借金返済の負担に苦しむ道内市町村財政
~主な指標で見る市町村財政の特徴 ― 98決算をベースに~

北海道本部/北海道地方自治研究所


 昨年12月3日、北海道地域振興室市町村課は98年度(平成10年度)の道内市町村の普通会計決算の概要を公表し、翌日の各紙は、市町村財政の硬直化が一段と進むと報道した。戦後3回目の地方財政危機といわれる今、道内の市町村財政はどんな状態にあるのか、主な指標を取り上げて概観してみよう。

1. 財政の硬直化-経常収支比率の上昇

 地方財政の危機は、一般に財政の硬直化、それは「経常収支比率」の上昇によって現れる。人件費、公債費、扶助費、繰出金、物件費などの経常的な支出に充てられた地方税、普通交付税など使途が特定されない経常一般財源がどの程度の割合になり、経常一般財源の残余がどの程度あるかをみるもので、自治体財政の弾力性を示す指標として用いられる。従来、自治省の指導では、都道府県で80%、市町村で75%を上回らないことが望ましいとされていたが、現在では多くの市町村がこの比率を上回っている。
 97年度決算では道内市町村の平均が82.4%、札幌市を除いた市の平均が88.0%、町村平均77.7%で、80%以上の市町村が91市町村、そのうち14市町村が90%超えていた。それが、98年度決算での市町村平均は83.9%、札幌市を除いた市が88.3%、町村78.8%といずれも前年度より上昇し、それだけ財政が硬直化したことになる(図1)。また、80%以上が103市町村、そのうち90%以上が16市町村と、97年度より比率の高い自治体が増えた。90%を超えると自治体の財政運営は苦しいといえ、留保財源がそれだけ少なくなるので、政策選択の幅が小さくなり、社会経済環境の変化に対応できなくなる。比率が100%を超えると、経常的な支出を経常的な収入でまかなえず、臨時的な収入をとりあえずの財源として工面していることになり、四苦八苦の財政運営といえる。

2. なぜ経常収支比率は高くなるのか

 経常収支比率の上昇の原因としては、計算の分母となる経常一般財源の伸びが停滞していることもあるが、道内市町村の場合は、借金の返済である公債費負担が比率を上昇させている特徴がある。
 財政が硬直化し、財政の不自由さが増すことは、普通建設事業などの投資的経費に向ける財源が制限され、社会資本整備に遅れがでることがこれまで指摘されてきた。そして、財政硬直化の原因は人件費とされていたが、今日、財政を硬直化させているのは、過去の投資事業の結果である借金返済の公債費負担分の上昇に主要因がある。ハコ物などのハード整備はほぼ一巡し、自治体の仕事は量充足から質充足に転換してきている。建設事業の財源を確保するために経常収支比率の高さをあれこれ言うのは適切ではない。
 問題は、過去の過大な建設事業のつけによる財政の硬直化が、新規事業の展開を困難にし、歳出構造の転換を制約している点である。また、柔軟な財政運営ができなくなるから、とりまく環境変化への対応力が低下し、赤字に転落しやすくなる。近年、人件費の比率は低下傾向もしくは変動のない状況にあり、97年度全道平均30.4%、札幌市を除く市35.7%、町村27.8%が、98年度全道平均30.1%、札幌市を除く市34.4%、町村27.8%となっている。
  借金を返済した公債費の経常収支比率は上昇傾向にある。97年度の全道平均18.8%から98年度19.8%に、同じく札幌市を除いた市が19.5%から20.4%に、町村は20.1%から21.0%に上昇している。これは今まで実施してきた建設事業の結果であるが、比率が20%を超えると借金の返済が財政を圧迫していると見た方がいい。97年度に20%以上は109市町村だったのが、98年度には125市町村に増え、このうち30%以上は7市町村ある。このような自治体は後述する公債費負担比率の割合も高く、30%以上の自治体は借金返済がかなりの重荷になっている。町村では経常収支比率の公債費が人件費を上回っているところもある。

