地域における市民セクター機能と自治労の役割
― 運動と社会のリコンストラクション(再構築)を発信せよ!―

千葉県本部/千葉市職員労働組合・前田 真哉

 

趣  旨

 高齢社会問題を取り上げるまでもなく、市民生活における自治体の役割、住民の望む公的サービスの領域は拡大しているが、限られた税財源や人的資源の中で、公的サービスの充実には限界があり、地域の民間活力やNPO・ボランティア活動との連携は、既に地域福祉活動の重要なリソースとしてなくてはならない存在となっている。
 行政運営に関しても、基本計画や概要策定の初期段階から、市民の声や地域要望をもとに市民参加型の運営が始まっており、都市計画や地域コミュニティの運営に対して、地域住民の企画を行政とスペシャリストがホローアップし、具体化していくという市民主導のスタイルが導入されるなど、行政サイドが市民や地域にあるアイデアやマンパワーを引き出し、事業によっては地域福祉事業そのものの委託管理をNPOに任せる自治体も現れている。
 このような地域自治の流れを生み出してきたNPO・市民運動がその成果として、一昨年NPO法案を成立させた。(*1)
 このことにより、NPO活動の意義が法律により明確にされ、社会福祉を支える特定非営利活動やボランティア活動の継続的展開を促すこととされているが、一方で、税率や寄付金の優遇措置が認められていないため、実質的な効果としてのメリットを考えて法人登録をためらう団体もあり、法律の見直しの声は高まっている。
 経済活動の方法論でこれらの現象を捉えれば、ここにはニーズと供給のミスマッチが起こっている。
 公共福祉の充実を望む消費者としての市民、公共サービスとしてのニーズを事業化したいができない行政自治体、地域福祉活動を担いたいが事業として経済分野に踏み出すことに躊躇するNPO、という構造としてである。
 このように分析したとき、非営利団体としてのNPO活動が、営利を前提とする民間の経済領域の中で市民事業を運営していくための条件整備が欠落していることが大きな問題であると言えるのではないだろうか。
 言うまでもなく、NPO法には収益事業に関する条文が明記されており、「収益を該当事業に充てるため、収益を目的とする事業を行う事ができる(通則第5条)」と記述されてはいるが、営利・利益を目的としないことが条文の中に再三記述されており、「報酬の配分については役員総数の3分の1以下であること(総則定義第2条)」と利益の再配分を規制している。
 このようなボランタリー的位置づけの中で、市場原理を前提とする事業としての採算ベースを維持運営していく事は、NPOの実務的精神的負担をより増加させる結果となっている。
 自治労に期待するのは、日本最大級のスケールメリットを持つNPOとしての自治労活動を、その構造的優位性を基盤にした、地域NPO活動の支援母体(NPOのインキュベーション)としての機能を活動領域として新たに始動させ、全国それぞれの地域の中で、市民セクターの育成および支援事業を担うことである。
 以下に事業の具体的イメージを提起する。

活動骨子

 地域で取り組まれている(またはこれから活動を始めようとしている)NPO・ボランティア活動の団体・個人運営による市民事業を対象に、その活動の維持発展に必要な人的・物的資源の提供と情報の共有化・エンパワーメント、およびコラボレーション環境を提供する。

具体内容

 ① 加盟団体・個人が必要としている情報の集積と提供 資料1参照
 ② 市民事業・地域起業に必要な知識や技能を磨く教育・コンサル機能の提供 資料2参照
 ③ 市民事業・地域起業に必要な資金融資のための基金設立 資料3参照
 ④ 地域市民セクターとしての政策提言をまとめ、内外に情報発信(アピール)する機能 資料4参照

組織機構

 県または都市ごとの行政区単位で「○○市民セクターサポート(仮称)」を立ち上げ、主要参加団体から理事役員を募り、NPO団体としての法人登録を行う。
 全国組織の連合として「市民セクター全国連絡会(仮称)」を結成し、①全国の活動状況の集積と問題分析、②各地の人的・知的資源の交流および紹介、③インターネットによる国内外への活動アピール、④災害対策ボランティアのデータベース事業、⑤国際貢献事業への派遣センター機能を提供する。資料5参照

