ドメスティック・バイオレンス
 ― NGOと行政の連携 ― 

神奈川県本部/自治労横浜市従業員労働組合

 

経 過

 横浜市では、現在18区に10人の婦人相談員が配置されています。専任区2区で後は2区兼区という体制になっています。兼区では、相談者が窓口に来たときに対応できないことと同じ職場で働く仲間からも孤立しがちであることの弊害が強く訴えられました。
 兼区解消や嘱託員であることから生ずる超勤対応ができないなどの処遇改善に向けて福祉支部・自治労横浜で要請行動を行う等の取り組みを行ってきました。(別添資料参照)
 横浜市内では、NPOの「かながわ・女のスペースみずら」や数箇所の機関が電話相談とシェルター運営を行っています。横浜市の関連団体である(財)横浜市女性協会では横浜女性フォーラム内の「心とからだと生き方の総合相談」でDVについても相談を受けています。これらの機関と公的窓口である婦人相談員(福祉事務所)は、相談の現場でも密接に関連し連携してケースに対応しています。
 婦人相談員の処遇改善と婦人保護事業の充実強化は、3者共同で進めていこうと横浜市に向けて要請行動を実施するなど共同の取り組みを進めてきました。
 女性への暴力の根絶に向けた取り組みを更に進めるために、広くアピールすることを目標にシンポジウムを企画しました。このシンポジウムには、高校生からシェルター運営に関わっている人まで労働組合の枠を超えて参加者が集まり、女性への暴力の根絶が大きな課題であることを再認識しました。(別添資料参照)
 このような組合を通しての活動により、お互いが知り合っているのでひとつのケースに対応する場合もスムーズに運ぶようになりました。①DVを受けて悩んでいる女性がNPOの「みずら」や「心とからだと生き方の総合相談」に電話相談をする。②緊急一時保護の必要がある時は、婦人相談員につないでシェルターや母子支援施設への入所を決定する。③一時保護後に本人が自立に向けて歩み始める際に精神的な支えが必要となります。最初に相談を受けたNGO・NPOや行政関連の女性センターの相談室などでフォローアップの相談を受けつつ自立への支援を行っています。このようにNGO・行政及び民間関連機関の連携が円滑に行われて初めて被害女性の支援が実をもったものとなります。
 DVから一時的に逃れるだけでなく、それ以降の被害女性の生き方にも関わって女性福祉の観点で施策を進めていくために現場からの取り組みを3者の連携により厚みを持ったものとすることができました。

自横発第5号 
1999年10月19日

横浜市福祉局長 大 澤 正 之 様

自治労横浜市従業員労働組合
中央執行委員長 相 馬 正 勝
女性部長 内 山 幸 子

婦人相談業務の強化・充実に関する要請書

 日頃からの横浜市福祉行政へのご尽力に敬意を表します。
 さて、21世紀を前に本年6月に男女共同参画社会基本法が成立・公布されました。来るべき少子高齢社会を活力ある社会とするためには男女の共同参画をあらゆる分野において推進することが緊急の課題であるとうたっています。この基本法に先立ち、男女共同参画審議会から「女性に対する暴力のない社会をめざして」という答申が出されています。答申では女性への暴力は女性に恐怖心をあたえ、自信を失わせ、女性の活動を束縛し従属的な状況に追い込むので男女共同参画を阻害するので克服しなければならないとしています。公的機関の取り組みの推進についても具体的に触れています。特に婦人相談業務については、本年4月に出された厚生省通知でも婦人保護事業の対象者の範囲について売春防止法の範疇に拘らず柔軟な対応を求めています。
 夫や恋人からの暴力を始めとするドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者は、ようやくその声を外に向けて発するようになり、女性への暴力に対する公的機関への要請と期待はますます高まっています。しかし、横浜市の婦人保護事業は、このような社会的要請や相談件数の上昇などの状況に現行体制ではその責務を担いきれません。相談の現場は厳しく、即断を迫られるケースも多数あります。その局面をたった一人で対応し措置しなければならない婦人相談員の精神的ストレスは想像に難くありません。より良い相談対応をするためにも、ケースについて議論し相談できるスーパーバイズ機能はかかすことができないものです。又、兼区体制を解消し対応の充実を図ることが市民のニーズにも応え、相談業務が区役所の福祉の窓口として定着し相談員の仕事もすすめやすくなります。横浜市における婦人相談業務の充実にむけ以下の点について改善を進められるよう要請いたします。
 1. 婦人保護事業の意義、現在的な婦人相談業務の基本姿勢と位置づけについて全庁的な合意を図り、組織的・一体的に業務の遂行が行われるよう福祉局として必要な啓発・指導等の対応を図ること
 2. 人員増により兼区解消を図るとともに、超勤対応等労働条件確保の具体策を講じること
 3. 主管課(保護課)の責任体制を明確化するとともに、スーパーバイザーを兼ねた専任職員を配置すること。

