産業廃棄物に係る税(試案)の概要と課題

三重県本部/三重県職員労働組合・税務協議会

 

1. はじめに

 最近、地方自治体において、独自の新税創設や超過課税などを検討中のところが全国的に広がってきている。
 これは、地方財政が慢性的な歳入低下と財政赤字に悩まされており、財政再建が緊急の課題とされるようになったこと、そして平成12年4月に施行された地方分権一括推進法の中で、税収の使途を限定した地方税を自治体が独自に設けられる「法定外目的税」制度が創設されたことが大きな要因と考えられる。
 そうしたなか、三重県では全国で初めての「産業廃棄物に係る税」(仮称)を創設する方向で、現在検討を行っている。
 これは、平成11年度に30歳以下の県税職員で構成される「県税若手研究グループ」が発足し、「環境と地方税」をテーマに討議することとなったことが原点となっている。
 平成11年9月3日に東京事務所で行われた、千葉大の倉阪助教授による講演「地方における環境税の可能性について」にヒントを得たメンバー達は、産業廃棄物について法定外目的税として取り上げられないかという発想を生み出し、この産業廃棄物税の創設一本に絞って検討していくことになった。
 そして、出来上がった最初の試案は、知事をはじめとした県三役と県議会に報告され、報道でも大きく取り上げられ話題をよんだ。
 その後、この創造的作業は、平成12年4月からは主に県庁税務政策課に引き継がれることになり、環境部職員および学識経験者にも参加を願い検討を重ねてきた。
 現時点では4つの案としてまとめ、8月1日の県議会総務企画常任委員会で報告が行われたところである。
 それでは以下で、その試案の概要について述べていきたい。

2. 試案の概要

(1) 基本理念
  この産業廃棄物に係る税を創設する基本理念は、資源循環型社会の構築にある。
  環境に負荷を与える産業廃棄物の埋立等の処分に着目、課税し、その税収をリサイクル推進・ごみ減量化推進等の環境施策に使用することにより、企業の経済活動を産業廃棄物発生抑制リサイクル化に向かわせるインセンティブとするのが目的である。
  また、税収の使途は産業廃棄物処理施設の設置に対する支援、産業廃棄物のリサイクル化、減量化のための施設整備支援等に充当することを考えている。

(2) 背 景
  製造物などは、その生産・流通・販売・消費というそれぞれの段階で、廃棄物を発生させる。それぞれの段階で排出された廃棄物は、ヤードと呼ばれる貯留場に集められ、収集運搬業者によって中間処理業者に運ばれ、あるいはリサイクル業者に運ばれる。リサイクル業者に運ばれたものは、再び商品化されて流通・販売・消費という過程に入っていく。中間処理業者に渡された廃棄物は、中間処理を施された後再びリサイクル業者に渡されたり、埋立などの最終処分せざるをえないものは、最終処分業者に引き渡され処分されていく。これが廃棄物処理の大筋の流れである。
  廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という)のたてまえでは産業廃棄物は、「排出した企業の責任」で処分されるということになっている。しかし、この廃掃法では、企業が排出した産業廃棄物を産業廃棄物処理の許可を受けた業者に委託してもよいということになっているため、企業の大部分が産業廃棄物処理業者に対し中間処理や最終処分までも委託するという形を取っている。こうして排出事業者である企業は第三者である業者と委託契約を結ぶことにより、産業廃棄物の収集、運搬、及び処分を行っていくのである。
  このときに廃棄物が最終処分されるまでの流れを明らかにしていくために、マニフェスト制度(産業廃棄物管理票制度)が導入されたのであるが、この制度は現在住民に公開されていないために、どこまで排出責任の所在の追跡と立証が出来るのか、未知数である。(三重県の試案ではこの制度が信頼できるという前提に立っている)
  日本の廃棄物・リサイクル問題の根源は、大量生産・大量消費・大量廃棄という経済活動によって、質と量の両方により環境への負荷が高まってきていることにある。この一方通行型の経済システムが、さまざまな環境負荷を自然界に与えてきているのである。とくに、企業が排出する産業廃棄物や家庭などから排出する一般廃棄物に対する最終処分場が極端に不足している現状にある。
  そういったなか、三重県では、交通の便が比較的良いということに加え、安価で広大な土地を有しているという点から近隣府県からの産業廃棄物の搬入量が多く、「産廃銀座」という不名誉な名を冠されている。
  その搬入量は、平成8年度で年間約105万トンもあるが、県外への流出量はといえば約21万トンであり、約84万トンが搬入超過となっている。
  また、一部の排出事業者や無許可業者等による不法投棄は後を絶たず、新聞の紙面をよく賑わせている。この不法投棄された産業廃棄物は、土壌汚染や水質汚染を引き起こす可能性を秘めているが、その対策に有効な手段が確立されていない。
  産業廃棄物処理業者の中には、処理能力以上の処理、処理区分の異なる処理、あるいは野焼き等の不適正処理を行い地域環境を悪化させているケースも少なくない。
  こうした状況により、県内の処理施設周辺の県民を中心に不安感や不公平感が高まっており、処分場立地等をめぐり地域紛争も頻発している。
  これらトラブルの解決は、行政にとって大きな課題になっている。
  今回の産業廃棄物に係る税を導入した場合の効果により、これら環境リスクの軽減や産業廃棄物排出量削減のインセンティブに期待がもてる。

