これからの「おおつ」づくり
~行政と市民活動団体(NPO)との協働によるパートナーシップ先進都市をめざして~

 

滋賀県本部/自治労大津市職員労働組合・近藤 義裕・伊藤 義樹


 はじめに

 プラザ合意に端を発した円高やこれをきっかけとした海外進出により、1985年以降個人より集団が優先される世間型企業社会はもはや通用しなくなり、1990年前後からは様々な痛みを伴いながら、自主・自律と自己責任が問われる市民型企業社会が要求されることとなった。
 一方、国や地方自治体においては、財政危機が叫ばれるなか、行財政改革による効率的・効果的な行政活動が求められるとともに、第三の改革として位置づけられる21世紀制度改革のひとつとして、地方分権による総合行政の推進と市民参加のあり方が、いま、まさに問われている。
 このような状況下において、特定非営利活動促進法(NPO法)がその露払い役として法制度化され、また同時に2000年4月からは地方分権一括法の施行により、あらためて市民活動やNPOに対する理解の促進、そして市民と行政との関係のあり方が喫緊の課題となってきている。
 このことは、「地域のことは、地域の住民の意思によって、地域の責任で決定されなければならない」つまり、地方自治は市民参加による市民自治によって実現されるべきであるという、「市民」サイドからの要求が強くなってきたことが背景として考えられる。
 また昨今、自治会への加入率が漸減し、市民活動団体の数が増加している例からもこのことは、明らかである。従来型の『コミュニティ中心型』と『「コミュニティ型」+「NPO型」』とが併存し、また一部においては「NPO型」が「コミュニティ型」を刺激して、「コミュニティ型」を活性化させている状況にもある。
 今後私たちは、地方分権社会を市民分権社会にまで推し進め、「市民社会」を実現することこそ重要課題と考える。
 そういった点でNPOは、「市民社会」実現の主体となるべきものであると考え、行政・市民・NPO、事業者(企業)が公共活動の責任ある担い手として、それぞれの連携と役割分担により簡素で効率・効果的な「小さな政府」、あるいは「地域最適政府」を実現するための官民協働型の政策実現こそが求められているといってよい。
 ただし、NPO活動は、まだまだ脆弱であり、それを根付かせるには、様々な取り組みが必要となる。その取り組みの中で行政としてなにをなすべきなのか、「市民社会」確立に向けて行政とNPOがどのようにパートナーシップを結ぶのかについて検証していく。

1. 今、なぜパートナーシップが必要なのか

(1) パートナーシップの必要性
 ① 社会状況の変化
 ② 市民意識の変化
 ③ 地方分権の推進

(a) 行政とNPOとの役割分担が明確となる。
(b) 行政のスリム化・効率化が図られる。
(c) 職員自身の意識改革につながる。
(d) 市民がまちに愛着をもつようになる。
(e) ワークショップ・パブリックコメント等を通じて市民が行政を信頼するようになる。
            注1

   注1)パブリックコメント制度:政策の立案にあたり、その趣旨、内容等必要な事項を公表し、専門家、利害関係人、その他広く住民に意見を求め、これらを考慮しながら意志決定を行う仕組み。

(2) パートナーシップとは

2. 市民分(主)権・市民参加型社会におけるNPOの役割

(1) NPOとは
 ① NPO形成の社会的背景
 ② NPOの概念
 ③ NPOとボランティアとの違い

(2) 行政がとらえるべきNPO
  ボランティア[団体]と非営利活動団体(NPO)の違いについて

比較の視点 ボランティア[団体] 非営利活動団体(NPO)
① 活動の目的 個人や個人の集合体による、社会参加ややりがい、生きがいといった自己実現を目的とする。 組織として社会的な課題の解決を市民参加の手法でめざすことを目的とする。
② 責任の所在 活動に関わる責任の所在は個人にあり、そのほとんどはグループの代表者に依拠している。 NPOは組織の概念であるので、活動に伴う責任の所在は団体にある。
③ 自立・自発性 自発的だが、必ずしも自立的ではない。 自発的で、民間活動としてあるので、自立性・自律性が確保されている。
④ 参 加 参加する側 参加の場を提供する側
⑤ 利益性 原則、無報酬であり個人の労働や提供するサービスに対して対価を得ないという考え方が基本。 組織として提供するサービスに対して、その対価を組織が利益として得る場合があり、収益の一部はスタッフの人件費や団体の活動経費に充当され、構成員の間では分配しない。
⑥ 資金源 会員の会費収入や行政からの補助金。行政の補助金を資金源とした場合、行政のコントロールを受けやすく自立が難しい。 会費収入や独自事業による収益。運営は自立性が確保されるが、活動の継続や拡大に伴う資金調達に課題がある。

