財政「解体新書」 なかつ版

大分県本部/中津市職員労働組合・中津下毛地方自治研究センター

 

 中津市の財政状況を理解していただくために、 この 「財政 『解体新書』」 をまとめました。 財政を市民共有のものにするためのよすがとなれば幸いです。 

1. 財政分析の視座

(1) 財政は政治を写す鏡
 今や国・地方の債務残高は合計で645兆円(2000年度末)に達するものとみられ、これはわが国GDPの約130%の規模、国民1人当たりで510万円の債務負担となります。うち地方自治体の債務残高は187兆円です。なぜこれほど巨額の債務が累積したのでしょうか。91年にバブルが崩壊、不況が長期化する中で国・地方ともに税収不足が深刻となりました。国は景気対策のため財政出動を積極的に行い、あわせて税収減をおぎなうため大量の国債発行を毎年余儀なくされてきました。地方自治体も国の経済・財政政策に連動して地方債が急増したのです。
 97年に橋本内閣は財政構造改革法を成立させ、財政再建をはかろうとしましたが、後継の小渕内閣はこれをタナ上げし、日本発の世界恐慌を回避せんとして自ら"世界一の借金王"と自嘲するまでの借金(小渕内閣で101兆円)を積み上げました。いまひとつ見落としてはならないのは、日米構造協議にもとづいていわばアメリカから押しつけられた430兆円規模の公共投資10ヵ年計画が91年からはじまったことです。この計画は94年には630兆円にふくらみました。
 かくして国債・地方債の乱発で日本列島は公共事業まみれとなりましたが、その中で地方自治体は起債による地方単独事業をもって国の景気対策に動員されたのです。
 財政は政治や行政を写し出す鏡とも言えますが、中津市財政の分析結果にも経済不況に翻弄されたここ10年の政治の動向がリアルに反映しています。逆に言えば、首長の施策の背景にある政治の流れを押えてみないと財政分析において全体の概観はつかめないということです。

(2) 首長の財政占有主義に終止符を
 行政が施策・事業を行うためのツールは法令と財政です。一般論としていえばこれまで官治・集権になじんできた地方自治体の「お役所」はいわば住民統治の城でしたが、法令は住民を隔てる壁であり、財政は厚い秘匿主義に覆われてきました。とくに財政は首長の占有物とされてきたと言っても過言ではありません。法令・条例や財務諸表の分かりにくさひとつをとってみても、 行財政の秘匿、 占有意識からもたらされたものと言えましょう。 また、 これまで行政優位の中で、 予算・決算に対する議会のチェック機能が必ずしも十分でなかったため、 首長の財政占有を許してきました。 
 しかし、 今や地方分権の時代となり、 自己決定・自己責任の自治を行政・議会・住民が協同して担わなければならない時です。 したがって首長の財政占有主義に風穴をあけ、 財政デスクの抽出からすべての財務資料を公開させることが先決です。 そして財政を裸にし、 住民に実態を明らかにすることが、 自治研財政分析の任務といえます。 

(3) 首長の財政から住民の財政へ
 自治体の財政は、 これまでの首長占有から住民共有のものへと切り替えていかねばなりません。 そのためには行政サイドの徹底した財政公開が求められます。 分かり易い財務諸表の作成や財政広報の工夫、 行政評価制度も必要となってきます。 予算編成過程の公開や、 議会における決算審議の重視、 監査制度の強化も大切です。 財政が破綻すればその尻ぬぐいは結局住民に及ぶのですから、 行政まかせ、 議会まかせの 「おまかせ自治」 では住民自らが泣くことになりましょう。 
 住民の立場に立った財政分析と財政情報の発信が、 自治研の財政分析活動に求められているのです。 