 

自横福祉発第 号
1999年10月19日

横浜市福祉局長 大 澤 正 之 様

自治労横浜福祉支部 
支部長 纐 纈 孝 義

婦人保護・相談事業の業務と体制に関わる要求書(案)

 貴職の日頃からの福祉行政充実へのご努力に敬意を表します。
 さて、今般、家庭内での妻への暴力、身近な男性からの女性への暴力をはじめ、精神的・経済的な面も含めた婦人保護相談は増加の一途を辿り、問題の深刻さも浮き彫りになってきています。相談者の身体的な危険を孕む多くの問題事例があるばかりか相談機関・関係施設・関係者への威嚇・脅迫にも及ぶ事態も数多く見られる状況です。
 そのなかで、福祉事務所婦人相談員は、嘱託職員という労働条件上の制約と負担、さらに兼区による業務上の種々の困難を抱えながら、緊迫した相談に対し、即時の判断と実行を求められる厳しい立場にあります。
 世界的に「女性への人権侵害」「女性に対する暴力」の根絶が強く叫ばれている現在、婦人相談の現場に求められている過重な役割と実態との落差は極めて大きく、早急に改善を図る必要があります。
 以下の通り要求しますので、誠意を持って検討し、対応を図っていただくようお願いいたします。

1. 婦人保護事業の意義、現在的な婦人相談業務の基本姿勢と位置づけについて全庁的な合意を図り、組織的・一体的に業務の遂行が行われるよう福祉局として必要な啓蒙・指導等の対応を図ること。
2. 人員増により兼区解消を図るとともに、超勤対応等労働条件確保の具体策を講じること。
3. 主管課の責任体制を明確にするとともに、スーパーバイザーを兼ねた専任職員を配置すること。

 

