地方交付税削減の実体と問題点
~地方交付税制度の改訂と国の意図~

大分県本部/清川村職員労働組合・自治研部

 

1. はじめに

 地方交付税制度が昭和29年に発足し、地方公共団体が各種住民サービスを実施するにあたって充当する財源としては、今や必要不可欠なものとなっている。特に自主財源に乏しい団体にとってはその必要性は顕著であり、この交付額によってその年度の財政運営が左右されるといっても過言ではない。
 しかし最近、この交付税制度にテコ入れする動きがでている。それも住民サービスの更なる拡充に向けた追加措置という形態のものではなく、特に財政基盤の弱い団体への締め付けともいえる整理縮小を行っているのである。
 このことが地方財政、とりわけ清川村にどのような影響を与えるか、またどういった意図の下に実施されているのかを検証すべく、本分析を行った。

2. そもそも地方交付税とは

 地方交付税制度の目的とは、地方団体の自主性を損なわずにその財源の均衡化を図り、交付基準の設定を通じて地方財政の計画的な運営を保証することにより、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することとなっている。
 またその機能には、
 ① 地方団体間における財政力の格差を解消するため、地方交付税の適正な配分を通じて地方団体相互間の過不足を調整し、均てん化を図る財政調整機能
 ② 地方交付税の総額が国税5税の一定割合として法定されることにより、地方財源は総額として保証され、かつ基準財政需要額、基準財政収入額という基準の設定を通じて、どの地方団体に対しても行政の計画的な運営が可能となるように、必要な財源を保障する財源保障機能
の2つが存在するのである。
 本来、地方交付税は地方団体の税収入とすべきであるが、地方団体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持しうるよう財源を保障するという見地から、国税として国が代わって徴収し、一定の合理的な基準によって再配分することとされており、いわば「国が地方に代わって徴収する地方税である。」(固有財源)という性格を持っている。
 そして地方交付税の使途は地方団体の自主的な判断に任されており、国がその使途を制限したり、条件を付けたりすることは禁じられている。この点で、地方交付税は国庫補助金と根本的に異なる性格を有しており、地方税と並んで、憲法で保障された地方自治の理念を実現していくための重要な一般財源(地方の自主的な判断で使用できる財源)なのである。
 基本的に国と地方は相協力して公経済を担っており、歳出面での国と地方の支出割合は、約1:2となっており、地方の役割が相対的に大きくなっている。
 これに対して租税収入全体の中における国税と地方税との比率は約2:1となっており、地方に配分されている税収は相対的に小さくなっている。地方交付税は、国と地方の財源配分の一環としてこうしたギャップを補完する機能を果たしているものなのである。

3. 地方における交付税の重要度とその意義

 さて地方交付税の性質は以上のように述べてきたが、それが地方公共団体、とりわけ清川村にとってどれほど重要であり意義深いものであるかを述べてみたい。
 ご承知のとおり、清川村は県内では必ずと言っていいほど上位に位置する過疎団体及び高齢化団体であり、財政的にも自主財源ベースでみると財政基盤は特に脆弱な団体といえる。
 平成10年度決算ベースでみても、歳入総額約3,018百万円に対し、地方税額は約106百万円(決算構成比率3.5%)とわずかなものであり、自主財源(地方税、分担金、負担金、寄付金、繰入金、繰越金等)比率は、県平均24.5%、町村平均21.7%であるのに対し、11.1%と著しく低いのである。
 対して依存財源は歳入の約89%を占めており、なかでも歳入全体に対する地方交付税の占める割合は、普通交付税ベースで約1,219百万円、決算構成比率40.4%、特別交付税ベースで約100百万円、決算構成比率3.3%となっており、地方交付税額全体では約1,319百万円、決算構成比率43.7%という、非常に依存財源に頼りすぎた偏りのある財源構成をなしている。
 若年者構成を高める施策を図り、税収のアップと自主財源比率の上昇に向けて尽力し、なんとかこの危機から脱しようと努力しても、過疎化・高齢化の凄まじい勢いにはとうてい追いついていないのは否めない現実である。そしてその現実がさらに税収の減少を生み出し、自主財源比率を下げていくという、マイナスがマイナスを生み出すといった状況に陥っているのである。
 では収入の落ち込みに比例して、行政ニーズが縮小されているかといえば決してそうとはいえない。
 過疎化が加速度的に進むがゆえにその脱却を目指して活性化に取り組む必要はあり、高齢化率が高いがゆえに福祉ニーズは高く、その需要に積極的なかつ重点的な措置を考じていかねばならないのである。
 またこの福祉施策に関しては、介護保険制度導入に伴い、さらに村独自の取り組みに重要度を増している。利用者側の福祉ニーズ及び介護ニーズはこれまで同様であるにも関わらず、保険対象として認定されず、サービスが受けられなくなる人たちが生じてきている事によるものである。
 「昨日まで受けていたサービスは、今日から制度対象外なので受けられませんよ。」などと一方的に切り離すわけには行政としては当然できない。
 これらの対応や、その他あらゆる行政需要をこなさなければならず、準じて経費も要するのである。
 そういった現状に流動的に対応しうる財源として、地方交付税は必要不可欠なものであり、その重要度たるや、清川村にとって大変高いものなのである。