2. 中津市の財政規模

 まず決算カードにみる98年度の市の人口は67,828人 (住民基本台帳)、 面積は55.54km、 職員数 (一般職員等) は522名です。 市の財政規模は、 98年度歳出決算額で別表(1)の通り総額では約378億2,700万円、 うち一般会計は約233億5,900万円、 特別会計の合計では約144億6,900万円となっています。 ただし会計相互間の重複分 (繰入、 繰出) があるので、 それを差引した純歳出の総額は約361億800万円で別表(1)の総額より約17億2,000万円ほど少ない額となります。 
 また市の会計にはこのほか公営企業会計としての水道事業会計、 ガス事業会計や、 競馬組合事業会計、 土地開発公社事業会計があります。 また基金として設定されたものの中でも土地開発基金のように会計としての性格をもったものもあります。 しかしここでは、 水道事業会計、 ガス事業会計、 競馬事業会計について財政規模をあげておきます。 
 別表(2)でみるように水道事業会計で約15億500万円、 ガス事業会計で約5億4,900万円、 合計で約20億5,400万円の財政規模です。 別表(3)の競馬組合事業会計は、 馬券の売上げによる主な歳入が約42億5,900万円、 歳出が約58億6,300万円で差引きで赤字額が約16億400万円の多額に上っています。

3. 決算収支の状況

 一般会計収支の4ヵ年 (95~98年度) の推移を別表(4)でみてみましょう。 財政が基本的に黒字か赤字かをみる実質収支は、 4年間いずれも黒字です。 しかし、 単年度収支の95~96年度の赤字、 実質単年度収支の95~97年度の赤字の中身は前年度の実質収支を下廻ったことや、 基金とりくずしによる穴埋めを意味しており、 財政のやりくりが窮屈だったことをものがたっています。 
 98年度はたまたま交付税の著増 (前年度対比で約7億1,000万円の伸び) があり、 それで収支がきわめて改善されました。

4. 借金(市債及び借入金)残高が急増 

 一般会計及び特別会計の借金総額 (地方債現債額) の状況を分かり易くグラフにしてみました。 通常財政統計上では、 市債残高は普通会計、 しかも元金だけが表示されますが、 借金総額の全貌をつかむため、 一般会計+特別会計の元金+利子で合計額を出しました。 
 別表(5)でみるように、 98年度における借金総額は約431億3,500万円、 市民1人当たりにして約63万6,000円という多額なものです。 またこのグラフで分かる特徴的なことは、 92年度から借金が急増していること、 そして元金の増え方よりも利子分の増え方が低いということです。 前者は91年からはじまった公共投資10ヵ年計画に加え、 景気対策としての財政政策、 その具体化である起債による地方単独事業の増加がその理由です。 後者は起債の設定利率が低くなってきている (ちなみに利率は91年度で5%台、95年度で3%台、 98年度が1~2%台) ということがあずかっています。 
 98年度における地方債現債額の内訳は別表(6)の通りです。 この表でも分かるように特別会計のうち下水道事業会計における市債残高が際立って増加していることに注目する必要があります。 下水道事業会計の問題点は別項で明らかにしますが、 いまや一般会計への大きな重圧になりつつあります。 
 次に公営企業会計の水道・ガス事業会計の企業債発行額と残高 (元金のみ) をみてみましょう。 別表(7)でみるように、 92年度、 97年度における発行額の著増は水道事業会計分です。 98年度末における企業債残高合計額は約82億1,900万円となっています。 
 このほかに留意すべき大きな借金としては別表(3)で明らかにしている競馬事業会計の赤字約16億400万円 (98年度決算額) があります。  