(3) NPOの社会的意義・役割

(4) NPO法の評価と残された課題
  (法第2条第1項の別表)NPO法の対象となる活動

1 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2 社会教育の推進を図る活動
3 まちづくりの推進を図る活動
4 文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
5 環境の保全を図る活動
6 災害救援活動
7 地域安全活動
8 人権の擁護または平和の推進を図る活動
9 国際協力の活動
10 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
11 子どもの健全育成を図る活動
12 1から11に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言、又は援助の活動

 

3. 行政と市民活動団体(NPO)との協働

(1) 協働とは
(2) 協働の要素

 ● 行政と市民との契約関係
 ● 行政と市民との事業に対する意識の共有化
 ● 事業予算の明確化

(3) 協働の類型
 ● 行政主導型
 ● 市民主導型
 ● 双方向型

(4) 市民型の公共政策の確立
(5) 自治体の協働システムづくりに向けて

 【協働型政策形成】

4. パートナーシップ先進都市をめざして

○ おおつシップ推進条例の制定
○ 市民活動団体(NPO)への支援体制の整備・確立
○ 大津市の自己改革プログラム

(1) 協働促進に対する提言

① 協働の基準は、市民の参加・合意を得て作らなければならない。
② NPOは、公共サービスの担い手であることを充分に理解し、また、彼らの自主・自律性を損なうような協働はしない。
③ 行政とNPOの役割分担を明確にし、何のために協働をしているのかを理解する。
④ 協働促進のための環境整備を行政は行わなければならない。
⑤ 協働の全ての段階を対象にした評価をしなければならない。

 ① 協働の原則

対等の原則 お互いの関係は上下の関係ではなく、対等の関係を結ぶこと
相互認識の原則 行政側からの一方通行的協力団体ではなく、あくまでも独自の主義・主張をもった団体としてお互いを認め合うこと
自己確立の原則 お互いが双方の立場を認識・理解すること
目標共有の原則 共通の目標を明確にすること
情報公開の原則 情報を共有すること
自己変革受容の原則 互いに影響しあい、自己の変革も辞さないこと
時限性の原則 一定の時期がくれば、互いの関係が切れること
透明性の原則 お互いの関係が外から見て透明でなければならない

 ② 協働の方法

共  催 NPOと行政との役割分担を明確にし、NPOの主体的な事業に行政が企画面と資金面において参加する。この形が、協働の原則を一番貫きやすいものと考える。
委  託 従来、行政の分野として考えられてきたものであってもNPOにおいて適切な能力を有し、行政が実施する場合に較べてより効果が期待できる場合には実施すべきである。但し、NPOを安価な下請け機関と考えた場合には、成立しない。
補助・助成 本来、対等な関係ということから考えると、勧められないが、NPOの自立を促進するという意味からは止むを得ないものとされる。しかし、委託に切り換えられるような方策を検討すベきである。
公共施設の使用 NPO活動が活発化するためには、場の確保を始めとした環境整備が必要である。また、施設の利用に当たっては、利用者のバリアフリー化を図るなどのルール化が必要。
後  援 「大津市」という名前により、信用力が付加される場合には、有効である。
情報交換と
コーディネート
双方が有している情報を有益に使用することにより、より地域に役立つことが多々あるので、その交換は重要である。また今後の協働のルール作りと評価の実施に当たっても重要なものと考える。

