地方財政危機と地方分権に関わる自治体職員の役割

北海道本部/広尾町職員組合


 非常に難しい課題を考えなければなりませんが、以下に述べる中に財政危機問題を中心とした現状と今後、地方分権の進行に伴った対応という事項も含めた考え方と前置きしたいと思います。
 役場内において財政危機という言葉を頻繁に聞くようになったのは、何時頃からだろうか?(俗に平成バブルが弾けかけた頃、つまり、議会答弁にバブルで交付税減少を理由に大変厳しいと発言するようになった頃。そして、理事者はこのまま行くと危ないと感じ始めた頃。)
 予算要求という通常業務の中では、財政担当者とのやりとりが「本町は、非常に厳しい財政状況にある。」「金が無い。」「緊縮財政で臨まなければ潰れる。」「要求する側の職員の認識に危機感がない。」等々、耳に有り余る応酬の果て、結果はどこにも骨身を削ったと思われるフシのない新年度予算(案)をここ何年も通してきたのではないだろうか?(最終案は財政担当者を離れた後、復活やら修正やらで変わるとのこと。)
 私個人の考えですが、大きな補助事業等を所管する部署以外は、要求の中身が経常経費化しており、つまり削りようのないものになっていて、政策的予算が大型事業でしか消化されていないのが現状ではと思うのです。
 因みに、広尾町は、十勝管内唯一、経常経費の中で公債費が人件費を上回っている。
 さて、地方財政危機であります。
 今、そのことがクローズアップされています。
 どこの自治体も借金を抱えておりますが、状況の善し悪し、内容には各自治体間に当然差が有り、余裕でバランスの採れた財政運営を行っている所、誰が見ても危うい所、正に天と地であります。

● しかし、借金はどうして出来たのか?
  「自分たちの住む地域の発展を目指して」は、大義名分として自治体に課せられた至上命令のような掛け声を背に、首長を先頭に突き進んできた結果、公共事業予算の獲得により数字的、一時的には地域は潤うが自治体には起債という名で借金が残る仕組みであり、ある日突然に、今度は一転して「財政がやばい」との大合唱となるのであります。

● この段階は遅いのかもしれません。
  ここまで来るとそろそろみんなの目が覚める時期かと思うのであります。同時に再生が可能なのかどうか不安な気持ちが充満してくる時期でもあります。
  わがまち、「広尾町」をご紹介することとします。
  広尾町は、平成11年度末において270億円の借金を有する町であります。(一般会計予算は、100億円規模。)
  人口は9,500人、基幹産業は漁業を中心として酪農、林業他一次産業であります。とは、町政要覧に記された文章で、その実陰では、基幹産業は公共事業を主とした土木関連企業活動の盛んな町。となるのであります。
  社会資本(インフラ整備)のため各種の工事が発注されるのは、よそと比較してもさほど変わらないと思いますが、本町にはもう1つ大きな公共事業が進められています。
  その事業が「重要港湾十勝港」の整備であり、ここにつぎ込まれる膨大な建設事業費は、これまでに投資額として1,000億円に達しているものであります。
  埠頭用地造成は、ホクレンの飼料コンビナート誘致に向けて実施してきました。しかし、ホクレン側の都合により(ホクレン側の言い分は不明)十勝港進出を断念する結果となりました。これより以前にはフェリー(1万5千トン級)の就航も実現しましたが、3年余の運行で乗客、貨物ともに実績を伸ばすに至らず残念ながら撤退している現状であります。この間、担当職員は、懸命の努力を惜しまず十勝港利活用の道を模索しましたが、今日現在、明るい展望は見えていません。
  この港湾関係の借金が100億円(約7割は交付税措置を理事者は強調する。)を超え、売却を前提に造成した埠頭用地(町単独事業)の建設費が20数億円(町費単独)という状況にあります。
  これらを含めた財政危機の解決方法は、明らかであります。
  借りた借金は返す、造成した土地は売却をすれば良いのであります。
  しかし、地域では多くの住民が不安と矛盾を感じています。
  誰が何時までにどのような手法を用いて返済するのか?
  住民の犠牲や過大な負担はしないで済むのか?
  「財政危機」を招いたことすら問題なのでは?
  確かに、住民は地域における行政執行を「役場」に付託しています。その付託に対して応えるべく施策の執行を行うのですが、ここに「建全に運営しながら」という但し書きが伴っているものと考えるのであります。