5. なぜ借金(市債)が増えつづけるのか 

 なぜ借金(市債)が増えつづけるのか。 すでに述べたように長期不況による税収の伸び悩み、 かたや景気対策のための財政出動、 その結果としての市債の増発、 ということにあるわけですが、 別表(8)の普通会計の市債発行額をみても92年度から急増していることが分かります。 市の 「中期財政計画」 においても92年度から国の景気対策に歩調を合わせたことをはっきりと認めています。 
 別表(9)は市の 「中期財政計画」(4ヵ年のローリング、 財政運営の基本となる)においてはじかれた一般財源の建設事業投入可能額の推計と実際に支出された事業費の総額です。 98年度の事業費総額約60億8,900万円と一般財源投入可能推計額約32億1,700万円の差約28億7,200万円の大半が市債発行でまかなわれた勘定となります。 
 また別表(10)にみるように、 普通建設事業のうち単独事業費が毎年大きなウエイトを占めています。 国は景気対策としての公共事業を地方に押しつけ、 その財源として起債を存分に認める、 その元利償還金の一部 (おおむね55%前後) は後年度で交付税算入措置を行うという手のこんだやり方をしてきました。 平たく言えば、 地方は借金をしてどしどし建設事業それも単独事業をやれ、 その借金返済は国が交付税で面倒みる、 ということです。
 市長 (鈴木) は、 97年12月定例市議会における答弁で 「借金して公共事業をやらねば馬鹿と言われる」 と公言、 国の借金奨励策に乗り公共事業とその結果としての借金を拡大してきました。 
 借金の元利償還金は交付税で面倒みると国は言い、 地方自治体はそれをうのみにして借金を重ねてきているわけですが、 これにはいくつかの問題点を指摘しなければなりません。 第1に、 地方自治体の起債抑制機能がマヒしていることです。 借金返済は国が交付税で面倒をみる、 ということを首長は誇大に強調し、 議会も疑問を呈しないため起債抑制が利かなくなっています。 第2に借金返済分を後年度に交付税算入措置 (具体的には 「基準財政需要額」 に算入することを認める) するといっても、 限られた交付税総枠の制約から、 基準財政需要額の他の部分にシワ寄せがいく可能性を否定できないこと。 第3には、 国の財政が厳しい中で交付税で面倒みるという約束がいつまで続けられるか、 ということです。 第4には、 交付税算入措置で地方自治体の借金返済負担は当面軽くなるとしても、 それは一方で国の負担がふえていくことにほかならず、 「国が面倒をみる」 とされる分も結局は国民が税で負担することになるわけです。 したがって、 借金がふえても市民に迷惑はかからないかの如き論法は財政錯覚をふりまく代物であることを見抜かなければなりません。 
 さて、 市長はこれまで健全財政の維持を公約にかかげてきました。 市の 「行革大綱」 でも、 起債は後年度に過度の財政負担をともなわないよう十分考慮する、 となっています。 そして97年度からの起債抑制をかかげながらも、 別表(8)でみるように起債は前年対比で大幅にふえています。 財政管理目標であるべき 「中期財政計画」 も初年度の事業執行への配慮が優先し計画秩序を失っています。 適正な起債管理が 「中期財政計画」 で保証されるべきでしょう。 
 これまで一貫して議会で財政論議を挑んできた安藤議員 (組織内議員) が99年12月定例市議会であらためて借金体質に陥っている財政状況を指摘したのに対し、 市長は起債による公共事業の続行は限界に近づいたことを認め、 事業を抑制していく財政路線を示唆しました。  
 一方公共事業の拡大は、 事業の執行にいびつな影を落としています。 98年度決算では一般会計で22億1,700万円、 特別会計で5億6,900万円、 合計で27億8,600万円の繰越明許費が発生しているのです。 一般会計では過去3ヵ年平均の3倍にも上る金額です。 理由づけとしては、 用地交渉の難航、 工事期間の制約などがあげられていますが、 帰すところ事業が多すぎて消化不良を起こしているといえましょう。

6. 財政指数は警戒域に 

 財政力指数以下もろもろの財政指数を時系列でまとめてみたのが別表(11)です。 10年スパンぐらいで指数の経年変化をみると、 国の経済・財政政策との関係も読みとれます。 この指数からすれば公債費負担比率、 起債制限比率、 実質収支比率を除いておおむね警戒域に入っています。 
 指摘すべき問題点としては次のようなことがあげられましょう。 
(1) 自主財源と依存財源の比率が90年度に逆転、 98年度ではその対比が4:6。 財政体質の脆弱化が進んでいる。 
(2) 歳入総額における市税構成比は一貫して下がり、 かたや市債構成比が上がっている。 財政の借金体質化が進んでいる。 
(3) 経常収支比率が高まっており、 財政の硬直化が進んでいる。 
(4) 公債費負担比率、 起債制限比率はまだ安全値圏内だが現債高倍率が上がってきており、「中期財政計画」 でも公債費比率関係の上昇はさけられないとみている。 
(5) 繰出金比率が高まっている。 98年度の繰出金総額は約16億9,200万円、 とくに公共下水道事業への繰出金が重圧となってきている。 2000年度からは介護保険事業会計、 市立病院事業会計がはじまり、 繰出金比率はさらに高まるものとみられる。 
 以上、 要約すれば全国的な傾向でもありますが財政体質の脆弱化、 財政の借金体質化、 財政構造の硬直化が進んでいる、 ということが分かります。 
 すでに市の財政は、 山積する事業に対し投入できる一般財源は乏しくなる一方で、 事業をこなすためには借金を重ねるしかない、 結果として財政指数が悪化せざるを得ない、 という悪循環過程に入っています。 市長自らも 「経常収支比率の上昇により財政硬直化の傾向にある」(98年3月定例市議会行政報告) と認めざるを得ない状況です。 