(3) 課税内容

(4) 産業廃棄物に係る税の効果
  産業廃棄物に係る税を創設することによる効果は、主に次の5点があげられる。
 ① 企業の廃棄物排出量削減へのインセンティブ効果が期待できる。
  ● 排出量が多いほど、課税負担が重くなるため、企業はその負担を軽減するため排出量削減に努力すると考えられる。
 ② 環境先進県三重をアピールするアナウンス効果が期待できる。
  ● 三重県の環境に対する取り組みの姿勢を企業・県民に明確に示すことができる。
 ③ 環境リスクの軽減が図られる。
  ● 産業廃棄物の処理をめぐり、立地紛争や環境汚染が心配されるが、この経済的手法により産業廃棄物そのものの量を抑制し、これらの環境リスクを軽減することができると考えられる。
 ④ 空間資源の確保がされる。
  ● 最終処分場というのは限りある空間資源であり、全体的な処分量が削減されれば、この空間資源である最終処分場の有効利用ができる。
 ⑤ 環境施策推進のための財源の確保がされる。
  ● 産業廃棄物処理施設の設置支援やリサイクル推進・ごみ減量化等の環境施策を進めるための財源が確保できる。

3. 導入をめぐる課題

 産業廃棄物に係る税を創設するにあたり懸念される問題が次の6点ほど考えられる。

(1) 自治省の同意要件について
 ● 地方税法第733条の規定によると、道府県または市町村が法定外目的税を新設しようとする場合には、その協議の申し出を受けた自治大臣は次の3点の事由のいずれかがあると認める場合を除き、これに同意しなければならないとある。
 ① 国税または他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重となること。
  ● 産業廃棄物に係る税(試案)は、国税や他の地方税とは課税標準を異なくする。
  ● 廃棄物埋立手数料などと比較しても著しく均衡を失するとはいえず、住民に著しく過重を与えるとはいえない。
 ② 地方団体間における物の流通に重大な障害を与えること。
  ● 産業廃棄物に着目した税であり、地方団体の間の物の流通に関係はしない。
  ● 仮にこの場合の「物」に産業廃棄物が含まれるとしても、極端に高額の税額でなければ「重大な障害」に相当するような事態にはならない。
 ③ 国の経済政策に照らして適当でないこと。
  ● 国の環境基本計画をはじめとする産業廃棄物・リサイクルに関する施策の方向と産業廃棄物に係る税の目指す方向は合致していると考えられる。
  このように以上の3点については、いずれも問題はないと考えられる。