● このことは重要な事項です。
  住民要望を満たすために借金がいくらあっても、その結果であると開き直るのは行政の傲慢と言わざるを得ない、そういう指摘をされてもいたしかたないのであります。「役場」は、対住民に対しての総懺悔をすべき。ここ4年間、内外でのこの問題(核心は外しながら。)に対する議論は百出、時には侃々諤々、喧々轟々と議会が揺れていました。しかし、この議会における議論も結果的には、理事者、管理職員イジメとしか思われないお寒いものでしかありません。議論の収束は、理事者が歩み寄る、言いなりになる方向でしか収まらない状況に至っていました。ある職員は、理事者の答弁として「議員さんはそう指摘されるが、私はこう思う!」が「議員さんはそう指摘されるが、私もそう思う!」と変わったと言うのです。6期24年間の仕上げの議会運営は、このような有様です。
  理事者は、自ら先頭に立って再建を進めることを公表しました。
  一つの方法論として行政改革と事業の見直し、アセスメントの導入であります。が、いくら内部改革を叫んで「行政改革推進本部」を設置し、事務事業の見直しとして「事業再評価(アセスメント)」を実施しても、職員の知恵を絞った細々とした決断で削減できた財源は4億程度でしかありませんでした。実際、指示された事業アセスの内容は、経常経費の削減は基本として、現在各課において実施される事業の見直し、補助金の交付基準の2割カット(但し、9団体は別、産業団体、財団、社会福祉法人等)等でした。この作業や事業アセスの考え方は否定しません(本来は、もっと職員として知恵を出すことは大切なこと。)が、小木をかき集めて大木を流すの例えを思い出してしまうのです。
  つまり、肝心な出どこを押さえていない。広尾町は港湾という特殊事業があるのだからあれもこれも出来ないのです。とはっきり対町民、関連業界に理解を求める努力が必要なのではないでしょうか?