7. 財政制約が増大する中、 事業は山積 

 前述のように、 財政体質の脆弱化、 借金体質化、 財政硬直化が進み、 財政制約が増大する中で、 中長期的な計画事業、 新規事業などが一方で山積し、 競馬事業の不振も懸念されます。 まず、 中長期計画事業にともなう固定的支出とその増加をみてみましょう。 
 ① 公共下水道第三期事業
 2008年度までに約160億円を投入、 一般会計から毎年8億~10億円 (ただし交付税措置分がふくまれる) を繰り出し。 
 ② 駅北地区区画整理事業
 2006年度までに約110億円を投入、 一般会計から毎年平均6億5,000万円を繰り出し。 
 ③ 中津港整備事業 (ダイハツ関連) 
 2007年度までに重要港湾として整備 (事業費約330億円)、 一般会計で約41億円を負担。 
 ④ ダイハツ関連インフラ整備事業
 ダイハツ誘致に伴う周辺整備事業、 用地買収補助金をふくめ約40億円近い負担。 中津港整備と合わせ、 市は80億円以上をダイハツ誘致のため投入することになる。 
 ⑤ 米山公園新設事業
 2004年度までに約30億円を投入。 
 ⑥ 都市計画道路など道路事業
 中殿大塚線都市計画事業    (2008年度までに約14億円) 
 中津港上ノ原線道路改良事業 (2004年度までに約12億円) 
 小祝鍋島線都市計画事業    (2002年度までに約18億円) 
  第二にやがて見込まれる大型財政需要や新規事業がめじろ押しです。 
 ① 国立中津病院の市営化
 2000年7月に国立中津病院の移譲を受け入れ市民病院にする。 築後30年を経た現病院をやがて建て替えることになれば約100億円を要するとも。 公営企業会計による経営となるが一般会計から相当な財政支援が必要となるかも。 
 ② 予定されている新規事業
 文化会館リニューアル事業 (約17億円) 
 新し尿処理場建設事業    (約51億円) 
 新体育館建設事業       (約10億円) 
 美術館建設事業         (約9億3,000万円) 
 レンガ館改修事業        (約4億円) 
 中津城跡保存整備事業   (約6億8,000万円) 
 くらしの道づくり事業        (約10億3,000万円) 
 公営住宅建替事業       (約25億円) 
 中学校舎増改築事業     (約14億円) 
 第三に一般会計をおびやかす不安要因として、 競馬事業会計の赤字があります。 赤字額は98年度決算で約16億400万円、 99年度決算では約20億6,000万円にふくらむ見通しです。 
 なお、 公営企業会計の水道事業会計では第5次上水道整備事業が96年からはじまっており、 14年間で約100億円 (水量1万屯の使用権約20億円をふくむ、 すでに4億円を一般会計で負担) が投じられることになっています。 水道料金の引き上げはさけられないでしょう。 ガス事業は経営見通しが困難なことから、 99年12月定例市議会で市長が民間への移譲を表明しました。 
 以上のことから、 財政制約が厳しくなる中で、 山積する事業をこなしていくにはかなりの起債増発が必要となりますから、 財政と事業のバランスに厳しく留意しなければやがて財政破綻はさけられないでしょう。 しかし市長は、 ダイハツ誘致に伴う中津港整備に関して、 「財布がカラになってもやる」(98年10月30日中津港整備事業起工式で) と大見栄をきるなど、 依然として事業優先の姿勢です。 戦後第三の地方財政危機といわれる今日、 財政破綻をきたせば市民生活に直結してくるだけに、 健全財政の維持を強く求めていかねばなりません。  