4. しかし交付税は削減される

 そのような財政基盤の弱い地方公共団体の実体を無視してか、あるいはその実体に追い打ちをかけることを意図してか、近年国は地方交付税に対しテコ入れを行い始めた。
 それも人口4,000人未満団体を削減の対象の中心にしてである。
 実際清川村においても(その他の減額要因も含め)、総体で約30百万円の影響額があり、すでに危機的な状況がさらに深刻化することとなった。

普通交付税(需要)の変動値

  費  目 10 年 度 11 年 度 前年度との差
経常経費 消 防 費 66,188 65,132 △ 1,056
土 木 費 62,440 62,720 280
教 育 費 115,633 113,034 △ 2,599
厚 生 費 231,430 243,830 12,400
産業経済費 70,921 71,205 284
その他の行政費 275,485 256,109 △ 19,376
投資的経費 土 木 費 98,135 92,883 △ 5,252
教 育 費 29,315 29,830 515
厚 生 費 39,403 40,333 930
産業経済費 53,830 54,577 747
その他の行政費 175,542 169,389 △ 6,153
公 債 費 127,912 124,258 △ 3,654
農産漁村地域活性化対策費 19,000 19,000 0
緊急地域経済対策費 3,541 0 △ 3,541
錯誤措置額 0 △ 5,143 △ 5,143
1,368,775 1,337,157 △ 31,618

 地方公共団体における人口規模や、面積を基本指数とし、それらに各種補正計数を乗じて算出していくのが交付税算出の基本形態である。
 特に人口数値を算出基礎とする部分では、その人口規模に応じて補正係数が与えられる仕組みになっており、人口の低い団体ほどその係数が高められ交付額に極端な不均衡が生じないよう配慮されていたのがこれまでの仕組みである。
 ところが平成10年度より、4,000人未満としてもうけられていた項目が削除され、8,000人未満団体に一括計上されるようになったのである。
 参考資料1を例にしてみると、10年度は8,000人未満団体に対して1.21の係数が与えられ、4,000人未満団体には2.19という係数が与えられている。これに基礎人口を乗じた際には補正後に人口差が縮小されるといった形態がこれまでであった。(仮に7,000人の人口規模の団体と、清川村の人口2,625人とを比較すると、補正前は4,375人の差がある。しかしこのそれぞれに与えられた係数を乗じることによって、7,000人の人口規模は補正後8,470人になり、清川村は5,749人となって、その差は2,721人と縮小される。)
 しかし、11年度での算出項目一本化によってその差は解消されるどころか、拡大されることとなり、明らかに4,000人未満団体への圧迫を行っていることが伺える(7,000人規模は8,470人に補正、清川村の2,625人は3,176人に補正。当初の差4,375人が、補正後5,294人に拡大。―別紙 参考資料1―)。
 またその結果数値をさらに2段階、3段階と別の補正係数に乗じて算出していくのだが、その途中での補正係数や最終補正係数に上限を与え(これまでは多くが「掛け放し」といったものであった。―別紙 参考資料1下段部分―)、昨年よりも交付額が上昇されることのないよう構成されているのである。
 11年度4,000人未満の項目廃止が行われた費目は、消防費(経常)、その他の教育費(経常)の2費目である。これによって消防費△1,056千円、その他の教育費△4,540千円の影響額が生じた。
 また補正係数に上限設定がされた費目は消防費(経常)、その他の教育費(経常)、農業行政費(経常)、徴税費(経常)、戸籍住民基本台帳費(戸籍数、世帯数)である。この上限設定費目においては、11年度は特に減額影響がなかったものの、今後大きく影響してくるものと考えられる。
 例えば戸籍住民基本台帳費では、平成10年度には「世帯数のみ」を基礎とする算出方法であった。これが平成11年度には「戸籍数」と「世帯数」に分けられた。算定結果は、総体で平成11年度交付額は増額となったものの、世帯数同士で比較したときには「単位費用」の著しい減少によって大きく減額となっているのである。(※「単位費用」とは、各費目の基礎数値に補正係数を乗じた後の、いわゆる補正後基礎数値に乗じる、交付決定額を算出するための最終交付基準額である。)
 単位費用の著しい減少もさることながら、この費目の細分化は今後の若年層の流出とそれに伴う過疎化の実態によって、長期的には交付額を削減させるという方向性がみえてならない。
 その他の費目も同様である。人口減少に反比例してのびる交付税需要比率を一定のラインで打ち切り、ひいては減額に転じるよう構成しているようにしか感じられないのである。
 以上は経常経費分野に限ったものであるが、これに限らず投資分野においても見直しが図られている。投資補正(同じく係数を乗じる段階的に分けられた算出部分)についても、これまで8~9段階あったものを4~5段階に縮小し、かつその係数も縮小して算出数値を減少するよう図っているのである。
 これによって投資部分も大きく減少し、約9百万円の影響額を生じた。
 たしかに増額となる単位費用や費目もある。だが減少費目がはるかにそれを上回っており、軒並み減少に転じるといった傾向が、11年度地方交付税の算定で見受けられた。

