
 環境全般の取り組みと、活力あるまちづくりを創造するための基本構想や実施計画などの総合的なプログラムは、平成12年度から新たに新設された環境衛生係で検討中です。
 また、本町ではいち早く昭和62年から家庭から出る生ごみ全量を、籾殻、畜糞に混ぜて良質な堆肥を生産し、立川農業の有機栽培化を図り、『生ごみリサイクル』としての事業も実施してきました。
 立川町の風力発電と堆肥生産センターを中心とする資源循環型社会への取り組みは、小さな地域社会から地球環境問題への挑戦です。もともと立川町は81%の山林、県下一の清流を誇る立谷沢川、一望千里の庄内平野など豊かな自然に恵まれた農山村であり、この豊かな自然を守ることは私たちの子孫に対する義務であり、循環型社会の確立に向けた一歩です。

風車写真

立川町ウインドファーム整備事業資料