大規模小売店舗立地法の問題点と課題

大阪府本部/自治労大阪府職員労働組合・商工支部

 

1. はじめに

 大規模小売店舗立地法(以下「大店立地法」という)が、今年6月1日から施行された。大規模小売店舗の出店規制は、旧大規模小売店舗法による商業調整から、大店立地法による生活環境の保持という社会的規制に変わった。これによって、大規模小売店舗の立地による道路渋滞、騒音問題などの生活環境の悪化は防ぐことができるのか、また、既存の中小店舗、商店街への出店による影響はどうなるのか等、制度の変更による問題点や、課題について述べたい。

2. 大店立地法の制定経過

 98年5月、大店立地法、中心市街地活性化法、改正都市計画法のいわゆる「まちづくり関連3法」が成立した。これにともなって、旧大規模小売店舗法は今年6月の大店立地法の施行とともに廃止され、経過措置として、01年1月末までの開店予定のものについて旧法による調整が有効となっている。
 大店立地法など3法の制定の背景は、次の3点である。
 ① 中小小売店の衰退
 ② 大規模小売店の生活環境への影響(交通渋滞、地域の生活環境への悪化)
 ③ 規制緩和、外資系流通業の進出
 これらの背景のもと、国は、大規模店舗対策として、大店法の廃止を柱に、まちづくりの観点を導入した「まちづくり関連3法」を制定した。まちづくり関連3法は、ゾーニング(土地の利用規制)を促進するための「改正都市計画法」、空洞化する中心市街地の再活性化を支援する「中心市街地活性化法」及び「大店立地法」のことである。
 また、これら3法は、地方分権が特徴であり、自治体レベルでまちづくりと整合していくことがうたわれている。

3. 旧大店法との比較

 旧大店法は、法律の目的として「大型店の事業活動の調整による中小小売業の事業活動の機会の適正確保」を図るとされ、商業調整によって開店日、店舗面積、閉店時刻、年間休業日数を調整してきた。これに対して、大店立地法では、法律の目的として「大規模小売店舗の立地に関し、周辺の地域の生活環境の保持のための適正な配慮」を行うとし、駐車場など交通対策、騒音・廃棄物など環境の基準を定め、届出事項とした。
 旧法の商業調整は大店立地法では全くふれられておらず、立地に関しては、改正都市計画法のゾーニングによって、大規模店の立地を規制する地区を特別用途地区として設定することなど、都市計画制度によって対応することにされている。

4. 生活環境の保持には開店後の事後評価が不可欠

 最初に大店立地法の問題点を見ておく。
 大店立地法では、生活環境の保持を図る目安として「大規模小売店舗を設置する者が配慮すべき事項に関する指針」がナショナルスタンダードとして国によって定められた。指針が定めている主な内容は以下の事項である。
 ① 駐車場必要台数の確保など交通に係わる事項
 ② 歩行者の通行の利便の確保
 ③ 廃棄物減量化及びリサイクルについての配慮
 ④ 防災対策への協力
 ⑤ 騒音の発生、廃棄物など周辺地域の生活環境の悪化に対する配慮
 これらの事項は、これまでも、一定規模以上の大型大規模店舗については、自治体の環境保全条例や開発指導要綱等によって、一般の大規模開発と同様の規制が行われてきた。今回大店立地法により1,000㎡以上の店舗面積をもった大規模店舗は届出が義務づけられたので、この面では規制が強まっているとも言える。但し、大店立地法では適正な負担という観点で、対応可能かつ合理的な範囲内で対応を求めるとされている。
 問題は、駐車場台数の確保、周辺道路への交通上の影響、発生騒音など主要な事項が、店舗面積など施設計画に基づく事前予測によって対策がなされることである。開店後は、報告を求めることができる、とされているが、事前予測の結果がどうなっているのかを確認するために、事後評価が必要であろう。事後評価は制度化し、開店後の一定期間の追跡調査を設置者に義務づけるべきだ。

5. 従来の商業調整はどうなるのか

 従来、行われてきた商業調整は、立地やゾーニングの問題として都市計画法に委ねられることになった。しかし、実際に運用するのは、私権の制限や地価の問題が絡むので極めて難しいと予想されている。例えば中小専門店街の育成を図り、大規模店を規制する「中小小売店舗特別用途地区」について大阪府の場合、制定する計画は現在のところ無い。また、現在の都市計画制度では、都市計画マスタープラン等に商業調整を行うための商業計画のようなものを組込むシステムとなっていない。そのため立地に関する調整を行うといっても、郊外に大規模店が立地し中心市街地が衰退するというこれまでの問題はそのまま残されるし、中小小売店舗の衰退は加速される可能性が大きいと言える。
 一般に、欧米の都市計画先進国と比較して、日本の場合用途規制のフィルタ-はきめが粗い。諸外国のような厳しい用途規制やマスタープランによって、開発計画を厳密にチェックしていく制度が、まず前提にならなければ、都市計画ゾーニングによる大規模店舗の立地判断を自治体が行うことは無理である。
 当面、立地問題については、大規模店出店によって直接生活環境に影響を受ける周辺住民や、自治体によって積極的なまちづくりへの取り組みが行われ、その運動の中で「特別用途地区」や「地区計画」など現行制度が活用されていくことになるであろう。

6. 大店立地法の課題

 大規模小売店舗問題は、大規模店舗がこれまで生み出してきた中小小売店舗に対する打撃や周辺環境への不利益を、どのように調整していくかに、かかっている。そのためには、大規模店舗を自治体のまちづくり計画に位置づけ、逆に大規模店舗の出店計画を誘導していくことが必要とされる。誘導を行っていく上で、大店立地法がどの程度積極的な役割を果たせるのかが今後の課題と言える。誘導のやり方は大店立地法などまちづくり3法に加えて、自治体のまちづくりへの総合的な工夫や提案と、何より熱意が必要とされるであろう。
 大店立地法は全体の手続きに透明性をもたせることが前提となっている。そのため、利害関係者だけでなく、誰でも届出書の縦覧ができ、意見を提出できることになっている。また手続きの節目毎に公開することになっている。大規模小売店舗問題を活用したまちづくりを考えていく上で、大店立地法の手続きが透明性を原則にしていることは、住民や自治体にとって有利である。この点は、従来の都市計画制度の非公開性と比べて大店立地法が評価できる点である。
 現時点(00年7月時点)で大店立地法による届出は全国でも20件程度にとどまっている。1年程度は大規模店舗設置者も様子見と言われる。施行後遅くても5年以内には制度見直しが予定されており、いずれにしても大店立地法やまちづくり3法全体の制度の検証が必要となるであろう。

(参考資料)大阪商工会議所街づくり研究会報告書(大阪商工会議所ホームページ掲載)