温海町の財政分析

山形県本部/温海町職員労働組合・自治研推進委員会 

 

1. はじめに

 温海町の人口は、1950年(昭和25年)の24,185人のピーク時から、1995年(平成7年)には11,518人となり、△12,667人、△52%の大幅な減少となっている。また、1985年(昭和60年)からの10年間においては、△1,737人、△13.1%の減となっている。過疎地域の指定を受けながら、道路交通網の整備、産業の振興、コミュニティ施設の整備など諸施策を実施してきており、町の振興のために一定の役割を果たしてきた。しかしながら、「過疎からの脱却」を目指したものの、人口の減少に見るようにその成果については、疑問を抱かざる得ない。
 また、ここ10年間ほどのうちに、ふれあいセンター、庁舎、スキー場、特別養護老人ホーム、総合中学校という大型プロジェクトを実施してきており、1997年度(平成9年度)末地方債現在高は、81億2百万円となり、町民1人当たり約70万円となっている。さらには、隠れ借金ともいわれている公共下水道事業、農業集落排水事業、上水道事業の債務を含めると町民1人当たり約110万円となる。平成11年度には、平成10年度の起債制限比率(3ヵ年度平均)が14%以上の団体に該当し、公債費負担適正化促進措置対象団体となり公債費負担適正化計画を策定し財政運営の健全化に取り組むこととなった。将来的には、地方分権、情報公開、介護保険制度、高齢社会などへの対応や下水道など生活排水関連事業計画、日本海沿岸東北自動車道関連事業計画など本町にとって、重要かつ多額の財政負担が伴う計画が予定されている。これらの計画を進めるためには、財政運営の健全性に向けた施策が急務といえよう。
 未曾有の財政危機と地域経済の不況という厳しい背景もあり、地方自治体では、行政改革と財政難解消対策とが短絡的に結び付いてしまう。今回の行革は、本来は新しい事務である分権や介護保険を受け入れるための組織と事務のスクラップ・アンド・ビルドであったはずが、歩みの遅いそれらを置き去りにして、人員削減と経費節減のみが先行してしまった観がある。とはいえ、組織においては、構成する者の智恵と力でベクトルを変えることは可能であり、行政運営の基本である財政の仕組みと現状について、住民であり職員である我々が学習と理解を深め活用することにより、地方自治研究の役割の一端を果たすことができればと思う。今回のレポートは、特に公債費の問題について焦点をあて、主に平成元年から平成11年までの決算統計を基に財政分析を行った。

2. 財政分析の進め方について

 財政分析の進め方の方針として、財政状態のオールラウンドな分析ではなく、財政運営の困難の度合い、その原因、特に起債に焦点をあてた。また、ポイントとして、他団体の数字と比べて極端に多い数字に注目しながら分析を進めた。さらに、公債費と関連する事項として、特別会計や第3セクターなどの「隠れ借金」も分析対象とした。その「隠れ借金」となるものとして、つぎのように整理した。
 ① 債務負担行為 → どんな大ロの債務負担行為を背負っているか。
 ② 特別会計 → 下水道事業、病院事業などの経営状況、一般会計からの繰り入れ状況、累積赤字を調べる。
 ③ 土地開発公社 → 第3セクターなど、見かけは収支採算・負債に見合う資産があるが、実体としてはどうなのか。

3. 温海町財政の構造的特徴

(1) 実質収支比率(実質収支比率=実質収支額/標準財政規模×100)
  実質収支比率は、標準財政規模に対する実質収支額の割合で示される。標準財政規模とは、一般財源の標準的な規模のことで、その自治体の財政規模や社会・経済状況、あるいは日本経済の一般的な動きなどによって左右される。自治省では経験的に+3.0~5.0%程度が望ましいとされていて、赤字の場合は△5.0%までに抑えるように指導している。
  本町の実質収支比率を見てみると、平成5年までは範囲内を推移しているが、平成6、7年度は数値を下回っており、平成8年度はさらに下回っている状況で、ここ4年間は全て自治省で言う望ましい範囲には入っていない状況にある。

 