● 行政執行者として言うべきことをしっかりと説明する。
  さらに、行革、財政再建の掛け声の裏で「特別枠」や「聖域化」した部門を持っているのでは? 役場も議会も何処かに肝心要をみんなで見て見ぬふりで見過ごしているのではないかと思うのです。
  勿論、自治労職員組合のチェック機能、意見反映やアドバイス的なものもあってしかるべきです。
  何故なら、この間、財源確保のために、管理職員手当の削減と寒冷地手当特別加算額の削減を強行(特別職は3月手当を返上)しました。さらに現行、270名体制の職員を250名まで絞り込むことを組合の反対を知りながら議会に行政報告しています。(方法は、一般行政職の退職不補充、一部専門職は必要に応じて採用する。)人件費が財政危機の一因であるかのような姿勢を採り、「住民の声」に応えるためには「自らが血を流さなければ住民理解を得られない」との理由からであります。
  生活費に直接響く職員への手当削減、職員削減には、断固反対するとの姿勢を貫きましたが、理事者側の強硬な姿勢を変更させるには至りませんでした。「金の無い惨めさ」を「みんなで責任をとろう」と一致団結させられる状況です。まったく論外です。
  組合の対応が遅れたり、気づかずにいると、いつのまにか理事者のペースに巻き込まれていいようにされてしまうのです。
  (組合活動が職場に根付いている単組は心配ない。つまり、普段から組合を舐めると大変だという意識を理事者が持っている単組は大丈夫です。)
  そしてもっと大きな地方財政危磯の原因が他にあることを組合が研究、指摘して行かなければならないと思うのであります。
  過疎債を称して「借り易くなった」と勘違いをしながら後世にツケを残して平然とする理事者の対応に反対する勢力の育成、維持することが大切なことだと思います。
  広尾町の場合は、勇気をもって止めることのできなかった公共事業の財源の積み重ねが大きな原因と思われます。これからは、公共事業のアセスメントという課題と向き合う必要があると思われます。
  以上、「広尾町役場」を取りまく現状を個人の主観がかなり入ってますが、概略として記しておきました。
 そこで、これからの広尾町の財政運営について、提案を含めた考えを述べたいと思います。財政に関して素人の私が意見を言うのですから多少の錯誤は、拡大解釈により皆さんの方で整理して下さい。
 硬直化した財政は、概ね先に述べたとおりです。
 精神論が問題解決の決め手とは思えませんが、敢えて気持ちを1つにみんなが辛抱するというスローガンを掲げ、覚悟をして取り組む姿勢が重要だと思います。
 広尾町は、2000年4月30日において、これまで6期24年間を1人のリーダーシップのもと行政施策を展開してきた歴史に終止符を打ち、新たなリーダーシップを求める選択を行いました。
 町長選挙は、現職の助役と収入役によってたたかわれ、助役が4,890票を獲得して圧勝しました。予想外の大差でした。
 特別目新しい政策を見出すことはできませんが、当然、リーダーが変わることに対する期待感を住民は投票に託したものであり、現実の政策で具体的にしてほしいと思うのであります。
 行政運営に関わる手法においては、優れた人材をどこの職場でも財産として抱えているはずです。職員の英知を如何に活用するかがトップから管理職員に課せられた仕事であります。
 ある幹部職員が一般職員に「若い職員の意欲が感じられない。やる気の見えない職員とそうでない職員とを給料の面でも差をつけたい。」と話すに至っては、さらに意欲減退するだけです。
 何故、そう感じる職場になったのか? もっと考えたら如何でしょうか。
 職員個々の能力の差は現実の問題としてあるのでしょう。しかし、それらを踏まえて管理職員は使いこなす能力を求められるのではないでしょうか? 前述の会話で若い職員は「採用したのは理事者です。若い職員が能力を発揮していないのだとしたら幹部職員は発揮させる能力を発揮して下さい。」となるのです。
 職員間の意志疎通に問題有りという職場になってしまいます。
 確かに仕事の内容、態様等時代の変化により、自治体職場も変化しているかと思いますし、その変化を読みとって柔軟に対応することが職員の資質においても求められているそうです。職員はそのように対応しましょう。
 住民要求が多種多様に変化し、対応が難しい時代になったとの声も聞きますし、行政サービスの枠を超えるような住民の意見などもアンケート等によりはっきりしてきているのではと思われます。住民参加と住民の意志を確認することとは違うことと思っています。この時の注意は、一部の意志を全体の意志に作り上げてしまう危険を職員が持って当たること。職員が政策立案能力、企画能力を磨いていくことも重要なことだと思います。
 そろそろ結論を導く方向にしていきたいと思います。
 財政危機を克服するためには、色々な手法や方法論を考えなくてはならないだろうと思います。
① 国、道の制度改正による支援(起債高利子分の借り換え債による負債の整理整頓)。
② 職員の英知を結集できる体制の確立と職務専念に集中する姿勢の堅持。(バランスの良い職場体制)
③ 組合の存在を確認できる活動の活性化。(自治研等)
 真剣に取り組む姿勢を堅持する真面目な職場として町民との信頼関係を強固なものに築き上げて、一刻も早く、財政のバランスを正常化させなければなりません。
 広尾町は、地方分権の流れを的確に受け止め、財政正常化にむけた自治体運営の舵取りにおいて健全行政を推進してまいります。
 「なぁんだ」と思われるかもしれませんが、前段述べたとおり、借りた借金は返す、造成した土地は利活用しなければならないのであります。
 最後に、今日参集された各地域の皆様、わが町のようにならないで下さい。