1999年10月27日

 横浜市福祉局長 大 澤 正 之 様

横浜市女性協会労働組合
執行委員長 近 江 美 保

婦人保護事業に関する要望書

 日頃、女性の人権にかかわる事業にご理解とご協力をいただき、ありがとうございます。
 横浜市婦人相談員が新しい厚生省社会・援護局保護課長通知(平成11年4月1日付)に基づいた援助を市民に提供できるよう、私たちは「婦人相談事業に対する要望書その2」に掲げられた次のことをぜひ実現していただきたく、要望いたします。
 1. 婦人保護事業に対する再確認と理解、相談者の最善の利益の保障、相談員の身体の安全と業務遂行の保障について各福祉事務所への啓蒙、指導。
 2. 兼区勤務解消のための人員の増加。
 3. 主管課(福祉局保護課)にスーパーバイザーを兼ねた専任職員を置く。
 女性差別撤廃条約の批准(1985年)、第4回世界女性会議(北京会議1995年)などの世界や国の動きに伴い、女性への人権侵害についての認識が広まり、これまでは容認され見過ごされていた性暴力被害、夫や身近な男性からの身体的・心理的・経済的暴力、セクシュアルハラスメント等の問題がようやく顕在化してきました。
 女性が受けている暴力の危険や心的外傷などの暴力の後遺症、経済困窮は深刻であり、安全確保のために的確で迅速な対応が求められています。横浜市女性協会相談事業の統計では、1998年度相談延件数4,332件中、「夫婦」・「暴力」は2,187件(52%)を占めています。このような事例の問題解決にあたっては、婦人相談員はじめ、関係機関の協力連携をもって対応しており、多くの女性が、安全と安心を確保し、自尊心と自信を取り戻し、新しい生活を始めることができました。
 しかし、現在の婦人相談員は10名で18区を受け持っておられ、8名が2区を兼区しており、緊急で危険を伴う複雑深刻な相談のニーズに応えることが、非常に困難な状況にあります。本年6月15日に制定された男女共同参画社会基本法の付帯決議には、「女性に対する暴力の根絶が女性の人権の確立にとって欠くことのできないものであることにかんがみ、あらゆる形態の女性に対する暴力の根絶に向けて積極的に取り組むこと」が掲げられており、「女性への暴力」は、女性の人権侵害であることを明確に示しました。婦人相談員の配置につきましては、1区1名が理想ですが、相談件数の多い区から順次増員をお図りいただけるようお願いいたします。
 横浜市民である女性の人権を守る上で、「婦人保護事業に対する要望書 その2」について、早急に実現していただきたく、お願い申しあげます。

 

1999年10月27日

 横浜市福祉局長 大 澤 正 之 様

かながわ・女のスペースみずら
代 表 福 原 啓 子

婦人保護事業に関する要望書

 日頃私共の活動にご理解とご援助を賜りましてありがとうございます。
 私共は民間の相談機関として、横浜市婦人相談員が「婦人保護事業に対する要望書 その2」で要望しておられる次のことを、ぜひ実現していただくよう要望いたします。
 1. 婦人保護事業に対する再確認と理解、相談者の最善の利益の保障、相談員の身体の安全と業務遂行の保障について各福祉事務所への啓蒙、指導。
 2. 兼区勤務解消のための人員の増加。
 3. 主管課(福祉局保護課)にスーパーバイザーを兼ねた専任職員を置く。
 私共は、福祉事務所の婦人相談員や保護課のケースワーカーの皆様などのご協力を得て、さまざまな事情により緊急一時保護を必要とする女性や子供のシェルターを運営してまいりました。とくに第4回世界女性会議以降、女性への家庭内外のあらゆる暴力は人権侵害であるとの認識がマスコミ等を通じて広まるにつれて、今まで個人的な問題として隠蔽されてきた夫など男性からの身体的精神的暴力や性暴力、セクシュアル・ハラスメント等の相談とシェルターへの一時保護の数字が急増しております。ちなみに1998年度は58件82名の単身女性及び母子が入所いたしましたが、前年比1.5倍でした。今年度は4月から9月までの6ヵ月で、39件64名が入所しております。一時保護の理由も離婚・夫の暴力等の夫婦間問題をはじめ、経済不況のあおりを受けての家庭崩壊により、住む所をなくしてしまった現代の状況を如実に写したものも見られます。
 39件中30件が婦人相談員がかかわってくださったケースで、婦人相談員のキメ細かい対応により、入所者の状況を配慮して、その後の生活等の方向が考えられていき、婦人相談員の役割の重要性を強く感じています。時には男性からの脅し等もあるとのこと、まさに身体を張っての働きであると思います。
 一方婦人相談員のほとんどの方が、現在2区を兼務しておられ、必要な時に別の区にいらっしゃるという状況があり、シェルター側としては緊急の連絡等の対応がしにくい時もあるのが現状です。それらを解決するためには、婦人相談員の増員が不可欠です。1区1名が理想ですが、できるだけその理想に近づけるようぜひ何名かの増員をお図りいただけるようお願いいたします。
 女性の人権を守る上で、早急に上記3点の要望が実現されますようお願い申し上げます。

朝日新聞(1999年10月28日)、神奈川新聞(1999年11月19日)、神奈川新聞(1999年11月21日)