元年度

2年度

3年度

4年度

5年度

6年度

7年度

8年度

9年度

10年度

11年度

実質収支比率 

3.7

3.9

3.7

3.3

3.0

2.3

2.2

1.9

2.3

1.9

2.4 

経常収支比率 

74.4

76.3

77.6

76.3

84.8

87.0

85.4

87.0

87.6

89.8

88.8

(2) 経常収支比率(経常収支比率=経常経費充当一般財源等/経常一般財源等×100)
  財政構造の弾力性を計る尺度として用いられるのが経常収支比率であり、経常一般財源等(地方税、地方交付税等)に対する経常経費(人件費、公債費等経常的に支出されるもの)充当一般財源の割合で示される。自治省では比率が70~80%の間に分布するのが標準として超える場合は、経常収支の抑制をすべきとしている。投資的経費へ振り向けることのできる財源にあてていくという考えかたである。こういった考え方は、住民の要求を公共投資に偏ってとらえる結果となりやすい。高齢社会対策として人的な投資をする場合、比率の増加は必然であり、公共投資のみに目を奪われないような注意が必要である。
  本町の経常収支比率は、昭和59年~62年までは80%を超えているものの、平成4年までの5年間は70%台で推移している。平成5年以降は80%を超え、平成9年には最高値87.6%となっており年々増加の傾向にある。扶養費、庁舎等の物件費、公共下水への繰り出し金の増加が原因と考えられる。統合中学校の開校等でさらに増加していくことが予想される。交付税も安定さを欠き、税収等も低迷するとすれば経常収支比率が90%を超えるのも、もはや時間の問題といわなければならない。

経常収支比率

 

元年度

2年度

3年度

4年度

5年度

6年度

7年度

8年度

9年度

10年度

11年度

人 件 費

31.7 

31.1 

31.0 

29.3

30.5 

31.8 

30.7 

31.0 

30.9

30.7

29.1 

扶 養 費

2.3

2.4 

2.5 

2.8

4.0 

4.3 

4.4

4.7 

5.0

4.9

5.2

公 債 費

18.4 

18.6 

19.4

19.2

20.3 

22.0 

22.3

28.9 

25.7

25.5 

25.2

物 件 費

8.7

10.2 

9.5 

10.7

11.9

11.6

11.2

11.6

11.2

12.1

11.2

維持修繕費

1.6 

2.2

1.5

1.0

1.6

2.6

2.7

2.1

1.7

1.8

2.1

補助費等

10.8

11.2

12.0

12.4

11.8

12.5

12.0

12.2

11.6

10.8

11.7

繰 出 金

0.9 

0.6

1.7

0.9

4.7

3.7

3.5

3.2

3.2

3.8

4.3

  計

74.4 

76.3

77.6

76.3

84.8

88.5

86.8

88.7

89.3

89.8

88.8

各年度の主要事業

(3) 公債費負担比率(公債費負担比率=公債費充当一般財源等/一般財源収入額×100)
  公債費負担比率(以下、公債比率と略す)は、公債費に充当された一般財源の一般財源総額に対する割合である。この率が高いほど財政運営の硬直性が高いといえる。公債比率については一般的には10%以内が比較的望ましいといわれている。一般的に、財政運営上、公債比率15%超が警戒ライン、20%超が危険ラインとされている。公債比率は11%~12%内で推移してきたが、平成2年度から徐徐に増加し、平成7年度には14%を超え、ついに平成9年度は要注意といわれている16%を上まわっている状況にある。
  一方、起債制限比率は、一般財源に占める公債費の割合で、国からの交付税のある分を差し引いたものであり、地方債の許可制限に係る指標となる。直近3年間の平均が20%以上になると、その比率の程度に応じて、一定の地方債の許可が制限される。自治省では16%を超えると自治省の財政事情調査の対象団体となり要注意団体とされていたが、平成11年6月11日付けの自治省財政局長の通知で、市町村の公債費負担の適正化促進措置の一部改正により、適正化促進措置が15%から14%に変わったため、温海町は適正化措置対象団体となった。
  本町の起債制限比率についても11%台で推移してきたが、平成7年度に12%を超え8、9年度ではさらに比率は上昇しておりついには14%を超えて適正化推進団体となり庁舎、統合中学校の元利償還が始まれば比率はさらに上昇していく事は必至であり大変な状況下にあるといえる。庁舎、統合中学校に元利償還が始まれば平成10年度以降10億を超えると96年の財政分析で予想を行っていたが、すでに平成9年度で10億をすでに超えており、財政運営の厳しさが予想を上まわる速さでせまってきている。

