法人事業税の外形課税化をめぐって

大阪府本部/自治労大阪府職員労働組合・税務支部

 

1. はじめに

 本年2月、東京都は大手銀行を対象とする法人事業税の外形課税案を提起した。以降、この提案は都議会においても圧倒的な支持を受け、条例案が可決成立した。石原慎太郎知事の突然の会見は極めてセンセーショナルなものであり、マスコミでも大々的に取り上げられ、その後は他の自治体においても地方税制・新税ブームとも言うべき状況を生みだした。これらの動きの背景は地方自治体の財政難にあることは間違いなく、中でも都市を抱える都道府県の財政はまさに深刻な状況に陥っている。
 地方分権推進の時代にあって、社会システムの変革が進められようとしている今日、地方税制にも大きな変革が求められている。

2. 法人事業税の外形課税導入について

 都道府県財政の脆弱性は税収の安定性の欠如にある。すなわち市町村が固定資産税という景気の変動にあまり左右されない安定した税目を基幹税として持っているのに対して、道府県税の場合好不況に左右される法人事業税と法人住民税が税収の中心になっていることに起因している。バブル崩壊後の都道府県の財政危機はまさにこの問題によって引き起こされた。法人事業税の外形課税化問題は今に始まったものではなく、これまで不況に陥るたびに提唱されてきた。(資料参照)
 遅々として進まないこの課題に業を煮やして登場したのが今回の東京都の課税案であった。現行地方税法においては、都道府県の条例により、資本金額、売上金額、社屋の床面積もしくは価格、土地の地積もしくは価格、従業員数等を課税標準(外形標準課税)とし、又は所得と併せ用いることが出来るとされている。(地方税法72条の19)しかし実態は、電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害保険業にあっては各事業年度の収入金額と一応外形課税の体裁をとるが、その他の業種は法人税と同じく「各事業年度の所得および清算所得」が課税標準となっている。従って法人全体の65%とされる赤字法人は、法人事業税を納めていない実態がある。
 唯一の交付税不交付団体であり、特別区における固定資産税の減免も同時に提案するなど、まさに東京都でしか成し得なかった今回の「銀行税」ともいうべきこの税制については、税制としては乱暴な提案であるが、政治的には都道府県の財政が危機的な状況であることを十分にアピールし、世論を地方財政に向けさせる大きな効果を発揮した。今後は他の業種も含めた法人事業税の外形課税化をこの機に実現するべきであり、以下、本来的な意味での導入の意義と解決すべき課題について述べる。

3. 法人事業税の外形課税化の意義

(1) 税の性格の明確化(応益税としての事業税)と地方分権推進
  そもそも、事業税は、事業という収益活動を行っている事実に着目して、そこに担税力を見出して課税しようとする「応益税」として位置づけられている。即ち、企業が事業を行う場合、様々な公共サービスを利用し、便益を受けて、収益活動を行っている。このことは、その企業が赤字であるかどうかは関係がない。これに対応する課税標準は、所得ではなく事業活動量を表す外形標準である。課税標準が所得ではなく外形標準となると、景気変動に左右されにくく、税収の安定化により、都道府県行政の継続性・安定性に資する。また、赤字法人にも課税されることとなり、薄く広い税負担により、所得に対する税負担の軽減につながる。

(2) 地方税制の国税への従属性・依存体質の脱皮 
  国税の法人税の付加税的性格である事業税は、課税標準を異にすることにより、国税法人税の影響を遮断できる。(移転価格税制における「対応的調整」による事業税の還付といった法人税の非課税特別措置等による受動的影響を遮断できる)
  また外形課税化することにより、税財源の移譲の促進となる。これは、事業税額は法人税の所得計算において損金に算入される(法人税法第38条)ため、事業税の性格からすると当然ではあるが、事業税額の増額は国・法人税の引き下げにつながる。

4. 導入にあたって検討すべき課題

 まず問題となるのは、現行と比較しての業種別の税負担変動である。小売業、サービス業、運輸・通信といった都心に位置し、利潤に比べ従業員数が多く必要とされる業種は税負担増となることも予想される。これについては、何らかの激変緩和の経過措置を採らざるを得ないし、所得と外形標準の併用とする全国知事会案も激変緩和を意識しているとも考えられる。
 次に赤字企業にも税負担が生じることに伴う負担能力との関係、「所得なき課税」という批判については、事業税の課税根拠の明確化が最も重要である。ただ応益課税というだけではなかなか理解も得られないかもしれないし、これまで企業が独自で実施してきた企業内福利厚生活動、例を挙げれば社宅や保養所等を自治体が提供するなど、企業の活動支援のための新たな視点での税の使い道も模索する必要もあると思われる。
 また、中小企業の取り扱いだが、事業税の性格からいえば当然中小法人も対象とするべきであるが、これは政策判断の問題である。ちなみに1977年に全国知事会が提起した導入案では資本金5億円以上の法人を対象としていた。法人住民税の均等割が資本金課税という形態を採っていることから応分の負担はあるという見方もできるだろう。
 一方、徴税する自治体側としての問題は、事業活動価値の補足力の問題である。例えば、都道府県は源泉所得税の資料等を持っていないため支払賃金の捕捉等、どうしても国税等の協力なしに課税することができない。これについては、自動車税の課税にあたり運輸省から陸運局の自動車登録データを磁気テープでもらっているように、何らかの方策が必要であるし、検討が進められている納税者番号制の課題等ともリンクする課題である。