(2) 県内産業への影響
 ● 課税額が収益にそれほどの影響を及ぼさない程度の額であれば、産業に大きな悪影響を及ぼすことはないと考えられる。また、その税収が廃棄物削減のための企業の投資や技術導入・開発の支援に使われるのであれば、増税による産業へのマイナス効果はある程度うち消されるものと考えられる。
 ● 業種による不均衡をどのように扱うか、一律課税でよいのか、廃棄物の種類で分けるべきかなど検討の余地はある。

(3) 経営の圧迫要因
 ● 県内産業に対する影響は小さくても、個々の企業をみると、今日のような不況に陥れば、負担感が増し、経営の圧迫要因となることが考えられる。

(4) 不法投棄の増加
 ● この税が創設された場合、不法投棄で対応しようとする企業がでてくる可能性があるが、これには廃掃法等の罰則規定の適用により対応すべきと考えられる。

(5) 中間処理業者の税負担
 ● 現行の廃掃法では、焼却等の中間処理業者が焼却灰等を埋立処分業者に委託する場合には、中間処理業者が排出事業者となり、今回の案のなかで納税義務や特別徴収義務が生じることになる。この場合に、中間処理業者が委託する焼却灰等がどの企業の分であるかという特定が難しく、その結果、うまく価格転嫁が図れなくなり課税負担だけが重くのしかかるのではないかという懸念がある。
 ● 中間処理について技術向上の余地があるため、何らかの支援といったものを用意する必要がある。

(6) 産業廃棄物の県外への流出
 ● 北勢地域や伊賀地域といった県境に近い処分場については、愛知県、岐阜県、滋賀県、奈良県といった地域にまで影響がでる可能性があるが、それほど遠くまで県境を越えて廃棄物が移動することは少ないと予想される。

4. 産業廃棄物に係る税のこれから

 産業廃棄物に係る税を創設するまでには、多くの課題が残っている。
 県議会常任委員会からも試案に対して評価するといった声がある一方で、「新税は県内産業を疲弊させる」「企業誘致に支障がでる」「一般財源の中で産廃抑制の施策を充実させるべき」といった慎重な対応を求める意見も出された。
 この4つの案にしても、徴税コストや税負担の公平性などの点で一長一短があり、県でも優先順位は付けていない。
 新税を創設するということは、県民に新たな税負担を強いることであり、県民の十分な理解を得てからでないと無理だと思われる。
 三重県の北川知事は、今回の試案について県民の合意を得られるよう、情報公開を原則に進めていくよう職員に指示をだしている。
 そこで、県民からの声を広く聴くという目的で県民懇談会の開催を予定したり、インターネットを活用したホームページの開設を行い、試案の概要について紹介を行ったり、メールで意見を受け付けたりしている。
 こうして、各方面の意見を聞きながら、9月の県議会前後に案を絞りこみ、12月議会に上程し、平成13年度春の施行を目指している。
 三重県における環境方針の基本理念は、「環境の世紀」と認識する21世紀の地球市民の一員として、環境に配慮した経済社会活動やライフスタイルの構築に向け、県民・事業者・行政が協働して、環境先進県づくりの県民運動を進めるとあり、またその基本方針では、三重県庁は、自らが行う事務事業活動が直接もしくは間接的に環境に及ぼす影響を継続的に改善していくため積極的に行動するとある。
 今回の試案は三重県のこのような環境に対する姿勢と一致しており、資源循環型社会の構築を目指すうえでのひとつの方策として活用できればと考えられる。
 また、地方分権一括法が施行され、各自治体においてその政策立案能力の力量が試されることとなったが、今回の試案が地方自治体職員主導で進められたということは、取りも直さず地方分権推進の一翼を担ったものであったと確信する。

参考文献 
 ◎『地方分権事始め』田島 義介著(岩波新書)
 ◎『環境税とは何か』石  弘光著(岩波新書)
 ◎『産業廃棄物』高杉 晋吾著(岩波新書)
 ◎『環境法入門』畠山 武道、大塚 直、北村 喜宣共著(日経文庫)
 ◎『環境経済入門』三橋 規宏著(日経文庫)