8. 要注意の公共下水道事業 

 中津市の公共下水道事業は78年度からはじまり、 今日では第三期事業 (2008年度までに160億円を投入) が進んでいます。 
 中津市職労の行財政分析チームは95年8月、 公共下水道事業の問題点をまとめ公表しましたが、 その中では建設に要する膨大な先行投資、 急激にふくらむ起債残高、 一般会計との複雑な関係、 供用地域の水洗化率の向上などを指摘したところです。 何よりも問題なのは、 会計方式が特別会計となっている (公営企業会計方式も選択できるが、 大分県内では佐伯市をのぞいて特別会計方式をとっている) ため、 一般会計との関連を精査しないと実態がよく分らないということです。  
 別表(12)は一般会計と特別会計の関連をつかむために作成した一覧表です。 98年度決算額では総事業費が約19億7,600万円 (なお歳出規模は別表(1)にあるように約27億3,300万円で、 その差はほぼ起債償還のための公債費)、 一般会計からの繰入金は約8億3,000万円 (基準内繰入額が約5億500万円、 基準外繰入額が約3億2,400万円)、 市債発行額は約11億3,300万円で、 市債残高の累積額は約117億6,700万円の巨額に達しています。 今なお先行投資の時期であるとはいえ、 財政規模に対する市債残高は余りにも大きいと言わなければなりません。 98年度末における普及率 (公共下水道のみ) は28.6%ですから、 これからも市債残高は増えつづけます。 しかも市街地周辺部への投資は効率が悪くなるばかりです。 市の 「中期財政計画」 においても、 一般会計への重圧を懸念し、 バランスある効率的な事業展開と、 経営基盤の強化を指摘しています。 そのためには、 合併処理浄化槽(98年度末で2,029基)の推進をはかることも必要です。 
 また会計方式については、 財務内容の透明度をたかめ、 資産管理や経営管理を効率的に行うために公営企業会計への移行も検討されてしかるべきでしょう。 
 なお、 下水道の一種である農業集落排水事業については論及を省略しました。

9. 深刻な赤字に苦しむ競馬事業 

 中津競馬はさまざまな振興策や関係者の努力も功を奏さず、 この3~4年赤字をふたたび急増させています。 これまで赤字額の最高は、 87年(S62)度に13億3,278万円でしたが、 その後の縮小均衡策を基本にした経営努力が実り、 94年(H6)度には赤字額は4億9,404万円まで減っていました。 ところが馬券の売上げを中心とした歳入が96年度に約45億6,800万円まで落ち込んだ (前年度は約61億9,100万円) ことから、 急に経営方針を拡大振興策へと転換、 98年度には約2億1,000万円を投じてショッピングセンター 「ゆめタウン中津」 内に場外馬券売場を開設しました。 しかし予想を裏切る不振で、 再建への起死回生をうながすどころか、 かえって赤字を増幅させる結果となっています。 いまや98年度の決算赤字額は16億423万円、 99年度末には累積赤字は約20億6,000万円に達する見込みです。 
 馬券の売上げは最盛期の79年(S54)度には約130億円を記録しました。 その後は徐々に減りつづけ、 86年度には最盛期の半分を割り込む約64億6,000万円にダウン、 それからしばらくは60億円台をキープ、 92年度にはいったん70億円台に回復したのですが以後はふたたび60億円台を低迷、 そして97年度には一挙に40億円台へと転落しました。 (別表(13) 参照) 
 82年度までは、 毎年競馬事業会計から一般会計へ繰り入れが行われました。 繰入金の累計額は49億228万円ですが、 82年度に6億2,728万円の赤字を計上し、 以後多額の赤字が恒常化しはじめたため、 83年度からは繰り入れは行われていません。 別表(14)でみるように、 87年度の赤字額はそれまで最高の13億3,298万円でしたが、 以後は縮小に向い、 94年度には4億9,404万円まで下がりました。 ところが売上げの急激な落ち込みに比例して赤字額が再び増加に転じ、 98年度決算赤字額は16億423万円、 99年度の累積赤字見込額は約20億6,000万円にふくらむ厳しい状況です。 
 競馬事業会計の赤字は銀行の一時借入金 (毎年借り入れのくりかえし) でおぎなっているのですが、 この債務保証の最終責任は競馬管理者 (市長) 限りではなく、 中津市長に及ぶ (99年12月定例市議会答弁) ということですから、 競馬事業経営の最終責任は中津市が負うことになります。新たな経営振興策として2000年6月から佐賀・荒尾・中津の三競馬による 「九州競馬」 がはじまりました。 この振興策が奏功しなければ、 経営は厳しい正念場を迎えることになります。 
 今や中津に限らず地方競馬の多くが赤字経営に陥り、 その存在意義を問われる状況に立ち至っていますが、 競馬法第一条の2には、 市町村は 「その財政上の特別の必要を考慮して…」 競馬を行うことができるとされています。 
 つまり、 競馬事業はその収益が自治体の財政に寄与することが前提であり、 収益を生まない競馬の運営は法律上論外となっているのです。 
 また、 懸念されていたことですが、 一般会計から競馬事業会計への逆流がはじまりました。 2000年度の一般会計で、 競馬場の厩舎団地の一部を約1億3,000万円(土地買収費7,000万円、 厩舎買収補償費6,000万円)で買収、 一般市道をつくるというものです。 表向きは市道が必要ということですが、 実際は競馬事業会計への支援策にほかなりません。 

