職業安定行政国一元化後の自治体雇用政策と
緊急地域雇用特別交付金による雇用創出策

自治労/全国労政連絡会

 

1. 職業安定行政の国一元化がもたらす影響

 長期不況下で相変わらず厳しい雇用情勢が続いている。今ほど国・自治体が連携したきめ細かい雇用・労働政策が真剣に求められている時期はない。
 一方、労働行政は今大きな転換期にある。本年4月に施行された地方分権一括法の下、これまで戦後50年余にわたって、機関委任事務・地方事務官制度の枠組みの中で国と都道府県が連携して進めてきた職業安定行政が、地方分権とは逆行して国に一元化された。地方事務官制度は廃止され、これまで知事の指揮下にあった職業安定課・雇用保険課(ほとんどが国家公務員)は、都道府県庁内から出て、新たに労働省が設置した都道府県労働局の組織に組み込まれることとなった。(労働基準局・雇用均等室と統合)
 現在国の各省は、来年1月に予定される省庁再編(労働省は厚生省と統合され、厚生労働省となる)にむけて、既得権限の確保に躍起となっている。労働省も、建前は「国と自治体の連携」を唱えつつ、実際は職業安定行政に限らず労働行政全般の中央集権化に走りつつあるのが現状だ。
 しかし、こうした方向は労働市場政策としても明らかに誤りである。高度成長期には、新規学卒の集団就職のような全国動員的な労働力政策が基本であったが、時代は大きく転換している。昨年の職業安定法改正は、職業紹介機能の国家独占から民間事業との協力・連携へと大きくスタンスを変更した(すでにだいぶ以前から「2割職安」と呼ばれるように公的紹介の比率は低下している)。またパート・派遣・女性・高齢労働者の比率の増大は地域的な労働市場に対する政策へ比重を移していくことを必然としている。現在求められているのは、地域定住労働者の増大に対応した地域的雇用労働政策の確立である。
 残念ながら、まだ自治体当局、そして職員にもその自覚は少ない。これまで雇用対策について、自治体から一定の財政支出(高齢者対策・新規学卒者対策・Uターン対策等)は行いながらも、事業執行については、ほとんど国の職員に依存してきたため、十分なノウハウがあるとはいえない。しかも前述の労働省の集権化政策によって、国と自治体の明確な役割分担基準は示されず、自治体財政当局からは、「雇用労働政策は国にまかせればよいのではないか」との動きが顕在化してきている。
 労政連絡会が最近行った調査(別表)では、職安行政の国移管により、各都道府県は職業安定課・雇用保険課を廃止したかわりに、雇用対策課あるいは、雇用対策の係を設置している。しかし、その施策の内容は、これまでの事業を継続したにすぎないものが多く、今後に多くの課題を残している。

2. 大きく転換した国の雇用労働政策

 1998年4月に初の4%台に突入した完全失業率は、1999年の6、7月には過去最高の4.9%にまで上昇するなど、史上最悪の記録を更新し続けたが、そうした中、政府は1999年に大きく雇用政策を転換させた。それを端的に言えば、これまでの「失業防止」重視策から、「雇用流動化」による「産業活性化」重視策への転換である。
 2月の経済戦略会議の提言、5月の自民党臨時経済再生・産業競争力強化検討チームの雇用対策案等を受けて7月に決定された政府の対策は、その名も「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策」と名付けられており、①民間企業による雇用の創出と迅速な再就職の促進、②国、地方公共団体による臨時応急の雇用、就業機会の創出、③人材資源の活発化、④雇用保険の改革、の4つの柱からなっていたが、その内容は7月の第1次補正予算、11月の第2次補正予算、雇用保険法改正等によって次々に現実化された。
 第1次補正予算では、①情報関連など15分野への、中高年の非自発的失業者の前倒し雇用または能力訓練に対する「新規・成長分野雇用創出特別奨励金」(900億円)、②「緊急雇用創出特別奨励金(地域指定)」の発動要件の緩和(600億円)、③中高年労働移動特別助成金の拡充(企業グループ外の会社への出向にも教育訓練費等を助成)による「人材移動特別奨励金の創設」(100億円)、そして、後に点検する、④「緊急雇用特別給付金の創設による地方公共団体による臨時応急の雇用、就業機会の創出」(2,000億円)等が行われた。また、第2次補正予算では、①「中小企業地域雇用創出奨励金」、②「特定地域・下請け企業離職者雇用創出奨励金」等が創設された。
 一方、雇用保険法改正では、「早期再就職を促進させるための給付体系の整備」が最大の柱となっており、倒産・解雇等により離職を余儀なくされた者に対する給付の改善(現実には僅か)を名目に、「定年退職者を含め、離職前から予め再就職の準備ができるような者」に対する給付水準の切下げが行われた。
 あわせてこの時期には、労働者派遣法・職業安定法の改正による労働市場規制の緩和、「産業活力再生特別措置法」「民事再生法」さらには「商法改正(会社分割法)」等の企業法制改正が、十分な労働者保護への配慮もなく、着々と進められたことも見すごしてはならない。