3. 公債費負担比率の上昇

 公債費負担比率は、借金の返済である地方債の元利償還に充てた一般財源の一般財源総額に対する割合をみる指標である。公債費は必ず支出しなければならない義務的経費であり、高くなりすぎると財政硬直化の原因になる。経験的に公債費負担比率が15%を超えると警戒ラインで、20%を超えると財政運営は厳しいとされている。
 図2では95年度決算から98年度決算までの公債費負担比率の段階別市町村数を示している。図に明らかなように、15%未満の市町村が減少し、20%以上の市町村が一貫して増加しているのがわかる。97年度に15%以上が174市町村、うち20%以上が66市町村だったのが、98年度では15%以上181市町村、うち20%以上78市町村となっている。半数近くの市町村が警戒ラインを超え、三割強が借金返済で財政運営が厳しくなっていることになる。また、経常収支比率が80%以上で公債費負担比率20%以上が97年度には28市町村だったのが、98年度は44市町村に増えている。これらの自治体は財政の硬直化が進み、借金の返済で財政運営が窮屈だといえる。公債費分の高い自治体は、建設事業の選択的抑制や地方債の繰り上げ償還、減債基金の積み立ての努力が求められる。
 これまでは「公債費比率」を用いて起債(地方債の発行)が制限され、この比率が20%を超えると一般単独事業債などの起債が制限されてきたが、現在は「起債制限比率(地方債許可制限比率)」の過去3ヵ年の平均により起債が制限されている。
 起債制限比率は77年度(昭和52年度)の地方債許可方針から、公債費比率の算定方式に改正が加えられて比率を計算している。これは、2回目の財政危機といわれた当時、地方債の増発に対応して起債の制限を緩和することと、他方、景気対策、地方財源不足対策として地方債の増発が行われ、元利償還金が増加したなどの理由で、あらたな起債制限の基準が必要となり、公債費比率より数値が低くなる起債制限比率を用いることになった。起債制限比率が15%を超えると警戒ラインといわれ、98年度に15%を超えているのは4市町村ある。
 ところで、起債許可制限比率は公債費負担比率より数値は低くなるが、比率が低くなるからといって、地方債の元利償還費が減るわけではない。正味の借金返済は公債負担比率であり、起債制限比率が12.9%であっても、公債費負担比率が25.4%であれば、一般財源の25%は元利償還費でなくなり、使えるのは75%ということになる。

4. 後年度負担が重荷に

 過去に発行した地方債残高の標準財政規模に対する割合を「地方債残高比率」といい、後年度の負担の大きさをみる指標である。この比率が1.5(150%)を超えると後年度の財政運営が窮屈になり、2.0(200%)を超えると公債費の重圧が厳しく政策選択の幅が制約されると考えた方がよい。97年度に2.0を超えているのは97市町村、そのうち3.0以上が10市町村となっていたのが、98年度は2.0以上が125市町村、うち3.0以上は21市町村と増えている。標準財政規模自体が拡大していないので残高比率が高まる要素があるにしても、3.0を超えると後年度の借金返済がかなりの負担といえるだろう。減債基金などの積立金があれば何とかしのげるだろうが、地方債の繰り上げ償還や借り換えの検討、予定されている建設事業の見直しが必要になってくる。
 地方債残高、公債費が膨らむ背景には、景気対策としての公共事業の追加や市町村単独事業、財源対策債などの元利償還費を交付税で措置する、つまり交付税の増額要因となるよう設計されているものがあるため、建設事業を行うための地方債をかなり発行してきた面がある。しかし、建設事業の歯止めを失うと公債費が急増することになる。財源対策債などによる事業を実施しないと一般財源に余裕をもたせられないという制度上の制約があるが、起債充当率が高いから、償還費は交付税で措置されるからと、建設事業を拡大してきた面がある。