5. むすびに代えて

 本稿執筆にあたり、自治労都道府県税務職員連絡協議会の幹事会や総会において意見交換をしたが、結論としては、すでに事業税の外形課税化問題の議論はほぼ出尽くされており、後は導入のタイミングと徴税技術の課題が残っている、という認識になった。ただ、そこでの意見として、新税の検討等精力的に進めることは重要だが、昨今軽油引取税の脱税や計画的不納入等が多発している、そういう地方税制の欠陥の是正等も必要であるとの声も出された。
 各自治体が財政危機に陥った今日、税務職場への税収確保への期待は大きく、税務職員の仕事の専門性、困難性は日々増してきている。地方財政危機から脱出し、自治体による新たな機能強化を達成するための地方分権を実現・定着させるためには自治体に充分にして安定的な財源が必要である。その意味では法人事業税の外形課税化だけでは不十分であり、国の基幹的税目である所得税や消費税の地方への移譲も合わせて切望する。


(資 料)

法人事業税の沿革と変遷、外形課税化の動き

【沿革と変遷】

● 明治11年

 地方税規則により、府県税としての営業税が業種別定額で創設。

● 明治21年

 市制・町村制が制定され、営業税の附加税が市町村税として導入。

● 明治29年

 新たに国税としての営業税が、物品販売業・銀行業等主要24業種(翌年には25業種)を対象に、課税標準を外形基準(売上金額、建物賃貸価格、従業員数等)として導入され、これに対する附加税が府県税・市町村税として導入された。一方、従来の府県税としての営業税は、国税の営業税の対象とされた主要業種を除いた零細企業に対する税に。(課税標準は「各々定める」とされた。)

● 大正15年

 国税の営業税は課税標準を純益に変更され、名称も営業収益税に。府県税としての営業税の課税標準には純益、外形標準(収入金額、従業者数等)又は定額。

● 昭和15年

 国税・地方税を通ずる根本的な税制改革により、国税の営業収益税と地方税の営業税が統合されて、新たに国で課する営業税になり、課税標準はすべて純益とされ、その収入額はすべて還付税として徴収地の府県に還付されることに。

● 昭和22年

 地方財政の自主化を目途とした地方税制の改正により、営業税は道府県の独立税に。

● 昭和23年

 名称を事業税と改め、新たに個人の農林業、水産業等の産業を課税対象に。課税標準は原則として所得となったが、電気・ガス供給業および運送業に対しては、外形標準(収入金額)となった。同時に、特別所得税を新設し、医師・弁護士等の自由業に対し課税。

● 昭和25年

 国税・地方税を通ずる根本的な税制改革(シャウプ税制)に際し、事業税及び特別所得税に代え、道府県税の主柱として付加価値税を創設。しかし、これを直ちに実施することが困難なため、暫定的に従来の事業税及び特別所得税を課すとされた。

● 昭和29年

 付加価値税は実施されることのないまま廃止され、これに代えて従来の事業税及び特別所得税を統合して現行の事業税に。生命保険事業を外形標準(収入額)の対象に。運送業に対する外形標準の適用は、地方鉄道事業・軌道事業のみに縮小。

● 昭和30年

 損害保険事業が外形標準(収入額)の対象に。

● 昭和32年

 運送業に対する外形標準の適用を廃止。

【これまでの事業税の外形課税に関する議論】

 ● シャウプ勧告
  「付加価値税」については、第1次勧告(昭和24年)では「控除法の消費型付加価値」を課税標準とした「控除式」が採用され、政府がこれに基づく法案を国会に提出したものの審議未了・廃案。第2次勧告(昭和25年)では、「控除式」のほかに「加算法の所得型付加価値」による「加算式」も選択できる等の変更を行い、昭和26年法案を成立させたものの、実施されることなく昭和29年廃止。

 ● 政府税調等での答申、議論

  昭和39年

 加算法の付加価値額。所得金額と50%ずつで算定する方法も。 

  昭和43年

 加算法の付加価値額と所得金額。(税負担の激変緩和のために3年程度の経過措置、欠損金の5年間控除等の具体的提案も。)

  昭和46年

 付加価値。(当時検討されていた一般売上税と関連で、EEC型付加価値税が導入されたとしても競合しないとの結論。)

  昭和50年

 経済の現状にかんがみ時期尚早。(→外形課税化への意欲の後退も)

  昭和52年

 一般消費税との関連性を考慮しつつ外形標準化問題を検討すべき。

  昭和61年

 新消費税の一部を地方の間接税とすれば地方の財源充実問題は解決。

  昭和63年

 昭和61年の提案は、制度の簡素性、納税者の事務負担等の問題があり、地方財源の充実の要として事業税の外形標準問題を検討すべき。

  平成2年

 加算法による付加価値。(「今後の事業税のあり方等に関する研究会・報告」)

  平成5年

 応益課税が事業税の性格、税収の安定及び赤字法人課税のために必要である点を確認し引き続き外形標準化を検討。

  平成11年

 景気の状況等を踏まえつつ、できるだけ早期に導入が望ましい。

 ● 全国知事会、各都道府県の動き

  昭和51年

 東京都「新財源構想研究会」
 資本金1億円以上の法人を対象に資本金額と所得の併用による課税を提案。

  昭和52年

 全国知事会「法人事業税外形課税実施問題研究会」提言
 事業税の税制改正が行われない場合は「外形課税の特例規定」(地方税法第72条の19)に依拠して、都道府県の条例で、資本金5億円以上の法人(製造業のみ)について、所得と「加算法の所得型付加価値」を併用で課税標準とする。

  平成12年

 東京都、大阪府
 資金残高5兆円以上の大手銀行等を対象に業務粗利益を課税標準に。(地方税法第72条の19)
 条例改正により実施。

   同

 全国知事会「地方制度調査委員会」
 企業活動は広範な地域で展開されるものであり、全国的な制度としての外形課税を。課税標準は事業活動価値が望ましく、所得との併用で。(全国知事会として政府に要望書提出)