3. 緊急地域雇用特別交付金による雇用創出策の点検

 前述のように、政府は数々の雇用創出策を相次いで打ち出したが、その効果には疑問が多い。マスコミの報道によれば、2000年4月段階で、①「新規・成長分野雇用創出特別奨励金」の実績が、金額で約1%、15万人の創出目標が1,471人、②「緊急雇用創出特別奨励金」の実績が、金額で0.8%、20万人の創出目標が1,586人、③「人材移動特別奨励金」の実績が、金額で0.5%、7万人の創出目標が2,406人という、惨憺たる結果にとどまっているという(人材移動特別奨励金は本年9月迄、他の2つは2002年3月まで期間が残されているが) 。
 その中で唯一実績をあげているのが、自治体に交付した「緊急地域雇用特別交付金」とされている。労働省が6月に発表した11年度(10月から12年3月迄)の実績と12年度の計画では表のとおりであり、11年度の実績が387億円で新規雇用・就業者数9.2万人、12年度の計画で1,015億円、新規雇用・就業予定者数806万人、2,000億円の予算、30万人の雇用創出目標(2002年3月迄)に近づくという。
 しかし、その実態には多くの問題点が存在する。そもそも、政府による失業対策として「公的な就労機会の提供」という政策が打ち出されたのは、久かたぶりであり、画期的なことであるが、これまでその導入に慎重だった原因は、過去の失業対策事業的なものを2度と繰り返したくないとの思いが強烈にあるからである。従って、今回の交付金の要件でも、①教育・文化、福祉、環境・リサイクル事業等、緊急に実現する必要があること、②一両年で終了する事業であること、③新規雇用・就業を生ずる効果が大きいこととされ、とりわけ、同一人の雇用を6ヵ月未満に限るという厳しい縛りがかけられたため、その雇用創出効果には、当初から疑問が出されていた。
 11年度の実績は別表のとおりだが、雇用創出人数には研修受講者18,967人が含まれており、純粋な就業者は73,112人になっている。分野別で最も多いのが、「環境・リサイクル(美化清掃・ダイオキシン調査・ごみ分別指導等)」で31,062人、次いで「教育(情報教育・外国語教育の臨時講師、生活指導、学童保育等)」の8,512人、「産業振興(商店街支援・起業支援・商工相談・観光イベント等)」の7,660人、「福祉(ホームヘルパー養成研修、介護相談、障害者補助員等)」の7,339人、「行政関係(行政文書のデジタル化・ホームページ作成・違法駐車指導等)」の7,036人、「農林水産業(就農研修・公有林間伐・水田台帳・生態マップ作成等)」の6,357人、「文化(遺跡発掘・文化財データベース化等)」の5,043人の順になっている。
 特徴をみると、政府が期待していた「自治体が知恵を絞ったユニークな事業」はあまり見られず、国の「例示」事業に従った事例が多いこと、また同様に、「指導者育成・実務者研修等のNPO支援」事業の実績があまり多くないこと、等があげられる。また、12年度の計画(別表)では、「行政関係」事業の金額が増えているが、これが自治体の独自性を実現するものとなるかも、期待薄である。

(別表)

緊急地域雇用特別交付金の実績と計画

 

平 成 11 年 度 実 績

平 成 12 年 度 計 画

額(百万)

就業人員(研修人員)

額(百万)

就業創出見込み

教   育

5,348 8,512人 (1,540人) 20,682 1,706,349人日
文   化 2,878 5,043人   (3人) 8,131 658,899人日
福   祉 3,607 7,339人(12,994人) 7,851 1,046,893人日
環   境 14,257 31,062人  (233人) 25,400 1,889,916人日
産業振興 3,878 7,660人 (3,429人) 10,574 920,010人日
農林水産 3,114 6,357人  (443人) 6,977 427,401人日
行政関係 5,516 7,036人  (275人) 21,366 1,358,387人日
NPO支援 72 103人  (50人) 585 52,203人日
合  計 38,743 73,112人(18,967人) 101,566 8,060,058人日

(別表)

職業安定行政の「国一元化」に伴う都道府県労働行政組織の再編状況