 

元年度

2年度

3年度

4年度

5年度

6年度

7年度

8年度

9年度

10年度

11年度

公債費比率

11.5

12.0

12.6

12.3

13.0

14.2

14.3

15.7

16.6

16.3

15.8

起債制限比率 

10.8

11.2

11.1

11.2

11.6

11.9

12.4

13.1

13.8

14.8

14.1

 

 

元年度

2年度

3年度

4年度

5年度

6年度

7年度

8年度

9年度

10年度

11年度

公 債 費

650

696

742

783

822

883

1,071

1,156

996

 

 

構 成 費

11.72

10.12

11.58

12.97

12.41

13.31

16.15

18.90

15.40

 

 

(単位:百万円)

公債費の構成比

4. 財政運営の指針

 財政分析にあたっては、その団体の財政をめぐる環境の変化に即応し、かつ、収支の均衡を保持しながら、行政需要に適切に対応できる財政構造を有しているかどうかが重要な要素であり、こうした観点から、客観的に分析してその良否を判断し、今後の財政運営の指針を探ることが必要となる。
 一般的な着眼点として、財政運営の健全性や適正な行政水準であるかを計る指標として、①収支の均衝、②財政構造の弾力性、③長期的な安定性などがあげられる。これらの中で、特に財政運営の健全性の面から財政構造の弾力性と長期的な安定性について分析した。

(1) 財政構造の弾力性
  財政構造の弾力性を計る指標として、経常収支比率、義務的経費割合などがある。経常収支比率については、通常70~80%程度に抑えることが望ましいとされているが、本町の推移を見ると平成5年度から大幅に伸びており、平成9年度においては、87.6%となり、90%台に迫っている。その要因としては、福祉法の改正による扶助費の大幅増、さらには下水道事業など特別会計への繰出金の増加が主な要因となっている。扶助費・公債費・人件費の義務的経費を見ると、特に扶助費、公債費の伸びが予算規模に対して、大きく伸びていることがあげられる。

(2) 長期的な安定性
  長期的な安定性を計る指標として、地方債残高、公債費比率、公債費負担比率などがある。公債費比率については、一般的には10%以内が望ましいといわれているが、昭和59年度に11.7%であったが、平成9年度では16.6%となっている。また、公債費負担比率については、14%以上が黄色信号、20%を超えると赤信号であるといわれているが、平成8年度に20%を超え、平成9年度では24.4%となっている。これらの数値からも、弾力性・安定性の面で、財政運営の健全性が欠けており、将来的にも不安要素の一因となっていることがうかがえる。

5. おわりに

 財政分析の今後の活用方法について、つぎのような取り組みが考えられる。まず、情宣活動として、財政分析の結果と経験を蓄積しておき、事態が比較的深刻であれば、組合員に情宣で実態を知らせ、認識を共有する。そして、当局との関係においては、①当局に財政運営状況の実態を明らかにするよう要求する、②組合自身の財政分析結果も併せて、財政悪化の責任が管理者にあることをはっきりさせる、③再建協力については、②を踏まえて、組合の立場を確立する、④大規模な施設づくりについては、なんらかのチェックをかけるシステムを考える、などの対応が必要であろう。
 財政運営は、その団体の財政をめぐる環境の変化に即応し、かつ、収支の均衡を保持しながら行政需要に適切に対応できる財政構造を有しているかどうかが重要であることはいうまでもない。本町の財政規模から見ると、適正な行政水準を超えた施設が続いてきた結果が数値としてあらわれているといえる。
 本町の将来を考える時に、将来を担う子供たちが「温海町に生まれて良かった」と思える町にするためにも、この分析が今後の指針になれば幸いである。