10. 進められたリストラ、 合理化 

 さて、 景気対策に動員される公共事業、 悪化する財政状況の中、 一方では 「地方行革」 によるリストラ・合理化が強引に進められてきました。 さかのぼれば、 増税なき財政再建をめざして81年に設置された第二臨調は国・地方の行政改革を矢つぎ早やに提言、 84年の行革審答申 「当面の行政改革推進方策に関する意見」 で具体的な地方行革の推進が明示されました。 これをうけて自治省は85年に第1次地方行革、 94年に第2次地方行革、 97年に第3次地方行革でリストラ・合理化指針を自治体に示し、 行革大綱を作成することと、 行革の推進とその推進管理を求めました。 
 市においてもこれまで事務の電算化、 現業部門の民間委託、 単純労務職場の嘱託職員化や欠員不補充、 給与適正化という名の賃金合理化など、 さまざまなリストラ・合理化が進められてきました。 それらの主なものをあげてみましょう。 
 ① 電 算 化
 84年度にホストコンピュータ導入。 住民記録オンライン・税務関連・国保・年金・給与事務を、 さらに91年に生活保護積算システム、 財務会計オンライン化、 92年度に土木積算システムなどOA化。 97年度に税・住民情報システム、 98年度は財務会計・人事給与・介護保険システムを構築、 2000年度から稼働。 
 ② し尿収集の民営化
 92年度に直営分を民営化、 労務職員の大半は一般事務職に配置。 財政寄与は約8,000万円 (当局試算による)。
 ③ ごみ収集の民間委託
 93年度に全面民間委託、 労務職員は一般職や他の現業職場へ配置。 財政寄与は約1億円 (当局試算による)。 
 ④ 養護老人ホーム給食調理業務を民間委託
 99年度に民間委託、 労務職員 (調理員) は学校給食部門等へ配置替え。 財政寄与は約1,600万円 (当局試算による)。 
 ⑤ 学校事務補助員の嘱託職員化
 99年度に学校事務業務を嘱託職員化、 労務職の学校事務補助員は一般職へ措置替え。 財政寄与は約9,500万円 (当局試算による)。 
 ⑥ 職員数の削減
 事務の電算化、 現業部門の民営化などで、 職員数は84年度の718名から99年度には629名へと89名が減員された。 
 ⑦ 給与の抑制
 90年度から独自の給与体系が解消され、 国の基準表適用となった。 
 以上のように地方行革にもとづく行革大綱の推進で、 事務の電算化による要員削減、 現業部門の民営化による現業労働者の削減や、 退職者の欠員不補充などにより職員の大幅削減と、 給与適正化という名の賃金合理化が押し進められてきています。 
 このことはとりも直さず、 経常的な消費的経費を圧縮し、 公共事業にふりむける投資的経費を捻り出そうとする財政合理化の側面があることを見落としてはなりません。  