 ③ 協働の技術 - ワークショップ -

市民参加のデザインの実践的道具 ― ワークショップ ワークショップの積極的な利用により、政策形成過程への市民参加の実現が可能

 ④ 協働の担保  ― おおつシップ推進条例 ― 

おおつシップ推進条例の制定 市内のあらゆる市民活動団体が積極的に市政に参加し、共に市政運営のパートナーとなるための制度的インフラ整備

(おおつシップ推進条例の特徴)

○ 大津市、市民、市民活動団体、事業者は、まちづくりの主体であり、まちづくりにおいて平等の権利があることを明確にするとともに、相互に協働してまちづくりの推進に努める必要があることを義務づけた。
○ 協働の意義及び協働の原則を規定した。
○ 社会貢献活動を定義づけた。
○ 大津市の意思形成段階からの市民参加を規定した。
○ 市民活動団体を定義づけた。
○ 大津市、市民、市民活動団体、事業者のそれぞれの責務を規定した。
  特に、大津市においては、市民活動団体の公共サービス参入への機会の拡充を図ることを義務づけた。
○ 大津市は、市民活動団体等が行う社会貢献活動を促進するために環境整備に努めることを義務づけた。
○ 社会貢献活動を促進するための調査、審査機関として「大津市社会貢献活動促進委員会」を設置した。

 

(2) 市民活動団体(NPO)への支援策

○ 市民活動成体との総合窓口として(仮称)大好き! おおつ推進室を庁内組織として設置し、協働事業を積極的に推進する。
○ 市民活動団体の活動拠点及び各セクターの情報交換並びに協働政策を研究する機関として(仮称)がんばれ! おおつ支援センターを設置する。
○ 市民活動盟体への財政的支援のあり方を研究し、現行の補助金及び委託事業を大幅に見直す。

 ① 支援の基本的姿勢

① 支援のバリアフリー化 組織形態、法人格の有無、活動目的(行政施策に反対する団体を排除しない)等により差別しない
② 支援の透明化 支援に当たっては公開された基準で、透明かつ公正に実施
③ 創造的支援 支援に当たっては、既存活動の自立化が図れるものとし、また新しい活動が生まれる環境を整備する
④ 支援の制度的保証 市民活動の意義を理解し、促進するための制度的保証をする((1)の条例の中で明記してある)
⑤ 支援対象の明確化 社会的、公共的価値の創造と地域社会の問題解決につながる活動を行い、かつ支援を望む団体、個人とする

 ② 支援の課題
  ● 市民活動の拠点整備について
  ● 行政の市民活動担当の設置について
  ● 補助金等のあり方について
 ③ 具体的支援策
  ● 総合窓口として「(仮称)大好き! おおつ推進室」の設置

  役 割・機 能
(仮称)
大好き! おおつ推進室
① 市民活動団体に関するコーディネート
② 市民活動団体からの提言に関するコーディネート
③ 庁内各部署の委託業務と市民活動団体との協働事業のコーディネート
④ 行政と市民活動団体との協働の仕組み作りや支援方策等の研究・検討及びNPO関連行政情報の収集・提供・法人格取得に伴う申請書式等の配布及び説明
⑤ (仮称)がんばれ! おおつ支援センターの運営団体との連絡・調整及び施設管理
⑥ 市民・職員への非営利活動団体の仕組み等の啓発・啓蒙

  ● (仮称)がんばれ! おおつ支援センターの設置

(仮称)
がんばれ! おおつ支援センター
① 支援センターの運営管理
② 市民活動団体の活動の場(団体共用室)及び事務機器の提供
③ 市民活動団体の申請に関する相談及び運営全般にわたる相談業務
④ 市民活動団体の事業に関わる専門研修及び運営に関わる共通事項(税制・労務・財務等)の専門家の派遣や合同研修の開催
⑤ 市民活動団体関連情報の収集及び提供
⑥ (仮称)大好き! おおつ推進室との連絡調整
⑦ 市民活動支援センター運営委員会の運営
⑧ ニューズレターの発行
⑨ 各市民活動団体同士の交流促進事業
⑩ 協働事業の政策提言