5. 削減に対する国の意図

 今回分析報告した交付税削減に対する国の意図は、4,000人未満団体に焦点を絞った点からみても明らかに市町村合併を見据え、促進するためのものでる。
 方や「地方自治の主体性に任せた合併を推進する」といいながら、一方で財政上の締め付けによって合併促進を図っているのである。合併による住民メリットを最大限に広報し、民意を合併推進にし向けつつ、自治体側には税権限は与えず、業務権限だけを地方分権の名の下に押しつけ、施策上の責任回避を図り、かつ財政上の圧迫によって合併推進を図るというのは、あまりにも強引ではないだろうか。
 過疎団体の自立性が低く国がいつまでも手厚い措置を続けられないのも、幾分納得しうる。また「都心の税金が地方にばかりでていく」と一般的にいわれる。そういった意見は、地方の側からは「都心部のエゴではないか」と考えがちだが、無意味に連発される公共事業や、その結果が生み出した1日に数台しか車の通らない高規格道路や農道などをみると「本当に過疎からの脱却に根ざしたものだろうか」と考えさせられ、半ば納得すらさせられるのである。
 しかしその元凶を生み出したのは、国の施策ではないのだろうか。
 政治と経済の都心への一局集中化を図った結末が地方の過疎化を生み出し、今度はその過疎地域を切り捨てる実態が理にかなったものだと言えるのだろうか。
 度重なる経済対策と称した補正予算によって、さらに押しつけに近い公共事業は連発され、その財源対策と交付税の跳ね返り措置を理由に地方公共団体は地方債の増発をやむなく求められる。それが後年の地方の財政硬直化を引き起こす元凶となる一方で、交付税の削減を図られている。
 また人口規模も大きく、さらに税収その他で成長を遂げる団体が同時に交付税額を伸ばす反面、少額の税収に根を上げ、ままならぬ状況のうえに、人口規模などを理由に交付税が削減され、窮地に追い込まれていくことが、先述した「団体較差を解消し、均衡を図る」という交付税の意義に則しているといえるのだろうか。むしろ反しているのではないかと強く疑問に感じるところである。
 また急ピッチで市町村合併を進めたい国としての施策として、地方では融通の聞かない交付税制度にあえて強硬なテコ入れを行ったという方針は、あまりに建設的でないと感じざるを得ない。

6. 終わりに

 今回の分析を踏まえ、改めてこの国の方針を考えると、財政基盤の弱い団体としては特に憤りを感じるものである。
 清川村自治研部は、今後財政分析とこの交付税分析を、両者がどのような相互作用をもたらすかという見地から引き続き行い、その資料を当局にも提示しながら議論していき、ひいては国への地方の実状提示にもつなげていきたいと考えている。