11. 分かり易い財務諸表、 財政広報を 

 現在の自治体公会計制度は、 現金主義による単式簿記会計となっています。 会計の種類も一般会計、 特別会計、 企業会計、 公社会計、 基金などと多様です。 そして財務諸表も、 予算書、 決算書とその事項別明細書、 財産に関する調査、 資金・基金の運用状況調査、 地方債現債額調べなどがあります。 決算監査資料としては決算審査意見書があり、 県・国へ提出する資料 (交付税総括表、 決算状況調査表など) や、 住民向けの財政事情の公表などがあります。 したがって良し悪しをふくめた全体の財政状況を把握し、 財政分析をやるには上記の財務資料のほかに中期財政計画書、 市債の利子額、 起債推計、 債務負担行為の内容、 特別会計への繰出金の内容、 繰越明許費の内容なども調べあげ、 財政指数の標準指標との対比や類団比較を行うことも必要です。 さらに国の経済・財政政策や地方財政計画、 行革路線の動向を押えることも大切です。 
 このように財政を知り、 調べ、 分析することはかなり難儀な作業になることはさけられませんが、 では昨今一部の自治体で試行され、 多少喧伝の感なきにしもあらずのバランスシート (複式簿記企業会計による貸借対照表) を採用すれば、 一目瞭然の自治体会計になるかといえば、 決してそのようなことはありません。 ましてや、 バランスシートが財政危機打開の決め手になるかの如き論法は錯覚以外の何ものでもないでしょう。 しかしながら、 単式簿記方式による現行自治体公会計においては、 企業会計では明示される資産、 負債の状況が十分に明らかではなく、 借金(起債など)は黒字、 積立金は赤字に表示されることや、 償却資産の再調達費用や退職金引き当てをどうするかが分明でないという問題点もあることは事実です。 
 このようなことから、 大蔵省、 自治省は複式簿記による公会計制度の導入に向けた検討に入りました。 したがってやがては複式簿記による公会計制度の開発と導入が具体化すると思われますが、 自治体としては、 とりあえず財政公開の原則にたって財政情報を積極的に公表し、 現会計制度のもとで住民に分かり易い財務諸表の作成を心がける必要があるでしょう。 とくに乱立している諸会計を総合、 連結し、 全体状況が分かるような財務表をつくることが求められます。 
 また、 住民向けの財政事情の公表も工夫を加え、 客観的な評価による財政実態が明らかにされるべきです。 
 いずれにしても財政悪化のツケは身近な住民サービスの低下や住民負担の増大、 自治体職場のリストラ・合理化となってあらわれてくるわけですから、 財政を首長の占有物から解き放って議会、 職員、 住民の共有物に改革していく不断の努力を怠ってはなりません。 

12. む す び

 今回の財政分析は、 95年2月の 「中津市財政の分析」(自治研おおいたNo.101)、同年8月の 「中津市公共下水道事業の問題点」(自治研おおいたNo.102)、99年3月の 「中津市財政白書」(市民向けパンフ) をあらためてまとめ直したものです。 「解体新書」 とかかげた標題ほどの腑分けになっているものではありませんが、 できるだけ財政の 「これまで、 いま、 これから」 が読みとれるように心がけました。 また、 財政分析の総合的判断のためには、 施設や住民サービスの充足度も斟酌する必要がありますが、 今回はその点にふれていません。 
 ふりかえってみると、 中津市は過去2回財政破綻を経験しています。 第1回目は65年1月 (深尾市政) に赤字再建準用団体の指定をうけ、 64年度から7ヵ年計画の再建に入りました。 この時は労使の協力で69年度に再建を終了 (実質は68年度) しています。 第2回目は84年度 (八並市政) から実施された行財政健全化7ヵ年計画による自助努力による再建です。 この時は、 財政再建の法的措置の轍を踏むまいと、 労使、 議会、 住民一体となって再建に取り組み、早くも87年度には再建目標をほぼクリアしました。 87年に登場した鈴木市長はすでに回復軌道に乗っていた財政状況にもかかわらず、 八並市政罪悪論をふりまき、 財政健全化を自分の功績におきかえながら、 財政の健全化を公約の柱にこれまでかかげてきました。 しかしながら自ら認めるようにまたもや市財政は硬直化、 借金財政へのぬかるみにはまりこんでいます。 三たび財政破綻をくりかえさせない意をこめてこの財政 「解体新書」 をまとめました。 
 なお、 この作成は、 中津市職員労働組合、 同組織内議員、 中津下毛地方自治研究センターの共同作業によるものです。   

註:「解体新書」 
 中津藩の藩医で蘭学の大家であった前野良沢 (1723~1803) がオランダの 「ターヘル・アナトミア」(人体解剖書) が正しいかどうか、 杉田玄白 (1733~1817、日本近代医学の祖)らと人体解剖を行い、その正確さに感銘、「ターヘル・アナトミア」を翻訳、「解体新書」とした。 
 ここでは財政分析を人体解剖にことをよせて用いた。