運営資金

 NPO助成金、行政・企業・諸団体からの寄付及び賛同金、会員個人・団体の会費で運営する。及び市民セクターサポートとしての収益事業(女性起業育成プログラムなど)も行う。また内部に市民事業サポート基金を設立し、行政・企業・個人からの寄付を募る。

会員資格

 地域で取り組まれている(またはこれから活動を始めようとしている)NPO・ボランティア活動の団体・個人を正会員とし、市民セクターサポートの活動に賛同する市民個人を賛助会員とする。賛助会員には、活動内容の定例報告と市民セクターサポートの人的・物的資源をできる限り提供する。

実務運営

 専従職員を最低一人は確保し、主要参加団体(もちろん自治労に期待する)からも応援を要請する。その他は地域および学生ボランティアで運営する。


戦略とメリット

 ① 地方自治研センターがコミュニティーシンクタンク(地域データベース)機能だとするなら、この活動はコミュニティーの人的・資金的蓄積と分配を目的とするコミュニティーインキュベーション(地域支援事業)と位置づけられる。
 ② 主要構成メンバーとして位置づけられる、関係労働団体、生協、市民団体との連携を取り、立ち上げ前の市場占有率を高める。
 ③ この取り組みの優位性として、NPOが発達したアメリカ社会では既に多く存在しており、日本においてもニーズの高まりが始まっていること。(*2)市民・行政の両サイドから求められるニーズである事があげられる。
 ④ 活動が軌道に乗れば、地域社会での政策提言力と信頼をさらに飛躍させる事ができ、市民活動と自治労運動にさらに太いパイプを形成することも可能になる。
 ⑤ 活動の成果が地域事業の掘り起こしと、地域活性化につながり、なおかつ雇用機会の拡大をもたらす。

結 語

 実際に事業化となると、基金設立の可能性など、再考しなくてはならない部分も浮上すると考えられるが、第一にこのような事業がこれからの地域自治に不可欠であるということ、第二に現実的にこのような事業を抱えられ、運営主体としての信頼を得られるのは自治労以外には見当たらないと考えられるからである。確かにそれ自体を公的なサービスとして、税財源で運営する自治体も見られるが、NPOがNPOの活動をどこまでも公的拠出に頼らなければならないというのであれば、地域自治の主体者としてNPOの社会地位が揺らぐと思うのである。
 アメリカ社会がどん底の80年代から這い上がってきたのは、ITを基本とする産業構造の転換といわれているが、それを可能にした背景には、地域のNPO活動の発展があったともいわれている。失敗を恐れずリスクを負いチャレンジできたのは「負けても存在を認める社会」がありその母体がNPO活動であったのだ。勝ったものは、その資産をNPO活動と更なるチャレンジャーに投資する「失敗した者は学んでいる」からだ。
 自治労は半世紀にわたり、自治体と住民の間にあるもの(言い換えるなら権力と抑圧)の形に変えてきたという歴史と、その知のデータベースとして自治研活動がある。21世紀に向かう新たな役割として、それらの資産を未来のために投資していく活動であることを願う。

 


 注(*1) 1995年1月17日早朝に兵庫県を襲ったマグニチュード7.2の大地震は、6,400人余りの尊い命を奪い、20万棟以上の家屋を破壊した。戦後日本最大の天災である。政府・自治体が機能不全に陥る中で、さまざまな草の根NPOがボランティアを組織し、災害救援、都市復興に大きな力を発揮した。この震災を契機に、メディア、政党、行政、そして一般市民のNPOの可能性に対する評価が高まり、NPO制度改革の動きが具体化して、3年後の98年に「特定非営利活動促進法」の成立を見ることになった。「NPOデータブック」山内直人編
 注(*2) MSO(Management Support Organization)と呼びます。また、情報交流やネットワーク作りなどNPO全体の社会的基盤整備を目的としている団体もあり、「インフラストラクチャー・オーガニゼーション」などと呼ばれています。また、タイズセンターと呼ばれ、NPOにとってのインキュベーター(孵化器)として、まだ法人格を持たないNPOを自組織の一部のようにして受け入れ、免税処置など法人格を持つNPOと同様の特典を与えること(いわばNPO法人のひさし貸し)を主な活動として取り組みもあります。