  ● 活動資金の支援及び補助金等の統合

(3) 大津市における自己改革プログラム
 ① 相互交流及び相互認識

① 新規採用時職員及び係長級昇格時職員研修の一環として、NPOへの派遣研修を実施する。
② NPOスタッフとの共同によりパートナーシップ研究会を創設し、それぞれの行動原理等について理解を深めるとともに、パートナーシップに対する哲学を研究する。
③ NPOスタッフとの共同によりパートナーシップニュースを定期的に発行する。
④ 庁内にワ一クショップ研究会を創設し、ファシリテーター等の能力開発に努める。
⑤ 庁内にグランドワーク研究会を創設し、各事業等で実践的に研究してみる。
⑥ 予算項目の中にパートナーシップ関係予算として新たな項目を設ける。
⑦ 市民に対しパートナーシップに対する意見を募集するとともに、NPOと共同で意見集をまとめて冊子化する。

 ② 機構改革

NPOの先駆性、迅速性、変革性に対応したフラットで柔軟性ある機構(グループ制・小課制の導入など)に改革する。

   審議会等の附属機関は

① 委員の選任基準を明確にするとともに、できるだけ公募制を採用すること。
② 市民参加を促進するため、一人の委員が他の委員会の委員を兼務することは避ける。
③ 会議は原則公開とし、非公開とする場合はその根拠を明確にすること。
④ 会議の日時は、広報やインターネット等を通じて、市民に周知すること。

   庁内横断組織として(仮称 おおつシップ推進事務局)の設置

① (仮称)「おおつシップ推進事務局」事務分掌
 (1) 各部局におけるパートナーシップ事業に関すること。
 (2) 市民参加によるまちづくりの推進に関すること。

 ③ 情報公開とアカウンタビリティーの徹底化

① コンピューターネットワークを利用した庁内情報の共有化(特に、政策形成過程情報)
② 政策形成過程への積極的な職員の参画を図る。(公募制の採用。例えば、京都市では「市民参加プロジェクト」を職員の公募でチームを編成)
③ 政策形成過程等のいわゆる「プロセス情報」の公開(審議会、政策決定過程での検討会議の公開)及び公開ルールの検討。
④ まちづくりをはじめとした各種基礎データは、市民の利用しやすいものとする。
⑤ 予算書・決算書を市民に分かりやすいものとする。
⑥ パブリックコメント制度の創設並びに当制度を通じた政策形成過程への市民参加促進。

 ④ 第三者機関による行政評価システムの構築と実施

協働における評価は、市民活動団体との協働作業による評価システムを構築し、実施する。

 

おわりに

 近年、新しい統治の概念として「ガバナンス」という言葉がよく使われている。本来、統治とは、政府をはじめとした行政の問題であったが、NPO法、情報公開法、中央省庁改革基本法、地方分権一括法といった法律が次々と制定、施行される状況は、統治の形態が変容していることを示すものである。つまり、「現代の統治は、政府だけでなく、社会における共同的な選択の上に成り立ち、政府と社会・民間との相互交渉、市民の公益活動も視野に入れた統治とならざるを得ない。これは、一面では、政府に企業経営の側面が入ってくる」(古川俊一「情報公開とアカウンタビリティ」より)と同時に、社会の各セクターが政策形成過程に入ってくることを示している。そして、このようなガバナンス型の統治形態におけるキーワードは、「パートナーシップ」であるという認識のもと、私たちは、市民分権・市民参加型社会における市民活動団体等の役割及び行政との関わり方について研究してきた。その結果、市民活動団体等とのパートナーシップを実りあるものとするには、「おおつシップ推進条例」なるものにより、それを実質的に担保する必要があるという結論に達した。市民活動団体は、市民社会構築の主体となるものであり、彼らとのパートナーシップによって、大津市がさらに飛躍することを私たちは望むものである。
 今回多くの市民活動団体関係者から、市民活動に対するインセンティブを受けた。それらを踏まえ、今後とも市民活動団体との「パートナーシップ」・「市民参加のデザイン」について研鑽を積んでいきたい。
 最後に、今回の発表にあたり、貴重なご意見を賜った諸先生方、並びに市民活動団体関係者の方々にお礼を申し上げるとともに、発表の機会を与えて下さった皆様に感謝を申し上げる次第である。