5. 財政分析と起債の制限

 市町村財政が苦しくなり、行政当局が職員に対して、赤字再建団体になってしまうから人事委員会勧告は凍結しなければならない、昇給も延伸したいと言うケースが増えてきている。本当に赤字再建団体になるのだろうか(98年度決算で実質収支が赤字になった市町村はない)。地方財政の仕組みは財政用語自体が外国語のようでなかなか分からないため、職員そして住民もその判断に迷っている。そこで自治体財政分析が必要になる。基本的な財政指標を用いて財政の診断を行い、それを一定の基準に従って評価し、財政運営の問題点を解明しなければ前に進まない。
 自治体はこの間、地方債依存による事業量の拡大を続けてきたが、借金の償還に息切れをしている。将来の新たな事業、財政負担に耐えられるか否かは、市町村自らが証明していかなければならない。そのためにも財政運営の指針となる中期財政計画の作成が必要である。市町村の財政はいまどのような状況にあるか財政分析を通して診断し、将来の姿はどうなるかを中期財政計画を用いて議論することが必要である。当然、中期財政計画は公表し、財政状況は変化するのだから中期財政計画も半年ごとに見直すことが必要である。
 借金残高が多くなっている現在、中期財政計画に起債総額を設定し、地方債の発行をコントロールすることが必要だ。中期財政計画で毎年度の起債総額を決めているのが大分県竹田市の例で、2000年度の普通建設事業の起債制限枠は7億円、当該年度の経常一般財源の約12%である。このように制限枠を設けるのも借金と建設事業をコントロールする手法の一つである。
 住民参加の観点から自治体財政運営、事業の抑制を考えるのに、ニセコ町が全世帯に配布している予算説明書「もっと知りたい、ことしの仕事」が参考になる。予備知識がなければ分からない予算書を、図・写真を用いて文書も分かりやすく財政情報を加工した施策概要で、ニセコ町を参考にして導入する町村が増えてきている。聞くところによると、ニセコ町ではこの予算書を毎年配布するようになって、事業の住民説明会の時に住民の中から事業を実施して町の財政は大丈夫か、まだやらなくていいのではないか、といった声が出てくるようになったそうである。住民自らが町の財政、事業のあり方を考えるようになった例として参考になる。
 後年度の借金負担を考えれば、事業は選択的、抑制的にならざるを得ない。議会も何が必要な事業かを議論することが必要だし、そこが問われる。そのためには、財政情報を分かりやすく加工して公開することが前提となる。分かりやすい財政情報がなければ議論も住民参加も不可能だ。歳出を一律にカットする一律シーリング方式は、必要な事業であっても一律にカットすることから、その限界が指摘されている。試行段階にある政策評価システムの構築も必要だ。労働組合も継続的な財政分析を通じた財政情報を蓄積して政策選択の整合性をチェックすることが求められる。税財政の分権をすすめる第二次分権改革を睨んで、それぞれの市町村でこうした行動が求められている。

6. 財政危機突破道民運動と財政分析の取り組み

 まず、地方財政危機とたたかう体制として、道本部に「地方財政危機突破・地方分権・反合理化特別対策本部(地財対策本部)」を設置した。この機構は、地方財政危機を口実とした人件費削減などの合理化対策と自治体の行財政改革を連動させて取り組むためのものである。また、連合北海道が、地方税財源改革を目差して「地方自治体財政問題対策委員会」を立ちあげた。働きかけたのはいうまでもなく、自治労と教職員組合であったが、連合が地方財政問題を道民運動として取り組んだことは評価されていい。この取り組みは、公開シンポジウム「どうする地方財政危機、改革への方向」を皮切りに、全道4コースに分かれたキャラバン行動、自治体首長への要請、市町村議会決議の採択、地方6団体主催の道民大会及び中央省庁・各党要請行動など短期間で多くの動員と盛り上りを見せ、成功したといえる。
 さて、こうした運動の基礎的な取り組みとして、自治体財政分析が位置付けられるが、道本部レベルでは方針はあるものの、実際は年1回の全道規模の講座開催にとどまっていた。このため、今年は地本・単組レベルで、財政分析を実践できる取り組みを重視してきた。独自に開催することが難しいため、地本別の春闘討論集会に組み込んだ。今年は14地本中8地本で各単組の「財政診断基本表」ができあがった。事前に決算カードなどから必要なデータを「診断表」に記入してもらって、当日に、指標別の分析や検討を実施した。分析には、専門性も伴うので、北海道地方自治研究所や地方財政を専門とする学者の協力をいただいた。
 こうした作業を通じて、見えてきたものは、財政硬直化の原因が人件費ではなく、公債費であり、各自治体の行財政運営の問題点や公共事業をはじめとした政策選択の有効性などであった。しかし、一方では「問題はわかった。では、どうするのか」という声に代表されるように財源不足対策として提案される賃金削減提案にたいして単組として有効な代案を提示できないジレンマも生じている。引き続き、自治体改革の重要な手法である自治体財政分析が各単組に定着していくよう取り組んでいくとともに、財政危機を克服していくための具体案の提示が求められている。

図3

第1 市町村の財政状況(単位:%)